臨床工学技士になるにはどうすればよい?仕事内容・資格取得のルート

臨床工学技士とは

医療機器

(出典) photo-ac.com

臨床工学技士は、病院で使用する医療機器を取り扱う専門職です。病院や医療業界では、CE(Clinical Engineering Technologist・Clinical Engineer)やME(Medical Engineer)と呼ばれることもあります。

医師の監督のもとで、生命維持装置や人工透析装置などの医療機器の操作をしたり、機器の保守・点検などを担当したりして、医師や看護師などとチームを組み医療の現場を支えるのが主な役割です。

臨床工学技士として活躍するためには、臨床工学技士国家試験に合格して国家資格を取得する必要があります。

仕事内容

医療機器の「操作・保守・点検」が、臨床工学技士の主な仕事です。医療機器についての工学的知識と医療知識を併せ持つ専門家として、高度な医療機器の普及とともに病院内で活躍の場を広げています。臨床工学技士の代表的な仕事には以下のような業務があり、手術室・集中治療室・透析室・心臓カテーテル検査室や一般の病室などさまざま場所に設置された医療機器を扱っています

臨床工学技士の仕事は、1988年9月13日に発表された「臨床工学技士業務指針」に沿って行われますが、指針の発表からかなりの時間が経過し、さらに医療技術も大幅に進歩していることから、2010年に新たに「臨床工学技士基本業務指針 2010」が発表され、臨床工学技士の業務が以下のように分類されました。

手術室業務

手術に使用する医療機器のコンディションを確認して整備し、術中に機器が正常な動作をしているかもチェックします。さらに、医療機器の操作を担当するのも臨床工学技士です。例えば、心臓手術の際は「人工心肺装置」と呼ばれる心臓と肺の代わりになる医療機器を使用しますこの重要な装置を操作するのも臨床工学技士の役割です。心臓手術は長時間になるため、些細なミスも許されません。そのため、現場では常に緊張感が漂っています。

ICU(集中治療室)業務

心臓や頭部といった身体の枢要部を手術した直後の患者や、呼吸・循環・代謝などの機能が急に低下して命に関わるような状態になった患者が運ばれてくるICUで、患者の生命維持に必要なIABPECMO、人工呼吸器などの生命維持に必要な医療機器の操作と動作確認を担当します。ICUに収容されている患者は容態が急変しやすいため、患者の状態をよく観察しながら、医師と連携して状況に適した的確な機器操作が求められます。

血液浄化業務

腎機能が低下した患者の体内にある老廃物を、人工透析装置を使って人工的に排出・代謝する業務です。人工透析は1週間のうち複数回の実施が必要となるうえ、1回あたり数時間かかります。そのため、透析を受ける患者専用の「透析室」を設けている病院や、透析専門のクリニックとして開業している病院もあります。透析を手がけている病院では、稼働時間が長くなりがちな人工透析装置の保守や操作を主業務として受け持つ臨床工学技士も存在します。

心臓カテーテル検査業務

カテーテルという器具を心臓の血管に挿入し、造影剤によって心臓などの形の異常を検出したり、心臓内腔の圧力や酸素飽和度を測定して血行の状態を把握したりする検査が、心臓カテーテル検査です。

定期点検・保守業務

院内で修理ができない医療機器はメーカーに修理依頼を出し、その間の代替機器を使用するなどの連携も、臨床工学技士が行う場合があります。

臨床工学技士が扱う機器の種類

医療機器のモニター

(出典) photo-ac.com

医療技術の進歩にともなって臨床工学技士が操作や保守を担当する医療機器の種類は年々増え続けていますが、そのうちの代表的なものを紹介します。

人工呼吸器

肺の機能が低下しているなどの理由で充分な呼吸ができなくなった患者の呼吸を代行するための装置です。通常の病室から、手術室、ICUまで幅広い状況でよく利用されます。臨床工学技士は、稼働中の装置が安全に使用されているか、異常がないかなどを確認するとともに、稼働していない人工呼吸器の保守・管理を担当します。

体外循環装置(人工心肺)

心臓手術などを行う場合に、一時的に心臓や肺の機能を代替するのが体外循環装置(人工心肺)です。心臓手術はとりわけ長時間にわたる大規模な手術になることも多く、体外循環装置以外にも数十台の医療機器を同時に使用するのが一般的です。そのすべての機器の操作や手術前の点検を臨床工学技士が担当します。

人工透析装置

体内の老廃物などを排出・代謝する腎臓の機能が働かなくなった患者の腎機能を代替する装置が人工透析装置です。臨床工学技士は、透析を開始する際に人工透析装置を患者の体に穿刺(せんし)するほか、数時間にわたる稼働中、装置に異常が見られないかといった確認作業も行います。

ペースメーカー

徐脈性不整脈の症状が見られる患者の体内に手術で埋め込み、心臓の拍動を増やす医療機器です。不整脈以外でも、手術中に心臓の動きに異常が見られるケースなどで緊急措置として使用することもあります。臨床工学技士は、手術時に不整脈の状態をモニタリングしたり、ペースメーカーを操作したりして心臓が適切な拍動になるよう調整します。

高気圧酸素治療装置

急性の心筋梗塞や、一酸化炭素中毒、潜水病といった血管、もしくは血液中の酸素濃度に関連する疾患に用いられるのが、高気圧酸素治療装置です。多くの場合、10分〜15分かけて装置内の気圧を高め、大気圧の倍にあたる2気圧まで達したら、60分程度、患者を安定した高気圧環境下におきます。

法改正により業務範囲が拡大

臨床工学技士法施行令の一部を改正する政令(令和3年7月9日政令第203号)が交付され、臨床工学技士の業務範囲が拡大しました。

具体的な変化は「静脈に針をさせるようになった」「電気刺激の機械操作を担当できるようになった」「内視鏡用ビデオカメラを操作できるようになった」の3点です。また同年7月にはさらに追加業務が発表され、人工透析業務で臨床工学技士が患者の動脈に針を刺すことも認められるようになりました。

上記の業務は、これまで医師や看護師のみが担当できた業務です。臨床工学技士の医療現場での業務範囲が拡大したことで、より高く安定したレベルでの医療提供が可能となりました。

臨床工学技士のやりがい

臨床工学技士のやりがいとして、「人の命を救うことができる」「医療の最前線で人々を守れる」という点を挙げる人が多いようです。

臨床工学技士は、生命維持管理装置の操作や医療機器の保守点検を任されます。手術では医師や看護師のバックアップをすることもあり、人の命に直接関わることも少なくありません。非常に強い緊張感を強いられる仕事ですが、その分だけ大きな達成感を得られます。

また、医療現場では、臨床工学技士が唯一「医療機器のプロ」といえる存在です。医療チームの要として医師・スタッフたちに頼られる場面も多く、代わる存在はいません。医療現場になくてはならない存在として、誇りを持って働くことができます。

臨床工学技士になるには

資格の勉強をする女性

(出典) photo-ac.com

臨床工学技士になるには、臨床工学技士国家試験に合格する必要があります。その受験資格は、「養成校」という法律で定められた学校を卒業することで与えられます。

養成校の概要

臨床工学技士国家試験の受験資格を得ることのできる「養成校」は文部科学省や各都道府県が指定した学校に限られており、その具体的なリストは公益財団法人医療機器センターの「臨床工学技士国家試験」のページ内で確認できます。

養成校には以下のような種類の学校があります。

  • 4年制大学(医用電子工学科・臨床工学科など)
  • 短大(臨床工学科など)
  • 専門学校(臨床工学科など)
  • 専攻科

このうち専攻科は臨床検査技師・診療放射線技師・看護師などを養成する専門学校・大学・短大で2年以上修学し、厚生労働大臣指定の科目単位を取得した人が対象です。1〜2年の追加就学で臨床工学技士試験の受験資格を得られます。

いずれの分類の養成校にも夜間講座などを開催する学校があり、社会人として現職を続けながら学ぶことも可能です。また、養成校にはその種類ごとに学び方や就職先に特色があります。例えば、大学はじっくりと腰を据えて学び研究者への道も開かれています。

専門学校は早く受験資格が手に入り、就職先となる病院と連携している場合は就職が決まるまでが早い、というような異なる特徴を持っているので、学校選びの際には各校の特徴をしっかりと比較してみるとよいでしょう。

臨床工学技士国家試験の概要

臨床工学技士国家試験は、厚生労働省の監修により公益財団法人医療機器センターが実施します。受験資格は養成校の修了者と、外国で養成校を卒業したか免許を受けており、かつ厚生労働省大臣が受験を認めた人です。毎年3月に試験が実施されるのが通例で、2022年の合格率は80.5%となりました。

臨床工学技士の将来性とキャリアパス

機器を扱う手元

(出典) photo-ac.com

医療の高度化によって新たな医療機器の開発・普及が進み、医療機器に関する専門知識を持つ臨床工学技士の重要性は年を追うごとに広がっています。

臨床工学技士の職務を重視する流れには法的な根拠があり、例えば、2007年に新たに医療機器の定期点検が義務づけられたほか、2008年には従来可能だったメーカーからの派遣技術者による医療機器の操作が禁じられたため操作業務の競合者が減ることになりました。

一連の規制は、医療機器についての専門知識を持つ臨床工学技士の職務を重視するものと考えられます。このまま医療と医療機器の高度化が進むとすれば、臨床工学技士を重視する流れは変わらず、その将来性は明るいといえるかもしれません。

臨床工学技士のキャリアパスには、医療機関への勤務を続けて特定の分野や業務の専門家になる道と、医療現場での経験を積んだ後に医療機器メーカーなどの事業会社に転じる道などがあります。

専門家として認定されるには、「専門臨床工学技士」「認定臨床工学技士」の資格を取る方法があります。これらは公益社団法人日本臨床工学技士会が、その会員に対して認定するもので、血液浄化や不整脈治療など各分野の専門的知見を持っていることを証明可能です。

事業会社への転身としては、臨床工学技士としての業務経験を生かして、医療機器メーカーの営業担当者やテクニカルサポート担当者などとして活躍する道があります。また、病院運営のコンサルタントとして医療機器のメンテナンスに関する計画立案などを任されることもあるでしょう。事業会社で活躍するには、一定以上の病院実務経験を求められることが多いようです。

求人の給与情報から集計した臨床工学技士の年収帯

通帳とお札と印鑑

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厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト」によると、臨床工学技士の全国平均年収は423万4,000円となっています。2020年の日本人の平均年収が433万円であることを見れば、ほぼ平均といえるでしょう。

とはいえ、香川県(平均年収520万6,000円)のように平均年収が500万円を超える地域がある一方で、400万円に届かない地域もあります。臨床工学技士の年収は、地域によって大きな差があるといえるでしょう。

臨床工学技士の求人傾向

大型の医療機器

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臨床工学技士の求人は、病院勤務の案件が多いです。一般病院での求人はもちろん、透析をメインに扱ういわゆる透析クリニックでの募集も多く見かけます。

臨床工学技士になるにあたっては、病院勤務経験があれば、事業会社などに応募も可能です。医療機器メーカーや、医療機器のコンサルティング会社が、保守計画の策定やコスト管理などの担当者を募集している例もあります。事業会社での募集は、ICUや心臓外科など実務経験のある分野を指定して、その経験者を優遇するといったケースが多いようです。臨床工学技士の資格を所持していても、病院勤務経験がない場合に応募できる事業会社の求人は多くはありません。

※文中に記載の各種数値・内容は、2022年5月時点のものになります。

出典:
臨床工学技士法施行令の一部を改正する政令(令和3年7月9日政令第203号)
公益社団法人 臨床工学技士会
公益財団法人 医療機器センター「臨床工学士国家試験」
一般社団法人 日本臨床工学技士教育施設協議会
JACE学術機構「認定制度」
臨床工学技士認定制度
臨床工学技士法
臨床工学技士基本業務指針 2010
厚生労働省 職業情報提供サイト「臨床工学技士」
国税庁「令和2年分 民間給与実態調査」
厚生労働省「第35回臨床工学技士国家試験の合格発表について」

中山美帆
【監修者】臨床工学技士・医療ライター・編集者中山美帆

「kakotto.」代表。臨床工学技士として大学病院等での勤務経験を活かし、2016年にライターに転身。現在は、医療・福祉・ヘルスケア中心のライター・編集者として活動している。「易しく、優しい文章を」をモットーに、難しい医療のことを分かりやすい解説を心がける。薬機チェックにも対応。

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