パラリーガルになるには資格は不要!経験者に聞く求められる要素

パラリーガルとは?

六法全書と弁護士バッジ

(出典) photo-ac.com

パラリーガルは法律事務所に勤務して、弁護士の監督のもとで主に弁護士業務を補助する職種です。基本的な業務は、訴訟の資料探しや法律関係書類の作成といった弁護士業務の補助です。所属事務所によっては、弁護士のスケジュール調整や来客対応のような秘書的業務まで担当するケースもあります。

パラリーガル発祥の地であるアメリカでは「パラリーガルスクール」が設置されており、法律家協会による認定がないと採用されない弁護士補助の専門職という位置付けです。

しかし、日本では民間資格があるのみで、ベテランの事務職員や弁護士秘書が事実上担当していた弁護士の補助業務がアメリカのパラリーガル業務に近いということで、「パラリーガル」という職種名が浸透し始めました。

仕事内容

日本では、パラリーガルの歴史が浅く明確な定義付けがなされていないため、事務職員や弁護士秘書などの業務との境界線が曖昧です。そのため、ここでは海外のパラリーガル業務を参考に紹介します。

パラリーガルのメインの仕事は、弁護士の業務を専門知識でサポートする弁護士補助業務です。法律や判例の有無の調査を中心に、訴状・準備書面・陳述書など各種書面の起案(内容を作成すること)や校正を行います。

クライアントと弁護士の打ち合わせに先立つヒアリングのほか、債務整理などで相手側当事者と交渉することもあるでしょう。

担当案件で外国に当事者がいる場合には、法律関係の書面の翻訳や通訳をするパラリーガルもいます。実務的な手続きへの深い理解と、関連する法律の理解が必要となる専門的な業務で、弁護士の担当する案件を大きくサポートします。

パラリーガルとして業務に就いたら、最初は文献調査を中心に担当し、経験を積むに従って書面の作成やクライアントに対するヒアリングを担当するケースが多いようです。しかし、法律事務所によっては、文献調査のみに特化したパラリーガルも存在します。

アメリカでは、クライアントへのヒアリングや交渉、裁判所への提出書類の作成は弁護士自身が担当し、パラリーガルは専ら調査や資料準備にまわることが多く、日本のパラリーガルの方が案件に関わる範囲が広いかもしれません。

日本のパラリーガルが秘書業務を担当する場合は、弁護士のスケジュール管理・来客対応・郵便物の発送や管理・お茶出しなどを行うこともあります。法律事務所の運営に欠かせない業務ですが、法律を扱う仕事以外の業務を任されることもあるでしょう。

特に小規模事務所では、弁護士補助業務より秘書業務の割合が高くなることもあります。このような事務所では、パラリーガルの本来の業務と秘書業務の2つを積極的にこなす心構えが求められます。

キャリアパス

パラリーガル業務の経験を積み、知識を深めて弁護士から信頼を得ることで、担当業務を増やしていくのが基本となります。

弁護士は「法律事務」に詳しい法律家であるのに対し、パラリーガルは「法律事務の手続き方法や必要書類」にも知見を持つ専門家です。

同じ種類の事件でも、裁判所ごとに異なる形式の書類が必要となるケースがあるなど、法律関係の事務は複雑です。弁護士は手続きについて詳しくないことも多く、パラリーガルとして手続き方法に精通していることは、どの事務所でも通用するスキルになります。

また、近年は弁護士人口の増加で、法律事務所に就職して修行することなく、いきなり独立する若手弁護士が生まれています。このような弁護士にとって、経験のあるパラリーガルは実務を教えてくれる頼れる先輩という側面もあり、熟練のパラリーガルの需要は今後増えると見込まれるでしょう。

パラリーガルに向いている人

資料に記入する

(出典) photo-ac.com

パラリーガルは、職業の性質上「誰にでもなれる」というものではなく、向き不向きが大きいといえるでしょう。パラリーガルに向いているのは、どのような人なのでしょうか?パラリーガルに適性がある人の性質を紹介します。

事務処理能力が高い人

パラリーガルの仕事は、弁護士の補助業務です。弁護士の代わりに書類を準備することも多いため、ある程度のパソコンスキルは必要となります。特にOffice系のソフトは苦もなく扱えた方が安心です。

またパラリーガルは、たくさんの案件を並行して処理する場面も少なくありません。スケジュール管理や進捗管理が徹底していて、効率を考えながら働ける人が望ましいでしょう。

近年は弁護士の数が増えていて、経験の浅いうちから独立する人が少なくありません。事務処理能力の高いパラリーガルは、どの事務所でも重宝されます。MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)など、事務処理能力の高さを証明できる資格があると有利です。

気が利く・コミュニケーションスキルが高い人

パラリーガルには、相手の意図を察する能力も必要です。

弁護士の補助がメインの仕事とはいえ、書類の申請・処理などについては、パラリーガルの方が得意だったり詳しかったりするケースもあります。弁護士の指示をそのまま実行するのではなく、弁護士の意図を的確に汲み、実践できるスキルが必要です。

また法律事務は、弁護士はもちろん、ほか分野の専門家やスタッフ・クライアントとの連携が必要になるケースが多々あります。ワンマン・マイペースな性格では、業務の円滑な遂行は難しいかもしれません。

パラリーガルには、多様な立場の相手ともスムーズにやりとりできる、高いコミュニケーションスキルも求められるでしょう。

整理整頓スキルがある人・几帳面な人

重要な法律文書・機密文書を扱うという業務の特性上、だらしない人はパラリーガルに向きません。書類を適切に分類したり、きれいにまとめたりといった整理スキルの高い人が向いています。

また、法律文書の作成や申請・保管には、法律に定められた厳密なルール・様式が存在します。「これくらいでいいか」とアバウトな処理をする人だと、後々大きな問題となってしまうかもしれません。

法律は、社会情勢や時代に合わせて新設されたり、改定されたりするのが一般的です。
パラリーガルとして仕事をする際は適当な自己判断をせず、「分からないことはとことん調べる」「曖昧な処理をしない」という、几帳面さも重要な資質となるでしょう。

パラリーガルになるには?

天秤

(出典) photo-ac.com

パラリーガルになるための第一歩は、弁護士事務所に勤務することです。日本でパラリーガルになるために必須の資格や学位はありません。法律関係の知識や実務経験がなくても、パラリーガルを目指すことができます。

中には、法律知識を付けてから応募する方が有利と考え、まず法学部や法律の専門学校に通おうとする人もいるかもしれません。

しかしパラリーガルは、学校で学ぶ法律のロジックよりも、書面の作成や資料探しなど実務を通じて身に付ける知識が生きる職種です。法律知識を身に付けるためにあえて学校に通うのではなく、いち早く実務経験を積むのもよいかもしれません。

採用後は、当初から「パラリーガル」の職種名で募集していた場合には、すぐにパラリーガルとして活躍できる可能性もありますが、未経験者は秘書業務や事務作業をメインに担当し、法律事務所の雰囲気や仕事内容を理解することから始めるケースがほとんどです。

経験を積み、法律用語や弁護士の指示を理解できるようになって初めて、本格的にパラリーガルとしてデビューすることができます。

なお、近年は「日本弁護士連合会(日弁連)」を中心に、弁護士事務所の事務職員に必要なスキルを明確化しようとする動きが活発化しており、「事務職員能力認定制度」や講習制度が始まりました。認定者は、転職時に有利になるでしょう。

この制度をきっかけに、日本でもパラリーガルの職種要件が定義される可能性もありますが、本制度による認定を受けなくてもパラリーガルと名乗り、業務はできます。民間の資格を取るのもよいでしょう。

認定制度や資格

日弁連では2008年から、「事務職員能力認定制度」を実施しています。法律事務所に勤務する事務員など、弁護士の事務を補助する者が必要な知識・技能を習得し、能力を向上させることによって事務処理能力を高め、より充実した法的サービスの提供を図ろうとする制度です。認定試験に合格すると日弁連から合格証が発行され、合格者名簿に登載されます。

認定試験の受験資格を持つのは、出願時点で法律事務所に勤務する事務職員、公務所または企業そのほかの団体において弁護士の事務を補助する者で、勤務年数などは問われません。また試験とは別に認定研修も開催されます。勤務1年目の職員を対象とする初級から3段階に分かれており、実務に必要な知識を身に付けることができます。

2018年度から受験料が無料に、2021年度からは講座のeラーニングが可能にと、年々ハードルが下がっている傾向にあるようです。

ただ、日弁連の認定制度はこれから法律関係の仕事に就きたい人は対象になりません。未経験からチャレンジしたいなら、日本リーガルアシスタント協会が主催する「パラリーガル認定資格」を目指すのがおすすめです。所定の講座を受験することで、初級から上級までの認定試験を受けられます。

求人の給与情報から集計したパラリーガルの年収帯

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

パラリーガルの求人の給与情報から、パラリーガルの年収帯を独自に集計しました。以下のグラフの通り、年収400万円台がもっとも多く、約29%を占めています。続いて500万円台が約24%、300万円台が約19%となっています。

日本人の平均年収は男性が532万円、女性が293万円、男女を合わせると433万円(2020年分の「民間給与実態統計調査結果について」より)なので、パラリーガルという職種は、平均的な給与水準よりも高い職業であると類推できるでしょう。

ただし、日本のパラリーガルは秘書業務や事務作業をメインに担当する場合もあるため、実際の業務内容により年収は大きく異なっており、スキルや業務内容が年収を大きく左右していることがうかがえます。

パラリーガルの求人傾向は?

打ち合わせをするスーツの二人

(出典) photo-ac.com

国内では「パラリーガル」の職種名でさまざまな業務内容の求人が存在するため、希望する業務内容と合致しているか、よく確認することをおすすめします。

大手法律事務所では「パラリーガル」の職種名に加えて、「秘書業務兼任」「翻訳」「不動産」など、担当する具体的業務が記載されていることもあるようです。

小規模の事務所は、パラリーガルという職種名での募集は少なく、秘書や事務職として採用され、経験を積み、資質があると判断された人がパラリーガルとして活躍することもあります。弁護士秘書としての募集であっても、将来的にイメージしているパラリーガル業務ができるのか問い合わせてみましょう。

応募に必要なスキルについては、法律に関する知識や実務経験はなくても問題ないとする求人が多くなっています。一方で、書類作成に必要となるOffice系ソフトの操作スキルやコミュニケーション能力については、重要視している法律事務所がほとんどです。

歓迎要件としては、書類翻訳に必要な語学力を挙げるケースが多く見られます。未経験者の採用については、意欲ある人を積極的に登用するために、パラリーガルの育成制度を用意する事務所も見られました。

未経験者でも契約社員として採用し、スキルが身に付き次第、正社員登用するというような求人も多くあるので、未経験者にチャンスがある職種かもしれません。

※文中に記載の各種数値は、2022年5月時点のものになります。

出典:

日本弁護士連合会
法律事務員全国連絡会
日本弁護士連合会「認定制度ってなに?」
一般社団法人 日本リーガルアシスタント協会「資格認定試験について」
国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」

パラリーガル経験者へのインタビュー

(出典) photo-ac.com


スタンバイでは、実際にパラリーガルとして働いていた方に、「仕事のやりがい」「努力したこと」「将来性」についてインタビューを実施しました。

インタビューの対象者

  • 女性(東京都在住)
  • 実務経験年数:5年以上

Q1.パラリーガルのやりがいを教えてください

依頼を受けている案件が日々動き、それが時には予想していなかった方向に動くこともあるため、業務にあきることなく、これまで法律事務所4ヶ所で10年強勤務しています。

弁護士資格はないので法律判断や依頼者様に直接アドバイスすることなどはできませんが、法律調査や書類作成を通して依頼者様のお力になれて、案件が良い方向で終結した時はやり甲斐を感じます。

大きな法律事務所ではない場合は、役職はあまり細かく分かれておらず、弁護士・秘書・パラリーガル・アルバイトくらいの構成なので、フラットな雰囲気の下、のびのびと働くこともできますし、代表弁護士の理解があれば勤務時間などもフレキシブルになる場合も多く、女性が働きやすいのではないでしょうか。

Q2.パラリーガルになるために努力したことを教えてください

私の場合は前職が法務系公務員だったため、法律事務所で採用されることが自然な流れでした。法律事務については仕事を通じて学んでいったため、特に就業時間以外で勉強したことはありません。

役に立ったと感じていることは、アシスタント的な要素・事務所内のマネジメント要素を大きく期待されるため、パソコンなどのIT系・経理・英語など割と汎用性の高い資格や知識が役に立っています。その点は民間企業と変わりないのではないでしょうか。

また、法律事務所は事務所によって仕事の進め方に特色があることが多く、他事務所での経験がない方がよい、資格などもいらないと考える弁護士も多いため、面接での相性が合えば経験や資格がなくても採用される可能性が高いと思われます。

Q3.パラリーガルの将来性についてどう思いますか?

良い点は、なんと言っても仕事を通じて人様のお役に立てることが多い、それに限ります。仕事として行うことであっても「ありがとうございました」と感謝の言葉をいただけるととてもうれしく、もっと勉強して業務の幅を広げたいと思うようになります。悪い点としては、法科大学院を卒業したものの弁護士資格を取得できずパラリーガルにスライドする人、弁護士になっても就職口がなくアルバイトとして法律事務所に入所する人が増えていることもあり、特に資格のないパラリーガルはそういった人と職をとりあう可能性もでてきているようです。法律の知識は少なくても、社会人経験・その他の資格などを活かし、弁護士の右腕となるべく日々研鑽する必要があると思います。