アカハラとは?「アカデミックハラスメント」の具体例と対策法を解説

パワハラやセクハラなど、さまざまなハラスメントが社会で問題になっていますが、近年は教育・研究の場において、アカハラ(アカデミックハラスメント)も注目されています。どのような行為がアカハラに当たるのか、原因や対処法とともに理解しましょう。

アカハラとは?定義をチェック

指差し

(出典) pixta.jp

嫌がらせやいじめ行為を表す「ハラスメント」は、日本社会でとりわけ問題視されており、パワハラ・セクハラ・モラハラなどさまざまな種類があります。

さらに近年では、アカデミックの分野で「アカハラ(アカデミックハラスメント)」が注目されています。まずはどのようなものか、基本的なところを理解しておきましょう。

教育・研究の場で起こるハラスメント

アカハラは、教育・研究の場などアカデミックな場所で行われるハラスメントです。教員・指導者に当たる人物が、学生・教え子に対して不適切な行為をしたり、不当な圧力をかけたりするもので、学生同士や教員同士で起こる嫌がらせ行為も含まれます。

主に教員・指導者の立場を乱用し、相手に肉体的・精神的な負担を与える行為であり、パワハラ・モラハラなどが社会で注目されるに従って、問題視されるようになりました。

また、厚生労働省が学校教育領域におけるキャリア形成支援を目的に、公開している講習テキスト「大学等におけるキャリア教育実践講習」にもあるように、学生の就職に関して不利な扱いをする行為もアカハラに該当します。

出典:学校教育領域におけるキャリア形成支援 平成24年度講習テキスト(大学等)

他のハラスメントとの違い

現状、日本社会において有名なハラスメントといえば、パワハラ・セクハラ・モラハラなどでしょう。これらとアカハラの違いは、主にハラスメントの行われる場所が、アカデミックな場であるか否かにあります。

アカハラは、学校や研究機関などアカデミックな場で行われるハラスメント行為全般を指す言葉で、先述の資料でもパワハラの一種とされています。

主に教師と教え子など、一方が優位的な関係にある場合に、その立場を悪用して肉体的・精神的な苦痛を与えるものです。

パワハラ・セクハラが社会的に大きな問題とされるようになり、アカデミックの場でも、さまざまな嫌がらせ行為が注目されるようになりました。

【具体例】アカハラに当たる言動

スマホを手に頭を抱える

(出典) pixta.jp

アカハラに該当する言動を、具体的に紹介します。大きく分けて妨害や威嚇、負担強制などに分類されており、それぞれ具体的に解説します。

勉強・研究に対する妨害

学生に対して、勉強・研究の機会を与えなかったり、授業への参加を妨害したりする行為は、代表的なアカハラの一種です。

教授・講師などの立場を乱用して、学習に必要な機材・備品などを使わせなかったり、施設を利用させなかったりなどの行為は、明らかなハラスメントといえるでしょう。

また、相手によって指導方法をあからさまに変更したり、平等に指導をしなかったりなど、間接的に学習・研究の妨害をする行為も含まれます。研究室の利用や参考文献の閲覧を制限したり、研究の成果を取り上げたりするケースもあります。

進級・卒業・就職の妨害

教職員の権限を悪用して、特定の学生の進級や卒業、就職を妨害するのも代表的なアカハラです。

不当な評価により、本来与えるべき単位を与えなかったり、進級を認めなかったりするケースは実際に起こっており、問題にされています。

研究の場において、部下に良い研究テーマを与えず、評価されにくい状況に追いやったり、論文の提出を受け入れなかったりする嫌がらせもあります。

暴言などを用いた威嚇

典型的なパワハラとされる暴言を用いた威嚇や罵倒、相手の人格を否定する発言・誹謗中傷なども、アカデミックの場ならばアカハラに該当します。

ひどい言葉でののしったり、声を荒らげたりすることで、学生・部下を萎縮させる行為は当然ながら問題です。

机や壁を強く叩いて威嚇したり、物を投げたりする行為のほか、大勢の前で罵倒することで精神的なプレッシャーを与える行為なども、決して珍しくありません。

相手に暴力を振るってしまえば、その時点で暴行罪が成立しますが、暴力を振るうそぶりを見せることで、相手を萎縮させるハラスメントもあります。

経済的な負担を押し付ける

本来、大学や研究機関側が持つべき費用を、学生・部下に不当に負担させる行為もハラスメントの一種です。研究の中で何らかの損害が発生した場合に、学生に非がないにもかかわらず、負担を押し付けるのは大きな問題といえるでしょう。

また、指導や論文のチェックなどに、金銭を要求する行為もアカハラです。これらは指導側の仕事の範ちゅうであり、個別に金銭をはじめとした対価を要求することは許されません。

アカハラが起こる原因は何?

大学の授業のイメージ

(出典) pixta.jp

アカハラが起こってしまう原因はさまざまであり、加害者の人格的・能力的な問題などに加えて、以下のように閉鎖的な環境もハラスメントを助長する原因となっています。

さらに、一部の立場の人に権限が集中しやすい点も、ハラスメントの温床になりがちです。

外部の目が届きにくい閉鎖的な環境

大学や研究室などは、とりわけ外部の目が届きにくい閉鎖的な環境であるため、ハラスメントが発生しやすい傾向にあります。

たとえ嫌がらせ・暴力まがいの行為があったとしても、外部の監視がないため、うやむやにされる可能性が高いでしょう。

独自の文化が継承されている研究室などもあり、一般的には明らかに嫌がらせと判断される行為であっても、加害者だけではなく、被害者側も正しく認識できていないケースもあります。

一部の人に権限が集中しやすい

アカデミックの場は、民間の企業以上にピラミッド型の人間関係が構成されやすく、教授・上司などに権限が集中しやすい傾向にあります。

権限を有する人が傍若無人に振る舞っても、おとがめがないケースが多く、立場の弱い人に対するハラスメントの温床となりがちです。

その研究室でしかできない研究などもあるため、当該分野について学びたい学生は、研究から排除されないためにも、教授の言うことをのみ込むほかない場合も珍しくありません。

権限が一部に集中しているため、明らかなハラスメントが起こっても、問題にされない場面が多いのが実態です。

アカハラが問題視される背景・理由

泣いている人物

(出典) pixta.jp

アカデミックの場は外部の目が届きにくく、一部の人に権限が集中しがちなので、ハラスメントが起こりやすい環境といえます。

さらに、以下のように公的なチェックが入りづらいところもあり、学問の自由が侵害される恐れがあるため、近年とりわけ問題視されるようになりました。

公的・法的なチェックが入りにくい

大学や研究の場などは、民間企業と比べて、法的な介入が難しいとされる場所です。法的なチェック機能がうまく働かないため、一部の人間に権限が集中しやすく、権限を有する人の勝手な振る舞いを助長している面があります。

また、法的なチェックに加えて、第三者的な視点による相談機関がない点も問題とされています。民間企業の場合、パワハラ・モラハラが問題視されると、社会から厳しい目を向けられることになり、売り上げにも影響してしまうでしょう。

しかし学術機関の場合は、民間企業のような市場競争にさらされておらず、社会的な目による抑制効果もさほど期待できない傾向にあります。

学問・創造への自由が侵害される

アカハラは、民間企業などでのパワハラ・モラハラなどに比べて、問題視されにくい面があります。

しかし、近年は文部科学省を中心にハラスメントへの対策が進められており、大学や大学院なども、ハラスメントの防止に本格的に乗り出す動きを見せています。

アカハラは被害を受けた人のキャリアや、個人の尊厳が著しく侵害される可能性が高く、学問や学術機関自体の信頼にも傷が付く恐れがあるためです。

民間企業のように市場原理は働きにくいものの、大学の評判が落ちることで、入学希望者が減る可能性はあります。

パワハラ・モラハラが社会的に大きな問題として取り上げられる機会が増える中で、アカハラに対しても、今後はきちんと対応する学術機関が増えていくでしょう。

アカハラを受けた場合の対処法を紹介

弁護士

(出典) pixta.jp

アカハラを受けた場合には1人で悩まず、以下の対処法を検討することが大切です。まずは、身近な信頼できる人に相談しつつ、証拠を集めるようにしましょう。

身近な人へ相談しつつ証拠を集める

ハラスメントを受けて傷ついている場合、自分から行動を起こすのが難しいこともあるでしょう。まずは、自分自身を落ち着かせるために、身近な人に相談するのがおすすめです。

また、休暇を取ったり休学したりなど、ストレスのある場所から距離を置くようにしましょう。心身を落ち着かせることができたら、加害者にアカハラをやめてもらったり、専門窓口に訴えたりするために、証拠を集めることが大事です。

具体的に何があったのかを日記やメモに残すとともに、音声の録音なども検討しましょう。

大学の相談窓口に相談する

身近な人に相談するのに加えて、大学の相談窓口にもきちんと相談するようにしましょう。大学によっては匿名での相談も可能なため、身近な人に相談できない場合は、すぐに相談窓口に訴える方法でも問題ありません。

アカハラの証拠を集めた上で窓口に訴えれば、話が進みやすくなります。できるだけ早めに相談することで、大学側も対応しやすくなるので、遠慮せずに相談を持ちかけることが大切です。

弁護士など外部へ相談するのも一案

大学などに相談窓口が設置されていなかったり、窓口に相談しても状況が改善されなかったりする場合は、弁護士などへの相談も検討しましょう。

現状において、アカハラへの対策をしていない学術機関も少なくないため、NAAH(アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク)をはじめとした外部機関や、弁護士への相談も考えることが大事です。

法的な措置も検討することで、加害者へのけん制や警告にもなるため、必要ならば遠慮せずに利用するようにしましょう。あえて大ごとになるように働きかけることも、深刻な人権侵害になりかねないハラスメントへの対策として効果的です。

出典:特定非営利活動法人 アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク(NAAH ナア)

アカハラは1人で我慢しないことが大切

レッドカード

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アカハラは、民間企業でのパワハラ・モラハラなどに比べて、表沙汰になりにくい傾向にあり、1人で悩んでいる人も少なくありません。

状況を改善するためには、1人で我慢せず、まずは信頼できる人に相談することが大切です。同時に大学や大学院など、学術機関の相談窓口にも話を持っていきましょう。

相談する際には、アカハラの証拠を集めておくと、窓口側も動きやすくなります。それでも状況が改善しない場合には、外部の窓口や弁護士などへの相談も検討しましょう。卑劣なハラスメントに対しては、我慢せずに、積極的に対応していくことが重要です。