桜井勝延市長が語る~南相馬で生きる、働く、未来とは~

Pocket
LINEで送る

平成28年7月に一部地域を除いて避難指示が解除された南相馬市では、それから約1年が経ち、求人に向けた体制づくりやPRが本格化しており、Uターンのみならず、福島県外からのIターンも積極的に受け入れている。

まだまだ課題も多いなか、瑣末なことはジョークで笑い飛ばし、すべてをポジティブに転換して市政をリードするのが、桜井市長だ。そんな心強い市長に「南相馬で生きていくこと」、「その選択がもつ意味とは何か」について語っていただいた。

南相馬は魅力だらけの町ですよ。来るだけで存在を認められるし、工夫して生き抜く力が鍛えられます。

南相馬の求人に関心を示し、このページをご覧いただいている読者のみなさん、市長の桜井です。南相馬は東京をはじめとする大都市とはまったく違う、魅力だらけの町ですよ。なぜなら、若者のみなさんはここへ来るだけで“成功”できるんですから。
仕事に限らず生きていくうえで大切なのは、世界でも日本でもどの集団においてもそうですが、自分の存在価値が認められるかどうか、お互いを認め合える社会であるかどうかにあります。
都会は人数こそ多いけれど、互いに無関心な人間のかたまりみたいな感じで息苦しいし、生きづらいと感じる人もいるんじゃないですか? その点、南相馬は人が少ない分、すぐに存在を認めてもらえる場所ですから。昨日も、新しく来た地域おこし協力隊の若者を、お爺ちゃんお婆ちゃんたちが「いや〜この人はすごい!」「スーパースターかもしれない」みたいに迎えていましたよ。
ここでは、入って来る人に思いがあればあるほど、確実にかたちになります。たとえ今は強い思いがなくても、縁あって来てくれただけで「なんか若い人たちが来てるじゃない!」と大歓迎。

たとえば都会の職場で壁にぶつかって、「こんなはずじゃない」と落ち込んでリセットしたいと思っているなら南相馬へ来たらいい。もちろん、ある程度成長した後には意見の相違も出てくるかもしれないけれど、来て努力しようとする人に対してはみんなウエルカム、ウエルカムです。
私はいつも「命は平等だ」と表現しているのですが、学歴なんてその人の判断能力や責任能力にはぜんぜん関係ありません。何でも揃った都会で暮らすことがよいとも思いません。むしろ、南相馬のようにいろいろなものが足りないところの方が、一人で生き抜く力を鍛えることができます。さまざまな事情を考えて行動をとって、そこで適応していかなくてはいけないですからね。自分で何とかしなくてはという力が鍛えられるんです。
そういう意味で言うと、震災の時に小学校高学年から中学生くらいだった子どもたちが今、いよいよ就職という年代に入ってきたわけだけれども、彼らの使命感みたいなものも、同じ南相馬市内でも若い時に震災を経験していない人たちとは異次元ですよ。自分たちがこの地域を支えたいという思いを強く持っている若者が非常に多いです。

以前の成人式では騒いで壇上に上がって酒飲んで、みたいなのがいたけれど、最近は一切なくなりました。それどころか、式自体、若者たちが全部自分たちで仕切ってやるようになったし、それは大人が教えたわけでもなんでもなくて、自分たちがどういうふうに行動したらいいか自ら考えざるを得なくなった結果でしょう。避難先を転々として、しぶとく適応していった子もいて、そういう経験値が彼らの使命感を自然と育んだというわけです。それは彼らにとっては試練であったかもしれないけれど、ものすごくいい経験だったと言うこともできます。
南相馬に来る人は、そんな若者たちからの刺激も受け、いずれ同じように生き抜く力が身につけられると思いますよ。

歴史ある伝統文化を拠り所に地域のコミュニティを再構築。あなたも仲間に加わりませんか?

平成29年8月現在、南相馬の人口は5万5千人あまりにまで回復してきました(震災前は約7万人)。ただ、かつてどの地域にも当たり前のように存在したコミュニティが、原発事故のあと慌ただしくバラバラに避難せざるを得なかったことによってなくなりました。その上、南相馬に戻ってきて頑張っている人たちも高齢化が進んでいて、コミュニティを再構築するというのは並大抵のことではありません。
そうしたなか、地域のつながり作りに威力を発揮しているのが、伝統文化復活の動きなんですね。南相馬を含む福島には、もともと多彩な民俗芸能が継承されてきた歴史があって、「田植踊り」や「子ども手踊り」、「天狗舞」とかいろんなものがあり、その数たるや福島全体で約800種類とも言われます。
ただ実際のところ、震災前はだんだん継続が難しくなっていたものが多かったのも事実です。それが震災後、再び一緒に練習したり歌を歌ったりすることによって「自分たちはここで生活してきたんだ」という原体験を呼び覚まし、原点を取り戻そうという機運が高まったんですね。あるいは、よその地区の芸能を見て刺激を受け、「俺たちもやるか」と呼びかけて復活させた人たちもいます。
だから毎年2月に開催する南相馬市民俗芸能発表会では、震災後、いろんな芸能が見られるようになっています。地元の人でも「あ、こんなものもあるんだ」とびっくりするほど豊富なバリエーションですよ。よそから転入してきた人にも爺さまたちが教えてくれますから、どんどん参加していいんですよ。

一方、重要無形民俗文化財の「相馬野馬追」については、継承するのが当たり前という気概が市民にありますから、開催が危ぶまれた震災年の7月にも、絶対途絶えさせてなるものかと踏ん張りました。略式ながらも実施にこぎつけ、翌・平成24年には例年の8割方の規模にまで復活させています。
私も野馬追の執行委員長を務めるにあたっては、「伝統を守ることに誇りを持つ騎馬武者たちを統率するというのは、すごくいい仕事だなぁ」「ビビっているわけにいかない」と、この時ばかりはダジャレも封印して、人格が変わっちゃうくらい気を引き締めています。一千有余年の歴史を引き継ぐというのは、今だけじゃないという大きな責任感がありますからね。
野馬追に騎馬として参加するには騎馬会に入らなければならず簡単ではありませんが、運営の協力にはもちろんウエルカム、ウエルカムですよ。

若者も母親も安心して暮らし、働き、子育てできる。そのための支援をたくさん制度化しました。

先ほど人口が回復しつつあると言いましたが、それは他地域からの避難者や復興工事従事者の数も含んでのこと。問題は、原発事故以降、生産年齢以下の世代の多くが出て行き、とりわけ若い女性および子育て中の女性が親子で避難したまま、なかなか戻って来られないということです。これにより、サービス業の圧倒的な人手不足が起きました。
レジなどでパートタイマーをしていた女性たちがいなくなったため、避難指示解除となっても労働力が確保できず、スーパーやコンビニが開けられないという事態を招いたんです。彼女たちが果たしてきた役割がいかに大きかったか、つくづく再認識させられましたね。
だから市としては、女性が安心して暮らし、働ける環境を保証しなくてはいけません。どういうことかと言うと、まずは放射線の健康不安がない地域だと納得していただくことです。安心感につながる情報を常に発信するほか、新たな人を迎えるための支援策も講じています。
たとえば、トイレが男女別々でなかったり、水洗になっていなかったりする会社に補助金を出して、労働環境を改善するという支援もそのひとつです。かつては雇用対策としてトイレ環境を考えたことなどなかったけれど、今ではきちんと目配りし、市の職員が会社を訪ねて行って「女子トイレを新設しませんか? 助成制度がありますよ」と、そんなことをやっているわけです。
そういうことを当たり前のものとして提案していかないと、女性は魅力を感じてくれない。これは震災がなかったら気がつかなかったことですね。

もちろん、女性に限らず求職者、転入者を応援する制度をたくさん用意していますよ。転居費用の一部を助成するとか、民間賃貸住宅に新たに入居または住宅の新築・購入をした子育て世帯・若年夫婦世帯に奨励金を交付するとか、たくさんあります。生活費が安くすむから、所得額自体は都会より低くても可処分所得は逆に多いと思いますよ。しかも、ここでは都会でできなかったことにチャレンジもできるわけですから、いいじゃないですか?
20代30代なんて、失敗したっていくらでも取り戻せる年齢です。私は失敗を積み重ねることこそが成功への道だと思っています。まわりの大人やマスコミが「目標に向かう一直線上から脱線したら終わり」みたいな考えを押し付けるから、若者が窮屈な生き方を選んでしまうのではないでしょうか。
自分が生きていく時間を別なステージでもう一回作り上げる、そういう軌道修正をしても何の問題もないですよ!

未来の可能性が大きく拡大、南相馬をハッピーな地域へ押し上げようとしています。

さて、課題解決に取り組み中の南相馬ですが、未来に向けた希望も大きく育っているのでご安心ください。国の施策である「ロボットテストフィールド」が南相馬に作られることが決定したのを受け、「ロボットのまち 南相馬市」に向けた市の政策が着々と進行しています。

平成29年1月にはドローンによる長距離荷物配送の実証実験に世界で初めて成功し、3月には複数管理事業者によるドローン運行管理のデモンストレーションも実施しました。

原発事故で一時は何もかもなくしたけれど、新たなサービスを立ち上げるチャンスが広がり、ここに来て未来の可能性は限りなく大きくなったと感じています。その可能性をもっともっと広げるのが私の役割ですし、ロボット以外にもどんなサービスの可能性があるか、たくさんのことを頭の中に常に駆け巡らせています。

命の源である農林水産業の復興もたいへん重要で、そのために今、農業の担い手を作る塾での人づくりに励んでいます。また農業に限らず、南相馬で何かしたいという人たち、利害関係のまったくない、友だちとして付き合える人たちのネットワークを重層的に作っていきたいと動いてもいます。平面的な付き合いだけじゃなく、縦も横もつながれるような関係性を作っていくことが、南相馬の強さ、魅力アップにつながっていくと思いますので。
私は、経営者をはじめ、年を重ねた人にも「青春時代に戻ったら自分は何をやりたいか」を思い起こして、今を生きてほしいと思っています。年をとるほど、「そんなこと言ったってできない」「人もいないし」と、守りの姿勢が先に立ってしまいがちだけれど、青春時代には「やる気になれば何でもできる」と思っていたんじゃないでしょうか。
「人手が足りなかったら、SNSなどのネットワークを活かしてよそから連れてくればいい」「もっと友だちをたくさん作ればいい」みたいな、若者のような発想で動ける、そういうフットワークの軽さが今こそ必要だと思うのです。なおかつ「下を向くな」とも言っていますね。下を向き始めるのは自分に負け始める時だから、とにかく顔を上げて前を向けって。そうするともう一回ポジティブシンキングになるじゃない?
さらには、自分の行動が自らのハッピーだけではなく、人のハッピーに必ずつながるものであることも重要だと思っています。それこそが自分が生きていくうえでの幸せ感となり、いずれ地域の幸せにもつながっていくのです。
人の危機感を煽ることなく、ハッピーをどうやって作り出せるか、これをテーマにみんなで知恵を出し合って行動していけば、南相馬は相当ハッピーな地域になるんじゃないでしょうか。繰り返し言いますが、転入者が活躍できるフィールドがここには山のようにあります。ぜひ一緒に汗をかこうじゃありませんか!

執筆者

地方企業・地方自治体の採用を支援するビズリーチ地方創生支援室。魅力的な地方の情報をお届けします。