早期退職を検討している人に向けて、概要やメリットとデメリットを解説します。今や転職をする上で、早期退職制度を重視する人も少なくありません。早くリタイアをした後の生活がどのようになるのかを知りたい人は、ぜひ参考にしましょう。
早期退職制度とは?
早期退職制度とは、どのような制度なのでしょうか?まずは、制度の内容や、似た制度との違いを理解しましょう。
通常より早く自発的に退職すること
早期退職制度とは、自らの意思で通常よりも早く退職する制度です。これまでは同じ会社で定年まで働き続け、退職金をもらって老後の生活をスタートするというのが、典型的な日本企業における働き方でした。
この価値観にとらわれず、従業員の選択肢を広げることを主な目的としています。
多くの場合、福利厚生の一環として認識されています。早く仕事を辞める分、退職金の割り増しや再就職支援などのメリットが設定されていることがほとんどです。
早期退職制度の実情
早期退職制度は、年度ごとにばらつきはあるものの、一定数の企業で実施されています。
『東京商工リサーチ』の実施した調査からは、経済が不安定な状況下では、早期退職制度を実施する企業や人数が増えていることが、年度別推移から見て取れるでしょう。
リーマンショック直後の2009年では約2万3000人が、また新型コロナの影響を大きく受けた2020年には約1万8600人が早期退職制度を利用しています。
一方で、経済が比較的落ち着いていた2014〜2018年にかけては、利用者は1万人を割っていました。早期退職制度の実施状況は、経済の動向と関係していることが分かります。
参考:東京商工リサーチ「「早期・希望退職」募集、募集、業種が二極化」
選択定年制との違い
早期退職制度と似たものに、選択定年制があります。選択定年制は、一般的に50〜65歳の間で自分で定年を設定し、その年齢に達したときに退職するかを選べる制度です。
両者の違いは、退職理由にあるといえます。早期退職制度は、何らかの理由で企業側が募集することが多いため、そこで退職した場合は『会社都合』による退職とみなされます。
一方で、選択定年制で退職した場合は自ら選択したことになるため、『自己都合』による退職扱いです。両者は、主に失業保険を受け取る際に影響します。
会社都合による退職の場合、手当を申請すれば7日間の待機期間が終わり次第速やかに受給できます。しかし、自己都合の場合は、給付までに約2〜3カ月間待たなければなりません。
早期退職制度の種類
早期退職制度には、希望退職制度と早期退職優遇制度の2種類があります。それぞれの概要や特徴を解説します。
希望退職制度
希望退職制度は、会社主導で早期退職希望者の募集をかける方法です。主に業績悪化などによるコスト削減を目的に行われ、退職者には退職金を割り増しして支払うなどの優遇をします。
実態としてはリストラに近いですが、企業が一方的に解雇するのではなく、あくまで従業員の意思を尊重しているという形を取っています。
とはいえ、企業の都合による退職の面が大きいため、会社都合による退職とみなされるのが一般的です。またこのような性質から、臨時的に行われることが多くなっています。
早期退職優遇制度
早期退職優遇制度は、福利厚生の一環として常設されている制度です。コストカットなどの後ろ向きな動機で行われる希望退職制度とは異なり、従業員のキャリア形成の支援や、組織の代謝をよくするなどの前向きな目的で設置されています。
現在ではキャリアが多様化しており、人によっては定年前に独立や次のキャリアを形成したいと思う人もいるでしょう。そのような社員のサポートを行う役割を担っています。
また、現在は少子高齢化により、従業員の高齢化も進んでいます。早期退職という選択肢を設けることで、人員の硬直化を防ぎ、企業の代謝を促すことも狙いの1つです。
早期退職制度のメリット
従業員が早期退職をするメリットには、どのようなものがあるのでしょうか?早期退職によって得られるメリットを、3つ紹介します。
退職金が割り増しされるケースがある
早期退職をすると、通常の退職や会社都合による退職と比べ、退職金を多くもらえることが一般的です。特に福利厚生としての早期退職優遇制度の場合は、定年まで勤め上げたときよりも退職金が多いケースもあります。
しかし、どれだけ上乗せされるかは企業によって千差万別です。早期退職制度を利用する際は、定年まで働いたときの見込みの給与と退職金と照らし合わせ、どちらがお得かを考える必要があります。
再就職支援が受けられるケースがある
福利厚生として早期退職優遇制度を設けている企業は、早期退職者の再就職支援に力を入れていることが多くなっています。通常の定年退職の場合、退職後の就職支援はないのが一般的です。
しかし、早期退職優遇制度を利用すれば、退職後もスムーズに次のキャリアに進めることが期待できます。グループ会社を有している企業の場合、グループ企業への紹介を行ってくれるケースもあります。
退職後のキャリアパスを描きやすい点も、メリットの1つです。
会社都合なら失業保険の優遇措置が得られる
希望退職制度で退職した場合、通常は会社都合による退職として扱われ、失業保険を受け取る際にメリットとなります。失業保険における優遇は、主に受給開始時期と受給期間に適用されます。
自己都合による退職の場合、給付開始までに『給付制限』と呼ばれる期間を待たなければなりません。その間の生活費は、自分で工面する必要があります。しかし、会社都合による退職の場合は、申請から最短1週間で受給を開始できます。
また、給付期間は年齢や雇用保険への加入期間によって変わり、自己都合の場合は90〜150日間です。一方で、会社都合の場合は、90〜330日間と長くなっています。
受給期間が長い分、受け取れる金額も大きくなります。
早期退職制度のデメリット
早期退職は、メリットばかりではありません。デメリットも把握し、後悔のない選択をしましょう。
経済的に困る可能性がある
退職金は多めにもらえるといえども、仕事を辞めてしまうわけなので、会社員としての収入はなくなってしまいます。退職金と失業保険で当面の生活費は賄えるとしても、いつかは尽きてしまうので、その後の収入をどう得るかを考える必要があります。
すぐに再就職ができればよいですが、仮にうまくいかなった場合は、経済的に困ってしまう可能性があるでしょう。
また、会社員としての信用を失うことにもなるので、ローンの審査などに通過しづらくなるデメリットもあります。
再就職がスムーズにいかない可能性がある
早期退職者に再就職支援をしてくれる会社は多いですが、必ず再就職ができるということではありません。
再就職ができたとしても、必ずしも満足のいく結果になるとも限らないでしょう。今までよりも低いポジションや、収入に甘んじなければならない場面もあるかもしれません。
また、再就職が難航した場合、経歴にブランクが空くことになります。ブランクは転職に不利になるので、転職活動が長引くほど首が絞まってしまいます。
早期退職を検討する場合は、再就職がスムーズにいかないリスクも考えておきましょう。
将来の年金が減る可能性も
早期退職をしてブランクが空いた場合、定年まで働いた場合と比べ、受け取れる年金額が減る可能性があります。会社員が加入する厚生年金は、加入期間や在職時の給与によって、受け取れる金額が変わるためです。
再就職をして前職より給与が下がった場合も、同様に年金が減る可能性があります。なお、会社員を辞めても国民年金は65歳まで払い続けるため、国民年金の受け取れる金額は変わりません。
早期退職を検討するときは、退職金の割り増し額や早期退職によって得られるチャンス、失う収入や年金額をてんびんにかけて、納得のいく答えを出しましょう。
転職前に確認しておくべきポイントは?
早期退職制度を使って転職を考えている場合、押さえておくべきポイントがいくつかあります。早期退職をよい結果にするために、しっかりと理解しておきましょう。
雇用条件をしっかりチェック
応募先の企業から内定が出た場合、雇用条件をしっかりと確認しましょう。雇用条件の確認を怠ると、入社してから「こんなはずじゃなかった」と早期退職したことを後悔するかもしれません。
雇用条件は、内定時にもらえる『労働条件通知書』で確認可能です。労働条件通知書には、仕事内容や給与の計算方法などが記載されています。
内定の承諾は、口約束だけでも成立します。その場の雰囲気に飲まれ、安易に「入社します」と口にしないよう注意が必要です。
福利厚生も確認しておこう
転職先を決める際は、福利厚生の内容もチェックしておきましょう。全ての制度を使う可能性は高くないかもしれませんが、何があるかだけは一度目を通しておくのがおすすめです。
ただし、福利厚生だけで転職先を決めるのは、避けた方がよいでしょう。厚生年金・雇用保険など以外の『法定外福利』は、会社の一存で内容が変わったり、廃止されたりする可能性があるためです。
あくまで会社は仕事をする場であり、福利厚生は職場環境をより快適にするためのサポート的な制度です。福利厚生を頼りにしすぎると、制度の改変があった場合に苦労するでしょう。
転職先に望む条件を明確にしておこう!
早期退職制度の種類は、『希望退職制度』と『早期退職優遇制度』の大きく2つです。前者は経営悪化などを受けて実施する、事実上のリストラに近いものですが、後者は福利厚生の1つとして社員のキャリア支援を主な目的としています。
早期退職には、退職金が割り増しされるといったメリットがありますが、再就職できない可能性があるなどのデメリットもあります。
特に転職が難航した場合は、収入が途絶えるリスクがあるため、転職活動に特に力を入れる必要があるでしょう。納得のいく決断をするには、早期退職のメリットとデメリットの双方を比較検討することが大切です。