既存の技術を生かした、新産業の創出。福井県がつくる日本の未来とは

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幸福度ランキングや子どもの学力・体力が国内トップクラスを誇る福井県。眼鏡の一大産地で知られる鯖江市や、日本海の恵みである越前ガニ、1億数千年前の恐竜の化石など、さまざまな歴史と文化に彩られています。そんな福井県では今、新産業の創出に県内中小企業が主体となって取り組んでおり、数十年後の日本の未来を牽引しようとしています。福井県が取り組むプロジェクトについて、マネージャーの保坂武文さんと、宇宙飛行士の山崎直子さんにお話を伺いました。

既存産業の技術を活用した、新産業創出に挑む

――まず、福井県の現状について教えてください。

保坂:福井県は、国内生産量9割以上のシェアを持つ眼鏡産業、合繊織物を中心として総合産地を形成する繊維産業をはじめ、漆器や刃物などの伝統工芸、機械・化学工業など高い技術力を持つさまざまな産業が集積している場所です。国内外でトップシェアの技術を持つ中小企業が多く、また、社長輩出数は35年連続で日本一になりました。

しかし、福井県も例外ではなく、少子高齢化に伴う人材不足は深刻な問題として抱えています。特に、「従来事業から脱却したい」「新規事業を開発したい」など、企業が次のステップに進むために必要な課題を解決できる、核となる人材が圧倒的に足りません。

そこで2015年に、内閣府が進める「プロフェッショナル人材戦略拠点」が福井県にも設置されました。

ふくいプロフェッショナル人材総合戦略拠点 マネージャー 保坂 武文
本田技研工業(株)F1レース開発総責任者・総監督、(株)本田技術研究所元常務取締役。東洋電装(株)副社長を経て、2013年以降、福井県のプロジェクトマネージャーとして県内中小企業の特に新規商品開発に向けたサポート業務、および県初の各種プロジェクトの企画から運営までの支援業務に従事。2015年、戦略マネージャーに就任。


保坂
:これは主に首都圏で働く人材を地方の元気な中小企業に供給する取り組みで、地元の金融機関や経済団体、民間の人材ビジネス事業者とタッグを組み、企業経営を「人」の面から支援するものです。結果、2017年には30名を超えるプロフェッショナル人材と福井県内の中小企業がマッチングしました。

また、福井県の産業基盤をベースに、革新的な研究や製品開発を支援し、新産業を創出するために、「ふくいオープンイノベーション推進機構」が創設され、産・学・官・金が一体となり、「宇宙」「医療」「炭素繊維」「ウェアラブル」「次世代農業」の5つを柱に、プロジェクトを推進しています。

たとえば、眼鏡のチタン加工技術などを活用した外科用手術器具の商品化や、繊維技術を応用した炭素繊維での航空機ジェットエンジン部品の開発などがそれにあたります。

なかでも、福井県が誇る2大産業、繊維と眼鏡に次ぐ3つ目の集積地にしようと取り組んでいるのが、「宇宙産業」です。すでに、既存の技術を組み合わせて防音材や衛星搭載用アンテナなど、県内企業の技術は利用されており、現在は、2020年度に超小型人工衛星の打上げを目指して、「福井県民衛星プロジェクト」を推進中。JAXAや山崎さんなどの協力を得ながら、福井県内の企業が主体となって東京大学と一緒に研究開発を進めているところです。

現在は、10年、20年後の基幹産業を育てている段階なので、さまざまな領域で知見を持つプロの方には、どんどん加わってもらいたいと思っています。

実体験で得た課題をプロジェクトに

――山崎さんが福井県と関わりを持つようになったのは、「福井県民衛星プロジェクト」がきっかけだと伺いました。

山崎:そうです。「福井県民衛星プロジェクト」を立ち上げる際のセミナーで講演をさせていただいたことがきっかけでした。

宇宙飛行士 山崎直子
1996年に東京大学航空宇宙工学専攻修士課程修了後、宇宙開発事業団(NASDA、現JAXA)に勤務し、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」のシステム・インテグレーション(開発業務)に従事。1999年2月、ISSに搭乗する日本人宇宙飛行士の候補者に選定され、2010年4月、スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗。JAXAを退職後は、内閣府の宇宙政策委員会委員や大学客員教授などを務める。著書に『夢をつなぐ 宇宙飛行士・山崎直子の四〇八八日』(角川書店)、『宇宙飛行士になる勉強法』(中央公論社)など。


保坂
:セミナーで、山崎さんには宇宙飛行士としての体験談を語ってもらった後、宇宙での生活の困りごとについて質問しました。そこで最初に出てきた困りごとが「宇宙で野菜を食べたい」でしたね。セミナー後すぐに農業試験場に行き、無重力空間でも野菜を栽培できないか、検討を進めています。

山崎:宇宙食は地上からの供給によって成り立っているので、宇宙空間でも自給自足できたらいいなと思いました。特に、宇宙滞在時は生野菜を食べたかったですね。

保坂:困りごと2つ目は、「洗濯ができない」ことでした。そこで、下着や普段着、宇宙服に至るまで、既存の繊維技術を使って数日間洗濯不要な素材を作るプロジェクトも進めています。こうした、山崎さんをはじめとする宇宙飛行士の「困りごと」をプロジェクトにできないか、画策している最中です。

そして困りごとの最後も「温かい美味しい食事を食べたい」でしたよね。現在、プラスチックやセラミックを使い、一度で複数のメニューが一気に作れる仕組みを開発しようとしています。すでに、病院などで使われている仕組みの宇宙バージョンですね。

山崎:うれしいですね。今一番進んでいるプロジェクトは何ですか?

保坂:洗濯が数日間不要になる下着の開発で、これは商品規格から作り始めています。JAXAには衣類の規格がなく、NASAの規格を準拠していると聞きました。だけど、数十年後を考えたら、日本でも規格を持っておくべきです。JAXAも同じ考えだったため、福井県が規格から作ることにしました。

山崎:規格を持つのは本当に素晴らしいと思います。現状だと、宇宙空間に持っていきたい衣類は下着も含めてすべてNASAで審査を受けないといけません。ただ、その基準がブラックボックスなんですよね。だから、福井県が標準規格を作ることは、とても価値があると思います。

セミナー後の意見交換では、福井県の繊維技術を活用して高機能宇宙服を作れないか、宇宙のビッグデータを農業に利活用できないかなど、多くのテーマが生まれました。福井県が持つ高い技術力とアイデアを形にしていくために、JAXAを含めた宇宙の機関や大学などと広く連携しながら進めたいですね。

県民衛星で何をするか。企業が有志で集結し、研究会を発足

――福井県のように、県が一丸となって宇宙産業に取り組む事例は他にもあるのでしょうか?

山崎:宇宙産業は、人工衛星やロケット、宇宙からのデータの利活用、宇宙空間での衣食住など、とてもすそ野が広い分野です。日本が国際宇宙ステーションに作った実験棟「きぼう」も、国内のさまざまな企業約650社が関わりました。だから、企業単体での宇宙領域への参入はとても多いのですが、福井県のように、人材育成も含めて宇宙産業の技術の集積に取り組んでいる県は他にないと思います。特に、県単位で人工衛星を持とうとしているのは、福井県だけですよね。

保坂:県民衛星は、専属チームを発足して、宇宙からのデータを活用して何ができるかを研究している最中です。農業や海洋、防災などへの利活用が考えられますが、これまで圃場(ほじょう)や山間部などを人の手で調査したりしていたのが、人工衛星を活用して一気に調査できるようになれば、新しい価値を生みますよね。そういった、広い範囲の利活用を研究しています。

山崎:技術と共に、これからは宇宙のデータを地上の課題といかに結び付けるかのサービスの時代です。福井県が人工衛星を活用して、さまざまな課題を解決するようになれば、日本最先端の県と言えると思います。それができるのも、既存の基幹産業の高い技術力があるからこそですね。

保坂:そうですね。宇宙産業をはじめるにあたっては、県内の企業に有志での参加を募ってまわりました。賛同してくれたたくさんの企業で研究会を発足し、熱量の高い議論を交わしていますよ。

山崎:素晴らしいですね。たとえば「繊維」と一言で言っても、衣類やエアバッグ、音や振動から守る素材など、幅広い技術があり、それだけ応用範囲が広くなります。ですから、既存の産業でそれぞれに違う強みを持つ企業が集まり、研究会を構築しているのは、本当に福井県の強みです。

0から1のモノ作りというよりは、既存の技術に他の技術やアイデアを組み合わせて、想像もしなかったような新しいモノをぜひ生み出して欲しいですね。福井県の研究会ネットワークにとても期待しています。

求めるのは、新産業を牽引するプロ人材

――新しい産業の集積地を作ろうとされている福井県。ここに参加することは、キャリア価値としてとても大きいと感じます。

山崎:日本の未来をリードする意気込みを感じる福井県だからこそ、これまでの経験やスキルを存分に生かしながら、新しい価値を生み出すチャンスがたくさんあると思います。しかも、生み出すモノは、日本にとって重要な価値になるでしょう。

内閣府は2017年に「宇宙産業ビジョン2030」を策定しました。2030年代に宇宙産業規模を2倍にしようと、国としての方針を立てたのです。宇宙産業は国家プロジェクトから民間の産業として広まるタイミングでもあるので、こうした理由からも福井県の企業で手腕を発揮することには大きな魅力があると思います。

保坂:おっしゃる通り、新産業をリードする人材のキャリア価値は相当高いと思います。我々には足りないスキルや経験がたくさんあるので、それらを持つ人は大歓迎で受け入れたいですね。

もちろん、宇宙産業だけでなく、他の領域でも、福井県の既存の技術を組み合わせることで、イノベーションを起こす可能性が大いにあります。県内のあらゆる企業がプロフェッショナル人材を求めているので、「福井県が持つ技術をこれからの日本のために活用したい」「福井県で自分が本当にやりたいことを実現させたい」と思う方には、ぜひ私たちがつくっている「未来」をのぞきに来て欲しいですね。

山崎:福井県の企業なら、きっと自分の成長と社会の成長を一緒に体験できる、またとないチャンスを得られると、私も思いますよ。

福井県って、どんなところ?

1500年の歴史を持つ越前和紙をはじめ、越前漆器や越前打刃物、若狭塗など、7つの伝統工芸産地がある福井県。農業も盛んで、「コシヒカリ」は福井県で生まれました。現在、日本で生産される8割以上の米がコシヒカリをルーツに持ちます。また、皇室に献上している「越前ガニ」も有名です。

観光面では、戦国城下町の朝倉氏遺跡、大本山永平寺、現存する最も古い天守閣とされる国の重要文化財の丸岡城など、中世の歴史遺産が数多く残っているのが特長。

勝山市の「福井県立恐竜博物館」は、年間90万人が訪れる日本屈指の博物館。また、水月湖の湖底深くに7万年の歳月をかけてできた約45mの堆積物の層「年縞」は、世界中の化石や遺物の年代を測定する「世界標準の物差し」になっています。

さらに、福井県は子どもの学力・体力、正規社員の割合や女性の有業率が「全国トップクラス」。保育園の待機児童は実質ゼロを継続しています。これらが「幸福度ランキング」日本一という高い評価につながりました。女性が働きやすい県のため、共働き率が高く、それにより世帯収入も高いと言えます。

2022年度には、北陸新幹線がつながる予定の福井県。恐竜時代から、宇宙産業の集積地となる未来まで。福井県には夢と可能性がびっしりと詰まっています。

執筆者

地方企業・地方自治体の採用を支援するビズリーチ地域活性推進事業部。魅力的な地方の情報をお届けします。