求人票の募集要項を確認すると、給与欄に「一律手当を含む」などと記載されている場合があります。よく見かける表現ですが、どのような手当か分かっていない人も多いのではないでしょうか?一律手当の概要と、諸手当に関する基本的な知識を解説します。
一律手当とはどのような手当?
一律手当とは、企業が毎月決まった額を支払う固定手当のうち、全ての社員に支給するものを指します。まずは一律手当とはどのようなものか、基本的なところを理解しておきましょう。
社員全員に支払われる手当
企業は社員に対して、通勤手当や住宅手当など、毎月さまざまな手当を支給しています。これらは企業が独自に決めている固定手当であり、その中で全ての社員に支給するものが一律手当です。
求人票の給与欄でも、採用した人材全員に一律に支払う手当がある場合、その種類を問わず一律手当と記載するケースが多くあります。
ただし、企業の支払う固定手当の全てが一律手当とは限りません。通勤手当は全ての社員に支給するものの、住宅手当は条件に該当する社員のみに支給するという事例も多いでしょう。
その場合、前者は一律手当となりますが、後者は単に固定手当であり、一律手当には含まれません。
「一律手当含む」と書かれている場合
求人票の給与欄に「一律手当含む」と書かれている場合、基本給に加えて、その企業が定めている一律手当を含めた給与が記載されています。
例えば、基本給が20万円の社員を募集している企業があるとします。その企業が会社の規定において、全ての社員に通勤手当を1万円、住宅手当も1万円支給する旨を定めているとしましょう。
すると、求人票には「月給22万円(一律手当含む)」と記載されることになります。
手当と残業代の関係
社員を残業させた場合、企業は時間外労働に対して、法定割増賃金として最低25%以上の割増が必要です。割増賃金の計算基礎には、基本給だけでなく、一定の条件を満たす一律手当も含める必要があります。
上記の例では、基本給の20万円に加えて、一律手当の2万円を含めた22万円を基準として、残業代が計算されます。
本来は住宅手当をはじめ、通勤手当や家族手当・別居手当・子女教育手当に加えて、臨時に支払われた賃金などは、割増賃金の算定基礎から除外できます。1カ月を超える期間において、支払われる賃金も同様です。
しかしこれらの手当であっても、一律手当として社員に支給している場合は例外となり、残業代の算定基礎に含まなければいけません。企業で働く立場であっても、残業代の計算対象に関しては、よく理解しておく必要があります。
同じ月給でも一律手当の位置付けによって、残業代の額が異なる可能性があるので注意しましょう。
知っておきたい手当の種類
「手当」は、法律で定められたものと、企業が独自に定めるものに大きく分けられます。それぞれどのような手当が該当するのか、ここで整理しておきましょう。
法律で定められた手当
法律で定められた手当には、時間外労働割増手当と休日労働割増手当、深夜労働割増手当の3つがあります。つまり残業代や休日出勤による手当、深夜勤務でもらえる手当です。それぞれの割増率は次の通りです。
- 時間外労働割増手当(残業手当):労働時間が1日8時間・週に40時間を超えた場合は25%以上、時間外労働時間が60時間を超えた場合は50%以上
- 休日労働割増手当:法定休日に勤務した場合は35%以上
- 深夜労働割増手当:午後10時から午前5時までの時間に勤務した場合は25%以上
これらの支給は法律で明確に規定されており、支給を怠ると企業は罰則を与えられます。
出典:労働基準法 第三十七条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)|e-Gov法令検索
企業が独自に定める手当
法律では定められておらず、企業が独自に設定できる手当としては、次のようなものがあります。
- 住宅手当:社員の家賃の支払いを支援したり、住宅ローンの支払いを穴埋めしたりするための手当
- 通勤手当:社員の通勤にかかる費用の穴埋めするため支給する手当
- 皆勤手当:遅刻や欠勤なく勤務していた者に支給する手当
- 家族手当:配偶者や子どもなどの家族がいる社員に支給する手当
- 技術手当:特定の技能を保有・取得している社員に対して支給する手当
- 資格手当:対象となる資格を保有・取得している社員に対して支給する手当
ほかにも多くの種類の手当がありますが、いずれも法律で定められているわけではありません。企業によって支給するか否か、また支給のための条件は異なります。
課税対象の手当に注意
企業が社員に支給する手当には、課税対象となるものと非課税のものがあります。それぞれ代表的な手当を知っておきましょう。給与に関する税金は、一般的に社員に代わって企業が源泉徴収制度により納付しますが、社員の立場でも知っておくことが重要です。
課税対象の手当例
手当のうち、法律で支給が義務付けられている「残業手当」「深夜残業手当」「休日出勤手当」に関しては、いずれも課税されます。さらに、住宅手当や家族手当など企業が任意に定めるものも給与の一部と見なされるため、基本的に課税対象です。
また、いわゆる現物支給や、特定の商品・サービスの値引き販売のような報酬も、結果的に社員が経済的利益を得るならば、課税対象となります。下記で非課税となる手当の例を紹介しますが、それ以外は基本的に税金がかかると考えておきましょう。
非課税の手当例
非課税となる手当の例としては、次のものが挙げられます。
- 通勤手当(1カ月15万円以内に収まる場合)
- 宿日直手当(1回4,000円が上限で、食事が支給される場合その分が控除される)
- 出張手当(常識的な範囲の金額に収まる場合)
社員が実費を負担し、後に会社に対して精算を行うものに関しては、例外的に非課税扱いです。ただし、基本的に上限が設定されており、あまりにも高額になる場合は課税される可能性もあります。
手当の種類と支給方法もしっかり確認
固定手当のうち、全ての社員に支給されるものが一律手当であり、さまざまな種類があります。
残業手当や休日労働割増手当、深夜労働割増手当は法律で定められており、いかなる企業も社員に支払わなければいけません。企業が独自に設定する手当もあり、住宅手当や通勤手当などは、多くの企業が社員に支給しています。
一定の条件に該当する通勤手当や出張手当などの一部の例外を除き、基本的に企業が社員に支給する手当は課税対象です。
会社員は企業が代わりに納税するため、所得に関する税金に関心の薄い人もいるでしょう。しかし、一律手当の位置付けによっては、税金の額がかなり変動する可能性があるので、この機会に基本的なところを理解しておきましょう。