施設長は介護施設で働く人にとって、目指したいポジションの1つといえます。実際の業務内容や、施設ごとの要件を押さえて、施設長になる準備を整えましょう。年収の目安や、その後のキャリアについても併せて解説します。
施設長の役割と主な業務
施設長とは、介護施設の管理・運営責任者のことです。介護施設では、常勤で1名を配置することが義務となっています。施設長が担う役割と、具体的な業務内容を見ていきましょう。
施設長の定義
施設長はその名の通り、介護施設の長として全体を管理する人を指します。小規模な施設では、事業主や介護職員が兼務するケースもあります。施設によって「ホーム長」「センター長」などとも呼ばれますが、意味は同じです。
担う業務は、利用者の管理・職員の管理・運営の管理・行政との調整など多岐にわたります。民間施設の場合は、利益を上げるための工夫も業務範囲に含まれます。
利用者と職員の管理
利用者や職員といった、施設にかかわる人の管理は、施設長にとって重要な業務です。利用者には、定期面談などで個々の状態を把握し、サービスの質向上に反映させます。
職員に対しては、業務量の適切な分配や人間関係の調整、休暇取得状況の確認などを通じて、働きやすい環境づくりに努めます。
職員の新規採用や教育、適切な人員配置も重要です。時には自ら介護業務に携わり、現場をサポートすることで、チーム全体の士気向上と質の高いサービス提供を実現します。
施設の運営と収支管理
施設を継続的に運営していくためには、収支をしっかりと管理しなくてはなりません。介護報酬や利用料などの収入と、人件費や光熱費などの支出を把握し、経営を効率化する必要があります。
施設長は収支状況を常に分析し、必要に応じて経営改善策を講じます。適切な人員配置や業務効率化を通じて、コスト削減と同時にサービス品質の維持・向上を図ることも重要です。
設備投資や修繕計画の策定、新規事業の検討など、中長期的な視点での経営判断を求められることもあります。
施設長になるための資格要件
施設長になるためには、施設の種類によって、異なる資格要件を満たす必要があります。各施設の特性を理解し、必要な資格を取得したり、実務経験を積んだりすることで、道が開かれるでしょう。主要な介護施設における資格要件を紹介します。
特別養護老人ホーム
特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設)の施設長になるには、以下のうち、いずれかに該当する必要があります。
- 社会福祉主事の要件を満たす者
- 社会福祉事業に2年以上従事した者
- 社会福祉施設長資格認定講習を受講した者
社会福祉事業には、グループホームやデイサービス、児童養護施設なども含まれます。
社会福祉施設長資格認定講習とは、「全国社会福祉協議会 中央福祉学院」が実施するものです。福祉の基礎知識に加え、経営や人事・労務、財務などの管理について学びます。
出典:施設長の資格要件
介護老人保健施設
介護老人保健施設は、医療ケアやリハビリが必要な人を受け入れる施設です。医療面での管理を担保するため、施設長には原則として医師資格が必要です。
ただし、都道府県知事の承認を受けることで、医師以外の人も就任できる可能性があります。
承認基準は自治体によって異なりますが、一般的には介護老人保健施設において、1〜2年以上の実務経験が求められます。経歴や経験を総合的に評価し、施設運営に必要な能力があるかどうかで判断されると考えてよいでしょう。
グループホームと他の介護施設
認知症の人を対象とするグループホームの施設長になるには、3年以上の認知症介護経験と、各都道府県が実施する「認知症対応型サービス事業者管理研修」の受講が必要です。
なお、デイサービスや有料老人ホームなどでは、特に資格要件はありません。一定の現場経験や、福祉関連の資格・知識を持つ人が抜擢されて施設長となるケースが多いでしょう。
施設長のやりがいと大変な部分
施設長の仕事は責任が大きい分、やりがいもあります。一方、管理職としてさまざまなストレスにさらされることも考えられます。それぞれ、具体的に見ていきましょう。
施設長の仕事のやりがい
利用者や家族から、笑顔や感謝の言葉を直接受け取れることは、介護施設の職員にとって、大きな喜びです。自らの理念に基づいて施設を運営し、職員と共に理想の介護環境を作り上げていく施設長は、さらに充実感を得られるでしょう。
施設の収益にかかわる立場として、地域の医療機関や他の事業所との連携を深めたり、新規利用者の獲得に向けて積極的に動いたりすることで、経営手腕を発揮できる点も魅力です。
施設長が直面する課題
介護の仕事には、さまざまな課題やストレス要因が存在します。施設長は、利用者や家族からの苦情だけでなく、職員同士のトラブルや予算不足などの問題にも対応する必要があります。
介護経験が豊富なだけでは、人事・労務や経営上の課題を解決するのは容易ではありません。このため慣れないうちは、ストレスを感じるシーンが多いといえるでしょう。
施設長が元気なら、より良い施設運営につながり、結果的に入居者の満足度も上がります。無理をせず、適度な休息時間を設けたり、健康的な生活習慣を維持したりして、自身の心身の健康を保つことが重要です。
施設長のキャリアパスと年収
介護業界で働く人にとって、施設長はキャリアの通過点の1つです。施設長になるまでのステップはもちろん、なった後のことも視野にいれておくとよいでしょう。
施設長のキャリアパスと年収について詳しく解説します。
施設長への一般的なキャリアステップ
施設長になる道は、主に2つあります。よくあるのが、職場から声を掛けられるケースです。介護職員として実務経験を積み、資格取得やリーダー職などを経て施設長に昇進します。
もう1つは、施設長として中途採用される道です。実務経験や資格がなくても、ビジネス上必要なマネジメントスキルがあれば、異業種から採用されるケースもあります。
ただしこの場合は、現場を知るための実務に従事したり、介護関連の資格を取ったりすることが推奨されます。
施設長の平均年収
公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、施設長の平均年収は、約527万円です。
年収は施設の形態によって差があります。介護老人保健施設は医師が務めることが多いため、平均年収も1,200万円以上と高額です。
医師以外が施設長になれる施設の中では、特別養護老人ホームが最も高く、約657万円となっています。
勤続年数や資格の有無も、年収に影響する要因です。20年以上の施設長は約661万円、社会福祉士は約577万円と、平均よりも高いことがわかります。
出典:令和4年度 介護労働実態調査|公益財団法人 介護労働安定センター
施設長からのキャリアアップの可能性
施設長としてのキャリアを積んだ後も、さらなる成長の機会があります。例えば、複数の施設を統括するエリアマネージャーや、法人全体の運営を担う本部長へのステップアップが考えられます。
また、コンサルタントとして独立し、他の施設の運営をサポートすることも可能です。豊富な経験と専門知識を生かし、さまざまな施設の課題解決に貢献できます。
介護業界の政策立案にかかわる行政職や、次世代の人材を育成する教育者としての道も開かれています。
キャリアアップを実現するためには、経営学や財務管理の知識を深めるとともに、リーダーシップスキルの向上が不可欠です。継続的な学習と自己研鑽が、新たな可能性を切り開く鍵となるでしょう。
施設長として新たなキャリアを踏み出そう
施設長は、介護施設の運営において中心的な役割を担う重職です。業務は多岐にわたり、施設の管理運営から利用者のケア、職員の育成まで幅広い責任を負います。
施設長になる要件は、施設の種類によって異なります。異業種からの転職も可能ですが、いずれは実務経験や資格取得が必須となるでしょう。
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