看護師として働いている人の中には、スキルアップのための選択肢として、診療看護師になることを検討している人もいるのではないでしょうか。診療看護師とはどのような資格なのか、主な仕事や求められるスキルとともに解説します。
診療看護師とは?
診療看護師とは、具体的にどのような職種のことをいうのか見ていきましょう。同じような仕事をしている、「特定看護師」との違いについても解説します。
医療の知識や技術も身に付けた看護師
診療看護師とは、医療の知識・技術を身に付けた看護師のことです。「Nurse Practitioner(NP)」とも呼ばれ、アメリカをはじめとする海外の医療機関では、専門的な教育を受けた診療看護師が多く活躍しています。
日本で診療看護師になるには、「一般社団法人 日本NP教育大学院協議会」認定のNP教育課程を修了し、同協議会が実施する認定試験に合格することが必要です。
診療看護師としての認定を受けると、一定の範囲内ではあるものの、一般的な看護師には認められていない幅広い診療行為を行えるようになります。
出典:日本NP教育大学院協議会とは | 一般社団法人 日本NP教育大学院協議会
特定看護師との違い
特定看護師とは、「一般社団法人 看護師の特定行為に係る指定研修機関協議会」が実施する研修を修了した看護師のことをいいます。研修を修了すれば特定の医療行為を行えますが、診療看護師との違いは、実施できる診療の範囲です。
診療看護師が「特定行為区分」に指定されている行為のほぼ全てを行えるのに対し、特定看護師が行えるのは、研修を修了した区分の行為のみに限定されます。なお、どちらの看護師も、特定行為を行う際は、医師による手順書に従うことが必要です。
診療看護師にできることは?
診療看護師として認定されると、「特定行為」と「相対的医行為」を行えるようになります。具体的な内容について、確認しておきましょう。
医師の手順書に従って行う「特定行為」
「特定行為」とは、医師の診療の補助として行える医療行為のことです。診療看護師は、医師による手順書に従い、急性期から慢性期までを含む、下記の21の特定行為区分に関連する38行為のほぼ全てを行います。
<特定行為区分の名称>
- 呼吸器(気道確保に係るもの)関連
- 呼吸器(人工呼吸療法に係るもの)関連
- 呼吸器(長期呼吸療法に係るもの)関連
- 循環器関連
- 心嚢(しんのう)ドレーン管理関連
- 胸腔ドレーン管理関連
- 腹腔ドレーン管理関連
- ろう孔管理関連
- 栄養に係るカテーテル管理(中心静脈カテーテル管理)関連
- 栄養に係るカテーテル管理(末梢留置型中心静脈注射用カテーテル管理)関連
- 創傷管理関連
- 創部ドレーン管理関連
- 動脈血液ガス分析関連
- 透析管理関連
- 栄養および水分管理に係る薬剤投与関連
- 感染に係る薬剤投与関連
- 血糖コントロールに係る薬剤投与関連
- 術後疼痛(とうつう)管理関連
- 循環動態に係る薬剤投与関連
- 精神および神経症状に係る薬剤投与関連
- 皮膚損傷に係る薬剤投与関連
出典:特定行為区分とは
医師の指示を受けて行う「相対的医行為」
「相対的医行為」とは、医師から直接指示を受けて行う医行為のことです。医師の手順に従う特定行為も、相対的医行為に含まれます。しかし、その他の医行為に関する明確な定義はありません。
具体的な例としては、問診・腹腔穿刺・気管挿管などがありますが、医療機関や指示を出す側の医師によって内容は異なります。医師の指示によっては、手術助手や麻酔管理などを行うケースもあるようです。
また、点滴や内服薬処方オーダーの代行入力を、相対的医行為として行うこともあります。診療看護師が相対的医行為に携わることで、スムーズな治療や医師の負担軽減につながります。
診療看護師の主な仕事
診療看護師には、特定行為や相対的医行為のほかにも、さまざまな仕事があります。主な仕事内容についても、確認しておきましょう。
患者の治療に関する医療計画の作成
医師と連携しながら、クリニカルパスなど患者の治療に関するプランを作成します。クリニカルパスとは、治療や検査の実施内容やプロセスを示した計画書のことです。
患者の入院から退院までの治療スケジュールを時系列で示し、治療に関わるスタッフと共有することで、医療の質の向上や効率的な看護が可能になります。
また、医師と相談の上で治療後のリハビリ計画を立てるのも、診療看護師の仕事です。看護師としての立場から患者の状況を把握し、他職種とも調整しながら早期回復を目指します。
医療を円滑に行うための連携
診療看護師は、医療を円滑に行うために欠かせない存在です。特定行為・相対的医行為を行える診療看護師がいることによって、医師が対応できない場合にもスムーズに治療が進みます。
また、医師と看護師の間に位置する立場として、両者の橋渡し役を務めることもあるでしょう。特にチーム医療においては、1人の患者の治療に対し、医師・看護師のほかにも、薬剤師・検査技師・ソーシャルワーカーなど多くの職種が関わっています。
チーム全体が連携し、円滑に医療を行うための役割を果たすのも診療看護師です。
看護職員の教育や育成
他の看護職員たちの教育・養成を、任されることもあります。診療看護師は、医療の技術・知識を身に付けているため、看護師の中では上位の存在です。
重症患者への対応など、通常の看護業務以外に関する院内教育のほか、診療看護師・特定看護師を目指すスタッフや研修生などの指導役を担うこともあります。
質の高い医療・看護を患者に提供できるよう、身に付けた技術・知識を現場に還元することも、診療看護師にとっての大事な仕事の1つです。
診療看護師に求められる主なスキル
診療看護師になるには、どのようなスキルが求められるのでしょうか。主なスキルを3つ紹介します。
包括的なアセスメントスキル
「アセスメント」とは、患者へのヒアリングなどによって得る「主観的情報」と、各種の検査・チェックなどの結果から得る「客観的情報」を基に、看護における課題を分析することをいいます。
アセスメントスキルは、患者の健康状態を把握し、適切な医療・看護を提供するために重要とされる能力です。一般的な看護師にも求められるものですが、さらに幅広い医療行為に携わる診療看護師には、より包括的なアセスメントスキルが必要とされます。
看護の現場におけるマネジメントスキル
患者に対して、効率的な医療・看護を提供するためには、現場をマネジメントするスキルも求められます。医師に代わって特定行為などを行う際には、公平かつ効果的な医療処置を行うためのマネジメント能力が必要です。
また、看護職の指導役やチーム医療での橋渡し役を担う診療看護師にとって、現場のスタッフをまとめるための看護管理スキルも欠かせません。
これらのマネジメントスキルを磨くには、コミュニケーション能力や課題解決力などを身に付けることが大切です。
倫理的な課題に対する意思決定スキル
看護師の仕事には、倫理的な課題に対して、判断しなければならない場面が多々あります。例えば、「患者の意思を尊重するにはどうすればよいか」「患者の家族に対してどのようにケアすればよいか」など、さまざまな課題に悩む看護師は少なくありません。
診療看護師には、そのような場面において看護師の中心となり、ベストな解決策を見いだすためのスキルが求められます。
看護の現場で起こりがちなジレンマに対して、的確に判断するためには、日頃から倫理的な課題に対する考え方などを、自分なりに理解しておくことが大切です。
診療看護師資格の取得方法
診療看護師になるには、「一般社団法人 日本NP教育大学院協議会」が実施する認定試験に、合格しなければなりません。認定試験の受験資格や、試験の概要などについて解説します。
受験資格
認定試験を受験するには、まず看護師として5年以上実務に携わっている経験が求められます。さらに、「一般社団法人 日本NP教育大学院協議会」によって認定されている大学院修士課程でNP教育課程を修了し、NP資格認定試験に合格することが必要です。
2024年7月現在、同協議会の教育課程認定を受けている大学院は、全国で18校あります。または、日本の保健師・助産師・看護師のいずれかの資格を取得していれば、海外のNP資格保持者も受験可能です。
出典:NP資格認定試験について | 一般社団法人 日本NP教育大学院協議会
出典:会員校紹介 | 一般社団法人 日本NP教育大学院協議会
提出が必要な書類
認定試験の申し込みに必要な書類についても、確認しておきましょう。
- 履歴書(写真付き)
- 写真票および受験票(2枚の写真を貼付)
- NP資格認定試験検定料振込通知(金融機関に振り込んだ際の「本人控」をA4用紙にコピー)
- 各大学院が発行する修了証明書または修了見込証明書
- 合否通知郵送用封筒(返信用切手貼付)
- 認定証郵送用封筒(返信用切手貼付)
書類はパソコンでの作成も可能ですが、氏名は自筆で明確に記載するなど、所定の書式を使用しないと不備扱いになるので注意しましょう。また、年月は全て西暦で記載します。
試験内容
認定試験は、大学院修士課程で専攻した以下の3つの領域から、1つ選択して受験します。
- プライマリ・ケア(成人・老年)
- プライマリ・ケア(小児)
- クリティカル
試験問題は8科目あり、診療看護師としての任務を果たすために必要な知識・技能を、修得していることを問われます。2023年度の試験の出題割合は、以下の通りです。
- NP(診療看護師)論:5.0%
- 疾病予防・健康増進:2.0%
- 医療倫理:3.0%
- 医療安全・関係法規:5.0%
- 病態機能学:15.0%
- 臨床薬理学:10.0%
- クリニカルアセスメント:30.0%
- クリニカルマネジメント:30.0%
合格基準は、評価委員によって年度ごとに決められます。なお、不合格の場合は翌年度以降も再受験可能です。
診療看護師は今後活躍が期待される資格
診療看護師は、一般的な看護師には行えない幅広い医療行為に携われる職種です。治療に関する技術的な知識だけでなく、現場を管理するマネジメントスキルや、看護における適正な倫理感なども求められます。
患者に対して、効果的な医療や質の高い看護を提供するために、今後日本でも活躍が期待される資格といってよいでしょう。診療看護師を目指すには、まず看護師としての実績を積むことが必要です。
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