管理職の残業は100時間でもOK?労働時間の上限規制をチェック!

管理職は一般社員に比べて、就業時間が長い傾向にあります。管理職が残業する場合の上限はどの程度でしょうか?管理職の定義や、労働関連法規における管理職の位置付けとともに、理解しておきましょう。管理職になるメリット・デメリットも解説します。

管理職の残業に上限はある?

悩む管理職男性

(出典) pixta.jp

労働基準法において、一般社員は労働時間の上限が決められていますが、管理職の場合はどうでしょうか?まずは、管理職に労働時間の規定が適用されるのか、理解しておきましょう。

管理職の労働時間に制限はない

管理職の立場には、労働基準法第32条における労働時間の上限が適用されません。1日最大8時間・週最大40時間の上限がないため、管理職を目指している人は注意が必要です。

また、36協定を締結すれば、労働基準法に規定された労働時間の上限を超えて、企業は従業員に時間外労働をさせられます。しかし時間外労働にも上限があり、それを超えることは禁止されています。

一方、管理職の場合は、36協定による時間外労働の上限も適用外です(労働基準法第41条)。一般社員とは違い、管理職の労働時間には、特に制限が設けられていないのが現状です。

出典:労働基準法 第32条(労働時間)|e-Gov法令検索

出典:労働基準法 第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)|e-Gov法令検索

休憩時間のルールについて

労働時間と同様に、休憩時間の法的なルールに関しても、管理職には適用されません。

労働基準法第34条において、企業は、従業員の労働時間が6時間超・8時間以下の場合は最低でも45分間、8時間を超える場合には1時間の休憩を与える必要があります。

しかし当該ルールは一般社員が対象であり、管理職に対しては、この規定の適用はないと解されています(労働基準法第41条)。極端な話をすれば、企業が管理職に対して一切の休憩時間を与えなかったとしても、違法とはならないわけです。

ただし、違法とはならなくても人道的な問題が大きいため、ほとんどの企業では管理職にも休憩時間が設けられています。

出典:労働基準法 第34条(休憩)|e-Gov法令検索

出典:労働基準法 第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)|e-Gov法令検索

100時間を超える残業は過重労働に

労働時間の制限が設けられていないからといって、企業は使用者として、管理職の立場にある社員に対し、むやみな長時間労働を課すのは避ける必要があります。

労働基準法における労働時間の制限はないものの、常識を超えた長時間労働は人道的な問題があるのはもちろん、安全配慮義務の観点から問題になるためです。

特に100時間を超えるような過重労働を課している場合や2~6か月平均で月80時間を超える場合、労働契約法第5条における安全配慮義務違反と見なされる可能性があります。

出典:労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)|e-Gov法令検索

管理職の労働時間の把握は義務

腕時計を見るミドル男性社員

(出典) pixta.jp

管理職の労働時間に関しては、労働基準法の規定は適用されないものの、企業は管理職の労働時間をきちんと把握しなければいけません。労働安全衛生法の改正により、管理職の労働時間の把握は、使用者である企業の義務とされています。

労働安全衛生法の改正により義務化

2019年4月の労働安全衛生法の改正によって、一般社員のみならず、管理職の立場にある従業員の労働時間の把握も義務化されています。

改正前はガイドラインによる取り決めであり、従業員の客観的な記録による労働時間の把握は、努力義務のような位置付けでした。すなわち「把握できている方が望ましい」という程度だったわけです。たとえガイドラインに背いても、法令違反とはなりませんでした。

しかし同改正により、管理職を含めた従業員の労働時間の未把握は法令違反となり、現在では是正勧告の対象となります(労働安全衛生法第66条の8の3)。現状、罰則規定はないものの、今後の法改正で何らかの罰則が規定される可能性もあります。

出典:労働安全衛生法 第66条の8の3|e-Gov法令検索

出典:「客観的な記録による労働時間の把握が法的義務になりました」 ~従来のガイドラインによる取り決めから法律上の規定に格上げ~|出雲労働基準監督署

義務化の理由

客観的な記録による、管理職の労働時間の把握が義務化された背景には、法改正で一般社員の残業時間が短くなった点が挙げられます。

時間外労働の上限に違反した場合、企業に罰則が適用されるため、現状では法的に労働時間の制限がない管理職に対して、労働のしわ寄せがくる可能性があるわけです。

労働時間の記録の義務化には管理職の過重労働を抑止する狙いがあり、さらに産業医による面接指導の対象に該当するか否かの判断材料にもなります。

出典:長時間労働者への医師による面接指導制度について|厚生労働省

そもそも管理職の定義は?

部下の指導をする男性

(出典) pixta.jp

管理職と一般社員では、仕事内容や責任の重さに加えて、労働基準法の適用などさまざまな面で違いがあります。

しかし、管理職の位置付けは企業によって異なる場合も多いので、一般的な定義を押さえておくことも重要です。管理職の定義について見ていきましょう。

部・課の長として部下を管理する職

一般的に管理職とは、部・課の長として、部下を管理する役割を担う立場を指します。従って、部長や課長といった肩書で、部下を日常的にまとめ上げている社員は、基本的に管理職です。

また、特定のプロジェクトや複数のチームを統率する立場の社員も、管理職と見なされる場合があります。開発プロジェクトにおけるリーダーや、プロジェクトマネージャーなどが該当するでしょう。

ただし、管理職として具体的にどのような権限を付与するかは、企業や組織の方針などによって異なります。

管理監督者との違い

管理職と似た言葉に「管理監督者」があります。管理監督者は経営者と同等の地位や権限を有し、事業の拡大や利益の増加などを図る立場です。労働基準法において、管理監督者は一般社員とは異なる扱いとなり、労働時間などの規定の適用外となります。

組織で部下をまとめている管理職の多くが、管理監督者の立場にあるため、労働時間の制限を受けていないのが現状です。

ただし、管理監督者の立場については法律で明確に定義されていますが、管理職の定義は企業によって異なる場合も多く、管理職が必ずしも管理監督者であるとは限りません。

出典:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省

「名ばかり管理職」について

管理職の定義や具体的な立場は、企業によって変わる場合も多く、近年は「名ばかり管理職」が問題視されています。これは課長や店長などのように、一般的に管理職と考えられる肩書を与えられながらも、実態は一般社員と変わらない立場を指す言葉です。

管理職の多くは管理監督者の立場であり、法的に労働時間の上限が規定されていません。

そこで実態は一般社員と変わらないにもかかわらず、管理監督者に見せかけて、当該社員に過重労働を課したり、残業代を出さなかったりするケースが問題となっています。

もし、名ばかり管理職の立場にあるならば、早急に労働基準監督署や弁護士などに相談し、状況の改善を求めることが大事です。

管理職は損をする?メリット・デメリット

男性社員の後姿

(出典) pixta.jp

これから管理職を目指す人は、管理職のメリットやデメリットをきちんと理解しておく必要があります。給与や裁量権が増える傾向にある一方で、仕事への責任が重くなるので、自分に合っているかを慎重に判断することが大切です。

【メリット】昇給・裁量権が増えるなど

管理職は一般社員に比べて給与が高く、多くの裁量を与えられます。基本給がアップするのに加えて、管理職手当の支給を受けられる企業も少なくありません。

さらに自分の意思により、さまざまな施策の実行が可能になり、部下である一般社員を動かせるようになります。

重大な意思決定を任されることも多いので、大きなやりがいを感じられる人も多いでしょう。自分で仕事をしやすい環境をつくれるのも、管理職のメリットです。

【デメリット】責任が重くなる・プライベートの時間が減るなど

一般社員をまとめ上げ、うまく管理する必要があるため、管理職に昇進すると仕事の責任が重くなります。労働時間が増える可能性もあり、プライベートの時間が減ってしまう人もいるでしょう。

部下のミスや仕事上のトラブルに関しても、自分が責任を取らなければならない場面も出てきます。

常に、精神的なプレッシャーを感じながら仕事をしている管理職も多く、人によっては一般社員として働いていた方がよいケースもあるでしょう。責任の重さを理解した上で、管理職を目指す必要があります。

残業時間を正しく把握して適正な労働時間に

腕組みをするシニア会社員男性

(出典) pixta.jp

管理職は企業によって定義が異なる場合もありますが、多くは管理監督者の立場にあり、労働基準法における労働時間の規定の適用外です。そのため長時間労働を課せられやすい傾向もありますが、過重労働は企業の安全配慮義務違反と見なされる場合もあります。

もし管理職の立場で、過重労働を課せられていたり、名ばかり管理職の立場に置かれていたりするならば、労働基準監督署などに相談してみましょう。労働関連の法律を理解した上で、自分が適正な立場で働けているかを確認することが大事です。