不動産鑑定士とは
不動産鑑定士は、「不動産の鑑定評価」を行う専門家で国家資格です。不動産の鑑定評価とは、土地、建物等の経済価値を判定し、その結果と価額を表示することを指します。
不動産鑑定士の役割
不動産は、文字どおり不動(動かない)の資産という意味を持ちます。不動産のひとつである土地は、物(建物、橋、鉄道など)を載せる力、生物(動物、植物)を育成する力があり、人間にとって欠かせない生活基盤です。
その価値は、他の資産と同様に需要と供給によって形成されます。不動産の大きな特色として挙げられるのは、例えば不動性(移動できない)の他、不増性(増産できない)、永続性(消失腐食しない)などです。
しかし、不動産は個別性が強く(同じものがない)、売主・買主の事情に左右されがちなことなどから、一般の人々には適正な価格を判断することは極めて困難でしょう。そこで高度な専門的知識と豊かな経験に基づいて評価を行う、不動産鑑定士の存在が必要となります。
業務成果物について
一般の人々が、不動産鑑定士の業務成果物を目にすることは少ないでしょう。ただ、数少ない例として「地価公示」「基準地価額」があり、毎年全戸呼応の土地価格が新聞をはじめとした媒体に発表されます。
- 地価公示価格(毎年1月1日現在、国土交通省)
- 基準地価格(毎年7月1日現在、各都道府県)
不動産鑑定士の仕事について
不動産の鑑定業務を行うには、不動産鑑定業者登録を国土交通省または都道府県にて行い、事務所毎に1名以上の不動産鑑定士を置かなければなりません。
公的機関からの依頼
- 相続税課税のための評価
- 固定資産税課税のための評価
- 競売のための評価
民間企業、個人からの依頼
- 売買の参考のための評価
- 地代、家賃を改定するための評価
- 不動産を証券化するための評価
- 会社更生法、民事再生法のための評価
- 再開発事業のための評価
以上のように、依頼主から評価依頼を受託して鑑定業を行うのが主な仕事です。
不動産鑑定士の試験および登録
不動産鑑定士になるための試験および登録の概要は以下のとおりです。詳細は国土交通省「国家試験のご案内」を確認しましょう。
受験資格
年齢、学歴など、制限はない。
試験
短答式は、不動産に関する行政法規、不動産の鑑定評価に関する理論の2科目。
論文式は、民法、経済学、会計学、不動産の鑑定評価に関する理論の4科目。
(短答式の合格者は2年間は短答式が免除となります)
実務修習
登録を受けた実務修習機関において、3種類のコースに従って実地演習などを受ける。
合格率
短答式約36%、論文式約17%、実務修習約88%。
※2021年度
登録
国土交通省において登録を行う。
勉強法
短答式はともかく、論文式は独学ではやや困難な可能性もあります。予備校等を活用するのが効率的です。
就職・転職について
勤務先は、不動産系と金融系があります。
不動産系
不動産鑑定事務所、不動産会社、建設会社
金融系
銀行資産運用会社
その他
会計系、コンサルティング系
また、本来の不動産鑑定評価業務の他、組織内で資産を生かして、総合的な不動産開発業務、資産運用等のコンサルティング業務を行うケースもあります。複合的業務では他の資格者(税理士、一級建築士等)と共同作業するケースも増えています。転職については、年齢、試験合格、経験等によって左右される可能性が大きいでしょう。
適性について
不動産鑑定士が業務を行うにあたっては、各種資料の収集、調査、分析、現地調査確認、関係者へのヒアリング、数値の取り扱い、文章でのまとめなどが必要です。
そのため、精緻さ、理論構築力、説得性ある表現力と併せて、理論的に事実を追求するのが好きな人に向いているでしょう。
また、必ず現地調査が伴うためフィールドワークが多い仕事です。向かう先は街中ばかりではありません。フィールドワーク全般が苦にならない人は、不動産鑑定士に向いています。
その他
収入については、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、その他については「公益社団法人 日本不動産鑑定士協会連合会 」「国土交通省」の各出典元をご参照ください。
求人の給与情報から集計した不動産鑑定士の年収帯
※スタンバイ掲載中の全求人データ(2017年6月時点)から作成
厚生労働省が運営する「職業情報提供サイト」によると、不動産鑑定士の年収の全国平均は584万4,000円となっています。2020年度の日本人の平均年収が433万円であることを見れば、平均よりかなり高いことが分かります。
とはいえ、東京の不動産鑑定士の平均年収が600万円を超える一方で、地方では500万円に届かない地域もあります。不動産鑑定士の年収は、地域によって大きな差があるといえるでしょう。