建築士になるには何が必要?資格種類別の試験概要と幅広い業務内容

建築士とは?

建築士の二人

(出典) photo-ac.com

建築士は、建物の設計や工事監理を行う職業です。建築士法に定められた国家資格であり、一級建築士・二級建築士・木造建築士に分かれています。それぞれの資格によって、業務可能な範囲は異なります。

仕事内容

建築士の主な業務は、建築物の設計や工事の監理、建築確認の申請などです。実際に建築士1人が担当する業務の範囲は、勤務先の建設会社や設計事務所の規模により異なります。小規模な会社や個人の設計事務所では、設計から工事監理に至るまで全てを1人で担当することも珍しくありません。

複数の建築士が所属する大規模な職場では、設計部門や監理部門に分かれてそれぞれの業務に特化していたり、設計部門内でさらに構造設計担当者・設備設計担当者などに分かれていたりするケースもあります。

設計

設計業務のスタートは、建築物の用途やイメージを建築主(建物のオーナー)へヒアリングする作業です。オフィスビル・店舗・一般住宅といった用途の違いや、建設予定地の法規制なども勘案して、最適な建築方法や内装のイメージを施工主とすり合わせます。

イメージが固まり次第取り掛かるのが、図面の制作です。建物の用途に合わせた設備の選定(設備設計)や、耐震に必要な強度を確保するための構造計算(構造設計)などを行いつつ、建築主のイメージに合わせた間取りや外観を考案(意匠設計)し、図面に落とし込みます。さらに、設計している建物のイメージを分かりやすく伝えるため、建物のミニチュア模型を作成し、それをもとに建築主と打ち合わせを重ねます。

著名な建築家として活躍している建築士が個性を見込まれて設計を依頼された場合、設計や内装に合う家具選びまでトータルで依頼されることも少なくありません。また、設計した建物が先端技術や特殊な建築技術を利用しているケースでは、施工する建設会社や工務店の選定を任される場合もあるでしょう。

工事監理

建築現場に出向いてチェックする「工事監理」は、建築士の独占業務です。設計図の通りに工事が行われているか、予定通りに作業が進捗しているかなどを確認します。実際に現場で作業をする職人の見解も交えながら、設計の細部や建材を見直すのも建築士の仕事です。工事に関するコスト管理も担当します。

建築確認申請時の添付図面の作成

建築確認とは、一定規模以上の建物について、建築基準法をはじめとする法令や基準に適合しているかを行政が建築前に確認する行為です。建築士は建築主の代理として、建築確認の申請で提出する図面を作成できます。この図面作成の代理は、建築士のほか行政書士にしか許されていません。

これまでに耐震強度が偽装されたマンションが販売される事件があり、世間を大きく揺るがしました。このような不正は本来、建築確認段階で見抜くと予定されていましたが、一部のずさんな業務により見逃されてしまったのです。

建築確認は建築物の安全性を担保するうえで欠かせない手続きといえます。確認に用いる図面を正確に作成する仕事は、「建物の安全を確保する」という建築士の使命を象徴する重要な業務です。

取扱可能な建築物の種類

建築士の資格は一級・二級・木造の3つに分かれます。いずれの資格でも設計や工事監理の業務を行うことが可能です。ただし、資格ごとに 扱える建築物に制限があり、主に建物の工法や規模、用途によって規定されています。

木造建築士は、木造建築のうち延べ面積が300平方メートル以内で2階以下のものを扱えます。3つの資格の中で、扱える建築物の種類が最も厳しく制限される資格です。

二級建築士は、主に日常生活に必要な建物の多くを手がけられます。戸建の住宅程度の規模であれば、木造・鉄骨・鉄筋コンクリートなどの工法を問わず、3階までの建物を扱うことが可能です。病院や学校といった公共建築は延べ面積500平方メートル未満の小規模のものであれば担当できます。

一級建築士は、全ての建築物を制限なく扱うことが可能です。つまり、工法や用途だけでなく、規模にも制限がありません。大規模な公共建築や高層ビルは全て一級建築士の手がける仕事です。

建築士の将来性

建築物には、定期的に更新しなければならない時期が訪れます。

国土交通省の資料によると、2038年末には築40年を超えるマンションの総数が366.8万戸にも上る見込みです。同時に居住者の高齢化も進むため、バリアフリーをはじめとした新たなニーズも生まれます。このように新築やリフォームの必要性が継続的に発生するため、建築士は将来的にも需要がある職種といえるでしょう。

一方、建築・不動産業界に共通する特徴として、景気に左右されやすいという側面があります。さらに、長期的に見ると国内人口は減少することが見込まれ、すでに地方では空き家問題なども発生しているため、市場全体の縮小という問題にも直面することになるでしょう。

今後、建築士として安定的な収入を得るには、新たな建築ニーズをいち早くキャッチアップし、需要に応える新技術を取り入れるといった工夫が必要になるのではないでしょうか。

建築士に向いている人

打ち合わせをする建築師の男性

(出典) photo-ac.com

建築士は専門性の高い仕事であり、一般職と比較して向き・不向きが顕著です。建築士を目指す人は、自身の適性について一度考えてみましょう。建築士に向いている人の特徴を紹介します。

コミュニケーション能力が高い人

建築士は黙々と図面に向かうイメージがあるかもしれませんが、実際には人と関わる場面が多い仕事です。建築士はコミュニケーション能力が高いほど、スムーズに働けます。

例えば家屋やビルの建築設計を請け負う場合、施主やクライアントのニーズを聞き出すために「ヒアリングのスキル」が必要です。

また、相手の要求が予算に収まらなかったり法に抵触してしまったりする場合は、修正案・代替案を受け入れてもらわなければなりません。自分の意見を適切な言葉で伝える能力も求められるでしょう。

加えて建築士の仕事には、工事の進捗管理も含まれます。現場監督や作業員・営業などと円滑にチームプレイを進められることも、建築士に必要な資質です。

責任感・正義感の強い人

建築士がどのような設計をするかで、家やビルの居住性・快適性・利便性は大きく変わってきます。建築士として働く人は、自身の責任の重さを十分に理解していることが必要です。設計や工事で一切の妥協や手抜きをせず、クライアントのために真摯に働ける人が望ましいでしょう。

また、地震の多い日本では、大きな地震があるたびに耐震基準のレベルが上げられてきました。建築士はクライアントの要望と法律の制限との間で、頭を悩ますこともあるでしょう。

しかし、いかなる場合でも、建築士には不正や妥協は許されません。「建築物の安全性を維持し、人々の生活を守る」という強い正義感が求められる職業といえるでしょう。

「ものづくり」が好きな人

何かを生み出すこと・作り出すことが好きな人は、建築士に向いているといえます。
建築物の完成形をイメージして設計図を作成する作業は、建築士の重要な業務の一つです。素晴らしいアイデアを生み出すには、創造力やセンス・何かを創造することへの情熱が求められます。

基本的に、建物の設計は非常に緻密な作業です。複雑な構造計算を根気強く行う必要があり、飽き性の人には務まりません。「作ること」への熱量が高い人の設計ほど、クオリティの高いものとなるでしょう。

建築士になるには?

建築設計図

(出典) photo-ac.com

建築士になるには、まず建築士試験に合格しなければなりません。受験資格は学歴と実務経験の組み合わせにより異なります。学歴は土木や建築系の専攻でなくても受験することが可能です。試験合格後は、3年ごとに5時間または6時間の定期講習が義務付けられ、座学のほか修了考査に合格する必要があります。

なお、一級建築士の資格を取得後に一定の実務経験を3年以上積み面接審査に合格すると、「APECアーキテクト」の認定を受けることができ、APEC域内で提携している国や地域においても建築士として業務を行えるようになります。

試験の難易度

建築士試験の難易度は、高い順から「一級建築士試験」「二級建築士試験」「木造建築士試験」です。2021年の建築士試験の合格率は、一級建築士が9.9%・二級建築士が23.6%・木造建築士が33%となっています。

建築士試験の内容は、いずれも学科と設計製図の2種類です。

難易度が高いのは学科で、特に一級建築士試験の学科の難易度はかなり高いといえます。2021年の試験では、一級建築士の学科を受験した3万1696人のうち、合格したのは4832人のみです。

二級建築士・木造建築士ともに学科試験の合格率は50%を切っており、クリアするのが非常に難しいことが分かります。

とはいえ、設計製図の難易度も決して低いわけではありません。木造建築士試験の合格率は67.7%と高めですが、二級建築士では48.6%、一級建築士では35.9%にとどまっています。

スムーズに試験をクリアするためには、しっかりとした準備が必要です。

木造建築士試験の概要

木造建築士試験の受験資格は、大学・短大・高専卒で指定科目を修めた人、高校で指定科目を修めたうえで実務経験が3年以上ある人、実務経験が7年以上ある人です。実務経験が7年以上という資格で受験する場合は、学歴を問いません。関連知識は独学になりますが、資格予備校で学ぶ人も多いようです。

2021年の設計製図の試験では、「専用住宅(木造2階建て)」という課題が出されました。

二級建築士試験の概要

二級建築士の受験資格・試験内容は、木造建築士試験と同じです。

2021年の設計製図の試験では、「歯科診療所併用住宅(鉄筋コンクリート造)」という課題が出されました。

一級建築士試験の概要

二級建築士や木造建築士の資格を取ってから、実務経験を経て取得する人が多いのが一級建築士です。

受験資格は、二級建築士あるいは木造建築士の資格がある場合は実務経験4年以上、大学卒で指定科目を修めた場合は実務経験2~4年以上、短大卒で指定科目を修めた場合には実務経験3~4年以上、高専卒で指定科目を修めた場合は実務経験4年以上が必要になります。

大学・短大・高専卒の場合に、受験に必要な実務経験年数に幅があるのは、指定科目として定められた合計9科目の設定単位数が各校のカリキュラムによって異なり、単位数に応じて実務経験を加算するためです。

従来は土木学科か建築学科など「専攻科名」により必要実務年数に違いがありましたが、2009年以降の学校入学者については「科目の履修の有無と程度」に基準が変更されました。どの学科を専攻するかよりも、カリキュラムにどの科目があるか、必要単位はいくつかで選ぶ方が重要でしょう。なお、二級建築士と木造建築士についても学科と指定科目の関係について同様の変更がありました。

2021年は、設計製図の試験において「集合住宅」という課題が出されています。

求人の給与情報から集計した建築士の年収帯

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト」の情報によると、建築士(建築設計技術者)の平均年収は586万2,000円となっています。2020年度の日本人の平均年収が433万円であることを考えると、平均的な日本人よりも高額な給与を得られる職業といえるでしょう。

ただし、山梨県(715万6,000円)のように平均年収が700万円を超えるところもあれば、秋田県(406万円)のように400万円台にとどまるところもあります。建築士の平均年収は、地域によっても差があるのが特徴です。

建築士の求人傾向は?

建築士の求人情報を分析すると、建築士としての実務経験者の採用が多いようです。設計や工事監理といった建築士業務ではなく、住宅販売の営業職やCADオペレーターなどの建築士資格を生かした他職種については、建築士実務の未経験者を積極的に採用しているケースも見かけます。

出典:
建築士法
一般社団法人 東京建築士会「建築士とは/各種関連資格情報」
国土交通省「マンション政策の現状と課題」
公益財団法人 建築技術教育普及センター「国際的な資格審査」
公益社団法人 日本建築士会連合会
一級建築士 試験結果」「二級建築士 試験結果」「木造建築士 試験結果
厚生労働省 職業情報提供サイト「建築設計技術者」