栄養士と管理栄養士の違いは、栄養指導する対象です。栄養士は健康な人だけが対象ですが、管理栄養士は特別な配慮が必要な人も対象です。栄養士から管理栄養士を目指すと合格難易度が高まるため、どちらの道に進むかを選択してから学校を選ぶと良いでしょう。
この記事のポイント
- 栄養士と管理栄養士の違いとは
- 仕事内容や必要な資格、働く場所が異なります。
- 栄養士から管理栄養士を目指すためには
- 栄養士から管理栄養士を目指す場合は合格難易度が高まるため、管理栄養士を目指すなら4年制の管理栄養士養成課程への入学がおすすめです。
- 栄養士や管理栄養士が活躍できる場所
- 病院や児童福祉施設、介護保険施設、行政や学校など幅広く活躍の場があります。
栄養士と管理栄養士の違い
栄養士と管理栄養士の違いは、主に以下の4つです。それぞれの違いについて詳しく解説します。
- 栄養指導対象の違い
- 資格取得の要件や難易度の違い
- 仕事内容の違い
- 働く場所の違い
栄養指導対象の違い
まずは、栄養指導の対象に違いがあります。栄養士法第1条で定義されており、栄養士は健康な人のみを対象に、健康の維持・向上のために栄養面の指導をします。
一方、管理栄養士は病気の人や高齢者、障がい者(児)など、食事に特別な配慮が必要な人にも指導を行うことが可能です。
資格取得の要件や難易度の違い
栄養士と管理栄養士は、資格取得の条件が異なります。栄養士の資格は、栄養士法第2条の規定により、専門学校や短大卒業と同時に取得可能です。
一方、管理栄養士は、栄養士の免許に加えて管理栄養士国家試験への合格が必要です。栄養士として実務経験を積む他、実務経験がなくても、管理栄養士養成施設の卒業者であれば受験が認められます。
厚生労働省の「管理栄養士国家試験実施状況」によると、2024年の管理栄養士国家試験の合格率は約50.0%です。内訳を見ると、管理栄養士養成課程(新卒)は80.4%と高いものの、管理栄養士養成課程(既卒)は7.8%、栄養士養成課程(既卒)は11.1%と低下します。
これは、仕事と勉強の両立が難しいことが原因と推測できます。管理栄養士を目指すのであれば、学業に専念できる管理栄養士養成課程を選び、卒業と同時に国家試験を受けるのがおすすめです。
出典:栄養士法 | e-Gov 法令検索
出典:栄養士法 | e-Gov 法令検索
出典:厚生労働省「管理栄養士国家試験」
出典:厚生労働省「管理栄養士国家試験実施状況」
仕事内容の違い
栄養士は特別な栄養成分の制限がない栄養指導・管理を行います。一方、管理栄養士は疾患や治療に応じて栄養量を細かく調整した制限のある栄養指導・管理を行います。
例えば、栄養士は三大栄養素(たんぱく質・脂質・炭水化物)のバランスが取れた食事を提供して、健康の維持や増進、病気の予防につなげるのがメインです。職場にもよりますが、基本的には調理業務も担いつつ、献立作成や対象者の栄養管理を行います。
管理栄養士は、個々の健康状態に合わせた栄養指導・管理がメインです。例えば、糖尿病患者であれば低GI食品を選ぶ、食物繊維の多い食品を選ぶ、脂質を少なくする、などです。食物アレルギー患者には、原因食物を除去した食事を提供します。
働く場所の違い
栄養士と管理栄養士では、働く場所に大きな違いはありません。以下は、一般社団法人「全国栄養士養成施設協会」が調査した栄養士・管理栄養士養成施設卒業生の就職先です。
2023年度の栄養士の主な就職先
- 病院(20.9%)
- 児童福祉施設(19.7%)
- 企業(17.2%)
- 委託給食会社(15.6%)
- 介護保険施設(12.9%)
- 学校(7.7%)
- 社会福祉施設(2.9%)
2023年度の管理栄養士の主な就職先
- 病院(32.2%)
- 企業(30.0%)
- 委託給食会社(10.2%)
- 児童福祉施設(7.9%)
- 介護保険施設(7.5%)
- 行政(3.5%)
- 学校(4.0%)
栄養士・管理栄養士ともに、病院・企業・委託給食会社の割合が多いのが特徴です。ただし、疾患や治療に応じた栄養指導・管理を担う管理栄養士は、病院や企業に就職する人の割合が約6割を占めています。
給料の違い
管理栄養士は「資格手当」が付く場合があり、栄養士より給料が高い傾向があります。しかし、給料は職場によって変動するため、必ずしも栄養士より管理栄養士が高いわけではありません。
神奈川県立保健福祉大学・新潟医療福祉大学が実施した「管理栄養士の学歴及び職域と年収に関する疫学調査」によると、管理栄養士と栄養士の年収中央値は350万円で、資格による有意差はないことが分かっています。
また、厚生労働省の「職業情報提供サイト」では栄養士と管理栄養士の区別はなく、平均年収は390.2万円という結果でした。
出典:管理栄養士の学歴及び職域と年収に関する疫学調査
出典:厚生労働省「職業情報提供サイト」
栄養士や管理栄養士になるためには
専門学校で栄養士を目指す人もいれば、4年制の管理栄養士養成施設で管理栄養士を目指す人もいます。中には、栄養士になってから管理栄養士を目指す人もいるでしょう。ここでは、それぞれの方法を解説します。
栄養士になる方法
栄養士になるには、2年制から4年制の養成施設(専門学校・短大・大学)に入学し、卒業する必要があります。全て昼間の学校で、通信教育及び夜間部の学校はありません。
栄養士養成施設は2年制から4年制がありますが、勉強する範囲は同じです。したがって、最短で栄養士を目指すなら、2年制がおすすめです。必要な単位を修得して卒業後に申請すると、栄養士資格が都道府県知事から交付されます。
また、栄養士の資格は、管理栄養士養成施設を卒業しても取得可能です。
栄養士から管理栄養士になるには
栄養士の資格を保有する人が管理栄養士になるには、実務経験を積み、国家試験に合格しなければなりません。実務経験は管理栄養士国家試験の受験申し込み締め切り日までに必要で、必要な実務経験は何年制の栄養士養成施設を卒業したかで異なります。
必要な実務経験
- 2年制の栄養士養成施設を卒業 → 3年以上の実務
- 3年制の栄養士養成施設を卒業 → 2年以上の実務
- 4年制の栄養士養成施設を卒業 → 1年以上の実務
ただし、実務経験を積みながら受験勉強をすることは簡単ではありません。厚生労働省の「管理栄養士国家試験実施状況」によると、栄養士養成課程(既卒)の2024年の合格率は11.1%で、管理栄養士養成課程(既卒)の80.4%と比べて低い合格率です。
管理栄養士を目指すなら、学業に専念できる管理栄養士養成施設で学ぶことが理想といえるでしょう。
出典:厚生労働省「管理栄養士国家試験」
出典:厚生労働省「管理栄養士国家試験実施状況」
管理栄養士になる方法
管理栄養士になるには、栄養士の免許に加えて管理栄養士国家試験の合格が必要です。栄養士養成施設を卒業した人は実務経験が必要ですが、管理栄養士養成施設を卒業した人はすぐに受験できます。合格すると、厚生労働大臣から管理栄養士の免許が与えられます。
2022年の厚生労働省「管理栄養士国家試験」の結果を見ると、管理栄養士養成施設の新卒者の合格率は92.9%と高いものの、管理栄養士養成施設(既卒)や栄養士養成施設の卒業者の合格率は20.0%台と低い数値です。
こちらも同様に、管理栄養士を目指すのであれば、管理栄養士養成施設で学ぶのが効率的といえます。
栄養士や管理栄養士が活躍できる場
業界を問わず栄養士や管理栄養士には活躍の場があります。医療・学校・行政・企業など、幅広い場所で食に関する知識が求められているためです。ここでは、多くの栄養士・管理栄養士が活躍できる業界を紹介します。
医療現場で活躍する
医療現場で活躍する栄養士の勤務先は、病院や診療所です。医師から指示された食事箋をもとに、患者1人1人に合った栄養計画を立てて、栄養管理及び栄養指導を行います。材料の発注や検品、病院食の献立作成や調理、予算管理といった食事管理も役割のひとつです。
患者に食事を提供した後は、食事の摂取状態や栄養評価を行い、食事形態や食事内容を調整します。例えば、嚥下障害がある患者には食事形態(やわらか食、きざみ食、流動食)を変更したり、糖尿病の患者には脂質を抑えたりするなどです。
管理栄養士はNST(栄養サポートチーム)の中心役として、多職種のスタッフたちとチームになって高度な栄養管理を行います。
病院での役割は、管理栄養士が栄養管理及び栄養指導、栄養士が献立作成・調理・食材発注をはじめとした食事管理を担当します。
福祉の現場で活躍する
福祉の現場で働く栄養士の勤務先は、主に介護老人保健施設・特別養護老人ホーム・障がい者(児)施設です。施設利用者の身体機能に合わせて、適切な栄養管理を行います。担当するのは、献立作成から食事の発注・検品・調理・栄養管理・栄養指導です。
飲み込む力や咀嚼機能が低下した施設利用者も多いため、提供した料理を喉に詰まらせるなどの事故は避けなくてはなりません。事故防止のため、やわらか食・きざみ食・流動食といった食事形態を考慮して提供します。栄養士が指導及び調理を担当します。
また、スムーズな食事ができるよう、施設利用者に口腔体操を指導するといった活動も行います。多職種と連携し、1人1人に合った食事の管理が必要です。
児童福祉現場では、食事アセスメントに基づいた食事・食育計画を作成し、安心安全な食事の提供と栄養管理を行います。
行政で活躍する
主な職場は、地方自治体・保健所・保健センターです。地域住民の健康づくりを目的に、健康増進のためのイベント・栄養相談会・特定保健指導を行います。また、地域住民に対して栄養相談や指導も行い、生活習慣病の改善や予防につなげます。
他にも、飲食店の衛生環境確認や給食施設への栄養管理指導、行政調査のサポートを行うことも少なくありません。なお、行政機関で働く栄養士は、管理栄養士資格を求められることがほとんどです。
企業で活躍する
栄養士が活躍する企業は、主に食品メーカー・ドラッグストア・薬局です。
仕事内容は企業ごとに異なりますが、食品メーカーは商品の栄養設計や成分表の計算、薬局は薬局管理栄養士として患者の健康に関する相談・アドバイス・栄養指導をメインに担当します。
薬局に管理栄養士が求められるようになったのは、2016年に厚生労働省が制度化した健康サポート薬局制度が関係しています。薬局から患者に対してアドバイスができるようになり、商品の販促にもつながることから管理栄養士が求められるようになりました。
また、近年は美容業界からのニーズが高く、今後も活躍できる場が増えていくでしょう。
学校で活躍する
学校で働く栄養士には、学校栄養職員と栄養教諭の2職種があります。学校栄養職員は、児童生徒の成長期に必要な栄養のある給食を提供します。文部科学省が定めた学校栄養職員の業務内容は、以下の通りです。
- 学校給食に関する基本計画への参画
- 栄養管理
- 学校給食指導
- 衛生管理
- 検食など
- 物資管理
- 調査研究など
一方、栄養教諭は、児童生徒に対して食育指導や栄養指導を行う学校教員です。栄養教諭になるには、栄養士の免許に加えて教員の免許が必要です。
スポーツの現場で活躍する
スポーツ栄養学に基づき、アスリートに適切な栄養管理及び栄養指導をします。プロスポーツチームや食事サポートに力を入れているジムには栄養士がいる場合が多く、活躍の場は多岐にわたるといえるでしょう。
選手の競技内容・体格・年齢に合わせた栄養面のサポートはもちろん、献立作成や選手の栄養チェック、体調管理も行います。
飲食業界で活躍する
飲食業界で働く栄養士の役割は、栄養バランスの取れた食事を提供することです。お弁当・離乳食・機能食品といった商品や飲食店における新メニューを開発するという幅広い業務があります。
他にも、料理教室の講師や食・栄養に関するコラムの執筆をはじめとした「食のスペシャリスト」として活躍できるでしょう。
研究機関で活躍する
研究機関では栄養学に関する研究、大学では研究室に所属して研究を行います。自分が取り組んだ研究が多くの人の役に立つことにやりがいを感じる人に向いているでしょう。
他にも、一般企業の研究職として新製品の企画や開発、品質管理をする道もあります。栄養学の知識を生かして、人々の健康維持や向上に貢献できる点が魅力といえるでしょう。
食と栄養の専門家という魅力的な仕事
栄養士・管理栄養士は、業界を問わずに活躍できる食のエキスパートです。食事を通した健康の維持・向上の他、特別な配慮が必要な人の栄養面をサポートする大切な仕事です。
管理栄養士になるには管理栄養士国家試験の合格が必要ですが、取得することで仕事の幅が広がり、多くの選択肢が生まれるというメリットがあります。栄養士と管理栄養士で悩んでいるのであれば、管理栄養士を目指すのがおすすめです。
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