就職・退職・雇用形態の変化などがあると、「社会保険と国民保険のどちらに加入するか」の選択を迫られます。社会保険と国民保険の基本をはじめ、両者の違いや特徴について解説します。比較しながら、どちらが将来的にプラスになるのかチェックしましょう。
社会保険と国民保険の基本
日本は国民皆保険制度という仕組みを取っており、全ての国民が何らかの公的保険に加入しなければなりません。公的保険は「社会保険」と「国民保険」に大別され、それぞれ加入対象者が異なります。公的保険の基本をおさらいしましょう。
※本記事では「国民健康保険」を「国民保険」として解説します。
社会保険の対象者と内容
社会保険とは、組織に属して働く人が加入できる制度の総称です。「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」などが含まれますが、本記事では国民保険と比較するために、健康保険を社会保険と定義して解説します。
社会保険の運営主体は、「健康保険組合」と「全国健康保険協会(以下、協会けんぽ)」です。中小企業であれば、協会けんぽに加入しているケースがほとんどでしょう。
社会保険への加入により、病気やけがの際の医療費負担が軽減されます。保険料は労使折半で、給与から天引きされる仕組みです。
国民保険の対象者と内容
国民保険の対象者は、社会保険に加入していない人です。具体的には、自営業者・フリーランス・アルバイトおよびパートで社会保険の加入条件を満たさない人・無職の人などが該当します。
国民保険は人々の健康と医療を支える制度で、都道府県および市区町村が運営しています。加入者が保険料を出し合うことで成り立っており、病気やけがの際には医療費負担が軽減される仕組みです。
自営業者は、「国民健康保険組合」に加入できる場合があります。業種ごとに組織される組合で、代表的なものには「建設国保」や「医師国保」などが挙げられます。
社会保険と国民保険の制度を比較しよう
社会保険と国民保険では、保険料の計算方法や負担割合、扶養家族の取り扱いに大きな違いがあります。これらの要素は、どちらの保険制度が自分にとって有利かを判断する上で参考になります。
保険料の計算方法と負担割合
社会保険と国民保険は、保険料の計算方法が異なります。
社会保険の場合、毎年4~6月の月額報酬の平均から算出した「標準報酬月額」に、一定の保険料率を掛けて計算するルールです。保険料の支払いは労使折半で、会社と労働者が半分ずつ負担します。例えば、保険料が1万5,000円であれば、労働者の負担額は7,500円です。
国民保険は、世帯単位の前年の所得や資産に基づいて算出されます。全国一律ではなく、運営する自治体によって保険料率が変わるのが特徴です。保険料額の算出方法は複雑なので、詳細が知りたい人は自治体が提供するシミュレーターを活用しましょう。
社会保険との大きな違いは、全額が個人負担である点です。法令で定められた所得を下回る場合は、減額制度が適用されます。
扶養家族の考え方
社会保険と国民保険では、扶養家族の取り扱いが異なります。「扶養」とは、自分で生計が立てられない家族・親族を支えることです。
社会保険の場合、一定の条件を満たす家族は被扶養者として加入でき、別途保険料を支払う必要がありません。
一方、国民保険には扶養の概念がなく、被保険者それぞれに保険料の負担が生じます。例えば、世帯主が会社の社会保険、その家族が国民保険に加入している世帯では、世帯主が国民保険の保険料を納めなければならない点にも注意が必要です。
このような違いから、扶養家族の有無やその人数によって、社会保険と国民保険のどちらが得かが変わってくる可能性があります。
フリーターにとってのメリット・デメリット
アルバイトやパートで生計を立てるフリーターは、社会保険と国民保険のどちらに入るのが得なのでしょうか?それぞれのメリット・デメリットを考えてみましょう。
社会保険の場合
従業員が常時5人以上の事業所は、一部の業種を除いて社会保険の強制適用事業所とされています。一定の条件を満たせば、アルバイト・パートなどの非正規労働者でも社会保険に加入できます。
社会保険に加入するメリットは、保険料が労使折半になることです。人にもよりますが、自分で保険料を全額負担するよりも、安く済むケースが多いでしょう。また、傷病手当金や出産手当金などが支給されるのもメリットです。
デメリットとしては、保険料が給与から天引きされるため、手取りが少なくなることが挙げられます。家族や配偶者の社会保険の扶養内でアルバイト・パートをする場合は、年収を一定額に抑えなければなりません。
国民保険の場合
国民保険の場合、世帯の収入に応じて保険料が決まるため、低所得の場合は負担が軽くなる可能性があるでしょう。納付が困難な場合、自治体の窓口に相談すれば、減額や免除などの軽減措置が受けられます。
デメリットは、保険料を全額自己負担しなければならない点です。医療費の自己負担割合は社会保険と同じですが、傷病手当金や出産手当金などの現金給付がありません。
なお、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、特例的に傷病手当金が支給された時期もあります。
退職後は「任意継続制度」が選択できる
会社を退職した人にとって、任意継続制度は重要な選択肢の1つです。この制度は、退職後も一定期間社会保険を継続できる仕組みで、国民保険への切り替えを考える際に検討したい重要な要素となります。
任意継続制度の仕組み
任意継続制度とは、会社を退職した後も、従来の社会保険を継続できる制度です。対象者は、退職の直前まで2カ月以上継続して社会保険に加入していた人で、加入できる期間は最長2年間です。
任意継続制度の大きなメリットは、従来の給付内容を維持できる点です。扶養家族の保険料も引き続きかからないため、家計負担が軽減されるでしょう。退職の手続きのついでに申請すれば、切り替えの手間もかかりません。
社会保険と国民保険どちらが得かを考える際、任意継続制度の存在は重要な判断材料となるでしょう。
出典:健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
制度を利用するときの注意点
任意継続制度を利用する際は、注意点が2つあります。
1つ目は、保険料が全額自己負担になる点です。保険料は退職時の標準報酬月額を基に計算されるため、人によっては負担が重くなるかもしれません。
2つ目は、加入できる期間が最長2年間と短い点です。手続き期間は、退職日の翌日から20日以内と決まっているので、タイミングを逃さないようにする必要があります。退職手続きと一緒に進めましょう。
なお、退職後1年目の収入が大幅に減る場合、国民保険の方が保険料を抑えられる可能性があります。
手続きの流れと必要書類
協会けんぽを例に、任意継続制度の手続きの流れを確認しましょう。任意継続するに当たり、「資格喪失日の前日において被保険者期間が継続して2カ月以上あること」が前提です。
居住地を管轄している協会けんぽ支部に、「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出しましょう。期限は、退職した日の翌日から20日以内です。被扶養者がいる場合は、被扶養者届の提出も必要です。
手続きの状況にもよりますが、書類を提出した約2~3週間後に保険証が手元に届きます。保険証が届く前に医療機関で診療を受けると、一時的に全額自己負担となりますが、所定の手続きをすれば、保険負担分が返還されます。
出典:任意継続の加入手続きについて | よくあるご質問 | 全国健康保険協会
社会保険と国民保険のどちらかで迷ったときは?
自分の状況に合わせて最適な保険を選ぶことで、長期的な視点での経済的メリットを得られる可能性があります。社会保険と国民保険のどちらを選ぶかで悩んだときは、以下のポイントを考慮しましょう。
希望する働き方で決める
フルタイムでの就業を目指す場合、勤め先の社会保険に加入するのが一般的です。アルバイト・パートでも以下の要件を満たす人は社会保険に加入できます。
- 従業員数が51人以上の勤め先で働いている
- 週の所定労働時間が20時間以上である
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上である
- 2カ月を超える雇用の見込みがある
- 学生以外
家族や配偶者の扶養に入りたい人は、月収を約8.8万円未満に抑え、週の労働時間を20時間未満になるように調整します。
年収が106万円を超えても、他の条件を満たさなければ社会保険に加入する必要はありません。しかし、年収が130万円を超えた場合は、扶養から外れてしまう点に注意が必要です。将来の働き方や収入の見通しを考慮し、自分に合った保険を選択しましょう。
出典:従業員のみなさま | 社会保険の加入条件やメリットについて|厚生労働省|社会保険適用拡大 特設サイト
老後資金をシミュレーションする
社会保険と国民保険のどちらが得かを判断する際、将来もらえる年金も考慮しましょう。勤め先の健康保険に加入している人は、厚生年金にも加入するのが基本です。国民年金と厚生年金の2階建てになるため、将来の年金受給額が多くなります。
国民年金のみの場合、将来は老齢基礎年金のみの受給となり、人によっては老後の生活に余裕がなくなるかもしれません。年金シミュレーターなどのツールを活用し、現在の収入から老後資金をシミュレーションしてみましょう。
保険の切り替え方法をチェック
社会保険と国民保険の切り替えは、就職や退職といったライフステージの変化に伴って発生します。それぞれの保険制度には固有の手続きがあり、適切に対応することが重要です。
国民保険から社会保険
社会保険の適用事業所に就職・転職した際は、国民保険から社会保険へ切り替える必要があります。手続きは主に会社側が行いますが、国民保険の脱退手続きについては、個人で行わなければなりません。
脱退手続きの期限は、事由発生後から14日以内です。必要書類を準備した上で、市区町村の役所・役場の窓口で所定の手続きを行いましょう。
会社側は、日本年金機構へ「被保険者資格取得届」を提出します。切り替え手続きが完了すると、新しい健康保険証が発行され、保険料の支払い方法も給与からの天引きに変わります。
出典:就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き|日本年金機構
社会保険から国民保険
社会保険から国民保険への切り替えは、社会保険の適用事業所に勤めていた人が退職して無職になった際や、個人事業主になった際などに発生します。
会社側は、日本年金機構へ「健康保険と厚生年金の資格喪失届」を提出します。対象者は、自分で市区町村の役所・役場に出向き、国民保険の加入手続きを行わなければなりません。手続き期限は、事由発生後から14日以内です。
切り替え後は、保険料の支払い方法が変わります。世帯単位で計算され、所得や資産に応じて保険料が決まります。支払いは口座振替や納付書による個別納付となるため、あらかじめ確認しておきましょう。
出典:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構
保険の仕組みや違いを理解しよう
社会保険と国民保険は、加入対象者や保険料に違いがあります。それぞれの制度を比較し、メリット・デメリットを理解することが重要です。
働き方やライフスタイルにもよりますが、社会保険に加入した方がより手厚い保障を受けられる可能性が高いでしょう。長期的な視点で自分に合った保険を選択することが、将来の安心につながります。
「社会保険に加入したい」「扶養内で働きたい」という人は、仕事・求人情報一括検索サイト「スタンバイ」で、自分に合う仕事がないかをチェックしてみましょう。