保健師になるには?必要な資格と具体的な仕事の内容

保健師とは

白衣の女性

(出典) photo-ac.com

保健師は、性別や年代、現在の健康状態を問わず、人々の「心と体の健康」を支える仕事です。「保健師助産師看護師法」のもと、看護師と保健師の国家試験に合格して厚生労働大臣の免許を受けた人が「保健師」と認められています。

保健師の約70%は、保健所や保健センターなど行政機関に勤務しています。「行政保健師」ともよばれ、基本的に公務員です。保健師は乳児から高齢者まで、地域の人々の健康をケアします。保健師が「地域保健の専門家」とも呼ばれるのは、保健師の多くが自治体の保健センターなどに勤め、地域に根ざして活動していることも理由のひとつでしょう。

保健師は大きく3つに分類されることが多く、行政保健師だけでなく、企業などに勤務して働く人の健康をケアする「産業保健師」、学校に勤務して生徒や教職員の健康をケアする「学校保健師」がいます。そのほかに、医療機関、地域包括支援センター、福祉施設、訪問看護ステーションで、障害のある人や介護が必要な人などの健康をケアする保健師もいます。

実務内容は就業場所によって異なりますが、「人々が健やかに生活するために、高度な専門知識をもって当事者や地域、社会に働きかける」という点で共通しています。

保健師のなかでもっとも数が多い行政保健師がケアする内容を挙げると、生活習慣の改善や母子健康といった保健指導のほか、結核や新型インフルエンザといった疫病・感染症、難病や心身の障害、認知症、思春期、虐待、DV、うつ、依存症、生活困窮などの相談や支援です。保健師の仕事がいかに幅広く、専門的な知識や経験を必要とするかがうかがえます。

保健師をはじめとする専門家のケアが必要な人のなかには、自身が問題を抱えていると認識できていないケースもあるようです。また、抱えている問題によっては「恥ずかしい」「他人に知られたくない」という意識が強いことも多く、保健師のケアを介入と受け止めるケースもあります。当事者の気持ちを尊重しつつ、「当事者自身が楽になるために一緒に問題に取り組んでいこう」という働きかけを、時間をかけて行う粘り強さも必要になるでしょう。

同時に、当事者が抱える問題の要因や、その背後にある問題などを見極める力が問われます。さらに、当事者の個人的な問題としてではなく社会全体の課題として、当事者だけでなく組織や地域、社会にいかに働きかけるかも、保健師に必要な視点といえます。

保健師の職場や仕事内容

カルテを書く介護士の女性

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保健師の職場は、都道府県などの保健所や市区町村の保健センターなどのほか、企業、学校、医療機関、地域包括支援センター、福祉施設、訪問看護ステーションなどさまざまです。

もっとも多いのは、市区町村の職員として、保健センター、役所・役場の福祉部門、福祉施設に勤務する保健師で、全保健師の56%以上を占めます。次いで、都道府県や政令指定都市などの保健所に勤務する保健師が15%程度おり、合わせて70%程度の保健師が行政機関に勤務しています。つまり、保健師の70%以上はいわゆる「行政保健師」で、公務員として勤務していることがほとんどです。

市区町村に勤務する保健師は、乳幼児、学童、青少年、成人から高齢者まで、地域のさまざまな年代・状況の人を対象にケアを行います。自治体によっても異なりますが、相談業務(体や心の健康・育児・難病・心身の障害・認知症・思春期・虐待・DV・うつ・依存症・生活困窮など)、教室の実施(パパママ学級・離乳食講習・健康増進教室など)、自立支援(精神障害者の社会復帰訓練など)、妊産婦や母子の保健指導(乳幼児の健康検査、発達相談・虐待防止など)といった、幅広い業務を担います。

都道府県などの保健所に勤務する保健師も、ケアの内容自体は市区町村に勤務する保健師と大きく変わりませんが、保健師はより広域的で専門性の高い業務を行うことが多いようです。保健所では、医師、栄養士、精神保健福祉相談員、理学療法士、作業療法士など、さまざまな医療関連の専門家が配置されていて、保健師はそのなかで必要に応じてほかの専門家と連携しながら、相談・支援業務を行います。また、市区町村の保健師と連携して、地域のケアシステムを構築したり、問題を拾い上げて対策を行ったりします。

企業などの事業所に勤務する「産業保健師」は、働く人の健康をケアします。近年、過労やうつなどの問題が多く取り上げられ、働く人のメンタルヘルスも非常に重視されるようになりました。とはいえ保健師を雇用できる企業は多くなく、常勤の産業保健師として勤務しているのは、保健師の8%です。
産業保健師が行う業務のひとつに、「ストレスチェック」が挙げられます。ストレスチェックは、労働者が50人以上いる事業所に義務づけられている制度で、働く人のメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。産業医などの医師のほか、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士もストレスチェックの実施が可能です。

ストレスチェックでは、働く人にストレスに関する質問に回答してもらい、その結果によって医師の面談を受けるよう指導することもあります。また、不調の原因を単純に個人の問題と考えるのではなく、その状態に至った背景やその状態をつくり出しやすい要因を見極めたり、改善のための取り組みを提案したりと、会社側に働きかけを行います。

なお、会社側にはストレスチェックの結果を通知することは禁止されています。結果を知ることができるのは、ストレスチェックを受けた本人と、医師や保健師など実施者のみです。これは、結果によっては働く人に不利な情報になりかねないためです。ストレスチェック以外にも、働く人の健康状態を把握する立場にある保健師は、情報の保管や取り扱いをはじめ、プライバシーの保護に細心の注意を払う必要があります。

企業では、国外でも事業を展開することが多く、外国への出張や長期滞在は珍しくありません。地域によって気候も衛生状態もさまざまです。日本ではあまり見られない感染症にかかったり、日本のような医療を受けることが難しかったりと、働く人の外国滞在中の健康リスクは大きいものです。産業保健師は、現地の衛生状態や感染症などの情報、渡航前に必要な予防接種や、抗体ができるのに必要な期間なども把握する必要があります。外国で仕事をするという状況にも対応した保健師業務は、産業保健師の特徴といえるでしょう。

学校に勤務する「学校保健師」は、学生や教職員の健康をケアします。若さゆえの体や心の悩みをはじめ、さまざまな健康についての相談に対応します。なお、ここでいう「学校」は、専門学校や大学などとなる場合が多いでしょう。小学校や中学校、高等学校で生徒や教職員の健康をケアする、いわゆる「保健室の先生」は養護教諭であり、養護教諭免許が必要で、保健師とは資格が異なるためです。

なお、保健師免許を取得している人が教育職員免許法で定められた4科目(日本国憲法、体育、外国語コミュニケーション、情報機器の操作)を各2単位取得し、都道府県に申請すれば、養護教諭2種免許が得られます。保健師免許を基礎資格として、養護教諭を目指すことが可能です。

「行政保健師」「産業保健師」「学校保健師」のほかにも、少数ながら高齢者や、障害のある人のケアを、医師や介護者などと連携して行う保健師もいます。

保健師は看護師と比較すると、夜勤がないためワークライフバランスが取りやすいでしょう。公務員としての勤務が多いことや、正職員・正社員などの正規雇用が80%を超えることから、安定性は非常に高いといえます。そのため人がやめにくく、募集が少ない傾向のある職種ともいえます。

保健師になるには

保健師になるには、まず看護師資格が必要です。受験資格を得るための教育課程はさまざまで、大学の保健師コース、大学院、専修学校などがあります。なかには、看護師と保健師の国家試験受験資格を同時に得られる学校もあり、在学中に目標が看護師から保健師に変わった場合でも、学内の基準を満たせば保健師コースなどを履修できる可能性もあります。

しかし、コースがない学校や、コースはあっても人数や成績などの制限によって必要な科目が履修できない場合もあります。その際は看護師の資格を取得後したうえで、文部科学大臣の指定する学校で1年以上保健師に必要な学科を修めるか、厚生労働大臣の指定した保健師養成所を卒業することなどが、保健師国家試験の受験資格となります。

看護系の学校を選ぶ場合は、その学校では保健師も目指せるのか、また、必要な科目を履修するための学内の条件などもよく確認することが必要です。

試験は毎年1回、2月に行われます。厚生労働省によって施行されるため、試験の詳細については厚生労働省オフィシャルサイトの確認が必要です。

保健師国家試験の合格率は、例年90%前後となることが多いです。非常に高い合格率ですが、難易度が低いわけではありません。保健師国家試験の受験資格が得られる学校への入学、入学後の学習やレポートなどが非常に難しいといわれており、むしろ国家試験を受験するまでのほうが困難であるといえるでしょう。試験は毎年1回、2月に行われます。厚生労働省によって施行されるため、試験の詳細については厚生労働省オフィシャルサイトの確認が必要です。

資格取得後の採用について、行政保健師の場合、行政機関によって異なりますが、公務員試験として教養試験と専門試験、論文試験、面接が課されることが多いようです。産業保健師や学校保健師の場合、書類選考、筆記試験、面接という流れが一般的とされます。いずれも、募集は1名〜若干名となることが多く、狭き門であるといえるでしょう。

保健師と看護師の違い

保健師の資格は「保健師助産師看護師法」に基づいています。この法律の名称で保健師と看護師は並記されていますが、保健師資格を取得するには看護師資格が必要です。

看護師が主に病気やケガなど、現在健康に問題を抱えている人をケアするのに対し、保健師は、現在健康である・ないにかかわらず、人々が健やかに生活するためのケアを行います。対象とする人の健康状態が、看護師より幅広い点が保健師の特徴です。

看護師資格と同時に保健師・さらには助産師の受験資格が取得可能な大学はあります。ただし、必要な科目を履修するには人数や成績などの制限もあり、それぞれについての実習もあるため、時間的にも無理が生じやすく、かなり希少なケースといえるでしょう。

保健師の仕事の流れ

換気をする白衣の女性

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保健師は、勤務先によって仕事内容が異なります。「市区町村の保健所に勤める保健師」や「企業や学校に勤める保健師」など、さまざまです。民間企業では、行う業務も少しずつ異なります。一般的な保健師の仕事の流れを、就業先別に見ていきましょう。

保健所・保健センターに勤める保健師のケース

保健所や地域の保健センターでは、健康診断や電話相談、家庭訪問による相談受付など多様な業務を行います。

午前中にはメールや電話での確認を行い、検診結果のお知らせや訪問の準備をすることが多いでしょう。市区町村では乳幼児検診も行っており、保健師が検診の補助を行う日もあります。

介護が必要な人の状況確認や新生児訪問などで一般の家庭を訪れ、情報提供を行うのも保健師の仕事です。家庭訪問を終えると勤務先に戻り、データの整理や記録を行います。保健所や保健センターに勤める保健師は、検診のサポートと家庭訪問が主な対応業務です。

企業に勤める保健師のケース

民間企業に勤める保健師は、企業内で発生したケガや病気の対応が主な業務です。その他、社内の健康診断やストレスチェックにも対応します。

産業保健師の仕事内容は、企業によってさまざまです。他の社員と同様に出社し、医療・健康に関わる業務を担当します。会議への参加や、他社向け・自社職員向けの健康セミナー実施など、毎日の仕事の流れは変わってくるでしょう。行政保健師と同様、検診のサポートや職員の話を聞くといった業務も加わってきます。

病院・学校に勤める保健師のケース

病院に勤める保健師は、職員の健康管理や医師のサポートが主な仕事です。健康診断の補助も行います。

仕事の流れとしては、日々の検診・採血など医療補助に加えて、保健指導や資料作成など幅広い業務に携わることとなるでしょう。病院で看護師資格を生かして医師のサポートを行いながら、保健師業務を行うのが基本です。

学校に勤める保健師は、生徒や職員のケアが主な仕事です。養護教諭は教師として生徒をサポートする部分がありますが、学校保健師は主にケガや病気の応急処置を行います。ケガや病気といった直接的なトラブルだけでなく、生徒や職員のメンタルヘルスに気を配り、話を聞くのも仕事のひとつです。

保健師のキャリアパス

医療器具を扱う看護師

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保健師になったら、「同じ場所で昇進を目指す」だけでなく、「転職によってキャリアアップを目指す」こともできます。行政保健師、産業保健師など複数のカテゴリーがあるため、自分に合う職場でキャリアを形成できるでしょう。

特定の分野で実績を積む

保健師は、勤め先によって仕事内容が変わります。行政機関に勤める保健師や、企業で働く産業保健師など分野はさまざまです。

同じ場所で勤務を継続し、昇進を目指すのは、保健師のキャリアパスとして一般的です。民間企業の場合は、企業独自のキャリアパスが設定されています。業務内容による人事評価や実績に合わせて、昇進が可能です。

行政機関で働く保健師は、国家公務員または地方公務員の扱いです。他の公務員と同様、能力や実績に応じてキャリアアップがかないます。自治体ごとに独自のキャリアパスを設定しており、条件を満たした保健師が昇進する仕組みです。長年同じ業務を担当することで、着実にキャリアを形成していけるでしょう。

転職によってステップアップを目指す

保健師の資格を保有している場合、行政機関や学校、民間企業など多くの場所で働くことができます。最初に勤めた場所で思うようにキャリアが育成できない場合でも、転職によって自分に合うキャリアを描くことは可能です。

待遇のよい企業を探しながら、資格を生かしてキャリアアップも狙えるでしょう。実務経験が十分にあって即戦力として期待できる保健師は、転職によってよりよい環境への転職が可能です。

公務員として働く行政保健師は、民間企業への転職もできます。働き方や職場環境の変化を求める場合は、検討の価値があるでしょう。

逆に民間から行政保健師への転職を考えている場合は、多くの場合公務員試験が必要です。自治体によって年齢制限が設けられていることもあるため、最終的に公務員として働くことを目指すなら自治体のルールを確認しておきましょう。

求人の給与情報から集計した保健師の年収帯


公務員である行政保健師か、学校や企業の保健師かなど、勤務先によっても異なりますが、厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査」によると、2021年の保健師の平均年収は450万円程度です。専門性の高さや保健師になるまでの難易度を考慮すると、全体的にそれほど年収は高くないといえます。

看護師と比較して年収が少ない傾向にある理由として、夜勤がないことが第一要因として挙げられます。ただし、保健師は公務員として勤務することが多いため、安定性や福利厚生が手厚いなど、年収だけでは計れないメリットも大きいでしょう。

保健師の求人傾向

医療現場でのミーティング

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産業保健師や、学校保健師などは、一般的な求人サイトでも求人情報が得られますが、看護師と比較すると、求人数はかなり少ない傾向です。ある求人サイトでは、看護師と保健師の正規雇用の求人数の比率は30:1程度となっています。保健師資格の取得者自体が看護師と比較すると少ないこともありますが、求人自体がそれほど多くないといえるでしょう。安定性や、比較的ワークライフバランスが取りやすいことから、人の入れ替わりが少ない傾向があることも、募集が少ない要因のひとつといえそうです。

実際には半数以上の保健師が市区町村などの自治体で活躍していることから、行政保健師の求人情報を探す人も多いでしょう。行政機関は必ずしも毎年募集を行うわけではありません。都道府県、市区町村のオフィシャルサイトで職員募集情報を確認したり、直接電話をして確認したり、積極的に情報を取得しにいくことが必要です。地域に根ざしていること、公的機関であることから、ハローワークからも求人情報を得やすいでしょう。

出典:
厚生労働省 保健師国家試験
令和5年4月1日現在の教員免許状を取得できる大学一覧|文部科学省