ソーシャルビジネスをするなら仙台がオススメ!「仙台特区」について副市長に聞いてみました

東日本大震災から5年。この間、被災地では、「誰かのために」「地域のために」という思いを胸にチャレンジする社会起業家が増えています。起業は大きな可能性を秘めている一方で、乗り越えるべきハードルが多いのも事実です。しかし、起業に関するさまざまなサポートを受けることができ、その手続きが簡略化されるなら……。

今、仙台市は「起業しやすい街」を目指し、さまざまな仕組みづくりに取り組んでいるといいます。その仕組みとは具体的にどういうものなのでしょうか。仙台市副市長・伊藤敬幹氏にお話をうかがいました。

仙台が「日本で一番起業しやすい」ワケ

仙台の市街地

(出典) photo-ac.com

――今、仙台市では「日本で一番起業しやすい街」を目指しているとうかがいました。

伊藤:ええ、そうなんです。具体的には「新規開業率日本一」を目指しています。市民は震災を経験したことによって、「誰かの助けになりたい」という利他の気持ちが強くなっています。そうした熱い思いがきっと、みなさんの起業に対するモチベーションを支えるはずと信じています。

「国家戦略特区」というものをご存知ですか? 国が指定した地域において、事業者として活動するための規制を緩めたり、手続きをスリム化することで、より簡単に事業活動できるようにするものなのですが、仙台を日本で一番起業しやすい街にするため、市ではさまざまな領域で「国家戦略特区」の制度を活用しているんです。

――その「国家戦略特区」というものについて、詳しく教えて下さい。

伊藤:仙台市の国家戦略特区(仙台特区)では、大きく分けて4つの分野に取り組んでいます。

<仙台特区が取り組む4つの分野>

1.社会起業|ワンストップの起業手続、NPO法人認可手続き迅速化など
2.女性活躍|条件付き保育士資格の設置で、育児と仕事の両立を図る
3.医療|保険外併用療法の特例実施で、先進医療も受けやすく
4.近未来技術実証|先端技術の実証実験などを、よりスムーズに

なかでも軸となる「社会起業(ソーシャルビジネス)」では、まず「ワンストップで起業手続きができる仕組み」を考えています。起業における一番の問題は、手続きが面倒で長いことなんですね。例えばこれまで専業主婦だった方が「家の一部を開放して事業をやろう」と思い立ち、いざ書類を揃えようとする。するとまず「こんなに提出する必要があるのか」と面食らうと思います。また「この書類はこちら、その書類はあちら」という風に、窓口が細分化されていることもネックになる。そうしたものをすべてまとめて提出書類を少なくすることで、起業に対するハードルがグッと下がるはずです。

また社会貢献を一番に考えるなら、株式会社として起業するより、NPO法人の方がより動きやすい。そうしたニーズに応えるべく「NPO法人認可手続きの迅速化」を進め、NPO法人の設立認証手続きにかかる期間が6週間くらい短縮されました。

街並みがきれいな道路の一部に、カフェや商店を張り出して商売できるようにならないか、ということも考えています。現状だと、道路占用許可基準が厳しくて、道路の脇にはみ出して商売をするのが難しいんですね。だから、基準を緩和しようという動きがあるんです。

起業家向けのサポートも用意しています。「アシ☆スタ交流サロン」は、「近日中に起業したい」「実際に起業したが、もっと情報を入手してより良い事業にしたい」という人に向け、情報交換の場として用意した会員制のサロンです。宮城県内で起業予定の方、起業後間もない方ならどなたでも会員登録可能。Wi-Fiや電源などが無料で利用でき、起業関連の図書コーナーも充実させました。起業相談会や起業セミナー、先輩起業家との交流会などのイベントも随時開催しています。

また起業する際に従業員の雇用条件をどう設定するか悩まれる方が多いので、その相談窓口として「雇用労働センター」を6月に設置します。

――「社会起業」以外の分野についても教えて下さい。

伊藤:「女性活躍」では、近頃話題になった「保育士の不足」を解消するための仕組みづくりを進めています。女性の社会進出を後押しするには保育基盤を固めなければいけません。そのためにまず「仙台市内で働く」という条件付きの保育士資格の試験を10月に実施する予定です。

あとは「医療」。こちらは保険外併用療法の特例として、日本で未承認の薬を使うためのハードルを下げ先進医療を積極的に受けられるようにする体制を整えています。加えて医療機器の開発に関しても迅速に手続きを進められるよう整備しています。

最後に「近未来技術実証」。工学や材料科学、医学など世界トップクラスの技術を持つ東北大学との連携による起業を増やし、研究開発を行えるような会社が増えればとも考えています。自動車やドローンの走行テストなどもそうですね。コンパクトな土地面積で世界最先端の工業に携わるイメージです。

こうした試みがそれぞれ相互作用することで、チャレンジできる領域も大きくなるはずです。そのメニューを今後の申請によって、もっともっと増やしていこうというところです。

仙台から東北の未来を変える

伊達政宗公騎馬像

(出典) photo-ac.com

――そもそも、起業しやすい街づくりに取り組んだきっかけは?

伊藤:いま、東北で深刻なのが人口減少です。少子高齢化がどんどん進み、地域の担い手が少なくなることで、社会の課題もどんどん深刻化しています。このような状況で、仙台が、東北の若い人が首都圏へ流出するのを留める「ダム」の役割を担えないかと考えています。

東北の子どもたちは、進学で仙台に出てくるケースが多いんです。保護者の方々が「東京に出すのはお金がかかるし、何よりが心配だ。でも仙台なら言葉もそう変わらないし、2~3時間もあればすぐ会いに行ける」と考えるからです。そのおかげで仙台は今のところ、「若さ」を保っています。しかしせっかく仙台に出てきても、卒業後に勤め先が見つからないと、結局ダムが決壊することになってしまう。

――その解決策として着目したのが「業を起こす」という試みなんですね。

伊藤:ええ。もちろん他県から企業誘致し、そこから産業を育てるということもあるでしょう。しかし今後メーカー系企業や製造業を、仙台市内に誘致するのは難しい。ならば起業によって産業の集積を図れないかと考えたことがまず一つありました。

震災を経たことで、大勢の人が仙台に集まってくれたことも、「日本で一番起業しやすい街」を目指した大きな要因です。震災直後、県内外を問わず「自分にも何かできることはないか」という思いを抱えて集まった方々が、泥かきなどのボランティアに協力してくれていました。そして復旧がある程度見えてきた最近では「今後は別の形で何かをしたい」と、ビジネスによる社会貢献を志す方が増えてきているんです。例えば被災者の心が安らぐようにと一緒に裁縫をし、そこで作ったものを「製品」として売るための販路を構築する、というのもそうです。

アクティブでタフな人と東北を盛り上げていきたい

仙台駅

(出典) photo-ac.com

――今後どんな方に仙台で起業して欲しいとお考えですか?

伊藤:東北人というと一般的に「恥ずかしがり屋」が多いでしょう。自分が話すより人の話をじっと聞いている、といったタイプの人間が多い。そこを少し意識改革しなくてはいけないと思っているので、アクティブな方をもっともっと呼びたいですね。そういう人が増えることで、東北の人も触発されて積極的になると思いますので。

またチャレンジを常に続けるタフさを持っている方。起業すれば、ときには挫けそうになることも少なくないでしょう。それを打ち破り、這い上がって「ピンチはチャンスだ」と言えるぐらい、ガッツのある方がいいですね。

そして何より「東北のため、仙台のために何かをしたい」という思いを持った方に、ぜひ来ていただきたい。仙台市は震災で辛い思いをしましたが、今は産学官で連携しつつ、乗り越えようと頑張っている。その実現のため、熱い思いを持った人が必要です。仙台を新たな魅力のある街にするために、ぜひ一緒に頑張りましょう。