社会保険料を算出する際に用いるのが標準報酬月額です。給与に基づき設定されますが、給与に大きく変動があった場合には算出し直さなければなりません。概要と算出方法が分かれば、社会保険料をどれくらい支払う必要があるのかを把握できます。
この記事のポイント
- 標準報酬月額とは
- 社会保険料を算出するための基準額で、基本給や各種手当を含む報酬月額を基に等級ごとに決定されます。
- 給与の変動で社会保険料は上下する
- 社会保険料は標準報酬月額に基づいて算出されるため、給与が増減すれば社会保険料もそれに比例します。
- 標準報酬月額は年に一度改定され、大きな変動があれば随時改定される
- 標準報酬月額は年に一度見直されますが、育児休業後の復帰や大幅な給与変動があったなどの場合には、随時改定が行われることもあります。
標準報酬月額とは?
給与額は月ごとに変動することがありますが、給与に基づいた標準報酬月額を設定することで、毎月の社会保険料を一定にし計算を簡単にできます。標準報酬月額の概要や算出方法、給料との違いについて見ていきましょう。
健康保険料や厚生年金保険料算出の基礎
標準報酬月額とは、社会保険料を算出するために用いられる、基準となる金額のことです。基本給や各種手当(役職手当・通勤手当・残業手当など)を含む月々の総支給額は「報酬月額」として計算されます。
この報酬月額を一定の基準に基づいて等級ごとに分類したものが「標準報酬月額」であり、等級が細かく区分されています。
標準報酬月額を用いれば、毎月の給与額が変動する場合でも、社会保険料の計算の簡略化が可能です。
出典:標準報酬月額・標準賞与額とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
標準報酬月額の算出方法
標準報酬月額は、以下のように算出していきます。
- 報酬月額の算出
4〜6月の3カ月間の平均給与を算出します。仮に、4月が29万円、5月が31万円、6月が31万円であったとすると、平均給与は30万3,000円になります。 - 標準報酬月額の決定
算出した報酬月額に基づいて、等級表(報酬月額の区分表)に照らし合わせ、該当の標準報酬月額を決定します。
報酬月額が30万3,000円の場合、等級表に基づいて近い額の標準報酬月額を当てはめます。「令和7年度保険料額表」から東京都を例に挙げると、30万3,000円に近い等級は、健康保険が22等級、厚生年金保険が19等級となり、標準報酬月額は30万円です。
このように、実際の支給額から最も近い標準報酬月額を割り当てることで、社会保険料や厚生年金保険料の基礎となる金額が決定されます。
出典:標準報酬月額の決め方 | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
出典:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から) | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
標準報酬月額と給料の違い
標準報酬月額と給料の大きな違いは、手当を含むかどうかです。給料とはいわゆる基本給のことを指します。
標準報酬月額を算出する際に使用されるのは、給料ではなく給与(基本給と各種手当を含む額)ですが、年3回以内の賞与や祝い金などは含まれません。この違いを理解することで、社会保険料の計算をする際に混乱せずに済むでしょう。
標準報酬月額を用いた各保険料の算出方法
健康保険料と厚生年金保険料の具体的な計算方法について、実際の数値を用いて解説します。
健康保険料の算出方法
標準報酬月額を用いた健康保険料の算出方法は、至ってシンプルです。健康保険料(従業員負担分)は以下の式で計算されます。
- 標準報酬月額×健康保険料率÷2=健康保険料
被保険者が39歳以下の場合、介護保険第2被保険者には該当しないため、健康保険料率は9.91%を使用します。40歳以上65歳未満の人は介護保険第2被保険者に該当するため、健康保険料率は11.5%が適用されます。
東京都在住・35歳・標準報酬月額30万円・健康保険料率が9.91%の人の場合、健康保険料は以下の通りです。
- 30万円×9.91%÷2=1万4,865円
健康保険料率は地域や加入する健康保険組合によって異なるため、実際の料率に応じて計算しましょう。
出典:令和7年度保険料額表(令和7年3月分から) | 協会けんぽ | 全国健康保険協会
厚生年金保険料の算出方法
標準報酬月額を用いた厚生年金保険料(従業員負担分)の算出方法は、以下の通りです。
- 標準報酬月額×厚生年金保険料率(18.3%)÷2=厚生年金保険料
標準報酬月額が30万円の人の場合、厚生年金保険料は以下のようになります。
- 30万円×18.3%÷2=2万7,450円
なお、厚生年金保険料率は18.3%で固定されていますが、今後見直しが行われる可能性もあるため、最新の情報を確認しましょう。
標準報酬月額が決まるタイミングは?手続き方法も
給与に大きな変動があれば標準報酬月額が変わり、同時に保険料も変動します。どのタイミングで標準報酬月額が決まるのか、見ていきましょう。
毎年1回行われる「定時決定」
標準報酬月額は、毎年4〜6月までの3カ月間の基本給および各種手当を基に決定されます。これを「定時決定」といいます。定時決定は、毎年決まった時期に行われ、その年の9月〜翌年8月まで有効です。
ただし4〜6月の3カ月間は、それぞれの月で報酬支払い基礎日数が17日以上あることが条件となります。この基準を満たさない場合、新しい標準報酬月額への変更はなく、これまでの標準報酬月額が引き続き適用されます。
固定報酬が変更されるタイミング「随時改定」
「随時改定」とは、定時決定以外で報酬額に大きな変動があった際に行われる手続きです。この改定は、報酬に急激な変動があった場合に適用されますが、以下の3つの条件が全て満たされたときに限り実施されます。
- 賃金の固定的部分に変動があった
- 標準報酬月額が2等級以上変動した
- 変動があった3カ月間、各月の報酬支払い基礎日数がいずれも17日以上である
これら3つの条件がそろった場合に随時改定が行われ、報酬に応じた保険料の調整がなされます。具体的には、昇給・降給時などに適用されるケースが多く、健康保険や厚生年金の保険料が再計算されます。
入社したタイミング「資格取得時決定」
「資格取得時決定」とは、従業員が入社したタイミングで行われる標準報酬月額の決定方法です。入社時に提示された報酬(基本給や各種手当)を基に算出されます。
この手続きは、従業員が新たに社会保険に加入する際に必要となり、会社側はその情報を基に保険料の計算を行います。
これは、入社から5日以内に必要書類を提出しなければなりません。遅れると保険料の改定や手続きに影響が出る可能性があるため、できる限り早めに書類を準備し迅速に提出することが求められます。
産休・育休終了時「産前産後・育児休業終了時改定」
産休・育休が終わったタイミングでも、標準報酬月額を再計算する必要があります。これは、休業期間中に給与が変動し、実際の給与と標準報酬月額との隔たりが大きくなるケースが多いためです。
産休の終了後は「産前産後休業終了時報酬月額変更届」、育休の終了後には「育児休業等終了時報酬月額変更届」の提出が必要です。提出期限・方法についてあらかじめ確認しておき、休業が終了したらできる限り速やかに行いましょう。
出典:産前産後休業終了時報酬月額変更届の提出|日本年金機構
出典:育児休業等終了時報酬月額変更届の提出|日本年金機構
標準報酬月額に含まれるもの・含まれないもの
定期的に支給される手当は、基本的に標準報酬月額に含まれます。一方で、一時金などイレギュラーな支給は含まれないケースがほとんどです。標準報酬月額に含まれるもの・含まれないものをチェックしていきましょう。
【含まれるもの】役職手当・通勤手当など
標準報酬月額には、従業員が労働の対価として受け取るさまざまな手当が含まれます。具体的には、以下のようなものが対象となります。
【含まれるもの】
- 役職手当:役職に応じて支給される手当
- 通勤手当:通勤費用を補助する手当
- 残業手当:時間外労働に対して支給される手当
- 家族手当:扶養家族がいる場合に支給される手当
- 住宅手当:住宅に関連する費用を補助する手当
- 業務手当:特定の業務に従事している場合に支給される手当
- 年4回以上の賞与:通常の給与とは別に支給される一時金(年4回以上支給の場合)
標準報酬月額は、現金として支給されるものだけでなく、現物支給されるものも含まれる場合があります。保険料の算出において重要になるため、しっかり把握しておく必要があります。
出典:標準報酬月額・標準賞与額とは? | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
出典:算定基礎届の記入・提出ガイドブック令和6年度
【含まれないもの】臨時のインセンティブ・年3回以下の賞与など
標準報酬月額に含まれないものは、通常の給与として定期的に支払われるものではなく、臨時的または一時的に支払われるものです。
【含まれないもの】
- 臨時のインセンティブ:業績に応じて支給される特別な報酬やボーナス
- 年3回以下の賞与:通常の給与とは別に支給される一時金(年3回以下の賞与)
- 実費弁償的な金銭:業務に必要な経費の弁償として支給されるもの(交際費や出張旅費など)
- 慰労金:特定の功績やイベントに対する報酬として支払われる一時金
- 慶弔金:結婚や葬儀の際に支給される一時金
これらは全て標準報酬月額に含まれず、保険料の計算には用いられません。
標準報酬月額を自分でも計算してみよう
標準報酬月額は、社会保険料を算出するための基準となる金額のことです。基本給や各種手当を含む報酬月額を基にして、等級ごとに金額を決定します。
毎年4〜6月の平均給与から決定される定時決定が基本ですが、大幅な給与変動時には随時改定などの手続きが行われます。
仕組みを理解し、社会保険料の計算をする際に役立てましょう。将来のキャリアや働き方を考える上で重要なポイントになります。