豊かな国ではなく、豊かな「都市」が注目される時代。僕たちは10年後どこで働いてるんだろう?

未来の働き方を考えるうえで重要になってくる働く場としての「都市」。日本でも、これまでと同じように東京一極集中の働き方でいいのかという議論が活発になってきています。実際、首都圏だけに人口が集中し続ける国は世界的に見ても稀有です。東京とは違った個性を発信し、働く場と住みやすい環境を提供していく、そんな都市ブランディングがいま日本の都市に求められているのかもしれません。

働き方の未来をつくる7日間「Tokyo Work Design Week」の最終日に行われたプログラムは「都市×働き方」がテーマでした。そこで取り上げられたのが、オーストリアのリンツという都市。この都市では1979年から毎年「アルスエレクトロニカ」という芸術・先端技術・文化の祭典を開催しており、世界中のクリエイターやアーティストからの注目を集め、多くの人々がリンツを訪れています。

しかしながら、リンツはもともと鉄鋼や化学分野が発達した典型的な工業都市でした。そんな都市がどうやって最先端アートの都市へと変貌を遂げたのか。リンツに移住し、アルスエレクトロニカ フューチャーラボで働く小川秀明さんが、その背景を語りました。

はじまりは、快適な街を作りたい、街の文化を生み出したいという想い

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オーストリアのリンツより失礼します。私はもともとアーティストとして活動を始め、アルスエレクトロニカのコンペで受賞したり、アルスの美術館での展示を委託されたりしているうちにリンツで暮らし始め、1年間の滞在だったはずが9年にも及んでいます。私が所属するアルスエレクトロニカ フューチャーラボは「未来を体験化するアトリエ」と説明されることが多いです。そこで最先端テクノロジーを使った研究開発や企業のコンサルタントを行っています。

オーストリアのリンツという街はちょうどヨーロッパの中間にあって、ドナウ川が流れる人口19万人の非常に静かなコンパクトシティです。鉄鋼や化学で知られた工業都市でした。それが1979年からどうやって快適な街を作っていくか、どういった街の文化を生み出していくか、という議論が活発に起こり始めるようになったのです。

そうして「アルスエレクトロニカ」というフェスティバルを先端テクノロジーアート分野の黎明期から開催し、少しづつシフトを続けるうちに現在ではクリエイティブシティの代表例としてヨーロッパで知られるようになりました。

「アルスエレクトロニカ」というフェスティバルが触発したことで、リンツが工業都市からクリエイティブシティへと変化を遂げたことに間違いはないと思います。当初は箱物のイベントから始まったのですが、1987年にアワードを作り、センターとラボを作り、現在ではリンツ市から出資を受けた文化機関になっているのです。

クリエイティブシティを生み出したエコシステム

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「アルスエレクトロニカ」は「art / technology / society」をテーマにすると同時に、街への誇りをどのように創造していくかというミッションを常に持っています。コンペやフェスティバルを開催することで世界中のクリエイターやアーティストが集まり、その作品や内容をセンターを通じてリンツ市民に説明しつつ実際に触れてもらい、ラボを通じて社会に還元していく。こういったエコシステムを作ることで、クリエイティブシティとしての都市の文化を醸成しているというわけです。

クリエイティブシティたるベースは、「アルスエレクトロニカ」を通じて出会う世界中のアーティストやクリエイターとのネットワークと、アワードを通じて得られる最新のナレッジです。

これまでのアワード受賞者としては、映画『トイ・ストーリー』の監督であり、現在ではディズニーとピクサーの両アニメーションスタジオを率いるジョン・ラセターや、World Wide Web(WWW)の開発者であるティム・バーナーズ=リー、またWikipediaもデジタルコミュニティとして受賞しています。そんな時代を切り開くアーティストやクリエイターたちがアワードに選ばれ、リンツの街に集まるような仕組みを作っています。

また、2010年には、リンツ市にある使われなくなった大きなタバコ工場をクリエイティブな場所にするというプロジェクトを行いました。フェスティバルの際は展示場として使い、フェスティバルが終わった後はクリエイターが居住し、フィルムメーカーがスタジオとして活用できるようにするなど、クリエイティブのハブとして街を触発し続ける場所に変換させたのです。

 
今年は駅の近くにある、使われなくなった巨大な郵便物配送センターの中に、「Post City」、つまり未来の街を作ってみるというプロジェクトを行いました。郵便物配送センターを未来の街を考えるラボに変換し、さまざまなアーティストに未来の街を考えてもらうべく、アルスエレクトロニカが場所を提供したというわけです。そして、市民参加型の未来の街を考えるカンファレンスも同時に開催することで、街を触発するというミッションにもアプローチしています。

ちなみにこの建物、現在はシリアの避難民の一時キャンプ場として活用されています。そういう意味ではアートだけでなく、社会問題にも活用できる場所としても役立ちました。こうしたフェスティバルや活動で街を触発し続けることで、クリエイティブシティとしてリンツは生まれ変わったのです。

都市間で人的資源を奪い合う時代に、inspired by Linzを生み出したい

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ちなみに私の職種は「クリエイティブ・カタリスト」という新しい職種を名乗っています。カタリストとは「社内外に創造的な反応を起こせる人」、「触発を起こせる人」という意味です。そういった肩書きを作ることで、自分自身、日々新しいプロジェクトに挑戦しています。

19世紀に起こった産業革命によって、人間の働き方は大きく変わりました。そして私たちは今、情報革命に直面しています。インターネットの登場によって、すでに私たちの働き方は大きく変化してきています。そして、その変化は今後、国や都市のあり方にまで変化を及ぼすのではないかと感じているのです。

ヨーロッパにいると国境というものが揺らぎ始めていることを強く感じます。人は安住の地を求め、自分らしく生きられる場所を探して移動します。そうすると、これからは豊かな「国」ではなく、豊かな「都市」を求めて人は移動するのではないかと思うのです。

産業革命の結末は、世界中の天然資源の奪い合いでした。そうなると情報革命の後に起こるのは、都市間で人的資源を奪い合うようになるのではないかと私は想像しています。そんな時代に、リンツはどのように他の都市との違いを出すか。

いわゆるMade in Linzではなく、「inspired by Linz」としてブランディングをしていきたい。「リンツに触発された」ということ自体がブランディングになる時代がやってくるのだと思います。