裁量労働制とは?仕組みや種類、他の働き方との違いを解説

雇用される働き方は、1日や1週間の労働時間が固定されるものだけではありません。中には裁量労働制のように、働く人の裁量で実際の労働時間が変わる働き方もあります。裁量労働制とはどのような制度なのか、メリット・デメリットを交えて紹介します。

裁量労働制とは

出社

(出典) pixta.jp

専門性が高かったり経営企画に携わったりする仕事では、裁量労働制を採用するケースがあります。まずは裁量労働制とはどのような制度なのか、定義を確認しましょう。

一定時間働いたものと見なす制度

裁量労働制は労働基準法の第38条を根拠として、実際の労働時間を問わず、仕事をこなすのに必要とされる時間だけ働いたものと見なす「みなし労働時間制」の一種です。

通常は所定労働時間が8時間なら、10時間働いた場合は2時間の残業、5時間で終了した場合は3時間の早退として扱います。

しかし裁量労働制では、設定した労働時間が8時間であれば、10時間かかったとしても8時間働いた扱いとなり2時間分は残業時間としてカウントしません。逆に仕事が早く片付いて5時間で終了した場合も、早退扱いにはせず8時間働いたと見なします。

裁量労働制は、専門性が高い・労働者の裁量が大きいといった業務が増えた状況を受けて導入されました。

出典:労働基準法 第38条の3・第38条の4 | e-Gov法令検索

裁量労働制の種類

裁量労働制は、どのような仕事にも採用できるわけではありません。一定の条件を満たす業務が対象であり、決められた手続きを経て初めて導入できる決まりです。

裁量労働制は対象とする業務の性質によって、「専門業務型裁量労働制」「企画業務型裁量労働制」の2種類に分けられます。

※制度に関する情報は2024年1月16日時点のものを記載しています。

専門業務型裁量労働制

専門業務型裁量労働制は、仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量に任せる必要があるとされる業務を対象とする制度です。厚生労働省のWebサイトには、2024年1月時点で以下の19業務が対象業務として挙げられています。

(1)    新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
(2)    情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
(3)    新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
(4)    衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
(5)    放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
(6)    広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
(7)    事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
(8)    建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
(9)    ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
(10)    有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
(11)    金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
(12)    学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
(13)    公認会計士の業務
(14)    弁護士の業務
(15)    建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
(16)    不動産鑑定士の業務
(17)    弁理士の業務
(18)    税理士の業務
(19)    中小企業診断士の業務

出典:専門業務型裁量労働制

2024年4月1日からは、変形労働制についてのルール変更が施行される予定です。

改正後は上記に加え、

銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆるM&Aアドバイザーの業務)

も専門業務型裁量労働制の対象となります。

出典:専門業務型裁量労働制について「専門業務型裁量労働制の対象業務は?」|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

いずれも働く人自身が専門知識やスキルを生かし、自ら時間配分を考えて仕事を進める必要がある職種です。

企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、事業の運営に関わる事項の企画や立案・調査・分析の業務の中でも、適切な遂行のためには仕事の進め方を働く人の裁量に大きく委ねる必要がある業務を対象とする制度です。

具体的な職種は定められていませんが、客観的に見て業務遂行の方法を大幅に労働者の裁量に任せる必要があると判断できる仕事が対象となります。業務を遂行する手段や時間配分についても、使用者から具体的な指示をしない業務であることも条件です。

出典:企画業務型裁量労働制について「A 対象となる業務の具体的範囲」|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

裁量労働制の労働時間の扱い

定時

(出典) pixta.jp

裁量労働制の場合、1日8時間の法定労働時間を基準に時間外労働を算出する働き方とは、労働時間の扱いが違います。みなし労働時間と休日出勤・深夜労働、36協定について、裁量労働制ではどのように考えるのかを見ていきましょう。

みなし労働時間

みなし労働時間とは、裁量労働制を含むみなし労働時間制において、実際の労働時間にかかわらず働いたと見なす時間のことです。みなし労働時間は、原則として法定労働時間である1日8時間・週40時間の範囲内で設定することになります。

みなし労働時間制では、みなし労働時間が法定労働時間内に収まっていれば、実際の業務に何時間かかっても法定外労働に対する割増賃金(残業代)は発生しません。

ただし、設定したみなし労働時間が法定労働時間の8時間を超える場合、超過する時間分だけ割増賃金を加算する必要があります。

  • 1時間当たりの賃金額×8時間を超えた時間×割増率(25%以上)

1時間当たりの賃金額が3,000円でみなし労働時間が9時間の場合、9時間分の2万7,000円に1時間分の割増賃金がプラスされ、1日当たり2万7,750円以上が支払われることになります。

出典:

労働時間・休日 |厚生労働省

しっかりマスター 労働基準法 -割増賃金編- |東京労働局

休日出勤・深夜労働

裁量労働制を導入していても、休日出勤や深夜労働には労働基準法の規定が適用されます。週1回の法定休日や22時から翌5時に働いた場合は、定められた割増率以上を適用した割増賃金が支払われる決まりです。

割増賃金の種類 割増率
休日手当 35%以上
深夜手当 25%以上

法定休日以外のみなし労働時間が8時間を超えていて22時以降も働いたときは、法定外労働分の1時間に25%以上の割増率を適用し、22時以降に働いた時間には深夜労働の割増率25%を上乗せします。

もし法定休日に出勤して22時以降も働いた場合は、22時以降分の割増率には深夜労働の分が上乗せされる形です。法定休日の10時から23時まで休憩1時間で働いたときの賃金は、以下のように計算します。

  • 1時間当たりの賃金額×11時間(22時までの分)×35%以上+1時間当たりの賃金額×1時間(22時以降の分)×60%(25%+35%)

ただし、法定休日と時間外労働の割増賃金は重複しないことに注意しましょう。上記の例では法定労働時間の8時間より4時間多く働いていますが、4時間分に時間外労働の割増賃金は発生しません。

36協定

使用者が労働者に時間外労働や休日労働をさせるためには、労働基準法第36条に基づく労使協定を結ぶ必要があります。この労使協定の通称が「36協定」です。裁量労働制を導入している場合も、36協定を結ばなければ時間外労働や休日労働をさせられません。

労働基準法第36条では、労働者の過半数から成る労働組合(これがない場合は労働者の過半数の代表者)と書面による協定を結べば、1日8時間・週40時間を超える労働や法定休日の労働をさせることを可能としています。

2018年の労働基準法改正で、36協定によって認められる時間外労働に上限(限度時間)が設けられました。限度時間は原則として月45時間・年360時間です。

出典:

労働基準法 第36条1項 | e-Gov法令検索

36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針

裁量労働制で働くメリット

タイピング

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裁量労働制の対象となる仕事に携わっていたり今後携わる可能性があったりするなら、裁量労働制のメリットを知っておきましょう。労働者から見た魅力を2つ紹介します。

働き方の自由度が高くなる

裁量労働制を導入している場合、仕事の進め方や時間配分はもちろん、職場によっては出退勤の時間帯も労働者の裁量で決められます。

時間が固定されて指示に従って動く働き方に比べると、自由度は格段に上がるといってよいでしょう。特に研究に携わる仕事なら、時間的な制約がないことで成果につながる可能性が高くなります。

勤務時間の短縮を図れる

裁量労働制では、短時間で仕事が終わったとしても、あらかじめ決められたみなし労働時間の分だけ働いた扱いになります。

手持ちの業務が終わっているのに、まだ終業時間が来ないからと職場に拘束されることはありません。効率良く仕事を進めていければ、賃金はそのままで勤務時間の短縮が可能です。

裁量労働制で働くデメリット

腕時計と手帳

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働き方の自由度や勤務時間の短縮という面でメリットが大きい裁量労働制にも、デメリットはあります。働き始めてから後悔しないよう、マイナスになり得る点も把握しておきましょう。

自己管理を求められる

裁量労働制では労働者に時間の管理を一任します。始業・終業の時間や休憩時間も決められていないため、どこまでの業務を何時までに終わらせるかは、基本的に働く人次第です。

自己管理能力が低ければ、期待されている成果を出せず、同僚や取引先などの関係者に迷惑をかける事態になりかねません。裁量労働制は、自らPDCAを回しつつ時間をきっちりと管理し、生産性を高めていける人に向いている働き方です。

長時間労働になるリスクがある

裁量労働制は効率良く業務をこなせれば拘束時間を短縮できますが、逆に仕事がなかなか終わらなければ際限なく労働時間が延びてしまいます。

厚生労働省が2021年に実施した「裁量労働制実態調査」では、裁量労働制を導入している企業の方が労働時間が長いという結果が出ました。

裁量労働制で働く労働者の長時間労働が常態化している背景を受け、過度な長時間労働を防げるよう2024年4月から制度が改正されます。

改正後は、本人の同意を得る・賃金や評価制度の説明をする・労使委員会が制度の実施状況を把握し運用改善を行うといった項目を、労使協定に記載することが義務付けられます。

出典:

裁量労働制の省令・告示の改正・ 2 0 2 4年4月1日施行|厚生労働省

裁量労働制実態調査の概要 P.18・P.46|厚生労働省

裁量労働制と他の働き方との違い

腕時計を見ている男性

(出典) pixta.jp

裁量労働制の他にも、勤務時間が固定されず自由度の高い働き方を実現する制度があります。4つの働き方と裁量労働制との違いを見ていきましょう。

事業場外労働のみなし労働時間制

事業場外労働のみなし労働時間制も、みなし労働時間制の1つです。通常出勤する事業場(事務所や店舗・工場などの単位)でない事業所で働くに当たり、使用者の指揮監督下にないために労働時間の把握が難しい仕事に適用されます。

裁量労働制との違いは、対象となる仕事が限定されない点です。裁量労働制は事業場に属する業務にのみ適用できる点も、大きな違いといえます。

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、一定の期間(清算期間)における総労働時間をあらかじめ決めておき、その範囲内で始業時間や終業時間を労働者が自由に決められる制度です。

裁量労働制や事業場外労働のみなし労働時間制と違い、働いた時間は厳密に管理されます。残業をすれば残業代が支払われ、総労働時間に足りない分の賃金は支払われません。

フレックスタイム制を導入している中でも、必ず就業する「コアタイム」を設けている企業と設けていない企業があります。

出典:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き P.3|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

変形労働時間制

変形労働時間制とは、業務に繁閑や特殊性がある場合に、労使が柔軟に工夫して労働時間の配分をしていく制度です。

広義ではフレックスタイム制も変形労働時間制に含まれますが、一般に「変形労働時間制」という場合は、以下の3つを指します。

  • 1カ月単位の変形労働時間制
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の非定型的変形労働時間制

いずれも一定期間内での平均労働時間が法定労働時間を超えない範囲で、特定期間に法定労働時間を超えて労働させられる制度です。裁量労働制とは違い、所定労働時間より長く働けば残業代が発生し、所定労働時間だけ働かなければ遅刻や早退扱いとなります。

出典:労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制) | 徳島労働局

高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度(高プロ)は、対象となる労働者を労働基準法の労働時間の規定から外す制度です。働いた時間でなく、成果により高い賃金を得られます。

裁量労働制との違いは、休日労働や深夜労働の規定も適用されず割増賃金が発生しない点です。さらに対象となる人の範囲は以下のように定められ、裁量労働制より狭くなっています。

  • 年収が1,075万円以上(基準年間平均給与額を相当程度上回る額)
  • 高度な専門知識等が必要な業務に就いている

出典:

労働基準法 第41条の2 1項2号ロ | e-Gov法令検索

労働基準法施行規則 第34条6項 | e-Gov法令検索

裁量労働制について理解を深めよう

オフィスのイメージ

(出典) pixta.jp

裁量労働制はみなし労働時間制の一種で、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があります。どちらも仕事の進め方や時間配分を労働者の裁量で決められ、自由度の高い働き方を実現する制度です。

ただし生産性を上げられなかったり自己管理能力が足りなかったりすると、長時間労働に悩む事態になりかねません。自分が携わる・目指す仕事が裁量労働制の対象になる場合も、導入している職場を選ぶかどうかは慎重に判断しましょう。