日本の国防を担う自衛官は、数ある職種の中でも国にとって特に重要であり、有事の際に国民の生命・財産を守る欠かせない存在です。自衛官としての就職・転職を考えている人は、自衛官の仕事内容ややりがい、向いている人の特徴などを確認しましょう。
自衛官とは
自衛官とは、日本の領土や領海、領空を守る職業で、国防の要となる仕事です。まずは自衛官の立場や、自衛隊員との違いなどを知っておきましょう。
国土や国民を守る公務員のこと
自衛官とは、国の防衛をはじめ、災害派遣や国際平和協力活動などを担う職業です。国家公務員という立場であり、防衛省が管轄する自衛隊に所属して活動します。
自衛隊には陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊の3つの組織があり、それぞれ日本の領土・領海・領空を警備し、有事の際に守るのが仕事です。自衛官を目指す場合、陸上・海上・航空自衛隊のいずれかを志望して入隊するのが一般的です。
近年はロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、有事に見舞われる国も出てきており、緊迫した情勢が続いています。そういった状況で、他国による侵略を防ぎ、国民の生命や財産を守る自衛官の存在は、ますます重要になっているといえるでしょう。
自衛隊員との違い
自衛官と自衛隊員は、ほとんど同じ意味で用いられるケースも多いですが、厳密には自衛隊に所属する人員全体を自衛隊員と呼びます。自衛官も自衛隊員の一種であり、定義上は、何らかの階級を有する自衛隊の隊員が、自衛官です。
自衛隊員は特別職の国家公務員です。特に階級のない事務職や技官などと、国際法において国の正規軍の兵士(戦闘員)として扱われる自衛官に分類されます。
有事の際に自衛官は命令に従い、武器を取って戦う必要があります。階級を持たない自衛官以外の隊員は、原則として戦闘には参加しません。
自衛官の主な仕事内容
自衛官の主な仕事内容は、所属する組織によって異なります。陸上・海上・航空自衛官、それぞれの仕事内容を簡単に確認しましょう。
陸上自衛官
陸上自衛官は自衛隊の中で最大の組織であり、職種も多く、それぞれ仕事内容も大きく異なります。代表的な職種と仕事内容は次の通りです。
- 普通科:主に地上戦闘を担う職種で、銃火器による火力と柔軟な機動力を有する。陸上自衛隊の中で最も多くの隊員が属しており、作戦行動において近接戦闘を伴う中心的な役割を担う
- 機甲科:戦車部隊と偵察部隊からなり、優れた機動力と装甲防御力により敵を圧倒するとともに、情報収集を行うのが任務
- 野戦特科:大量の火力を有する戦闘部隊で、普通科を支援する役割とともに、火力の集中運用により広域を制圧する役割を担う
- 高射特科:対空戦闘部隊として、領土に侵攻してくる航空機を迎撃するとともに、対空情報の収集を担う職種
- 情報科:情報に関する専門的な知識を持ち、情報資料の収集や地図・航空写真の配布などを通じて、各部隊を後方支援する職種
- 航空科:主にヘリコプターの運用により、航空偵察や部隊の空中機動、物資の輸送などの任務を通じて、地上部隊を支援する
このほかにも、施設科や通信科、武器科、輸送科、衛生科など、さまざまな職種があります。
参考:職種|陸上自衛隊
海上自衛官
海上自衛隊は日本の領海を守る組織で、護衛艦や航空機の運用を担当します。代表的な職種は次の通りです。
- 射撃・水雷:護衛艦および潜水艦で、魚雷やミサイルなどで目標に対する攻撃を行うとともに、ソナーで敵潜水艦の捜索や攻撃・器材の整備などを担う
- 通信:陸上の基地や艦艇、航空機との通信を担当する職種。通信暗号の作成・翻訳、通信機器の整備などの役割も担う
- 気象・海洋:艦船や航空機を安全に運用するため、気象・海洋に関する観測やデータ分析、観測資料の整理などを担う職種
- 航海:航海中の哨戒任務をはじめ、国籍不明の艦船や潜水艦への警戒活動を行う職種。航海に関する業務全般を担い、民間商船を護衛するケースもある
これらに加え、航空管制や航空機の整備、潜水、機雷掃海、地上救難などの職種があります。
航空自衛官
領空に侵入する航空機や、海上から領土に上陸を試みる外敵の侵入を防ぐのが、航空自衛隊の任務です。代表的な職種は次の通りです。
- 飛行:戦闘機や輸送機を操縦し、防空活動や戦闘員・物資の輸送、救難活動などに従事する
- 飛行管理:航空機の運航に必要な情報の収集・分析や、飛行計画の策定などの任務に従事する
- 航空管制:飛行場に離着陸する航空機を誘導する業務と、管制に必要なシステム・機材の整備を担う
- 要撃管制:領空を常時監視するとともに、戦闘機の管制を担う
- 高射:ミサイルなどにより、侵攻してくる航空機を撃破する
ほかにも気象関連の職種や整備、基地施設の維持管理に関わる仕事など、さまざまな職種があります。
自衛官のやりがい
自衛官は、有事や災害の際に国民の生命や財産を守るのが仕事であり、社会に欠かせない存在です。人や社会の役に立てるのに加えて、仲間とともに成長を感じられる仕事でもあります。
人や社会の役に立てる
他国から侵略を受けた場合や災害が発生した場合などに、命を懸けて国民の生命・財産を守るのが自衛官の仕事です。多くの人に感謝されるため、やりがいを感じられます。
国民を守るだけではなく、海外での平和協力活動に出向く場合もあるので、さまざまな国の人から感謝される機会もあるでしょう。平時の際にはあまり目立つことはない面もありますが、いざというときに頼られる仕事です。
仲間と切磋琢磨しながら成長できる
非常事態が発生した際に素早く活動でき、過酷な環境でも任務を遂行できるように、自衛官は日々厳しい訓練を積んでいます。その中で仲間との強い絆が生まれ、切磋琢磨しながら成長できるのも自衛官のやりがいの1つです。
心身ともに鍛えられるので、人間としても成長できるでしょう。自衛官は数ある職種の中でも、特に大きなストレスがかかる場面が多いですが、退職後も生涯続く友情が育まれる場でもあります。
自衛官に向いている人は?
多くの人が自衛官を目指して、自衛隊に入隊しています。その中でも自衛官に向いている人の特徴としては、愛国心があり強い信念や使命感を持っている人や、健康で体力のある人などです。
強い信念や使命感がある
国土や国民を守るという、強い信念や使命感を持てる人が自衛官に向いています。現状において、自衛隊は災害派遣時の任務を担当するケースがほとんどです。しかし、他国からの侵略をはじめ、有事の際には武器を取って戦う必要があります。
国のために命を懸けて戦うという強い信念がなければ、自衛官としての役割を全うすることはできません。
健康で体力がある
平時は過酷な訓練に耐える必要があるので、自衛官は健康で体力がなければ務まりません。職種によって求められる能力や技能は異なりますが、いずれも体力や精神力が求められます。
自衛隊は訓練を通して体力を増強する方針であるため、採用試験には体力測定などはありません。しかし、日々の訓練を問題なくこなすためには、基礎体力が重要です。これから自衛隊の入隊を目指す人は、自分なりに体力づくりをしておきましょう。
学歴別の自衛官になる方法
自衛官になる道は多様ですが、学歴によってルートが少し異なります。学歴別に自衛官を目指す方法を確認しておきましょう。
中学校卒業者
中学校を卒業して自衛官を目指す場合、17歳以下ならば陸上自衛隊高等工科学校に進学する方法があります。自衛隊の教育機関の1つであり、学生でも特別職の国家公務員扱いとなるため、手当を受け取りながら、自衛官として必要な技能を身に付けられます。
ただし、後述する防衛大学校や防衛医科大学校とともに、倍率がかなり高いので、誰でも進学できるわけではない点には注意が必要です。
高校卒業者
高校の卒業者は、自衛隊の幹部候補生を養成する防衛大学校や、防衛医科大学校の医学科や看護学科の受験が可能です。また、自衛官の養成制度である一般曹候補生や、海上自衛隊および航空自衛隊のパイロットを養成する航空学生を目指す道もあります。
一般曹候補生は18歳以上33歳未満が対象で、大学卒や社会人経験者なども入隊できるのが特徴です。航空学生の場合、海上自衛隊は18歳以上23歳未満、航空自衛隊は18歳以上21歳未満が対象とされています。
大学卒業者
大学や大学院の卒業者の場合、自衛隊の幹部候補生採用試験の受験が可能です。一般幹部候補生、歯科幹部候補生、薬剤科幹部候補生の3つのコースが設けられており、採用されると陸・海・空の各自衛隊の曹長に任命されます。
また、大学や大学院で理学や工学を専攻している人に関しては、卒業後に自衛隊に入隊する意思があれば、防衛省から学資金を貸与してもらえる制度もあります。
その他の募集種目
医師や歯科医師の免許取得者は、部隊の医療や予防衛生に関わる医科・歯科幹部自衛官になる道があります。また、特定の学部・学科を卒業後、関連業務の経験がある人には、装備品の研究開発や情報通信などに関わる公募幹部の道も用意されています。
ほかにも海上および航空自衛隊では、必要な国家資格免許を有する人を対象に、即戦力となる人材を採用する制度もあるので、該当する人は応募を検討してもよいでしょう。
さらに、一定の条件に該当すれば、予備自衛官として活躍する方法もあります。予備自衛官について、詳しくは陸上自衛隊のWebサイトを確認してみましょう。
自衛官は多くの現場で活躍する存在
自衛官は国の有事や災害の発生時などに、国民の生命・財産を守るために働く重要な職種です。陸上・海上・航空自衛隊のそれぞれに多くの役割が設けられており、求められる技能が異なります。
学歴によって自衛官になるルートは異なりますが、一般曹候補生は18歳以上33歳未満が対象です。年齢が対象範囲内であれば、特に学歴に関係なく入隊が可能なので、自衛官に興味のある人は公式サイトをチェックしてみるとよいでしょう。
自衛官にはさまざまな職種があり、求人サイトから応募できるものも中にはあります。「スタンバイ」には自衛官の募集案件も掲載されており、転職に関する情報も得られるので、この機会に確認・利用してみましょう。