バイアスとは、心理学用語の1つで、認知のゆがみや思考の偏りを意味します。ビジネスシーンにおけるデメリットの原因にもつながりやすいため、対処法を知っておくことが大切です。バイアスによる影響や改善方法について解説します。
バイアスとはどういう意味?
ビジネスシーンにおけるバイアスの影響や対処法を知るには、まず正しい意味を理解しておくことが大切です。バイアスの意味や起こる原因について解説します。
先入観や偏見を意味する言葉
「バイアス」とは、認知のゆがみ、先入観や偏見などの意味を持つ言葉です。もともとは心理学の領域で使われていた用語ですが、最近ではビジネスシーンなどさまざまな分野で使われています。
意思決定や行動を起こす際に、思い込みや思考の偏りなどが影響を及ぼす事象に対し、「バイアスがかかる」という言い方を聞いたことがある人も多いでしょう。
思い込みや偏見は誰もが少なからず持つものですが、バイアスによって人間関係や仕事に悪影響が及ぶ可能性もあるので注意が必要です。またバイアスは、使われるシーンや分野によっても意味が異なります。
- ビジネスシーン:主に、人や組織に対する先入観・偏見・思い込みなどがあること
- 統計学:データの取り方や分析方法などに関する偏りが、結果に影響を及ぼすこと
- 医学:自分にとって望ましい結果を出すために、患者の選び方やデータの収集などに偏りが起こること
バイアスが起こる原因
バイアスは人間の脳が持っている2つの特性が原因で起こるとされています。1つは、人間が意思決定をするときに働く「二重過程理論」です。
人間の意思決定のプロセスには、ゆっくり時間をかけて結論を導き出す仕組みと、直感でスピーディーに判断する仕組みの2種類があります。バイアスは、後者の直感的な意思決定のプロセスにおいて発生しやすくなります。
もう1つの原因は、「ヒューリスティック」による意思決定です。ヒューリスティックとは、自分の経験に基づいて判断することをいいます。直面している事象に対して自分の経験則だけで判断を下すと、偏りが生まれやすくなります。
バイアスの代表的な種類
バイアスにはさまざまな種類があり、認知に対して与える影響も異なります。代表的な3つのバイアスを見ていきましょう。
正常性バイアス
正常性バイアスは、災害などの危機に直面した際、現実を受け止められず「まだ大丈夫」と思い込もうとする心の働きです。
例えば、マンションの火災報知器が鳴ったときに、何の根拠もなく「おそらく誰かのいたずらだ」と考えてしまう人がいるとします。これは、正常性バイアスが働いているためです。
ある程度の正常性バイアスは、異常事態に落ち着きを保つために必要なものですが、自然災害などの場合には逃げ遅れの原因になる可能性があります。「自分だけは大丈夫」といった過信や、予想される危険を過小評価することによって起こるバイアスです。
確証バイアス
確証バイアスとは、自分が立てた仮説や主張に都合の良い情報やデータだけを集め、反対意見などを無意識に排除することをいいます。
例えば、自分が気に入っている相手の欠点は目に入りにくかったり、「それはこういう理由だからだ」と都合の良い方向に解釈してしまったりすることです。
自分が見聞きしたいものだけを受け入れて、聞きたくない話には耳を貸さなかったり、都合良く捉えたりすることはよくあります。
日常的に起こりやすいバイアスではあるものの、ビジネスシーンでは人物評価などの際に正しい判断が下せなくなる可能性があるため、注意が必要です。
自己奉仕バイアス
自己奉仕バイアスとは、成功は自分の功績、失敗は他人のせいだと思いやすい心の動きのことをいいます。「仕事で良い結果を出せたのは自分の実力」「ミスをしたのはほかのメンバーに足を引っ張られたから」などが、自己奉仕バイアスの具体例です。
自己奉仕バイアスは、自尊心を保ちたいという人間の根本的な欲求によるものです。失敗の理由を外的な要因に転嫁することで自分の立場を守ろうとする心の働きは、誰にでも起こり得ます。その分、改善するのが難しいバイアスともいえるでしょう。
そのほかのバイアス
「バイアス」という名称が付いていなくても、思い込みや偏見を表す用語はほかにもあります。そのほかの用語や意味についても確認しておきましょう。
ハロー効果
「ハロー」とは、英語の「halo」が語源で、後光や光輪などの意味がある言葉です。ハロー効果とは、一部の目立った特徴だけを基に全体の評価を決めてしまうことを表す用語で、「後光効果」や「ハローエラー」とも呼ばれます。
例えば、過去の優秀な成績だけで、その人物の評価を決めてしまうなどの例です。また、人気のあるインフルエンサーが紹介している商品は良いものに違いないと思い込むなど、因果関係のないものが評価に影響を与えることもいいます。
ハロー効果は、CMや広告などの宣伝活動でもよく使われる手法です。
バンドワゴン効果
大勢の意見や行動に釣られて判断してしまう心理的働きを、バンドワゴン効果といいます。「みんながやっているから安心」などと、実際の善しあしを検証せずに、大勢の意見は正しいという思い込みによって判断してしまうことです。
例えば、入店客の少ない店と行列ができている店とでは、後者の方がおいしい店に違いないという印象を持つ人は多いでしょう。
また、SNSなどでも「いいね」の数が多いコメントほど、支持される傾向にあります。このような効果を狙い、マーケティング戦略の手法として使われることも珍しくありません。
ダニング=クルーガー効果
ダニング=クルーガー効果とは、実際の能力より自分を過大評価してしまう思い込みのことをいいます。具体的には、欠点があるもののそれに気付けず、「自分ならできる」と錯覚することで、能力以上の仕事を引き受けるなどの例です。
また、人間は他者の能力から相対的に自分の能力を判断する傾向にあります。他者に対する評価が間違っていれば、自分の能力も正しく判断できないでしょう。
バイアスがもたらすデメリット
ビジネスシーンでバイアスが発生するとどのような弊害が起こるのでしょうか。主なデメリットを3つ紹介します。
ハラスメントを引き起こす可能性
バイアスが発生すると、さまざまなハラスメントを引き起こす恐れがあるため注意が必要です。ハラスメントに至る可能性のある思い込みや偏見には以下のような例があります。
- 女性なのだからお茶くみをするのは当たり前だ
- 上司が仕事をしているのに、部下が先に帰るのは不真面目だ
- 先輩が誘っているのだから、飲み会に参加すべきだ
これらのケースは、性別や関係性に関する無意識の思い込みや偏見によるものです。育った環境や世代によっては、古くからの固定観念に縛られがちですが、ハラスメントを防止するには社員1人1人の意識を変えていく必要があるでしょう。
モチベーションの低下
バイアスが生じ、それがハラスメントなどにつながってしまった場合、社内の人間関係も悪化します。良好な人間関係が築けなくなると、仕事もスムーズに進みません。業績などが落ちてくれば、仕事そのものへのモチベーションも低下してしまうでしょう。
また、自己過信の傾向がある人は、上司から正しく評価してもらえないという不満を持つ可能性もあります。このような評価に関するギャップも、モチベーションが低下する原因になりがちです。
自分の能力を過大評価する人物がチームにいると、ほかのメンバーのモチベーションにも影響する恐れがあります。
採用や人事評価における公平性の侵害
バイアスが採用や人事評価に影響すると、公平性を侵害してしまう恐れがあるので注意が必要です。採用や人事評価で起こりやすいケースには、以下のような例があります。
- 女性は長く働けないから管理職に推薦するのはやめておこう
- 〇〇大学出身者なのだから優秀な社員になるはず
- 長年同じ部署にいるのだから、今さら別の部署に異動させる必要はないだろう
これらのケースは、本来の適性を見ずに、一部の特徴や思い込みで判断してしまうことが原因で起こります。公平な人事評価がなされなければ、本人の成長の機会を奪うだけでなく、組織全体の生産性の低下を招く結果にもなるでしょう。
バイアスを改善する方法
思い込みや偏見によるデメリットを防ぐためには、社員1人1人のバイアスを改善することが必要です。改善のための対策を3つ紹介します。
常識・直感・前提を疑う
先入観を捨てるためには、常識や直感、前提による判断を一度疑ってみる習慣を付けることが有効です。
物事を判断する際、人は一般的に常識とされている考え方や自分の経験などを基にしがちです。しかし、常識と思われていることが、既にバイアスによる思い込みの可能性もあります。
常識や前提に頼って直感的に判断するのではなく、じっくり時間をかけて結論を導き出すことが大切です。
客観的な事実なのか確認する
バイアスを改善するためには、見聞きした情報が、事実なのか誰かの思い込みによる意見なのかを見極めることも大切です。
人は、得た情報を誰かに伝える際、自分の思い込みや先入観による意見を加えたり、事実そのものを自分なりに解釈したりすることがあります。
バイアスがかかった情報に左右されないためには、人から聞いた話をうのみにせず、示されたデータなどを基に事実かどうかを客観的に判断することが大切です。
第三者の意見を聞く
バイアスは無意識のうちにかかってしまうため、自分自身ではなかなか気付けません。思い込みによるものなのかを分析するには、自分とは反対の考えを持つ人も含めた、第三者の意見を聞いてみることが大切です。
複数の人の意見を聞くことで、自分だけでは分からなかった事実に気付ける可能性もあります。さまざまな意見を聞いた上で、自分の判断に思い込みや偏見が含まれていないか、客観的な目で見直してみるとよいでしょう。
ただし、第三者の意見に対しても、バイアスがかかっていないか考える必要があります。
バイアスに支配されないための対策を知ることが大切
人が意思決定をする際の脳の癖によって発生するのがバイアスであり、誰にでも起こる可能性があります。しかし、職場ではハラスメントなどのデメリットを引き起こす原因になるため、対処法を知っておくことが大切です。
さまざまな対策を講じてもバイアスによるデメリットが改善しないときは、職場を変えてみるという方法もあります。
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