業務コンサルタントとは
企業活動は、人事、会計、生産管理、販売など、さまざまな業務プロセスがつながって成り立っています。企業経営の品質を上げるためには、これらの業務プロセスが効率よく稼働していなければなりません。業務コンサルタントは実際の業務フローを調査し、重複や無駄など業務プロセス上の問題点を洗い出すことで、課題の提示と解決に必要な改善策を提案し、企業経営の品質向上に貢献する職種です。
業務コンサルタントの仕事内容
まずは、クライアント企業において、コンサルティングの対象となる業務プロセスに関わっている人の数や、業務内容、所要時間、業務の重複などを詳細に調査します。具体的には、実際の業務を行っている人たちへのヒアリングや長期間の現地調査によって、現状の業務プロセスを可視化し、問題点を洗い出していきます。
その後、どのような問題が発生しているのかを具体的に整理・抽出し、分析を行ってその課題をつかんでいくという流れです。課題が明確になったら、解決に向けて新たな業務プロセスのモデリングや改善案の策定・提案を行っていきます。
この際、業務パッケージの導入を行う場合もあります。業務プロセス改善のために導入されるパッケージで代表的なのは、ERP、SCM、CRMなどのソフトウェアです。
ERP
ERPは、Enterprise Resource Planningの略称です。「統合基幹業務システム」とも呼ばれています。企業の経営資源の効率化、経営判断のスピード化を実現するため、部門ごとに構築・運用されていた業務システムを統合することでデータの一元管理ができ、経営判断に必要なデータをリアルタイムに参照できるようになります。ERPパッケージで扱う基幹業務は、製造・物流・販売・人事・財務会計などです。
SCM
SCMは、Supply Chain Managementの略称で、「物」と「情報」を統合的に管理することで、収益の最大化を図る手法です。自社やその企業グループ、取引先企業の間の受発注や在庫、販売、物流などの各システムの情報を共有することにより、原材料や部品、半製品・製品の需要変動への最適化を図ります。無駄を排除するとともに、売上の最大化、在庫の最適化、リードタイムの削減などを目指します。
CRM
CRMは、Customer Relationship Managementの略称で、企業が顧客との間に長期的な関係を築くことで、自社の競争力を高めていく手法です。顧客情報データベースを中核とし、顧客と接する機会のある全ての部門で顧客情報とコンタクト履歴を共有・管理することで、常に最適な対応ができる状態にしておきます。営業支援のSFA(Sales Force Automation)システムやコールセンターのCTI(Computer Telephony Integration)システムなどを統合したシステムを、CRMシステムと呼ぶこともあります。
これらのパッケージ導入は、業務コンサルタントが現状の業務プロセスを調査した結果、導入した方が総合的に効率がよいと判断した場合に実施されるのが通常です。
ITコンサルタントとの違い
ITコンサルタントやシステムアナリストと比較すると、業務コンサルタントは「クライアント企業の業務プロセス改善」に特化したコンサルタントといえるでしょう。
業務コンサルタントは、現状の業務プロセスに関する問題を発見し、課題の抽出・分析を行った後に、改善策を立案し業務設計書を作成します。
業務プロセス改善策を現場に導入する際には、業務設計書の内容をもとにITコンサルタントやプロジェクトマネージャなどとともに、設計に合わせた業務プロセスを構築していきます。
業務コンサルタントになるには
業務プロセスの改善には、ERP、SCM、CRMなどのITシステム導入が絡むことが多いため、戦略系コンサルティングファームやSIer、事業会社のIT部門などでこれらのシステム導入に携わった経験が求められます。
したがって、システムエンジニアやプロジェクトマネージャから業務コンサルタントへ転職するケースが多くなります。特にシステムエンジニアのキャリアパスとして、人気の高い職種であるといえるでしょう。
業務コンサルタントに求められるスキル・能力
業務コンサルタントには、第一に、業務プロセスへの深い知識や理解、プロジェクトマネジメントの技術が必要です。また、クライアント企業で実際に業務を行う人から情報を得たり、長期間に及ぶ現場調査を行ったりする必要があるため、高いコミュニケーション能力も求められます。
業務の全体像を把握しつつ、細かな部分を緻密に構築できる論理的思考力も必須です。また、パッケージを導入する場合には、ITに関する知識と経験が必要となります。
あるとよい資格
業務コンサルタントは資格がなくてもできる仕事ですが、「業務・経営に関する資格」を有しているのが望ましいといえます。また、業務プロセスとITは切っても切り離せない関係であるため、「ITに関連する資格」の保有者は、クライアントに優遇されやすいでしょう。数ある資格の中でも、取っておいた方がよい資格を3つ紹介します。
中小企業診断士
「中小企業診断士」とは、主に中小企業の経営課題に対して、診断・分析を行うプロフェッショナルです。
経済産業大臣の指定を受けた国家資格で、1次試験合格後は資格認定試験の合格と実務従事、または登録養成機関の養成課程を修了することで、中小企業診断士登録(経済産業大臣登録)が可能となります。
中小企業診断士の資格を取得すれば、現状分析と成長戦略の助言に加え、企業の資金調達や生産管理といった幅広い知識が身に付くのがメリットです。業務コンサルタントの中でも、「中小企業の経営に特化したプロ」として、一目置かれる存在になるでしょう。
ITストラテジスト
「ITストラテジスト」は、経済産業省が指定する国家資格です。情報処理技術者試験の中でもトップレベルで、主に「ITコンサルタント」を目指す人に必要な資格とされています。
IT関連の資格は多数ありますが、ITストラテジストの役目は「経営とITを結びつける戦略家」として、経営戦略に基づいたIT戦略を策定・提案することです。
IT化が進む近年のビジネス環境において、業務改革には、ITシステムの開発・構築が不可欠です。業務コンサルタントの業務の一つである「業務プロセスの改善」には、必ずITが絡んでくるため、ITストラテジストの資格があると有利でしょう。
経営とITに精通した者として、ITを活用した業務改善や経営戦略についてアドバイスができるようになります。
SAP認定コンサルタント
「SAP認定コンサルタント」とは、ドイツの大手ソフトウェア企業「SAP社」が認定する資格です。同社のSAP製品(ERPパッケージ)に関する知識や技術を図るもので、合格者は「SAP認定コンサルタント」を名乗ることができます。
正式な数は公開されていませんが、SAPの導入企業は国内だけで2,000社以上あるといわれています。有資格者は、SAPによる業務プロセスの最適化スキルを有していることが証明できるでしょう。グローバルで通用する資格であるため、外資系や海外企業への転職時にも役立ちます。
SAP認定コンサルタントの資格は、難易度によって「アソシエイト認定資格」「スペシャリスト認定資格 」「プロフェッショナル認定資格」に区別され、さらに150の資格に細分化されます。
業務コンサルタントのキャリアパスについて
複数ある業務コンサルタントのキャリアパスの中でも、代表的なルートには以下のようなものです。
- コンサルティングファームに入社して、業務コンサルタントのキャリアを築く
- コンサルタントとして経験を積んでから、各企業の顧問・パートナーになる
- IT分野の経験を積んでから、業務コンサルタントに転職する
コンサルティングファーム(consulting firm)とは、企業の経営課題に対して、その原因を洗い出し、解決に導くための支援をする会社です。具体的には、企業戦略の策定やERPパッケージの導入、人事制度の改革などを通して企業全体の変革を促します。
コンサルティングファームへの入社後は、スタッフとして経験を積み、シニアコンサルタント・マネージャ・シニアマネージャと着実にキャリアアップを目指すルートがあります。
近年は、中途採用で業務コンサルタントのポジションを募集する企業が増えているため、コンサルティングファームである程度の経験を積んだ後に、大手企業の業務コンサルタントに転職する、または顧問としてパートナーになる道もあるでしょう。
一口にコンサルティングファームといっても、それぞれに専門分野があります。総合的なコンサルを手がけるところもあれば、人事・財務・IT・ファイナンシャルなどに特化するファームもあるります。
別のコンサルティングファームに転職し、特定分野での実績を積む人も多いようです。自分に合った専門分野を深く掘り下げていけば、一生のキャリアが築けるかもしれません。
また、システムエンジニアやプロジェクトマネージャなど、IT分野での実務経験がある人は、コンサルティングの仕事が未経験でも、総合コンサルティングファームやIT系のコンサルティングファームで採用される可能性があります。ITの経験を生かしながら、業務コンサルタントとしてのキャリアを積みましょう。
業務コンサルタントの求人
業務コンサルタントが求められる業界は、製造業や金融、物流などさまざまです。ほとんどが正社員の求人ですが、多くの場合、エンジニアやコンサルタントとして数年以上の実務経験が求められます。
求人の給与情報から集計した業務コンサルタントの年収帯
※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成
業務コンサルタントの求人の給与情報から、業務コンサルタントの年収帯を独自に調査しました。以上のグラフの通り、業務コンサルタントの年収は、600万円台が15.8%で最も多く、次いで500万円台が15%、700万円台が14.6%となっています。システムエンジニアと比較して高額であるケースがほとんどです。
※文中に記載の各種数値・内容は、2022年5月時点のものになります。
出典:
中小企業診断士資格取得を目指す方に中小企業診断士試験のご案内です
From the scene of SOA / BPM|Oracle 日本
ERP/SCMとは|株式会社日立ソリューションズ
SCM|キヤノンITソリューションズ
IPA 独立行政法人 情報処理推進機構:制度の概要:ITストラテジスト試験