研ぎ師は、刃物を研ぐことをなりわいとする職人です。日本刀・包丁・はさみなど、何を研ぐかによって求められる技術が変わります。「日本刀の研ぎ師」と「包丁・はさみの研ぎ師」の仕事内容や作業工程、ゼロから目指す方法を解説します。
研ぎ師とは何をする人?
古来、日本には「研ぎ文化」があります。「研ぎ師」は、物を研ぐことをなりわいとする職人で、「研ぎ物師」とも呼ばれています。現代における研ぎ師は、どのような仕事をしているのでしょうか?
刃物を専門的に研ぐ職人
研ぎ師とは、刃物を専門的に研ぐ職人のことです。漆器の世界では、漆器の表面を研磨材で滑らかにする職人を指しますが、本記事では「刃物の研ぎ師」について取り上げます。
日本には、刃物を研ぐ文化が存在することを知っている人も多いでしょう。「研ぐ」とは、砥石(といし)や皮などで表面を磨き、切れ味を良くすることです。日本刀・包丁・はさみ・鉋(かんな)など、研ぎの対象は多岐にわたります。
料理人の場合、自分で包丁を研ぐのは当たり前と思われがちですが、研ぎ方で切れ味や長持ちの具合が大きく変わるため、研ぎのプロに依頼する人も少なくありません。
研ぎ師は大きく分けて2種類
研ぎ師というと、包丁を研ぐ職人を思い浮かべる人が多いかもしれません。現代における研ぎ師は、以下のいずれかを指すのが一般的です。
- 日本刀を研ぐ職人
- 包丁・はさみなどを研ぐ職人
日本刀の所持は銃刀法によって規制されているため、日本刀を研ぐ需要はそれほど多くはありません。日本刀の研ぎ師は全国的にも少数で、包丁・はさみなどを研ぐ職人が大部分を占めています。
研ぎの対象によって、求められる知識や技術が異なります。これから研ぎ師を目指す人は、職人としての方向性を決める必要があるでしょう。
日本刀専門の研ぎ師の仕事
日本刀専門の研ぎ師には、研ぎの技術だけでなく、きめ細かな美的感覚が欠かせません。仕事内容や刃の研磨工程、日本を代表する研ぎ師について解説します。
切れ味と美しさの両方を追求
研ぎ師の主な仕事は、美術品として保管されている日本刀を磨くことです。日本刀が実際に使われていた時代は、切れ味を良くすることが主な目的でしたが、美術品としての価値が高まるにつれ、切れ味と美しさの両方を追求するようになりました。
現代において、日本刀はあくまでも観賞用です。鉄でできた日本刀は手入れを怠ると腐食が進むため、状態の保護を目的に研磨を行います。
近年は「日本刀の鑑定書」を取得するために、研ぎ師を頼る人も増えています。刃こぼれやさびは鑑定結果に影響を与えるため、プロによる適切な手入れが必要です。
刀の研磨工程
日本刀は持ち手(柄)を除く刀身全体を研磨します。刃文(はもん)・地(じ)・帽子(ぼうし)など、部位によって磨き方を変え、本来の美しさを引き出します。古く錆びついた刀剣の場合、研磨には数週間から数カ月かかることもあります。
研磨工程は、「下地研ぎ」と「仕上げ研ぎ」の2種類に大別されます。下地研ぎとは、刀の表面を整える基本の作業で、目の粗さが異なる複数の砥石を使用します。
仕上げ研ぎは、刃文を際立たせたり光沢を出したりして、刃を美しくするための作業です。刃艶(はづや)・地艶(じづや)・拭い(ぬぐい)など、いくつもの工程によって成り立っています。
日本を代表する研ぎ師
日本を代表する研ぎ師として有名なのが、人間国宝(重要無形文化財保持者)に指定された「本阿弥光洲(ほんあみこうしゅう)」です。
本阿弥家は、足利尊氏の刀剣奉行を務めた「本阿弥妙本(ほんあみみょうほん)」を始祖とする家系で、日本刀の鑑定・研磨・浄拭(じょうしょく)を家業としてきました。
鑑定の後に本阿弥家から発行される証書折紙は、鑑定の精度が高い証明であり、刀の価値を高めたといわれます。
本阿弥光洲は、人間国宝の「本阿弥日洲(ほんあみにっしゅう)」を父とし、光意系本阿弥の18代目を継いでいます。
包丁・はさみの研ぎ師の仕事
包丁やはさみは暮らしに欠かせない道具です。研ぎ師の需要も安定しており、独立・開業する人もいます。包丁・はさみの研ぎ師の仕事内容を詳しく見ていきましょう。
使い手の好みや癖を意識
普段の生活で使う包丁やはさみは、切れ味が良くなければ使いものになりません。これらは使い続けることで刃先が消耗し、鋭利さがなくなっていきます。
研ぎ師の役目は切れ味を良くすることですが、使い手の好みや癖を意識することも欠かせません。例えば包丁の場合、使い手がプロか素人か、または右利きか左利きかで研ぎ具合を変える必要があるでしょう。
はさみには理美容師用やトリマー用などがあるため、依頼人の利用シーンを思い浮かべながら作業をします。
包丁を研ぐ工程
研ぎ師は、1本の包丁を研ぐのにいくつもの工程を重ねます。まず、研ぎの作業に入る前に、包丁のひずみや反りを直さなければなりません。ハンマーで力任せにたたくと破損する恐れがあるため、材質や構造を確認しながら丁寧に作業を進めます。
ひずみや反りを直した後は、「荒研ぎ」と呼ばれる最初の研ぎに入ります。回転水砥石を使用して、さびの除去や欠けの補修を行った後、「本研ぎ」で各部分を研ぎ上げていく流れです。
研ぎ上げの過程では、布に細かい砥石を貼り付けた「羽布(ばふ)」を使用します。粗さの違う羽布で研ぎ目を細かくしていき、刃に光沢を出す「仕上げ」を行います。
はさみを研ぐ工程
はさみの研ぎは高度な技術を必要とします。知識の浅い人やセミプロが行うと、商売道具が使いものにならなくなる可能性があるでしょう。
まずは、はさみの状態を確認し、ねじを外して刃を分解します。刃こぼれがなければ回転水砥石は使用せず、目の細かいペーパーなどで最小限の研ぎを行うのが一般的です。
刃の裏の磨き処理(裏研ぎ/裏スキ)を行った後、羽布で研ぎ目を細かくしていき、最後の仕上げに入ります。ひずみを直して調整し、切れ味に問題がなければ完了です。
未経験から研ぎ師を目指すには?
会社勤めの経験しかない人にとって、職人への転身は、ハードルが高いと思うかもしれません。未経験から研ぎ師になるには、どのようなプロセスをたどればよいのでしょうか?
一人前になるには修行が必要
研ぎ師になるのに学歴の制限はなく、必要な資格もありません。未経験の場合、師匠に弟子入りするか、専門学校や研磨教室などに通って技術を磨くのが最初のステップです。
日本刀の研ぎ師には、日本刀の価値を正しく見極める審美眼が欠かせません。研磨の技術を磨きながら、大学や専門学校などで学ぶような美術に関する知識を身に付けるのが望ましいでしょう。
包丁・はさみの研ぎ師を目指す人は、現役の研ぎ師が開催する講習に参加してみることをおすすめします。
未経験OKの求人を探す方法も
刃物製造を行っている会社や個人事業主の中には、研ぎ師の助手を募集しているところがあります。「未経験OK」と書かれていれば、見習いとして簡単な作業からスタートし、徐々にステップアップしていくのが一般的です。
長期勤続によるキャリア形成で年齢制限を設けているケースがあるため、募集要項をよくチェックした上で応募する必要があります。
一人前の研ぎ師になるには、長い時間がかかります。途中で投げ出さず、コツコツと地道に腕を磨いていける人が向いているでしょう。
研ぎ師の世界へ飛び込もう
研ぎ師には、「日本刀の研ぎ師」と「包丁・はさみの研ぎ師」の2種類があります。研ぎの対象によって、必要な知識や技術が変わってくるため、どちらの研ぎ師を目指すのかを明確にすることが重要です。
職人の世界は厳しく、一人前になるには長い年月がかかります。一流の研ぎ師を目指す覚悟がある人は、師匠に弟子入りするか、見習いを募集している求人を探してみてはいかがでしょうか?
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