酪農家になるにはどんな知識が必要?年間の仕事内容と休日について

酪農家とは

牛舎の牛

(出典) photo-ac.com

酪農家は、主に乳牛を飼育して乳製品の原料になる生乳を生産する職業です。乳牛の飼料となる牧草の生産や、生乳を加工してチーズなどの乳製品の生産まで手がける場合もあります。世界を見渡すとヤギなど牛以外の動物を飼育して乳を採取する酪農家もいますが、国内の酪農家の多くは牛の乳である牛乳を生産しています。このページでは、主に乳牛を飼育する酪農家について紹介します。

なお、「畜産」は肉や皮革、乳などを得る目的で動物を飼育・生産することを指し、畜産のうち、とくに乳や乳製品を得る目的で動物を飼育する産業を「酪農」といいます。

牧場の規模と飼育形態の主流

国内で酪農を営む牧場のほとんどは牛を牛舎で飼っており、常時ケージ内に繋いで飼う方法や、牛舎内での放し飼いなどで飼育しています。放牧して牛を飼育しているのは観光用の牧場がメインで、酪農を主力事業としていないことが多いようです。

飼育する牛の種類はホルスタイン種が主流で、わずかにジャージー種なども飼われています。

ひとつの牧場での飼育頭数は1995年の全国平均で45頭程度でしたが、離農による牧場の合併で年々大規模化が進み、2020年の時点では90頭以上に増えています。土地の広大な北海道では、さらに大きな規模の牧場も多く、牧場ひとつあたりの平均飼育頭数は140頭を超えます。

小規模牧場は家族経営が主流ですが、大規模牧場のなかには大勢の従業員を雇い、会社組織として運営している牧場も存在します。

1年を通じて行う仕事

酪農家には、1年を通じて行う仕事と、季節に合わせて行う仕事があります。そこで、まずは1年を通じて行う仕事と、そのスケジュールを紹介します。

搾乳

乳牛を飼育している酪農家の主な収入は、牛から採取した未加工の「生乳」を乳製品メーカーや農協に販売することで発生します。生乳を採取する作業を「搾乳」といい、酪農家にとって収入に直結する最も大事な作業のひとつです。

搾乳は1日に2回以上、朝と夕方といった具合に時間の間隔を空けて行うのが一般的です。搾乳の回数が少ないと、牛の乳頭から細菌が侵入し死に至る「乳房炎」という病気になってしまうため、1日たりとも休むことはできません。

搾乳に必要な作業の多くは機械化が実現しており、完全に人の手で搾乳しているのは観光客を受け入れる一部の牧場に限られています。現在、酪農家の間で広く普及している「ミルカー」という機械は、牛の乳頭にカップをセットすると真空による負圧の力を利用して自動的に搾乳をはじめます。

採取された生乳はミルカーに付属するタンクに保管され、牛舎に張り巡らされたパイプラインを通じて牧場内の処理室やタンクに運ばれる流れです。タンク内の生乳は、劣化や菌の繁殖を防ぐために急速に温度を下げて貯蔵されます。

このような機械化によって、酪農家の負担は大きく軽減されました。しかし依然として、人の手で行わなければならない作業も多いのが実情です。ミルカーを牛の乳頭に接続する前には、毎回、ミルカーを消毒し、乳頭自体も殺菌・消毒・乾燥する必要があります。飼育している全ての乳牛で、1日2回以上この作業を繰り返す必要があると考えると、未だ、搾乳はかなり労力がかかる作業といえそうです。

乳牛の日常生活の世話

安定的に生乳を出荷するには、乳牛を健康的な状態に保つための世話も重要です。乳牛は乳房炎をはじめとする細菌感染を起こしやすいため、清潔な生活環境を整えることが日常の世話の基本です。

牛の寝床となる「寝藁(ねわら)」を敷いたり、汚れた寝藁を片付けたりする作業は毎日行います。牛が寝ている間に寝藁に糞尿が付着するため、汚れたままで放置していると牛がストレスをためやすくなるほか、細菌による感染症の原因になってしまいます。

数十頭もの寝藁の交換作業を、干し草用フォークという農具を使って人力で行うのは相当な力仕事ですが、多くの牧場では清潔な環境づくりのために毎日の寝藁交換にこだわっています。大量の藁の調達が困難な都市近郊の小規模牧場では、床にゴムシートを敷くことで寝藁交換を省略するケースもあります。

牛の毛のブラッシングも、ほぼ毎日行う作業です。牛のストレス解消になるほか、毛に絡みつく飼料や藁、糞尿などを落として搾乳時に異物が混入する事故を防ぐ効果もあります。
飼料を与える作業も、多くの牧場では人力で行われます。朝と夜の2回に分けて与えることが一般的です。一部の大規模牧場では、自動的に給餌する設備を持つ場合もあります。

1日のスケジュール

酪農家は牛の生態に合わせて、朝早くから夜遅くまで働かねばなりません。代表的なスケジュールは次のとおりです。

  • 5:00 牛舎の掃除/餌やり/1回目の搾乳
  • 12:00〜15:00 昼休み
  • 15:00 飼料の配合/寝藁敷き/機械のメンテナンス
  • 18:00〜21:00 2回目の搾乳/餌やり

特定の季節に行う仕事

繁殖や飼料づくりなど、酪農家には季節ごとに行う仕事もあります。

繁殖と育成

牛は通常、妊娠・出産した年でないと、乳(生乳)を出せません。したがって、効率よく搾乳するためには、毎年、牛を妊娠・出産させる必要があります。牛は1年中繁殖可能ではあるものの、気温の高い夏以外に出産させることが普通です。

牧場によっては自然交配で繁殖させるところもありますが、人工授精で計画的に出産させるところが多いのが実情です。人工授精の作業自体は酪農家ではなく「家畜人工授精師」という専門家が担当するのが一般的です。出産時に難産に陥った場合に、酪農家は牛の手助けなどを行います。

生まれた子牛がメスの場合は、酪農家は母乳から人工乳への切り替え作業や、牧草に慣らすための作業、角を取り除く「除角」を行い、妊娠・出産と搾乳が可能な段階まで育成します。一時的に、育成専門の牧場に預けることもあります。生まれた子牛がオスだった場合は、一部を除き生後数週間で肉用として売却するのが一般的です。

5~6年ほど連続で出産した乳牛は乳の分泌量が低下するため「廃用牛」とし、肉用として家畜商などに売却します。買い手がついた廃用牛は肥育牧場(肉用の牛を育てる専門牧場)で数ヶ月肥育されたのち、屠殺されて食用の牛肉として店頭に並ぶことになります。

生乳の価格が下落している近年、廃用牛やオスの子牛の売却は酪農家にとって大切な収入源です。

飼料づくり

牛乳の味や成分は、牛に与えられる飼料の良し悪しで決まります。飼料づくりは酪農家の力量がわかりやすく表れるため、こだわる人も多い仕事です。

飼料は牧草やトウモロコシを混ぜてつくります。北海道などで広大な敷地を持つ牧場では、牧草を自家生産するケースもあります。種まきの時期や肥料の与え方、収穫時期を工夫することで、こだわりの牧草を栽培しているのです。

牧草は主に夏から秋にかけて収穫し、サイロに入れて発酵させることで栄養価が高まり、長期保存にも適した状態になります。夏の牧草の収穫時期は牛が体調を崩しやすい時期と重なるので、酪農家自身は牛の世話に専念するためにアルバイトを雇って牧草収穫を頼むこともあります。

酪農家の将来性

酪農家の主な収入源である生乳の価格は、近年、低下の一途を辿っています。後継者不足も深刻で、廃業する酪農家が後を絶たないのが現実です。

しかし、この状況に危機感を抱いた自治体や関係団体が、新規参入者向けの施策を充実させる流れができつつあります。補助金や無料研修制度、廃業を検討している酪農家の事業を引き継ぐための仲介制度や、土地・施設を一定期間無料もしくは格安でリースするといった助成制度を用意しているケースもあります。このような制度をうまく活用できれば、新規参入者にとっては酪農家になるチャンスが多い状態だといえるでしょう。

ただし参入後に生乳価格が回復する保証はないため、農協やメーカーに生乳を売るという従来型の収益構造を維持するだけでなく、生乳を加工した製品の販売や観光業への参入などにより6次産業化を狙うといった経営上の工夫が必要になることは間違いなさそうです。

酪農家の休日

酪農は動物を扱うため、基本的に休みが取りづらい仕事です。一部の大規模な牧場や会社形態をとる事業所ではシフト制で作業にあたるため、比較的休みが取りやすいようですが、それでも一般的な会社員に比べれば不規則な休日になりがちです。

例えば、出産シーズンは毎日のように子牛が生まれ、しかも深夜に出産することもあるので、酪農家の生活も牛に合わせて不規則になります。夏には、一般的に暑さに弱い牛が体調を崩し、連日、夜中も看病が必要になることがあります。

しかも、夏は日中に牧草を刈り取る必要もあり、昼夜働き詰めということも普通です。看病や牧草刈りの合間にも、搾乳の仕事があり、搾乳しなければ牛が乳房炎になって命を落としてしまうかもしれません。

このように、牛の体調が酪農家にとって最優先事項です。したがって、なんとか休日を見つけたとしても、旅行などで遠くに外出するのは難しいのが現実のようです。

そこで現在は、酪農家に休日を確保してもらおうと「酪農ヘルパー」という職種も登場しています。酪農ヘルパーは、酪農家に代わって休日の搾乳や牛舎の掃除などを行います。酪農ヘルパーになると修学資金の融資や酪農に関する研修を受けられるうえ、酪農に関連する業務を実践できます。酪農に新規参入したい人にとってはメリット充分の制度といえそうです。

酪農家のやりがいは?

牛舎の牛

(出典) photo-ac.com

酪農家は肉体労働や時間外の作業も多く、大変な仕事ともいわれます。仕事をしていくうえでのやりがいとして、何が挙げられるのでしょうか。酪農家がやりがいを感じられる瞬間や、仕事としての魅力を紹介します。

動物と存分に触れ合える

酪農家は、主に乳牛を育てることが仕事です。搾乳ができる状態に育て上げるまでには、長い時間がかかります。その分、1頭1頭の牛に対する愛着は、大きなものになるでしょう。牛たちが毎日元気に暮らしていけるのは、世話をする酪農家あってのものです。

「動物と触れ合いたい」「世話をすることが楽しい」と感じられる人にとって、酪農家はやりがいのある仕事です。一生懸命育てた牛が生乳を出すようになり、出産する姿を見るときには達成感を味わえるでしょう。

動物の世話は、大変なことも多い仕事です。トラブルや予定外の仕事が舞い込むこともありますが、問題が解決したときには疲れも吹き飛ぶでしょう。

学べるチャンスや指導の機会が多い

酪農家の数は、年々減少しています。しかし、生乳の生産や加工は、国の産業として大切な役割を果たすものです。国や自治体は酪農家の起業や事業継続を助けるため、さまざまな試みを行っています。

数々の支援があることは、酪農家として独立したい人にとって魅力的な要素です。将来経営者として酪農業界を背負っていくという、大きなやりがいも持てます。国の助成金や融資もあり、資金援助の面でも優遇が受けられるでしょう。

未経験者や独立を考える人が学べる機会として設けられているのは、農場での実習や専門機関による指導です。地域で実習生を受け入れ、酪農の仕事を体験できる仕組みもあります。実習の際はヘルパーとして賃金も発生し、給与を得ながら酪農について学べます。

実習生は未経験の若年層をターゲットにしたものが多いですが、家族経営からの独立であっても地域のシステムに助けられることは多いでしょう。牧場の仕事とはどんなものかを知って、体感したうえで酪農家を目指せます。

求人の給与情報から集計した酪農家の年収帯

※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成

厚生労働省が発表する「賃金構造基本統計調査(2021年度)」によると、酪農従事者を含む畜産従事者の平均年収は、344.1万円です。職種を問わない全国の平均年収が400万円台であることを考えると、年収として低めの職業といえるでしょう。酪農を事業とする牧場は地方に多く、最低賃金が抑えられていることも考慮する必要がありそうです。また、酪農家は家族経営の自営業者も多く、大規模な牧場と比べると年収が低く抑えられていることも影響している可能性があります。

酪農家になるには

帽子をかぶせた子牛

(出典) photo-ac.com

酪農家になるために必要な資格はありませんが、牛に関する知識や経営に関する知識は必要です。そこで新たに酪農に参入することを希望する人は、まず知識を身につけるために、自治体の運営する研修施設や農業大学校(名称は大学だが、各都道府県が開設する専修学校や認定職業訓練校のことで、農業関連の知識を教える場所)、もしくは農学科や酪農科がある大学に通うことが多いようです。

その後は、酪農を営む牧場に就職したり、酪農ヘルパーとして働いたりして、身につけた知識を実践で活かしていきます。就職先については、自治体や学校の紹介制度などを活用できます。

将来的に酪農家を目指すなら、開業資金を集めつつ、自治体や研修機関の行う経営講座に通ったり、開業を考えている地域の酪農家に地域の酪農事情などを学んだりするのがおすすめです。開業に関する補助制度や助成制度については、自治体に問い合わせるなどして情報を集めておくとよいでしょう。

農家の求人傾向

牧場の風景

(出典) photo-ac.com

酪農を営む牧場は小規模や家族経営の場合も多いため、求人の実数に比べ、インターネット上に掲載されている求人数は多くはないと考えられます。

就労を考えている地域の農協や自治体に相談する、もしくは酪農に関する研修経験があるなら研修機関に人手の必要な牧場などを紹介してもらうという手も検討してみてください。

出典:
農林水産省「畜産統計(令和2年2月1日現在)」
農林水産省「特集1 夢を追いかけて、酪農ヘルパー(4)」
一般社団法人 酪農ヘルパー全国協会
一般社団法人Jミルク Japan Dairy Association (J-milk)「2.酪農経営関連の基礎的データ」