近年では働き方改革が推進されており、「フレックスタイム制」を導入する企業が増えてきています。フレックスタイム制とはどのような制度のことなのでしょうか?内容やメリット・デメリットのほか、フレックスタイム制の求人が多い業種・職種の特徴も紹介します。
フレックスタイム制とは
フレックスタイム制は、近年になって導入する企業が徐々に増えてきている制度です。「自由な時間に働ける」というイメージが強いですが、実際のところはどうなのでしょうか?
フレックスタイム制の内容について、詳細を見ていきましょう。
出社・退社時間を従業員が決められる
フレックスタイム制とは、労働時間を月単位で調整できる制度のことです。
通常の固定時間労働制(定時勤務)では、従業員は毎日、就業規則で定められた時間に出勤・退勤しなければなりません。時間を守らない場合は、遅刻・早退の扱いを受けるでしょう。
しかし、フレックスタイム制が導入されている職場の従業員は、あらかじめ定められた総労働時間の範囲内で、出社・退社時間を月単位で任意に決めることができます。
個人の裁量で日々の労働時間を調整できるようにすることで、従業員の多様な働き方の実現を後押しするための制度といえるでしょう。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
コアタイムとフレキシブルタイムがある
フレックスタイム制は、出社・退社時間が完全に従業員の自由に任されているとは限りません。なぜなら「コアタイム」というものが設定されているためです。
コアタイムとは、従業員が必ず勤務しなければならない時間帯を指します。例えば、11〜16時までがコアタイムに定められている場合、この時間帯は必ず会社に出勤している必要があります。
一方、勤務するかしないかの判断が従業員の意思に任されている時間帯を、「フレキシブルタイム」といいます。
スーパーフレックス制度はコアタイムがない
フレックスタイム制を取り入れている会社の中には、コアタイムを設定せず、完全に従業員の裁量に任せているところもあります。
必ず勤務している必要がある時間帯が存在しないため、早朝に出勤して昼過ぎに退勤するといった働き方も可能でしょう。このようにコアタイムの定めのないフレックスタイム制を、「スーパーフレックス制度」と呼びます。
スーパーフレックス制度では、所定の期間に対して定められた総労働時間さえ満たしていればよいため、休日も自分で調整できるのです。コアタイムがあるフレックスタイム制以上に、柔軟性が高い制度といえるでしょう。
裁量労働制とは異なる
フレックスタイム制やスーパーフレックス制度に類似する働き方に、「裁量労働制」があります。
いずれも出社・退社時間や、1日の労働時間を自由に決められる点においてはよく似ていますが、制度の詳細は大きく異なっているので注意が必要です。
フレックスタイム制では、従業員の労働時間は『実働時間』でカウントされます。一方の裁量労働制では、実働が何時間であるかにかかわらず、あらかじめ定められた労働時間を働いたものとみなされ賃金が支払われます。
フレックスタイム制は、どのような職種の労働者にも適用可能です。しかし裁量労働制は、フレックスタイム制よりも導入条件が厳しく、適用できる職種にも制限があります。
フレックスタイム制で働くメリット
働き方改革の一環として導入されるフレックスタイム制には、さまざまなメリットがあります。フレックスタイム制で働く利点を見ていきましょう。
ワーク・ライフ・バランスを調整しやすい
フレックスタイム制で働くメリットの1つは、ワーク・ライフ・バランスを向上させやすいところでしょう。
例えば、小さな子どものいる家庭を持つ従業員であれば、「保育園のお迎えの時間に間に合うように早めに退勤する」といった労働時間の調整ができます。「早朝にジムに寄って、出勤を昼前にする」といった融通も利かせられるでしょう。
より自分のライフスタイルに合った働き方を実現しやすいところが、フレックスタイム制の持つ魅力です。
通勤ラッシュを避けられる
都市部の労働者の大多数が頭を悩ませるのが、満員電車で通勤をするストレスではないでしょうか?
フレックスタイム制が導入されていれば、フレキシブルタイムの範囲内で出社・退社時間を調整し、早朝・夕方の通勤ラッシュの時間帯を避けることが可能です。
通勤ラッシュを避けるために地方に移住する人もいるほどに、毎日のように満員電車の中で押し潰されながら通勤することには、強い精神的苦痛が伴います。これを回避できるのは、非常に大きなメリットといえるでしょう。
フレックスタイム制で働くデメリット
従業員にとって都合がよさそうなフレックスタイム制ですが、実はデメリットも存在します。フレックスタイム制が抱える弱点についても知っておきましょう。
上司・同僚とコミュニケーションが取りづらい
フレックスタイム制を導入している職場では、従業員が各々の裁量で勤務時間を決められます。そのため、定時勤務の職場のように「会社に行きさえすれば、上司や同僚と顔を合わせられる」ということがありません。
単純な情報共有であれば、メールやチャットで事足ります。しかし、新人教育やチームメンバーとのミーティングでは、対面でのコミュニケーションの方が有利に働く場合も少なくないでしょう。
仕事仲間と緊密なコミュニケーションが取りにくい点は、フレックスタイム制で働く上でのデメリットの1つです。
自己管理能力を問われる
フレックスタイム制が導入されているからといって、時間にルーズになってよいというわけではありません。プライベートを優先しすぎて、仕事の進捗に悪影響が出るといった事態はNGです。
上司などの監督者の目が届きにくい環境の中で、しっかりと成果を上げていくためには、高い自己管理能力が要求されるでしょう。
スケジュール管理が苦手な人の場合、フレックスタイム制で働くことにより、仕事のパフォーマンスが下がってしまう可能性もあります。そうなれば、会社からの評価も当然下がってしまうでしょう。
強制力のある固定時間労働でないという環境は、人によってはデメリットにもなり得ます。
フレックスタイム制の求人が多い企業・職種の特徴
「どうせ転職するなら、フレックスタイム制の職場に行きたい」と思う人も多いのではないでしょうか?最後に、フレックスタイム制の求人が多い企業・職種の特徴を紹介します。
企業規模が大きい
厚生労働省の調査によると、日本において変形労働時間制を採用している企業の割合は59.6%で、このうち6.5%がフレックスタイム制を導入しています。
企業規模別に見ると「1000 人以上が76.4%」「300~999人が69.5%」「100~299人が63.1%」「30~99人が56.9%」となっています。企業規模が大きいほど、フレックスタイム制を含む変形労働時間制の導入率が高いことが分かるでしょう。
この理由としては、大企業ほど企業としての体力があり、働き方改革を推進する余裕があることが考えられます。
またフレックスタイム制は、必ずしも会社全体に適用しなければならないわけではありません。一部の適合する部署にのみ導入するとなったとき、部署数の多い大企業ほど導入率が上がりやすいという事情もあるのでしょう。
個人のペースで遂行しやすい仕事である
フレックスタイム制は、労働者本人の都合に合わせた働き方を実現しやすい制度です。逆にいえば、他人の都合に合わせることには不向きな制度といえます。
プログラマー・デザイナーといった技術職など、個人の作業のみで業務の大半が完結する職種では、フレックスタイム制が採用されやすいでしょう。
反対に接客業・サービス業・営業職など、対面でのコミュニケーションが必須となる業種・職種では、フレックスタイム制の導入は難しいといえます。
フレックスタイム制の求人を探す際は、各々の業種・職種の特性にも目を向ける必要があるでしょう。
フレックスタイム制を正しく理解しよう
「好きな時間に働ける」と考えられがちなフレックスタイム制ですが、コアタイムの設定など、実際には多少の制限がある場合も珍しくありません。裁量労働制とも似て非なる制度ですので、正しく理解しておくことが大切です。
フレックスタイム制には、メリット・デメリットの両面があります。導入されやすい仕事・されにくい仕事にも分かれているので、フレックスタイム制の職場への転職を目指す場合、導入されやすい仕事が自分に向いているか検討することも大切です。
起業コンサルタント、税理士、行政書士、特定社労士。年間約300件の起業無料相談受託。起業準備から経営までまるごと支援。税理士法人V-Spirits (経済産業省経営革新等認定支援機関) グループ代表。
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著書:
0からわかる! 起業超入門
相談件数No.1のプロが教える失敗しない起業55の法則
一日も早く起業したい人が「やっておくべきこと・知っておくべきこと」