高齢化が進む日本において、高齢者を対象とする美容サービスの需要が高まっています。「福祉ネイリスト」もその1つで、ネイルサロンに足を運ぶのが困難な高齢者や障害者が主な顧客です。資格取得までの流れや働き方の特徴、相性の良い資格を紹介します。
福祉ネイリストとは何か
ネイリストの仕事は、ネイルケアやネイルアートなどの施術を通じて、爪を健康に美しく見せることです。近年は、高齢者や障害者を対象とした「福祉ネイリスト」が活躍しているのをご存じでしょうか?
日本保健福祉ネイリスト協会が定める資格
福祉ネイリストの仕事は、ネイルサロンに足を運ぶのが難しい高齢者や障害者に施術をすることです。主に、介護福祉施設・就労支援作業所・病院・自宅などに出張し、ネイルケアやネイルカラーなどを行います。
福祉ネイリストという名称は、「一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会」が商標登録をしています。協会が定めるカリキュラムを修了した後、卒業証明書を受け取って初めて、福祉ネイリストの肩書で活動ができる仕組みです。
出典:福祉ネイリスト®になる - JHWN − 一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会
一般的なネイリストとの違い
福祉ネイリストの顧客は、体の不自由な高齢者や障害者です。一般的なネイリストとの大きな違いは、自らのネイルサロンではなく、介護福祉施設・就労支援作業所などに出張して施術をする点でしょう。
通常、ネイルサロンでの施術時間は平均1~2時間ほどですが、福祉ネイルは10~30分で終了します。利用客の負担にならないように、短時間で手際よく仕上げることが求められます。
メニューは、ハンドケアやマニキュアで塗るネイルが中心で、ジェルネイルは行わないのが基本です。ネイルアートを施すケースもありますが、誤飲の恐れがあるパーツは使いません。
福祉ネイリストの働き方と将来性
福祉ネイリストには、副業やダブルワーク、フリーランスなどのさまざまな働き方があります。これからネイリストを目指す人は、高齢化に伴うニーズの変化も視野に入れながら、資格取得を目指しましょう。
副業やフリーランスで働く人が多い
福祉ネイリストは、組織に属さずにフリーランスで活動するケースが大半です。施設や事業所と業務委託契約を交わし、給与ではなく報酬という形でお金を受け取ります。
ネイルの施術料金は、1回につき1,000~3,000円程度が相場です。一般のネイリストと比べ、1回で得られる金額は少ないものの、1つの施設内で多くの人を担当できれば、まとまった報酬を得られるでしょう。
福祉ネイリストだけで生計を立てるのは難しいため、本業ではなく副業としている人が多い傾向があります。介護福祉施設の職員として働きながら、休日のみ福祉ネイリストの活動をする人や、一般のネイリストとの兼業も少なくありません。
高齢者向け美容サービスは需要増加が予測される
総務省統計局が公表する「人口推計(2023年)」によると、2023年10月1日時点では、65歳以上の人口が総人口に占める割合は29.1%と過去最高です。高齢化が進展すれば、高齢者向け美容サービスの需要はさらに増加するでしょう。
高齢者が美容サービスを享受することは、クオリティ・オブ・ライフ(人生の質・生活の質)の維持・向上につながります。身だしなみが整うことで自信がつき、「外出したい」「人と交流したい」という意欲が湧くかもしれません。
介護福祉施設では、レクリエーションの一環として、ヘアケアやネイルケアを取り入れているところも多くあるようです。施術者とのコミュニケーションは、心身ともに良い刺激になるでしょう。
出典:統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口
福祉ネイリストの資格取得までの流れ
福祉ネイリストは、「一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会」が認定する民間資格です。プロとして活躍するまでの大まかな流れと、留意点を見ていきましょう。
認定校のカリキュラムを修了する
日本保健福祉ネイリスト協会では、高齢者に向けたネイルサービスを2012年から開始しています。福祉ネイリストは一般のネイリストと違い、高齢者や障害者の心身の状態に考慮しながら施術をしなければなりません。
福祉ネイリストを目指すための最初のステップは、全国にある認定校で、知識・技術面の講習を受けることです。一例として、講習では以下のような内容を学びます。
- 高齢者の特性
- 障害者福祉
- 爪の構造・皮膚科学
- ハンドトリートメントやアロマオイル
- カラーリング・ペイントアート・リペア
- カラーの意味
講習時間は、未経験・JNEC3級保有者の場合計21時間で、次回の受講までに最低1週間の期間を空ける必要があります。1回3時間(計7回)なので、仕事や家事との両立はしやすいでしょう。
出典:JHWN − 一般社団法人 日本保健福祉ネイリスト協会 - 高齢者・障がい者の方々に笑顔を!ネイルの力で”癒し・元気・希望”を!福祉施設向けネイルケア普及のためのネイルスクール、ネイリストの協会
実地研修で学びを深める
講習の第7回目では、これまでの総まとめとして実技試験を行います。講習の終了後は、実地研修で学びを深め、レポートを提出する流れです。
実地研修は、福祉ネイリストになるための卒業検定に当たります。研修を終了すれば卒業できるわけではなく、あらかじめ決められた合格基準をクリアしなければなりません。
実地研修の当日は、講師同伴で施設に足を運び、実際の利用者に施術をします。現場では、座学では得られない多くの気付きを得られるでしょう。研修時間は約3時間で、合格ラインは15点以上(20点満点中)です。
協会から卒業証明書が発行される
実地研修が無事に終了すると、合格者には卒業証明書(ディプロマ)が発行され、福祉ネイリストとしてのスタートラインに立てます。
資格取得後は、登録料3,000円を毎年支払い、日本保健福祉ネイリスト協会に所属するのが基本です。協会や各卒業認定校から以下のようなサポートを受けられるため、着実に知識・スキルを磨いていけるでしょう。
- 年4回のアートセミナーへの参加
- オンラインサロンや勉強会
- 他の福祉ネイリストとの交流
協会では、仕事のあっせんは行っていません。認定校の中には、施設の紹介を行うところもありますが、基本的には自分で営業活動をする必要があります。
福祉ネイリストと相性の良い資格3選
「知識や技術をもっと磨きたい」「ほかのネイリストと差をつけたい」「メニューをグレードアップさせたい」という人もいるかもしれません。そのような人は、福祉ネイリストとの相乗効果が期待できる資格を取得しましょう。
JNECネイリスト技能検定試験
「JNECネイリスト技能検定試験」は、「公益財団法人 日本ネイリスト協会」が主催する民間資格で、ネイリストの登竜門ともいわれています。
正しい技術と知識の向上を目的としており、等級は3級・2級・1級に分かれています。ネイリストとして働くなら、2級以上の資格を取得するのが望ましいでしょう。
2級では、知識と技術がサロンワークで通用するかどうかを審査します。筆記試験と実技試験があり、実技試験ではモデルや認定モデルハンドを使用します。
介護職員初任者研修
介護職員兼福祉ネイリストとして活躍したい人におすすめなのが、旧ホームヘルパー2級の後継に当たる「介護職員初任者研修」です。
介護のスタート資格であり、約130時間の研修受講(講義+演習)と修了試験への合格によって資格が得られます。
平均的な受講期間は1~4カ月前後で、費用は5万~8万円が目安です。雇用保険における教育訓練給付制度の対象講座になっているため、条件を満たせば受講料の負担を抑えられます。
AHTA認定アドバンス資格
ネイルメニューにハンドマッサージをプラスすると、利用者の満足度がグッと上がります。ハンドマッサージをするのに必須の資格はありませんが、正しい知識があった方が利用者も安心するでしょう。
「AHTA認定アドバンス資格」は、「一般社団法人 アロマハンドトリートメント協会」が認定する民間資格です。
アロマハンドトリートメントのステップ資格に該当し、マッサージオイル・エッセンシャルオイル・メディカルハーブなどを使った、基本的なマッサージ方法を学びます。
出典:AHTA 社団法人アロマハンドトリートメント協会ホームページ
福祉ネイリストの資格取得で世界が広がる
福祉ネイリストは、一般のネイリストと違い、介護福祉施設や就労支援作業所などに出張して施術をします。
ネイルをするのに必須の資格はありませんが、高齢者の特性や障害者福祉、爪の構造について深い理解があると、利用者の心身の状態を考慮した安心・安全な施術ができるでしょう。
現役のネイリストや介護職員が、福祉ネイリストの資格を取得すれば、キャリアの幅が広がります。アロマハンドトリートメントなどの関連資格と組み合わせれば、自分だけのオリジナルサービスを提供できるでしょう。