失業中の生活を安定させるための失業保険は、一度もらうと、その後もらえなくなると考えている人は多くいます。条件によっては再度受給できる可能性があるので、失業保険の概要ともらえる条件、受給のメリット・デメリットを押さえておきましょう。
失業保険を一度もらうと?
失業保険は、失業した際、再就職するまでの生活を維持するための制度ですが、一度もらってしまうと、その後はどうなるのでしょうか?受給の条件について、基本的なところを理解しておきましょう。
「雇用保険の被保険者期間」がリセットされる
一度失業保険を受給すると、受給に必要な条件の1つである雇用保険の被保険者期間がリセットされます。
その上で失業保険を受給するには、再び「過去2年間に通算12カ月以上の雇用保険の加入が必要」という条件を満たさなければいけません。条件を満たさない限り、失業保険の再受給はできなくなります。
例えば、失業保険を受給した後、再就職してすぐに離職してしまった場合は、被保険者期間の条件を満たせず受給ができないわけです。
しかし、逆にいえば「通算12カ月以上の雇用保険の加入」の条件を満たしていれば、過去に失業保険を受け取っていても、再度の受給が可能です。
一度でも失業保険を受給すると、二度ともらえないと思っている人もいますが、条件さえ満たせば受給できるので、基本知識として覚えておきましょう。
被保険者期間について
失業保険を受給するには、過去2年間で通算12カ月以上、雇用保険に加入していることが必要です。この条件を満たしていれば、基本的には受給資格があると判断されます。
被保険者期間に該当するには、1カ月ごとに11日以上、または80時間以上の勤務実績が必要です。失業保険の受給資格を得るには、この条件を12カ月分満たす必要があるわけです。
ただし、会社の倒産・解雇などを理由に失業した場合、会社都合での退職となり、過去1年間に6カ月以上の被保険者期間があれば、失業保険の受給資格を得られます。
出典:よくあるご質問(雇用保険について)|ハローワークインターネットサービス
失業保険自体に回数制限はない
失業保険を受給すると、雇用保険の被保険者期間はリセットされるものの、もう一度受給資格を満たせば再び受給できます。
条件をきちんと満たす必要はありますが、失業保険を受給すること自体に回数制限はありません。ただし、受給の回数によっては、給付制限期間が延びてしまうので注意が必要です。
給付制限期間とは、自己都合で会社を退職した場合において、失業保険を受給できない期間のことです。かつては一律3カ月の給付制限でしたが、2020年10月1日から2カ月に短縮されました。
しかし、5年間のうち2回までの受給は2カ月で済みますが、3回目以降は給付制限期間が3カ月となります。また、労働者の責めに帰すべき重大な理由による退職の場合も、3カ月です。
なお、給付制限があるのは自己都合での退職の場合なので、会社都合による退職のケースでは基本的にありません。
出典:「給付制限期間」が2カ月に短縮されます - 令和2年10月1日から適用|厚生労働省 鳥取労働局
失業保険と年金・手当の関係
失業保険と年金・各種手当の関係も、詳しく解説します。老齢年金と失業保険の受給や、育児休業給付金などに関して、基本的な知識を押さえておきましょう。
老齢年金と失業保険は同時に受給できない
60歳になり会社を定年退職した場合でも、条件を満たせば失業手当を受けられる可能性があります。ただし、老齢年金と同時には受給できないので注意しましょう。
老齢年金は原則として65歳から受給可能ですが、一定の条件を満たすことで、60〜65歳までの間に減額された年金を繰り上げ受給できます。しかし、ハローワークで求職の申し込みを行った日の属する月の翌月から失業給付の受給期間が経過した日の属する月(または所定給付日数を受け終わった日の属する月)まで全額支給停止されます。
また、60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者(被保険者期間5年以上)が、60歳の時点における金額の75.0%未満の賃金しか支給されていない場合、高年齢雇用継続給付を受給可能です。
高年齢雇用継続給付を受けた場合には、老齢年金は一部のみ支給停止となるので、併せて覚えておきましょう。
出典:年金と雇用保険の高年齢雇用継続給付との調整|日本年金機構
育児休業給付金がもらえないケースも
失業保険の給付を受けている場合、育児休業給付金がもらえないケースがあるので、覚えておきましょう。両者はいずれも雇用保険から支給されるものであり、一度失業保険を受給すれば、雇用保険の被保険者期間はリセットされます。
従って、失業保険を受給するタイミングによっては、育児休業給付金の受給資格を満たせず、給付を受けられない可能性があるわけです。
育児休業給付金の受給中・受給後に退職した人が、失業保険を受けたい場合には、育児休業給付金を受給していた期間は被保険者期間から除外されるため、当該期間を除いて受給資格を満たす必要があります。
障害年金は同時に受給が可能
老齢年金や育児休業給付金などは、失業保険と同時に受給はできませんが、障害年金の場合は同時に受給できる可能性があります。
原則として、失業保険・老齢年金など社会保険の給付は、複数のものを重複して給付を受けられない場合がほとんどです。これは「併給調整」と呼ばれており、複数の社会保険の受給資格を満たしていても、基本的に全てを満額受給はできません。
何か1つの受給を受けている場合、他のものは減額されたり、支給が停止されたりするケースが多くあります。しかし、失業保険と障害年金に関しては、併給調整の規定がないため、両者を合算して受け取れる可能性があるわけです。
失業保険の給付を受けるには、労働の意思・能力が必要とされますが、障害年金の受給資格を満たしている人の中にも、制限はあるものの働ける状態にはある人もいるでしょう。従って、失業保険・障害年金のいずれも受給できるケースがあります。
ただし、障害年金の申請を検討している人の中には、働けない状態にある場合も少なくありません。障害・病気の治療などで就労が難しい場合、一定の条件の下で、失業保険の受給期間の延長が可能です。
出典:よくあるご質問(雇用保険について)|ハローワークインターネットサービス
そもそも失業保険はいくらもらえる?
失業保険の受給資格を満たした場合、いくら給付を受けられるのでしょうか?計算方法や具体例を、確認してみましょう。
失業保険の計算式
雇用保険で受給できる失業手当の計算方法は、次の通りです。
- 賃金日額(退職前6カ月の給与総額÷180(6カ月×30日))を算出する
- 基本手当日額(賃金日額×給付率45.0~80.0%)を算出する(※年齢と賃金日額の水準によって、計算式が変わる)
- 基本手当の総額(基本手当日額×所定給与日数)を算出する
- 毎月振り込まれる失業手当の金額(基本手当日額×28日分)を明らかにする
基本手当日額は、賃金日額と離職時の年齢によって異なります。原則、退職前の6カ月分の給与(賞与除く)の合計を180で割った金額となりますが、上限額は年齢によって変わってきます。
詳しくは、厚生労働省の資料を確認してみましょう。下限額は、年齢によらず一律です。
出典:雇用保険の基本手当日額が変更になります -令和5年8月1日から-|厚生労働省
具体例をチェック
離職時の年齢が29歳以下(30歳未満)で、賃金日額が7,000円(月21万円×6カ月÷180)の人が給付を受ける場合を例として、失業手当を計算してみましょう。
基本手当日額は、賃金日額の水準によって計算式が異なります。離職時の年齢が29歳以下で、賃金日額が5,110〜1万2,580円の場合、基本手当日額の計算式は次のようになります。
- 基本手当日額=0.8×賃金日額-0.3{(賃金日額-5,110 )/(12,580-5,110)}×賃金日額
この式に上記の賃金日額7,000円を当てはめると、以下の通りです。
- 0.8×7,000-0.3{(7,000-5,110 )/7,470}×7,000=5,068円(基本手当日額)
従って、毎月振り込まれる失業手当の金額は「5,068円(基本手当日額)×28(日)」から、14万1,904円となります。
毎月の失業手当を基本手当日額の28日分として計算しているのは、失業手当が28日(4週間)ごとに認定を受け、その後に振り込まれる仕組みになっているためです。
出典:雇用保険の基本手当日額が変更になります -令和5年8月1日から-|厚生労働省
失業保険をもらうメリットとデメリット
失業保険を受給するメリットとデメリットについても、ここで整理しておきましょう。失業手当を受ける場合、ある程度はお金の心配はなくなるものの、転職の機会を逃さないように注意が必要です。
【メリット】お金の心配が少なくなる
失業手当をもらえれば、失業中で収入がない期間でも、金銭的な不安が少なくなります。
実際、失業手当のおかげで生活の心配をせず、転職先をじっくり探せるようになる人は多くいます。休みを取ることで、心身ともにリフレッシュして、新しい仕事に就ける場合もあるでしょう。
さらに、再就職が早かった場合は、再就職手当の支給を受けられる可能性もあります。早く再就職するほど給付率が高くなるので、条件や金額などをチェックしておきましょう。
出典:再就職手当のご案内|ハローワークインターネットサービス
【デメリット】再就職の機会を逃さないよう注意
金銭の心配が少なくなることから、ゆっくりしすぎて再就職の機会を逃したり、キャリアに空白期間ができたりする可能性があります。
失業手当を受けている期間は、働かなくてもある程度の金額を受け取れるため、再就職のために動き出すのが遅くなってしまう人は、珍しくありません。
しかし、仕事をしていない期間が長くなると、再就職を目指す際に応募先企業から不審に思われる可能性があります。あくまでも休業期間中の生活を支えるための制度である点を忘れず、早めに就職に向けて動き出すようにしましょう。
失業保険の関するQ&A
失業保険の手続きや受給に関して、多くの人が抱く疑問点・不明点について回答します。手続きの場所や年収についてなど、きちんと理解しておきましょう。
ハローワーク以外で手続き・受給できる?
雇用保険の失業手当を受給するならば、ハローワークで自ら手続きをしなければいけません。ハローワーク以外では申請を受け付けていないので、必ず最寄りのハローワークに来所して、手続きをするようにしましょう。
なお、失業手当の受給をするには、失業の認定を受けなければならず、原則として認定対象期間中に2回以上の求職活動の実績が必要です。
ハローワークで求人情報を閲覧した程度では、求職活動とは見なされないので注意しましょう。求人に応募したり、ハローワークで職業相談を受けたりした実績が求められます。
出典:雇用保険の具体的な手続き|ハローワークインターネットサービス
失業保険をもらいながら稼ぐことは可能?
失業手当を受給しながら、アルバイトをすることは可能です。ただし、待機期間中にお金を稼いだ場合、受給の開始が遅れる可能性があるので注意しましょう。待機期間(7日間)が終了するまで待ってから、アルバイトを始めるのが無難です。
また、アルバイトの場合でも、週に20時間以上働いた場合は就職扱いとなり、ハローワークに申請しなければいけません。失業手当を受給しつつアルバイトをする場合、労働時間は20時間未満に収め、31日未満の契約期間で働くようにしましょう。
失業保険は年収に入る?
失業保険により受け取った手当は非課税となり、税法上では年収とは見なされません。失業保険を受給した後に再就職した場合、失業手当と再就職先から受けた給与以外に収入がなければ、年末調整のみで済み確定申告は不要です。
なお、税法上では年収とはならないものの、社会保険上は失業手当も年収となるので、その点は注意しましょう。
出典:雇用保険法 第十二条(公課の禁止)|e-Gov法令検索
出典:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
失業保険の仕組みを理解して賢く使おう
失業保険は、失業して収入がない期間における生活を支えるのに役立ちます。お金の心配を減らしつつ、再就職に向けて動けるようになるので、基本的な仕組みを理解しておきましょう。
失業手当を一度受給した後でも、被保険者期間の条件を満たせば、再度の受給が可能です。ただし、受給期間中は働かなくてもお金を得られるため、再就職に向けて活動するのが遅くなる人もいるので注意しましょう。
基本的には再就職を支援する性質の制度なので、きちんとハローワークで手続きをしつつ、早めに動き出すことが大事です。「スタンバイ」では全国の豊富な求人を掲載しているので、仕事探しに役立てましょう。