障害者職業生活相談員とは何?役割や資格要件、よくある疑問を解説

障害者雇用が進む中、一定の条件を満たす事業所で「障害者職業生活相談員」の選任が義務付けられています。選任された場合、どのようなことをするのか気になる人もいるでしょう。障害者職業生活相談員の役割や資格、その他よくある疑問を解説します。

障害者職業生活相談員とは?

障害者手帳

(出典) pixta.jp

障害者職業生活相談員は、どのような人を指すのでしょうか。対象となる事業所や人員の定義と、似た職業との違いを見ていきましょう。

障害のある従業員をサポートする担当者

障害者職業生活相談員は、障害のある従業員の職場での生活を支援する人のことです。障害特性に応じた職務選定や、作業環境の整備など、障害者が働きやすいようにサポートします。

障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)に基づき、常時5人以上の障害者を雇用する事業所には、選任が義務付けられています。

障害者職業生活相談員は、1事業所につき1名いれば、法令上の問題はありません。ただし事業所の規模や雇用される障害者の勤務地、人数によっては、複数人選任されることもあります。

出典:障害者の雇用の促進等に関する法律 | e-Gov 法令検索

従業員から選任される

障害者職業生活相談員は、事業所の従業員から選任されます。職務の遂行には、職場の実情を熟知している必要があるためです。まず事業所が適格な従業員を選び、その後ハローワークに選任報告書を提出します。

選任において、正社員やパートなど、従業員の雇用形態は問われません。ただし「常時雇用している労働者」であることが条件です。雇用期間の定めがなく、1年以上働く(またはその見込みがある)人が対象となります。

また企業の経営者は労働者ではないため、基本的には障害者職業生活相談員として選任できません。

ジョブコーチや生活相談員との違い

障害者職業生活相談員と似た職業に、ジョブコーチや生活相談員があります。混同しやすいので、違いを理解しておきましょう。

障害者職業生活相談員は、企業内部の従業員から選任され、障害のある社員の職業生活全般をサポートします。例えば業務の調整や職場環境の改善、さらには生活面での相談にものります。

一方、ジョブコーチは外部の専門家で、主に就労支援に特化しています。就職活動や職場適応をサポートしますが、その活動は一定期間で終了するのが一般的です。

生活相談員は、主に介護福祉施設で働く人のことで、「ソーシャルワーカー」とも呼ばれます。利用者や家族からの相談にのり、入退所の手続きや医療機関との連絡調整などを行います。

障害者職業生活相談員の主な役割

バインダーを持ったスーツの人物

(出典) pixta.jp

障害者職業生活相談員には、障害のある従業員が職場で能力を発揮し、充実した生活を送れるように導く役目があります。相談や指導の内容について、3つの観点から紹介します。

適職の選定・能力開発

障害者職業生活相談員の重要な役割の1つが、適職の選定と能力開発です。各従業員の特性や強みを理解し、それに合った職務を見つけ出すことが求められます。

例えば、視覚障害のある人には音声認識ソフトを使える業務を、身体障害のある人には座ったままできる作業を提案するなど、きめ細やかな配慮が必要です。

能力開発においては、障害特性に応じた研修プログラムの策定や、業務遂行に必要なスキルの習得支援を行います。ハローワークや障害者就業・生活支援センターなどの外部機関と連携し、最新の支援技術や方法を学びながら、効果的な能力開発を進めていきます。

作業環境の整備

障害者職業生活相談員は、障害のある従業員が快適に働けるように、作業環境の整備にも取り組みます。例えば、車いす利用者のために通路幅を広げたり、視覚障害者向けに点字ブロックを設置したりします。

物理的な環境だけでなく、職場の雰囲気づくりにも配慮しなくてはなりません。一般従業員向けに障害者雇用に関する研修を実施し、職場全体の理解を深めることも大切です。

相談員は、障害者の声に耳を傾け、必要に応じて外部の専門家とも連携しながら、継続的に作業環境の改善に取り組みます。

職場生活や余暇活動のサポート

職場生活や余暇活動のサポートも、障害者職業生活相談員の役割に含まれます。障害のある従業員の定着率向上や、生活の質の改善に貢献する、重要な役割です。

職場生活のサポートとは、労働条件や人間関係の相談にのり、必要に応じて調整することです。具体的には、勤務時間の柔軟な設定や、同僚とのコミュニケーションの橋渡しなどが挙げられます。

職場外でも充実した時間を過ごせるように、アドバイスすることもあります。地域の障害者支援サービスや、趣味のサークルなどの情報提供などが代表的な例です。

障害者職業生活相談員になるための要件

講習を受ける

(出典) pixta.jp

障害者職業生活相談員になるためには、厚生労働省が定める2つの要件のうち、どちらかを満たす必要があります。それぞれの要件を、詳しく解説します。

障害者職業生活相談員資格認定講習を修了

要件の1つは「障害者職業生活相談員資格認定講習」を修了することです。この講習は、障害者を5名以上雇用する事業所で選任予定の人を対象に、全国で毎年実施されています。

実施主体は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の各都道府県支部です。なお、国や地方公共団体が、障害者職業生活相談員を選任する場合は、厚生労働省が実施する「公務部門向け障害者職業生活相談員資格認定講習」を修了することとなっています。

出典:障害者職業生活相談員|独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構

出典:公務部門向け障害者職業生活相談員資格認定講習|厚生労働省

定められた学歴と実務経験を満たす

もう1つの要件は、一定の学歴と実務経験を満たすことです。基本的に、大学・専門学校などを卒業した人は1年以上、高校は2年以上、その他は3年以上の、障害者の職業生活に関する相談・指導の実務経験が必要とされています。

また職業能力開発総合大学校の「福祉工学科に係る長期課程の指導員訓練の修了者等」は、実務経験は不要です

いずれの場合も、改めて資格認定講習を受ける必要はありません。ハローワークに提出する報告書の職歴欄に、具体的な学歴と実務経験を記入することになります。

障害者職業生活相談員のQ&A

Q&A

(出典) pixta.jp

障害者職業生活相談員は会社が選任するものですが、個人的に興味がある人もいるでしょう。受講や資格の有効性にかかわる疑問とその回答を紹介します。

認定講習は個人で受講できる?

障害者職業生活相談員資格認定講習は、個人での受講ができません。障害者を5名以上雇用する事業所が、選任した従業員を対象に受講させるためのものだからです。

将来選任される可能性がある場合や、就労支援のスキルアップ目的での受講も認められていません。該当する事業所に勤めていたとしても、選任されない限り、受講できないのです。

障害者支援に関心がある人は、公的機関が提供する一般向けのセミナーや研修に参加することで、基礎知識を学べます。将来的に、障害者職業生活相談員としての活動に役立つ可能性があるでしょう。

転職先でも障害者職業生活相談員になれる?

障害者職業生活相談員の資格は、転職先でも有効です。資格認定講習を修了した人は、新たな事業所で選任される際、再度講習を受ける必要はありません。これは、受講履歴が個人にひもづいているためです。学歴や実務経験によって要件を満たした人も、同じことがいえます。

選任は事業所ごとに行われるため、転職先で必ず障害者職業生活相談員として活動できるとは限りません。しかし障害者雇用を進めている事業所の場合、障害者職業生活相談員の経験が転職に有利に働く可能性はあるでしょう。

障害者職業生活相談員は障害者と共に歩む仕事

胸に手を当てるスーツの人物

(出典) pixta.jp

障害者職業生活相談員は、職場において障害のある従業員を支援する重要な役割を担います。同じ従業員として、障害者と共に歩む立場といってよいでしょう。

障害者を常時5人以上雇用する事業所での選任が義務付けられており、資格要件や具体的な職務内容が定められています。障害者職業生活相談員になるには、認定講習の受講または所定の学歴・実務経験が必要です。

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