変形労働時間制とは、業務の忙しさに応じて一定期間内の労働時間を調整する制度です。導入している企業への転職を検討している人は、働き方についてよく理解しておきましょう。制度の内容や注意点などについて解説します。
変形労働時間制とは?
変形労働時間制とは、働き方に関する制度の1つです。制度の内容や、類似する他の働き方との違いについて解説します。
一定期間内の労働時間を柔軟に配分する制度
変形労働時間制とは、業務の忙しさに応じて一定期間内の労働時間の配分を変える制度のことをいいます。制度の導入によって、全体的な労働時間を短縮させたり、余計な残業代の発生を抑えたりするものです。
例えば、シーズン中は忙しくてもシーズンオフになると閑散とする観光地のホテルや、月初・月末で業務量が異なる業種・職種などに適用されます。手続きや運用方法が適切に行われれば、アルバイトやパートへの適用も可能です。
厚生労働省の「令和5年就労条件総合調査の概況」によると、変形労働時間制を採用している企業割合は前年の64.0%より4.7%減少したものの、全体の59.3%の企業で採用されていることが分かります。
出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局
出典:令和5年就労条件総合調査の概況 P.8 | 厚生労働省
フレックスタイム制との違い
フレックスタイム制では、企業が定めた総労働時間の中で、労働する時間帯を個人が自由に設定できます。労働する時間を決めるのは企業ではなく個人という点が、変形労働時間制との大きな違いです。
必ず労働しなければならない「コアタイム」と、自由に出退社してよい「フレキシブルタイム」が決められていることが多いのも特徴といえます。フレックスタイム制も、変形労働時間制の1つとして捉えられている制度です。
しかし、一般的に「変形労働時間制」と使われるときは、1年もしくは1カ月単位の変形労働時間制・1週間単位の非定型的変形労働時間制を指すと覚えておきましょう。
裁量労働制との違い
裁量労働制とは、勤務時間や配分を労働者の判断に任せる制度のことをいいます。実際に働いた時間ではなく、あらかじめ企業と労働者の間で定めた時間を勤務したと見なす制度です(みなし労働時間制)。
例えば、みなし労働時間が8時間と決められている場合、実際に5時間しか労働しない日でも8時間労働したと見なされます。反対に、9時間労働したとしても、8時間分の賃金しか支給されません。
また裁量労働制は、研究・開発や営業・企画など、適用される業務や職種が限られます。
変形労働時間制の期間の種類
変形労働時間制には、「1年単位の変形労働時間制」「1カ月単位の変形労働時間制」「1週間単位の非定型的変形労働時間制」の3種類があります。それぞれの内容について、確認していきましょう。
1年単位の変形労働時間制
1カ月以上から1年の間で労働時間を調整する制度です。労働時間の上限は、1日10時間、1週間52時間であり、週の平均労働時間が40時間になるよう調整します。
連続して労働できるのは6日まで(特定期間は最大12日間)となり、週に1日以上は休日を設けなければなりません。制度を導入する場合は、対象となる労働者を明確に定め、労使協定を締結して所轄の労働基準監督署に届け出が必要です。
制度を適切に運用するために、労使協定の有効期間は1年間とするのが望ましいでしょう。スキー場やリゾート地など、年間で繁忙期と閑散期が分かれる業種や職種などに向いています。
出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局
出典:1年単位の変形労働時間制 | 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
1カ月単位の変形労働時間制
1カ月以内の労働時間を調整する制度です。1カ月に労働できる時間の範囲は、暦日数によって変わります。1カ月の労働時間を平均して、1週間当たりの法定労働時間が40時間を超えない範囲で設定しなければなりません。
期間内に労働できる時間の総枠は以下の計算式で算出できます。
- 期間内に労働できる時間の総枠=1週間の法定労働時間(40時間)×変形期間の暦日数(1カ月以内)÷7日(1週間)
ただし特例措置対象事業場の場合、計算式内の「1週間の法定労働時間」は44時間です。なお、休日は週1日または4週に4日以上設定することが義務付けられています。
制度の導入には労働基準監督署への届け出および、労使協定の締結や就業規則への記載が必要です。月初と月末で繁閑の差がある業種や職種などに適しています。
出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局
出典:「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き | 東京労働局労働基準部・労働基準監督署
1週間単位の非定型的変形労働時間制
1週間の繁閑の差に合わせて労働時間を調整する制度です。1日の労働時間の上限を10時間とし、1週間の平均労働時間を40時間以内に調整します。休日は、週1日または4週で4日以上必要です。
導入できる業種に制限があり、常時使用している労働者の数が30人未満の小売業・飲食店・旅館・料理店のみに適用できます。制度を導入するには、労使協定を結び、所轄の労働基準監督署に届け出が必要です。
シフトを作成する際は、労働者の都合を確認し、決まったら当該1週間の開始する前までに書面で通知しなければなりません。シフトの変更は前日まで可能です。また、決められた労働時間を超えて働いた場合の割増賃金の支払いについても、定めることが義務付けられています。
出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局
出典:労働時間:変形労働時間制(1週間単位の非定型的変形労働時間制) | 徳島労働局
変形労働時間制のメリット・デメリット
働き方を選ぶときは、メリットとデメリットについても知っておくことが大切です。具体的に見ていきましょう。
メリット
忙しさに応じて労働時間の調整が可能になるので、企業によっては残業代の削減につながります。労働基準法で定められた法定時間で働く場合、1日8時間を超えて労働した分の残業代を支払わなければなりません。
一方、例えば特定の週のみ所定労働時間を40時間に設定した場合、1日8時間を超えても週の労働時間が40時間を超えなければ割増賃金が発生しないことになります。
労働者にとっては、あらかじめ労働する時間が決まっていることにより、ワークライフバランスを保ちやすいのがメリットです。休みの予定を立てやすくなったり、生活のリズムを整えやすくなったりするでしょう。
デメリット
企業にとっては、労働者の勤怠管理の手間が増えるというデメリットがあります。導入するためにさまざまな手続きが必要になるだけでなく、労働時間の振り分けも考えなければなりません。
また、変形労働時間制を導入していない部署があれば、部署間で就業時間の違いが出るため、社内コミュニケーションが取りにくくなるといった弊害も考えられます。
労働時間は決まっていても、他部署に気兼ねして残業してしまう人がいたり、労働者にとっては残業代が減って不満を感じたりする可能性もあるでしょう。
変形労働時間制の残業代はどうなる?
変形労働時間制でも、時間外労働となった場合はその分の残業代が支払われます。どのように算出するのか、期間別の残業代について解説します。
1年単位の変形労働時間制の場合
時間外労働を集計する際は、「1日」「1週間」「1年」のいずれかの単位で考えます。
- 1日単位で集計:1日8時間を超える所定労働時間を定めた場合はその時間。それ以外は8時間を超えた時間。
- 1週間単位で集計:週に40時間を超える所定労働時間を定めた場合はその時間。それ以外は週40時間を超えた時間。ただし、1日単位で集計した時間は除外する。
- 1年単位で集計:1年間の法定労働時間の総枠を超えて労働した時間。ただし、1日または1週間単位で集計した時間は除外する。
出典:1年単位の変形労働時間制導入の手引き P.4 | 東京労働局
1カ月単位の変形労働時間制の場合
1カ月単位の変形労働時間制は「1日」「1週間」「1カ月」のいずれかの単位で考えます。
- 1日単位で集計:1日8時間を超える所定労働時間を定めた場合はその時間。それ以外は8時間を超えた時間。
- 1週間単位で集計:週に40時間を超える所定労働時間を定めた場合はその時間。それ以外は週40時間を超えた時間。ただし、1日単位で集計した時間は除外する。
- 1カ月単位で集計:対象となる期間内に労働できる時間の総枠(1週間の法定労働時間×変形期間の暦日数÷7日)を超えて働いた時間。ただし、1日単位または1週間単位で集計した時間は除外する。
出典:「1箇月単位の変形労働時間制」導入の手引き P.2 | 東京労働局労働基準部・労働基準監督署
1週間単位の非定型的変形労働時間制の場合
1週間単位の非定型的変形労働時間制の残業代は、1週間単位でのみ算出します。1日単位での集計はありません。1週間の労働時間のうち、40時間を超えた分が時間外労働とされます。
例えば、1週間の労働時間を36時間と定めた場合、以下のようになります。
- 1週間の労働時間が38時間になった場合:残業代は発生しない。
- 1週間の労働時間が41時間になった場合:1時間分の残業代が支払われる。
飲食店や旅館などの特例措置対象事業場の場合は、週44時間までが法定労働時間です。
変形労働時間制の注意点
変形労働制の注意点についても確認しておきましょう。主に3つのポイントを解説します。
労働時間を変更できない
あらかじめ定めた労働時間は任意に変更できないと決められています。所定の労働時間より短い時間勤務した場合でも、翌日に繰り越したり残業で相殺したりはできません。
例えば、1日の所定労働時間が8時間と決められているときに、7時間しか働かずに帰ってしまえば早退扱いとなります。週単位や月単位で労働時間を配分するといっても、日を繰り越しての調整はできないので注意が必要です。
出典:1か月単位の変形労働時間制 P.1 | 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
1年単位の場合、入退社や異動の時期に注意
1年単位の変形労働時間制の場合、労働者の入社・退職・異動などのタイミングに注意が必要です。これらの時期によっては、平均労働時間が法定労働時間を超えることもあります。
そのような場合、実労働期間の平均が1週間40時間を超えていた労働時間に対して割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金を支払う時間は、以下の計算式で算出できます。
- 割増賃金を支払う時間=(実労働時間)-(労働基準法に基づく割増賃金の支払いが必要な時間)-{40×(実労働期間の暦日数÷7)}
出典:1年単位の変形労働時間制 P.3 | 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
満18歳未満は原則として対象外
原則として、変形労働時間制は満18歳未満には適用できません。ただし、労働基準法第60条第3項の条件を満たしている場合は特例として認められます。
一週間の労働時間が第三十二条第一項の労働時間を超えない範囲内において、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合において、他の日の労働時間を十時間まで延長すること。
一週間について四十八時間以下の範囲内で厚生労働省令で定める時間、一日について八時間を超えない範囲内において、第三十二条の二又は第三十二条の四及び第三十二条の四の二の規定の例により労働させること。
変形労働時間制について知っておこう
変形労働時間制は、一定期間内の労働時間を、繁閑の差に応じて柔軟に配分する制度です。業種の特殊性によって期間の長さは1年・1カ月・1週間の3種類に分けられます。
メリットがある一方、労働時間を変更できないなどの注意点もあるので、導入している企業に転職する際は制度の内容をよく理解しておきましょう。
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