定年は何歳が多い?現状や継続雇用制度、定年延長のメリットも解説

かつては60歳で定年するのが一般的でしたが、現在はさらに高年齢まで働く人が増えています。定年後にどのような働き方をすればよいのか、分からない人も多いでしょう。定年年齢の現状や定年後の働き方、延長するメリットなどについて解説します。

定年の年齢は何歳が多い?

高齢社員

(出典) pixta.jp

現在、一般的な企業では何歳を定年と定めているのでしょうか。定年の年齢に関する法令と併せて、詳しく解説します。

全企業のうち60歳で定年が66.4%

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(以下、高年齢者雇用安定法)第8条では、定年年齢を60歳以上とすることが定められています。

厚生労働省の高年齢者雇用状況等報告(2023年)によると、報告のあった全企業のうち、66.4%が定年年齢を60歳としていることが分かります。そのほか、年齢別の割合は以下の通りです。

  • 61~64歳:2.7%
  • 65歳:23.5%
  • 66~69歳:1.1%
  • 70歳以上:2.3%

この結果から、多くの企業が60歳または65歳を定年年齢と定めていることが分かります。

一方、2022年の「高年齢者雇用状況等報告」では、報告のあった全企業のうち、定年年齢65歳が22.2%、定年年齢70歳以上は2.1%でした。2つの調査結果を比較すると、近年では定年年齢が徐々に引き上げられる傾向にあることがうかがえます。

出典:令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します|厚生労働省

出典:令和4年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します|厚生労働省

出典:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第8条 | e-Gov法令検索

高年齢者雇用安定法の改正のポイント

高齢の社員

(出典) pixta.jp

高年齢者雇用安定法が一部改正され、2021年4月1日から施行されています。具体的な改正ポイントについて、確認しておきましょう。

高年齢者雇用確保措置の実施

2013年4月1日に施行された改正高年齢者雇用安定法では、65歳未満を定年年齢として定めている企業に対し、従業員が65歳まで安定して働ける措置を義務付けています。企業は以下のいずれかを講じる必要があります。

  • 定年年齢を65歳まで引き上げる
  • 定年制を廃止する
  • 65歳までの継続雇用制度を導入する(希望者全員に適用)

2021年4月1日施行の改正では、70歳までの就業機会確保について企業の努力義務が追加されました。企業は70歳までの定年引き上げ、定年制の廃止、継続雇用制度の導入、業務委託契約の締結、社会貢献事業への従事制度のいずれかを講じるよう努める必要があります。

2025年4月1日からは、2013年の経過措置が終了し、65歳までの継続雇用が完全義務化されます。また、高年齢雇用継続給付の支給率が縮小されます。

出典:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第9条 | e-Gov法令検索

出典:高年齢者雇用安定法改正の概要 PDF2枚目

出典:令和5年「高年齢者雇用状況等報告」の集計結果を公表します|厚生労働省

出典:65歳までの「高年齢者雇用確保措置」 PDF1枚目

高年齢者就業確保措置の努力義務化

定年年齢を65歳以上70歳未満としている企業に対しては、70歳までの従業員の就業機会を確保するために、以下のいずれかを講じることを努力義務としています。

  • 定年年齢を70歳まで引き上げる
  • 定年制を廃止する
  • 70歳までの継続雇用制度を導入する(他の事業主による雇用も含む)
  • 70歳まで継続して業務委託契約を締結する
  • 70歳まで継続して「事業主が実施する社会貢献事業」または「事業主が委託・出資をする団体が行う社会貢献事業」に従事できる

出典:高年齢者雇用安定法改正の概要 PDF2枚目

出典:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第10条の2 | e-Gov法令検索

定年後の継続雇用制度の種類

パソコンに向かうシニア社員

(出典) pixta.jp

改正後の高年齢者雇用安定法で定められている継続雇用制度には、「再雇用制度」と「勤務延長制度」の2種類があります。2つの制度の違いについても、確認しておきましょう。

同じ会社からの雇用「再雇用制度」

再雇用制度とは、いったん定年で退職した後、同じ会社に再び雇用される制度のことです。再雇用された後も同じ職場で働くケースもあれば、グループ会社などでの勤務に変わる場合もあるでしょう。

一度退職の手続きを取ってからの雇用になるため、退職金が支給されるのが一般的ですが、再雇用の期間が終了した時点で支給されるケースもあります。

労働基準法第115条により、退職金の請求権の時効は5年間と定められているので、トラブルを防ぐためにも、支給時期について事前に確認しておくとよいでしょう。

出典:労働基準法 第115条 | e-Gov法令検索

退職せず働き続ける「勤務延長制度」

勤務延長制度とは、定年の年齢になっても退職せずに、同じ職場で継続して働き続ける制度のことをいいます。

延長後の雇用形態や業務内容、役職などの扱いについては企業によって異なりますが、そのまま変わらずに勤務し続けられるケースもあるようです。

退職手続きを取らないため、制度の適用時に退職金が支給されることはないでしょう。延長期間が終了した際の、退職時に支給されます。

定年延長が求められる背景

高齢のビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

継続雇用制度などによって、定年年齢を延長する必要があるのはなぜなのでしょうか。延長が求められる、主な背景を3つ紹介します。

少子高齢化などによる労働力の不足

少子高齢化などによって、労働力が不足しているのが理由の1つです。内閣府による「令和5年版高齢社会白書(全体版)」では、国内の総人口は減少しているものの、65歳以上の人口は増加しており、高齢化率も上昇し続けていると報告されています。

2025年の65歳以上の人口は3,653万人になると見込まれており、2043年には3,953万人に達するというのが、内閣府による推計です。高齢化に伴って起こる労働力の不足を補うためには、シニア層の雇用に力を入れる必要があります。

出典:令和5年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

年金支給開始年齢の引き上げ

老齢厚生年金の支給開始年齢が、60歳から65歳に引き上げられたことが、2つ目の理由です。男性の場合は2013〜2025年度にかけて、女性は2018〜2030年度にかけて段階的に引き上げられます。

例えば、生年月日が1959年4月2日から1961年4月1日までの男性は64歳から支給されますが、1961年4月2日以降の場合の支給開始年齢は65歳です。

年金が支給されるまで働かなければならないとなれば、おのずと定年年齢も引き上がることになります。

出典:50~60代の皆さんへ | いっしょに検証! 公的年金 | 厚生労働省

労働意欲のある高齢者の増加

3つ目の理由は、60歳を過ぎても働き続けたいと考える高齢者が増えていることです。

内閣府の「令和5年版高齢社会白書(全体版)」によれば、現在仕事をしている60歳以上の中で、働けるうちはいつまでも働きたいと考えている人が、36.7%いることが分かりました。

「何歳ごろまで働きたいか」という問いには「70歳またはそれ以上」と答えた人も含めると87.0%になり、高齢になっても働きたいという意欲を持っている人は多いことが見て取れます。

これらの労働意欲の高い高齢者が活躍できる場をつくるためにも、定年の延長が求められていると見てよいでしょう。

出典:令和5年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府

定年を延長するメリットは?

パソコンで作業するシニアスタッフ

(出典) pixta.jp

定年を延長するメリットについても、見ていきましょう。主なメリットを、3つ紹介します。

高齢期の生活資金を確保できる

長く働き続ければ安定した収入を得られるため、高齢期の生活資金を確保できます。働けるうちに安定した収入を得て、生活資金を確保しておけば、病気などの不測の事態にも備えられるでしょう。

また、定年延長によって厚生年金の保険料を支払い続けることで、将来受け取れる老齢厚生年金の額も増えます。

さらに、65歳以降も働き続けて年金の受給開始年齢を繰り下げれば、繰り下げた分だけ額が増えるというメリットもあります。

慣れ親しんだ環境で働ける

慣れ親しんだ環境で働き続けられるのも、定年延長のメリットです。高齢になってから職場を変える場合、新しい仕事・環境になじめないなどのストレスを抱えがちです。

しかし、同じ職場なら生活が大きく変わることもなく、これまでの経験を生かしながら働けるでしょう。

また、高齢になってからの転職活動では、就職先がなかなか決まらないこともよくあります。しかし、定年を延長して働き続ければ、転職活動の必要もありません。

社会とのつながりを保てる

社会とのつながりを維持できるのも、定年を延長して働き続けることのメリットです。定年退職をきっかけに、社会との接点がなくなったり、人間関係が希薄になったりする人もいます。

特に、現役時代は仕事一筋で頑張っていたという人にとっては、生活そのものの意義を見失ってしまう可能性もあるでしょう。

仕事を続けることで社会に参加しているという実感が持てれば、前向きな気持ちになり、精神的にも充実した生活を送れます。

定年を延長するデメリットは?

ミーティング

(出典) pixta.jp

定年を延長して働き続けると、雇用形態や業務内容が変わることもあります。延長することによって起こるデメリットについても、把握しておきましょう。

働き方や業務内容が変わる可能性がある

定年を延長すると、雇用形態が変わる可能性があります。特に、一度退職手続きをして再雇用される場合、正社員から嘱託社員・契約社員へと切り替わることも珍しくありません。

2020年に独立行政法人労働政策研究・研修機構が発表した調査結果によると、60代前半の継続雇用者の雇用形態は、正社員が41.6%、嘱託・契約社員は57.9%でした。

また、雇用形態だけでなく、役職が付かなくなるなど、働き方や業務内容が変わることもあります。それまで部下だった人が上司になるなど、仕事上の関係性が変化する可能性についても考えておくことが必要です。

出典:調査シリーズNo.198『高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)』|労働政策研究・研修機構(JILPT)

収入が下がるケースが多い

一般的に、定年を延長すると収入が下がるといわれています。雇用形態が変わることによって給与形態なども見直され、基本給が下がったり、月給制から時給制に変わったりするためです。

継続雇用制度の利用によって役職が付かなくなった場合は、役職手当も支給されなくなります。また、企業によっては、ボーナスの支給対象から外れることも珍しくありません。

ボーナスがなくなると、年間の収入に大きく影響します。定年後の収入について考えるときは、毎月の給料だけでなく、年収単位で計算しておくことが重要です。

場合によっては年金が減額される

老齢厚生年金を受給しながら働き続ける場合、収入に応じて年金が減額される可能性があるので注意しましょう(在職老齢年金制度)。

2024年度の場合は、「老齢厚生年金の基本月額」と、月給に直近1年間のボーナスを加算して12で割った「総報酬月額相当額」の合計が、50万円を超えると受給額が調整されます。

2024年度の在職老齢年金の計算式は、以下の通りです。

  • 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)÷2

老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が50万円以下の場合は、年金が減額されることはありません。また、老齢基礎年金は調整の対象外です。

出典:在職老齢年金の計算方法|日本年金機構

定年年齢によって異なる失業等給付

ミーティング

(出典) pixta.jp

失業保険の受給対象となるかどうかは、定年退職する年齢によって異なります。ただし、年齢にかかわらず、失業中で就職の意思があることが前提です。定年退職時の失業保険について、詳しく見ていきましょう。

定年退職が65歳に達する前なら受給対象

65歳に達する前に定年退職した場合は、失業保険の受給対象となります。ただし、定年までの2年間に、12カ月以上雇用保険に加入していることが必要です。また、65歳の誕生日の2日前までに退職していないと、対象外になるので注意しましょう。

基本手当日額(1日当たりの給付額)は、退職前の「賃金日額」によって算出されますが、年齢区分ごとに上限額が決まっています。

60~64歳の場合、賃金日額の上限額は1万6,210円、基本手当日額の上限額は7,294円です。給付日数は、雇用保険の被保険者であった期間によって、以下のように定められています。

【60歳以上64歳の給付日数】

  • 1年未満:90日
  • 1年以上5年未満:150日
  • 5年以上10年未満:180日
  • 10年以上20年未満:210日
  • 20年以上:240日

定年退職が65歳以上なら高年齢求職者給付金

定年退職が65歳以上になる場合は、雇用保険の高年齢被保険者となるため、「高年齢求職者給付金」の受給対象となります。

高年齢求職者給付金とは、65歳以上の人が失業した場合に申請すると支給されるものです。給付対象となるには、退職前の1年間に通算して6カ月以上の被保険者期間があることが求められます。

給付される額は、失業保険の基本手当日額に相当する額です。受給期間は、被保険者期間によって次のように定められています。

  • 1年未満:30日分
  • 1年以上:50日分

ただし、受給できる期限は退職日の翌日から1年です。手続きが遅れると、受給期間が短くなる可能性もあります。

出典:離職されたみなさまへ〈高年齢求職者給付金のご案内〉

定年退職後の失業保険の手続き方法

失業保険・高年齢求職者給付金どちらの場合も、申請に必要な書類をそろえてハローワークで求職の申し込みを行います。必要な書類は、以下の通りです。

  • 離職票(会社から発行されるもの)
  • 写真2枚(最近の写真、縦3.0cm×横2.4cm)
  • 本人名義の預金通帳もしくはキャッシュカード
  • 身元(実在)確認書類(マイナンバーカード・免許証・パスポートなど)
  • 個人番号確認書類(マイナンバーカード・通知カードなど)

65歳未満で定年退職した場合は、求職の申し込み後7日間の待期期間が終了すると受給が始まります。

高年齢求職者給付金も待期期間(7日間)の終了後に支給されますが、自己都合で退職した場合は、さらに2カ月間の給付制限期間が経過しないと受給できないので注意しましょう。

出典:ハローワークインターネットサービス - 雇用保険の具体的な手続き

出典:離職されたみなさまへ〈高年齢求職者給付金のご案内〉

定年延長が終了した後の生活は?

高齢者の作業員

(出典) pixta.jp

充実した高齢期を過ごすには、定年退職した後の生活についても考えておきましょう。主な方法を3つ紹介します。

趣味やボランティアを始める

仕事に費やしていた時間を、趣味に使ってみるのもよい方法です。映画や音楽を楽しみながら1人でゆっくり過ごしたり、仲間と旅行・キャンプに出かけてみたりするのもよいでしょう。

資格取得など、新しいことにチャレンジしてみるのもおすすめです。趣味がないという人は、地域のボランティア活動に参加してみるという方法もあります。

ボランティア活動を通じて、社会に貢献できているという充足感を得られるだけでなく、新たな人間関係も築けるでしょう。

新しい会社に再就職する

まだまだ仕事を続けたいという人は、新しい会社に再就職して心機一転頑張るのもよいでしょう。再就職すれば安定した収入を得られるため、高齢期の生活資金を準備しておきたい人にもおすすめです。

高齢期の再就職は難しいイメージがありますが、アルバイトやパートなら、自分の経験を生かした仕事が見つかりやすいでしょう。

再就職先を探すには、ハローワークや求人サイト、シルバー人材センターなどさまざまな方法があります。

求人検索エンジン「スタンバイ」にも、シニア層向けの求人情報が豊富に掲載されています。さまざまな条件で検索できるので、ぜひチェックしてみましょう。

スタンバイ|国内最大級の仕事・求人情報一括検索サイトなら

起業する

思い切って、起業するという方法もあります。現役時代に得たスキルを生かした仕事はもちろん、「自分の店を持つ」など長年の憧れを実現させるのもよいでしょう。

定年後に起業するメリットは、培った経験・人脈が強みになるということです。また、自分が経営者になれば、年齢に関係なく仕事を続けられます。

今は自宅でできる仕事も多いため、通勤などによる体力的な負担もかかりません。やりたい仕事を自分のペースで続けることで、会社員の頃とは違う満足感・やりがいを得られるでしょう。

定年後の新しい働き方を見つけよう

若い会社員と高齢の会社員

(出典) pixta.jp

少子高齢化による労働力の不足や、年金の受給開始年齢の引き上げなどの理由から、定年を延長するケースが増えています。

定年年齢を60歳と定めている企業でも、継続雇用制度の適用などによって、65歳や70歳まで働き続けている人は少なくありません。

定年の延長にはさまざまなメリット・デメリットがあるため、しっかり考慮した上で、自分に合った働き方を見つけることが大切です。