小児科看護師は、小児看護に特化した看護師です。新生児〜15歳前後の小児患者に触れ合う機会が多く、子どもが好きな人に適した職業といえます。他の診療科の看護師との違いや主な仕事内容、就業するまでの道のりを分かりやすく解説します。
小児科看護師とは?
病院の診療科は複数あり、看護師の仕事内容は科によって異なります。「小児科看護師」とは、どのような看護師なのでしょうか?
小児看護に携わる看護師
小児科看護師は、総合病院の小児科や小児専門病院などに勤務して、「小児看護」に携わる看護師のことです。小児看護とは、成長・発達の過程にある子どもたちへの看護を指します。
小児科は、新生児~15歳前後までの子どもを対象とするのが一般的ですが、中には18〜20歳までの若者を対象とする病院もあります。
小児科看護師は、子どもたちの精神的なサポートをしながら、体の成長・発達に合わせたケアを行わなければなりません。
子どものあらゆる疾患に対応
小児科は、診療科が細かく分かれておらず、外科的処置以外のあらゆる疾患に対応しています。小児期特有の疾患も多く、小児科看護師には幅広い専門知識が求められるでしょう。
小児科で扱う疾患は、「先天的疾患」と「後天的疾患」に大きく分けられます。先天的疾患とは、生まれつきの疾患や機能の異常です。代表的なものには、心室中隔欠損症・ダウン症・先天性股関節脱臼・口唇口蓋裂などが挙げられます。
一方、後天的疾患とは、出生後に事故や環境によって生じる疾患です。主な疾患には、食物アレルギー・感染症・悪性腫瘍などがあります。
活躍の場は幅広い
小児科看護師の活躍の場は、多岐にわたります。主に、以下を勤務先とするケースが多いでしょう。
- 総合病院の小児科
- 小児科専門病院
- 小児科クリニック
総合病院の小児科や小児科専門病院には、高度な医療を必要としている患者が多く、小児科看護師には高度な専門知識と応用力が求められます。小児科クリニックと違って、入院患者を受け入れているため、夜勤があるのが一般的です。
病院やクリニック以外に、以下のような場所で活躍する人もいます。
- NICU(新生児集中治療室)
- GCU(回復治療室)
- PICU(小児集中治療室)
低体重児や先天性疾患のある新生児は、NICUで治療を受けます。状態が落ち着くと、回復に必要なケアを施すためのGCUに移されます。
PICUは、集中治療が必要な小児に特化した病棟です。患者は重篤なケースが多く、小児科看護師にも高い専門性が求められます。
小児科看護師の主な仕事内容
医師の指示の下、小児科看護師は日々多くの仕事をこなしています。代表的な仕事内容として、「医師の診療補助」「小児患者の療養上の世話」「プレパレーション」を取り上げます。
医師の診療補助
小児科看護師に限らず、全ての看護師は「医師の診療補助」を担っています。診療補助とは、医師の判断を前提として行う以下のような行為です。
- 血圧・体温・脈拍の測定(バイタルチェック)
- 処置の介助
- 薬剤の投与や塗布
- 患者への採血や点滴
- 医師への診療器具の受け渡し
- 服薬の説明や生活指導
泣いたり暴れたりして安全性が確保できない患者に対しては、医師自らが採血や点滴を行うことがあります。小児科看護師は、患者に負担がかからないように配慮しながら、処置の介助を行います。
小児患者の療養上の世話
「療養上の世話」とは、病院で療養する患者の生活を整えることです。例えば、体をうまく動かせない患者に対しては、食事や清潔の援助などを行います。
小さな子どもは、ベッドから転落すると大けがをする恐れがあります。安全管理を徹底すると同時に、ナースコールがあればすぐに駆け付けて対応しなければなりません。
新生児・乳幼児がいる病棟では、入院している母親に代わり、人工乳(ミルク)による授乳やおむつ交換、沐浴(もくよく)などを行います。
プレパレーション
「プレパレーション(プリパレーション)」とは、治療や入院に向けて適切な説明を行い、患者の対処能力(頑張ろうとする気持ち)を引き出すことです。
小さな子どもにとって、初めての治療や入院は不安が大きいものです。中には、恐怖で泣き出してしまう子もいるでしょう。小児科看護師は、プレパレーションを通じて、子どもが不安・恐怖を乗り越えられるようお手伝いをします。
なお、プレパレーションのうち、五感を刺激する遊びによって、処置中の子どもの気を紛らわせることを「ディストラクション」と呼びます。
小児科看護師の大変なこと・つらいこと
小児科看護師は、子どもの命に関わる職業だけに、プレッシャーは大きいといえます。これから看護師の道に進もうとする人は、仕事をする上での大変なこと・つらいことを、きちんと理解しておく必要があるでしょう。
高い看護技術が求められる
成人と違い、小さな子どもは処置中に混乱状態になることがあります。採血や点滴といったごく一般的な処置であっても、必要以上に時間がかかるでしょう。
特に、新生児・乳幼児は体が小さいため、慎重に処置を進めなければなりません。点滴の使用量や薬の投与量の計算が細かく、小さなミスが大きな事故につながることがあります。小児科看護師には、高い看護技術と幅広い専門知識が求められるでしょう。
また、子どもが泣いたり暴れたりして、処置がスムーズに進まないことは日常茶飯事です。心に余裕を持ち、常に冷静さを保つことが求められます。
子どもや保護者との意思疎通が難しい
小児科看護師の中には、子どもや保護者とのコミュニケーションに苦戦する人が多く見受けられます。
小児科には、新生児から思春期の子まで、幅広い年齢層の子どもがいます。特に幼児は、自分の言いたいことをうまく伝えられないため、医師や看護師が気持ちをくみ取る必要があるでしょう。
また、わが子の病気で情緒不安定になっている保護者は、看護師への言動がきつくなりがちです。子ども以上に、保護者との関わり方に悩む看護師は少なくありません。
死に向き合わなければならない
小児科には、命に関わる重大な疾患を持つ患者がいます。小さな子どもは病状が急変しやすく、どんなに手を尽くしても救えない命があるのが現実です。
喪失感や悲しみから立ち直れないまま、新たな患者をみとる看護師の精神的負担は、かなり大きいものといえます。中には、無力感や自責の念に襲われる人もいるようです。
また、薬の副作用や術後の痛みなどで苦しむ子どもたちを見なければならないのも、小児科看護師のつらいところでしょう。
小児科看護師に向いている人の特徴
小児科看護師は、日々多くの子どもたちと関わるため、子どもと接するのが好きな人でなければ務まりません。そのほかに、どのような人が小児科看護師に向いているのでしょうか?
観察力に優れている
成人と違って、小さな子どもは自分の症状やつらさを言葉でうまく伝えられません。小さな変化を見逃したばかりに、命が失われてしまう場合もあるため、観察力やアセスメント力は必須のスキルといえるでしょう。
観察力とは、物事を注意深く観察することによって、変化や異常に気付く能力です。相手の変化にいち早く気付いて、すぐに行動ができる人は、小児科看護師に向いているでしょう。
アセスメント力とは、人や物事を客観的に評価・分析する能力です。患者の状況や課題を的確に把握した上で、適切な解決方法やプランを立てることが肝心です。
体力・精神力がある
子どもの検査や処置は、大人のようにスムーズに進まないケースがほとんどです。過去に病院で痛い思いをした子どもは、注射や点滴を嫌がって大暴れすることがあり、医師・看護師は体力と気力を消耗します。
入院患者の中には、夜泣きをする子や大人の言うことを聞きたがらない子も少なくありません。どんなときでも感情的にならず、根気強く対応できる人が向いているでしょう。
子どもの苦しみや死に、真正面から向き合わなければならない点において、精神的なタフさも求められます。
相手の気持ちに寄り添える
病院という非日常的な空間で、検査や治療を受けなければならない子どもは、常に不安・恐怖を感じています。入院する子どもに付き添う保護者の負担も大きく、医師・看護師の何気ない言動で心情が大きく揺れ動きます。
小児科看護師には、患者やその保護者を精神的にサポートする役目があるため、相手の気持ちに寄り添える人が向いているでしょう。
配慮のある言葉は、患者やその保護者の不安・緊張を緩和し、「治療を頑張ろう」という前向きな気持ちを引き出します。
小児科看護師になるには?
小児科看護師を目指すには、どのようなルートをたどればよいのでしょうか?仕事に従事するのに、必要な資格・経験について解説します。
看護師免許の取得が前提
小児科看護師として働くには、看護師免許が必要です。看護師国家試験を受験して免許を取得した後、小児科のある病院・クリニックなどの求人に応募する流れとなります。
看護師国家試験を受けるには、高等学校を卒業後、看護学科がある大学・短期大学を卒業するか、3〜4年制の専門学校などの看護師養成所を卒業する必要があります。
また、中学校を卒業してすぐ看護師を目指す場合は、5年一貫看護師養成課程校を卒業すると、看護師国家試験の受験が可能です。
看護師国家試験は年に1回で、成人看護学や老年看護学、小児看護学といったさまざまな領域から出題されます。2023年2月に実施された第112回看護師国家試験の合格率は、90.8%でした。
出典:第109回保健師国家試験、第106回助産師国家試験及び第112回看護師国家試験の合格発表|厚生労働省
准看護師を目指すのもあり
社会人が看護師免許を取得する場合、全国の看護師養成所で3年以上の教育を受けるのが一般的です。少しでも早く現場で経験を積みたい人は、准看護師を目指すことをおすすめします。
社会人であれば、准看護師養成所で2年以上学び、都道府県知事が実施する准看護師試験を受ける流れです。看護師よりも免許取得までの期間が短く、学費も抑えられます。
准看護師の仕事内容は、看護師とほとんど変わりませんが、医師または看護師の指示の下で業務を遂行します。准看護師として病院・クリニックに就職した後、働きながら看護師の資格取得を目指すのもよいでしょう。
小児科看護師の年収とキャリア
小児科看護師として就業した後は、どのようなキャリアアップの選択肢があるのでしょうか?気になる年収もチェックしましょう。
他の科に勤務する看護師と大差はない
小児科看護師の年収は、他の科に勤務する看護師と大きく変わりません。厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、2023年における看護師の平均年収(※)は508万1,700円です。
病棟勤務の場合は夜勤手当が付くため、日勤だけの看護師よりも収入アップが狙えます。一方、外来のみの病院・クリニックは、病棟勤務の小児科看護師よりも年収がやや低くなる傾向があります。
家事と仕事の両立をしたい人は、受付時間を午前のみとしている病院・クリニックを選ぶのもよいでしょう。
※「きまって支給する現金給与額×12カ月+年間賞与その他特別給与額」で算出
※企業規模計10人以上の場合
専門を極めればキャリアアップが可能
キャリアアップ・収入アップを望む人は、日本看護協会が認定する「認定看護師」を目指し、自分の専門分野を極めましょう。認定看護師とは、ある特定の分野において、高い専門知識と熟練した技術を持つ看護師を指します。
例えば、「小児プライマリケア」の分野を極めると、緊急性の高い疾患から日常的な疾患まで幅広く対応できるほか、総合病院ではチーム医療のキーパーソンとして重宝されるでしょう。
「新生児集中ケア」では、ハイリスク新生児の急性期の全身管理や、健やかな成育のためのケアなどを学ぶため、NICUやGCUで活躍できるチャンスが増えます。
出典:認定看護師 | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会
小児科看護師はやりがいのある仕事
小児科看護師の役割は、小児患者を看護することです。小児疾患に関する幅広い知識が求められる上、人の苦しみや死に直面するため、「子どもが好き」という理由だけでは務まりません。
しかし、子どもの回復や成長に関われることは、小児科看護師にとっての大きな喜びです。キャリアアップの選択肢も広く、やりがいや将来性は十分といえるでしょう。
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