給与明細書は、月々のお金の出入りを把握するのに役立ちます。給与明細書の役割や見方、よくある質問を解説します。今までなんとなく給与明細書を見ていた人は、この機会にしっかりと理解し、毎月のお金の管理に役立てましょう。
この記事のポイント
- 給与明細書の支給項目の見方
- 基本給とは、毎月固定で支払われる給与のことです。基本給には、残業手当・通勤手当などの各種手当や、インセンティブ・ボーナスは含まれません。残業代やボーナスは基本給をベースに計算されるため、基本給が上がればこれらの手当の金額もアップします。
- 給与明細書の控除項目の見方
- 控除項目とは、給与から天引きされている項目です。所得税は自分の所得に対して課される税金で、見込みで計算されています。住民税は前年度の所得に対して課税されるため、新卒1年目は発生しない場合が多いでしょう。保険料とは「健康保険料」「厚生年金保険料」「雇用保険料」「介護保険料」があり、これらをまとめて「社会保険料」といいます。
- 課税対象と非課税対象の違いは?
- 会社から支給される手当のほとんどが課税対象です。非課税となる手当は「通勤手当」「出張旅費」が代表的ですが、「非課税になる上限の金額」が決まっているため、超過分は課税対象となります。
給与明細書の役割とは?
給与明細書は、給与の振込額を知らせる以外にもさまざまな役割を持っています。まずは、給与明細書の役割を解説します。
給与・税金・勤怠情報などが記載された書類
給与明細書とは、当月の給与の金額・控除されている各種税金・勤怠情報などの詳細が記載された書類です。給与明細書は、従業員と経営者双方にとって重要な書類といえます。
従業員にとっては、給与明細書を見ることで雇用契約書通りに給与が支払われているか、税金が正しく計算されているかを確認できることがメリットです。
経営者側は、給与・税金の計算が正しく行われていることを従業員に証明できます。給与明細書は、従業員と経営者の信頼関係を支える役割を持っています。
企業には発行義務がある
給与明細書は重要な書類のため、企業には発行の義務があります。所得税法第231条で決められているルールです。
給与明細書を渡す対象は、正社員・非正規雇用問わず給与が発生した従業員全員です。渡すタイミングは、給与の支払いの際と定められています。
なお、派遣労働者の場合は、派遣元に発行の義務があります。給与を受け取る人の承諾があれば、電子ファイルで交付することも可能です。
万が一給与明細書を受け取っていない場合は請求ができるので、しっかりと受け取りましょう。
給与明細書の支給項目の見方
給与明細書の具体的な見方を解説します。まずは、支給項目について見ていきましょう。
基本給について
給与明細書には大体「基本給」と書かれているので、見方で迷うことはないでしょう。しかし、基本給が何かを知っておくことは重要です。
基本給とは、毎月固定で支払われる給与のことです。基本給には、残業手当・通勤手当などの各種手当や、インセンティブ・ボーナスは含まれません。そのため、給与改定がされない限りは毎月同じ金額が支給されます。
なお、収入を効果的にアップさせたい人は、基本給を上げることに注力するのがポイントです。残業代・ボーナスは基本給をベースに計算されるため、基本給が上がればこれらの手当の金額もアップします。
残業代について
残業代とは、所定労働時間を超えて働いた時間に対して支払われる手当のことです。労働基準法第37条では、「1日8時間・週40時間を超えた場合には、残業手当を支給しなければならない」と決められています。
残業代の計算式は、以下の通りです。
- 時給換算した基本給×1.25×残業時間
残業にはいくつか種類があり、例えば22時から翌朝5時までの間に稼働した場合は深夜労働に当たり、同じく「25%」増しで残業代が支払われます。
残業代と深夜割増賃金は重複して支払われるため、深夜帯に時間外労働をした分の残業代は、基本給を「50%」増しした金額です。
各種手当について
各種手当は企業によって異なりますが、代表的なものには以下が挙げられます。
- 役職手当
- 通勤手当
- 住宅手当
給与明細書には、手当ごとに項目と金額が書かれているので、何の手当をいくらもらっているのかがわかります。
手当の大半は所得の一部に含まれるため、課税対象です。しかし、中には通勤手当のように、一定金額以下は非課税となるものもあります。
給与明細書の控除項目の見方
控除項目とは、いわゆる給与から天引きされている項目のことです。控除項目の種類を理解することで、どの費用がなぜ天引きされているのかがわかります。
所得税について
所得税とは、自分の所得に対して課される税金です。会社員の場合は、源泉徴収という形で毎月の給与から天引きされ、会社が代わりに納めてくれます。
しかし、源泉徴収で天引きされる所得税は、見込みで計算しているため正確な金額ではありません。
毎月12月に年間の正確な所得税を算出し、源泉徴収額との差分を埋め合わせるのが、年末調整です。
年末調整でお金が追加で振り込まれるのは、自分が納めすぎた税金が戻ってきたということで、逆に給与から引かれている場合は不足分の税金が徴収されているということです。
住民税について
住民税は、自分が住んでいる自治体に対して納める税金です。所得税と同じく天引きされる税金ですが、課税方法が異なります。
住民税は、前年度の所得に対して課税されます。つまり、今年払っている住民税は、昨年の所得に対してかかっている税金なのです。所得税と異なり、住民税は確定した金額を支払うので、年末調整は不要です。
多くの場合、新卒1年目の人は住民税が発生しません。「新卒2年目は手取りが減る」といわれているのは、2年目から住民税の課税が始まるためです。
転職者の場合は、前年度分の所得があることがほとんどなので、通常通り天引きされます。
保険料について
天引きされるもう1つの項目は、各種保険料です。会社員の給与から天引きされる保険料は以下の通りで、これらをまとめて「社会保険料」と呼びます。
- 健康保険料
- 厚生年金保険料
- 雇用保険料
- 介護保険料(40歳から)
会社員の場合、国民健康保険ではなく、会社が加入している健康保険に加入するケースがほとんどです。そのため、保険料が給与から天引きされています。
厚生年金は、会社員が加入できる年金制度のことで、65歳以降になると国民年金と上乗せで厚生年金を受給できます。
雇用保険は、正社員・非正規雇用問わず、条件を満たす従業員全員が必ず加入する保険のことで、失業手当が補償の代表例です。
介護保険は、高齢者の介護費用を社会全体で支えるための費用で、40〜65歳になるまで納めます。
給与明細書に関するよくある疑問
最後に、給与明細書にまつわる疑問に回答します。以下の内容をチェックし、給与明細書についての理解を深めましょう。
課税対象と非課税対象の違いは?
会社から支給される手当は、ほとんどが課税対象です。しかし、中には非課税対象のものもあります。その代表例が、通勤手当・出張旅費です。
ただし、非課税対象のどの項目も「非課税になる上限の金額」が決まっています。一般的には、通常必要と思われる金額までが非課税の対象です。それを超えた分は課税対象となるので、覚えておきましょう。
各種税金の金額が正しいか自分で計算するときには、この違いを理解していないと正確に計算ができません。
給与明細書の再発行は可能?
ほとんどの場合、給与明細書を紛失したら再発行をしてくれます。Webサービスで給与明細書を発行している場合は、過去分をさかのぼって確認できるので安心です。
ただし注意するべきことは、会社には給与明細書を保管する義務がないことです。給与明細書の発行は義務付けられていますが、その後の処置に関しては定められていません。
再発行を受け付けてもらえなかったからといって違法ではないので、留意しておく必要があります。
書類が多くなりすぎるのを防ぐために、一定期間後には処分されてしまうことも考えられるので、必要な場合は早めに申し出るのがよいでしょう。
給与明細書は毎月確認しよう
給与明細書は、ただ支給額を確認するためだけの書類ではありません。給与・税金が正しく支払われているかを確認し、会社との信頼関係を維持する役割を持ちます。
給与明細書には、支給されるものと控除されるものが項目ごとに書かれています。各項目の意味と計算方法を知っておくことで、金額が正しいかをチェックできます。
企業には給与明細書を発行する義務はありますが、その後保管しておく義務はありません。給与明細書は毎月確認し、自分でしっかりと保管しておくことが大切です。
慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
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