自主退職と会社都合による退職との違いは、「離職理由が自分に起因するのか、会社に起因するのか」という点です。どちらに該当するかで、失業保険や履歴書の書き方に違いが出ます。自主退職と会社都合退職の違いや、退職に必要な手続きを紹介します。
自主退職と会社都合の退職
会社を退職する際は「自主退職」「会社都合の退職」の2種類があります。それぞれの内容や違いを見ていきましょう。
自身で決める「自主退職」
自主退職とは、自ら希望する退職です。以下のような理由による退職が該当します。
- 会社や仕事への不満
- 結婚・出産など、ライフスタイルの変化
- キャリアアップや起業
- ケガ・病気・家族の介護 など
基本的に、自分の意志で辞める場合は全て自主退職と考えられます。
また、刑事罰を受けたなどによる懲戒解雇の場合も、自主退職として処理されるケースがあるでしょう。
自分以外の都合による「会社都合退職」
会社都合の退職とは、本人の意志ではなく会社側の申し出による退職です。以下のケースが該当します。
- 会社の倒産
- 経営再建のためのリストラ
- 解雇(普通解雇や整理解雇)
- 退職勧奨 など
会社都合の退職で多いのは、会社の倒産や経営不振によるリストラです。このほか労働条件が雇用契約の内容と異なることに起因する退職や、会社が法令違反をしていたことに起因する退職も会社都合として認められます。
ただし、会社都合による解雇は判定が難しいケースが少なくありません。不安な場合は、個々の事情をハローワークで相談するのが確実です。
自主退職と会社都合退職の違い
自主退職と会社都合の退職では、失業保険の待期・受給期間や、転職活動における履歴書の書き方が異なります。
両者の違いの詳細を見ていきましょう。
失業保険の待期期間と給付日数
待期期間とは、ハローワークで求職申込を行って離職票を提出し、「失業の認定」を受けるまでの期間です。一方、給付日数とは失業保険給付を受けられる日数です。会社都合の退職は、自主退職よりも失業保険を早く・長く受給できます。
両者の失業保険受給までにかかる期間や給付日数は以下のようになります。
- 自主退職:「待期期間7日間+給付制限2カ月」「給付日数90~150日」
- 会社都合の退職:「待期期間7日間」「給付日数90~330日」
自主退職の人は失業の認定後2カ月の待期期間がありますが、会社都合の退職者にはありません。
また会社都合の退職者の方が、給付日数でも優遇されています。例えば1年未満で自主退職した場合、失業保険は受けられません。しかし会社都合の退職の場合は、1年未満でも90日の給付日数があります。
参考:
基本手当の所定給付日数|ハローワーク インターネットサービス
「給付制限期間」が2か月に短縮されます - 厚生労働省
再就職時の履歴書の書き方
自主退職では、職歴の最後に「一身上の都合により退職」と書くのが一般的です。一方、会社都合の退職では「会社都合により退職」と記載します。いずれのケースでも、退職理由をきちんと伝えること・入社の意欲を示すことが必要です。
自主退職の場合、高確率で具体的な退職理由を聞かれます。会社としては、安易な理由で辞めてしまう人を採用したくないためです。自主退職後の転職活動では、ポジティブかつ納得できる退職理由を用意する必要があります。
会社都合の退職については、退職理由をありのまま述べれば問題ありません。ただし「働くところがなくなって、仕方なしに応募してきたのでは」と思われるのは避けたいところです。「入社したら、このように貢献できる」など、労働意欲を見せましょう。
自主退職を会社都合にすることはできる?
離職証明書に「会社都合退職」か「自己都合退職」かを記載するのは会社です。「自己都合」とされて納得がいかないとき、会社都合に変更することは可能なのでしょうか?
基本はできない
個人的な事由により退職した場合、会社都合の退職とするのは不可能です。会社都合の退職者は「特定受給資格者」とされ、失業保険について優遇措置があります。特定受給資格者の範囲は厳密に定められており、個人的な理由で退職した人は除外されます。
ただし、正当な理由がある場合は自主退職した人でも「特定理由離職者」として優遇を受けることが可能です。例えば以下のような人は、特定理由離職者に該当します。
- 希望したにもかかわらず有期労働契約が更新されなかった
- 病気やケガで働けなくなった
- 介護や看護で働けなくなった
- 結婚により転居し、通勤できなくなった など
また、会社が離職票に事実と異なる退職理由を記載した場合、異議を申立てることは可能です。ハローワークは会社・退職者それぞれの事情を把握したり資料の精査を行ったりして、退職理由を判断します。
会社都合であるにもかかわらず自己都合とされた場合は、証拠を持参した上で会社都合の退職であることを主張しましょう。
参考:
特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省
Q6. 離職理由により給付日数に差がつくとのことですが、事業主と離職者で主張が食い違った場合には、どのように取り扱われますか。|ハローワーク インターネットサービス
自主退職の進め方
「退職しよう」と決めたら、退職届の提出や引継ぎなど、すべきことはさまざまあります。スムーズに退職できるよう、流れを確認しておきましょう。
就業規則を確認する
まずは就業規則で退職の規定を確認しましょう。企業によっては、退職届の提出を「退職する日の1カ月前まで」「2カ月前まで」などと定めています。自社の決まりにしたがって、退職準備を進めることが必要です。
諸事情によりギリギリに退職を申し出たい場合、民法では「2週間前まで」と定めています。ただし、退職届の提出から退職日までがすぐだと後任の選定や引継ぎが間に合わないかもしれません。
円満退職を目指すなら、退職希望日から2~3カ月前までには申し出るのが理想です。
上司に退職の意思を伝える
退職の意志が固まったら、まずは直属の上司に相談します。この時点で、退職の意思表示をしたとするのが一般的です。退職に向けての準備が始まりますが、まだ退職が確定したわけではありません。退職のタイミングについては、上司との話し合いが必要です。
注意したいのは、上司に退職の意志を伝える前に、噂が立たないようにすることです。他人の噂が先行すると、上司を後回しにしたような印象を与えかねません。同僚や先輩に退職の相談をする場合は、信頼しているごく一部の人に留めましょう。
退職届の提出と仕事の引継ぎ
退職届を提出するのは、上司との話し合いで退職日が確定した後です。退職届の様式・提出方法は会社によって異なるため、「どのように」「どこに」出すのかを就業規則などで確認しましょう。
退職が確定したら、後任に仕事の引継ぎを行います。次の人が不安を感じずに働けるよう、確実なスケジュールを組むことが必要です。あまりギリギリにならないよう、退職日の1週間から3日前くらいまでには引継ぎが終わるのがベストです。
なお、引継ぎは業務引継書の作成を求められるケースがほとんどです。自分が退職した後でも業務が滞らないよう、業務の詳細をデータにまとめておきます。
取引先へあいさつ回り
重要な取引先には、直接あいさつに行くのがマナーです。会社からあいさつ先の指定を受けたときは、早めにアポイントを取って出向きましょう。
取引先へのあいさつ回りのポイントは、後任も同行することです。後任と取引先が顔を合わせておけば、自分が退職した後の不安も軽減されます。
また重要度の低い取引先については、メールであいさつを行います。これまでお世話になったお礼や相手の発展を祈ると共に、後任の紹介や担当が変わる具体的なタイミングを伝えなければなりません。
取引先へのあいさつや退職の周知は、退職の1~2週間前までには済ませましょう。
最後の出社日を終えて退職
最後の出勤日は、同僚や上司にお世話になったお礼を伝えます。業務の邪魔にならないよう、あいさつは休憩時間や就業時間後に行います。このときちょっとしたお菓子を配ると、感謝の気持ちが伝わりやすくなるのでおすすめです。
このほか最終日は、社員証や備品・保険証の返却も必須です。退職後に必要な書類を渡されることもあるので、必ず中身を確認しましょう。もし分からないことがあれば、その場でクリアにすることが必要です。
退職を引き留められた場合
退職を申し出るときは「万が一引き留められたら」という事態を想定しておくのがおすすめです。
引き留めに合った場合の対処法を紹介します。
強い意志で断る
社員が「辞める」と決めた場合、会社側に引き留める権利はありません。労働者には、退職の自由が認められています。引き留めに合った場合は、断固とした態度で断ることが大切です。
退職の引き留めで多いのが、待遇改善を匂わせたり脅しのような文句を使われたりするケースです。もちろんどちらのケースでも、応じる必要はありません。
話にならない場合は会社の理解を得るのはあきらめ、粛々と退職準備を進めましょう。民法の定めにしたがって2週間前までに退職届を提出すれば、雇用契約は終了します。
引き留めにくい理由を考えておく
引き留めに合わないようにするには、相手を納得させる理由が必須です。曖昧な表現は避け、退職の理由をはっきりと伝えましょう。「別の業種にチャレンジしたい」「自分の特性が生かせる専門分野にキャリアチェンジしたい」など、ポジティブな理由を考えておきます。
このとき注意したいのは、条件を退職理由にしないことです。給与や待遇の不満を匂わせると、「改善する」の一言で退職の必然性がなくなってしまいます。不満や不平が原因でも、それをメインの理由にするのは控えましょう。
ただしどのような場合でも、安易なうそをつくのは好ましくありません。万が一バレると、円満退職は難しくなります。
退職後に必要な手続き
会社を退職したら、保険や税金の手続きが必要です。すべきことをリストアップして、抜け漏れなく手続きしましょう。
方法を選べる「健康保険」
退職後の選択肢として、「健康保険の任意継続」「国民健康保険に加入する」「家族の扶養に入る」の3つがあります。
健康保険の任意継続とは、退職後もその会社の健康保険の適用を受けることです。管轄する協会けんぽ支部に「任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します。
国民健康保険は、会社の健康保険に加入していない人を対象とする健康保険です。居住する市区町村役場の国民健康保険係で手続きできます。
家族の扶養に入る場合は、家族の勤務先で手続きしなければなりません。提出書類や期限については、家族の会社に確認しましょう。
なお、退職翌日から新しい会社で働く場合は、その会社の保険に加入できます。新しい会社で健康保険証についての指示があるはずです。
参考:会社を退職するとき | こんな時に健保 | 全国健康保険協会
早めの手続きが必要「年金」
退職から次の仕事までの期間が空く場合は、退職日の翌日から14日以内に国民年金への加入が必要です。
国民年金に加入する場合、自分自身が被保険者となる「第1号被保険者」、配偶者の被扶養者となる「第3号被保険者」のいずれかを選択します。
第1号被保険者を選択する場合は、居住する市区町村役場で手続きしましょう。一方、第3号被保険者を選択する場合は、配偶者の会社を通じて手続きしなければなりません。
ただし、第3号被保険者には所得制限があります。退職した年度の収入が130万円を超えると見込まれる場合、被扶養者でも加入できません。
自主退職は待期期間あり「失業保険」
転職先が未定の場合は、失業保険を受給できます。退職した会社から送付された離職票やマイナンバーカードなどを持参して、ハローワークに足を運びましょう。
ハローワークで求職申込を行うと、受給資格が決定します。その後は「雇用保険説明会」で受給手続きの進め方や就職活動について周知されるため、必ず参加が必要です。
雇用保険説明会後7日間の待期期間が過ぎれば、会社都合の退職者には規定の基本手当が支給されます。一方自主退職者は、さらに2カ月の給付制限を受けなければなりません。
なお、失業保険の受給期間は、退職日の翌日から1年間です。受給期間を過ぎると、給付日数が残っていても基本手当は支給されません。失業保険を受ける場合は、早めに手続きを行いましょう。
忘れてはいけない「税金」
退職時には、地方税である「住民税」、国税である「所得税」の納付が必要です。
住民税は6月から翌年5月までを1年として計算する決まりです。年度途中で退職した場合は、「退職時の給与から差し引いて一括納付してもらう」「役所から納付書を送付してもらって納付する」のいずれかを選択しなければなりません。
また所得税は、1月から12月までの総所得に課せられる税金です。毎月の給与からあらかじめ引かれますが、年末調整を受けるまで税額は確定しません。退職で年末調整を受けられない場合は、自分で確定申告を行って税額を確定することが必須です。
確定申告では、退職時に受け取る「給与所得の源泉徴収票」を元に申告書を作成します。税額を確定した結果、不足があれば追徴され払い過ぎがあれば還付されます。
参考:No.1910 中途退職で年末調整を受けていないとき|国税庁
退職を新しい生活への第一歩にしよう
自主退職とは、自分の都合で退職することです。会社都合の退職とは、失業保険の待期期間や給付日数が異なります。ただし、転職に際して自主退職だから不利・会社都合の退職だから有利などという違いはありません。
自主退職の決意を固めた人は、さっそく転職先を探しましょう。「時間がない」「どこで探せばよいか分からない」という人は、日本最大級の求人・仕事探しサイト「スタンバイ」をチェックしてはいかがでしょうか。
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