通関士になるには資格取得から!試験概要と詳しい業務内容について

通関士とは?

スーツ姿の男性

(出典) photo-ac.com

通関士は、貿易に関する唯一の国家資格で、輸出入者の代理人として税関に輸出入の申告や各種手続きを行う仕事です。弁護士・会計士・税理士などほかの国家資格と異なり、通関士は原則として独立開業ができないため、資格取得後は輸出入に必要な各種手続きを代行する業者である通関業者や、通関部門を自社に持つ商社などに勤務する人が大半です。

仕事内容

ある物を輸出入しようとする場合、輸出入者は、その物品の内容を国の機関である税関に申告しなければなりません。税関では、その申告をもとに物品に適正な関税を課すための判断や徴税を行います。

しかし、ビジネスとして大量に、そして頻繁に輸出入を行う企業の場合は、税関への申告を全て自社で行うのは大きな負担になります。そこで、税関への申告や手続きを代行してくれる「通関業者」に、輸出入に必要な通関手続きを任せるケースが多くなります。その実務を取り仕切るのが通関士です。

通関士が主に担当する業務は、税関に提出する書類の作成代行や、税関への申告代行です。書類には貿易用語などを英語で記載する部分もありますが、定型的な内容が多く高度な英語力までは必要としません。

申告の代行にあたっては、輸出入しようとする企業の取引書の内容をチェックし、規制や法令に照らして問題がないかどうかの確認なども行います。

さらに、税関へ正確な申告ができるよう、輸出の場合は輸出統計品目表を、輸入の場合には実行関税率表を使って物品を分類し、輸入品に対しては納税額の算出も行います。

申告後に税関から輸出入の許可が出なかった場合には、企業を代理して不服申し立てをしたり、申し立ての場で陳述を代行することも業務の1つです。行政に提出する書類の作成代行や関税などの税に関わる手続きを扱う点で、貿易分野の行政書士や税理士ともいえる役目を果たすのが通関士なのです。

なお、通関士と隣接する職種である「貿易事務」は、資格は必要ありませんが、通関士のように他人の通関業務を代行することはできません。つまり、企業で自社の輸出入に関わる書類作成や事務作業を行うのが「貿易事務職」、専門的な知識を身に付けて国家資格を取得し、通関手続きを代行するのが「通関士」ということになります。

また、一部の通関書類については通関士の審査が必要で、貿易事務職が通関手続きを進める場合でも必ず通関士を通すことになります。

将来性

通関士の需要は今後も伸びていくと見込まれます。グローバル化の進展でヒト・モノ・カネが国境を越えて移動する機会が多くなる中、今後も輸出入の取り扱い量は増え続けると予想されています。通関士と同じく貿易に関わる税関職員は、国家公務員の中で唯一定員が増加しており、国も貿易量の増大を見込んでいると考えられます。

さらに、通関業者が業務範囲の制限なく通関業を営むには、通関士を社内に置くことが義務付けられています。したがって、通関業者を通じた貿易の仕組みが変わらない限り、今後も通関士の需要がなくなることはありません。

また、貿易関係で唯一の国家資格であることから、商社や輸出入を行う事業会社では「貿易のエキスパート」として評価されることもあり、就職・転職などで有利に働くケースも多いようです。

通関士になるには?

打ち合わせをする男性

(出典) photo-ac.com

通関士になるには、まず国家試験である通関士試験に合格する必要があります。資格取得後に通関業者に就職して通関士として登録された後、実務に携わります。

通関士試験は、毎年1回、10月に実施されるのが通例です。試験の公告は例年7月に、税関のWebサイト上に掲載されます。受験資格に制限はなく、広く門戸が開かれています。2019年の合格者数は878人、合格率は13.7%で、難度の高い資格といえます。

出題方式は全問マークシート方式で、出題内容に計算問題が含まれているため計算機の持ち込みが許可されます。試験科目は関税法など法律のほか、通関手続きや書類作成などの実務に関する出題もあります。

なお、通関業者などで5年以上の実務経験がある場合には、試験科目が1~2つ免除されるため、実務経験がある場合に有利な試験といえます。

実務経験がない受験者の場合、資格試験予備校を利用する人も多いようです。なお、試験科目に法律が含まれているものの、学問的ではなく実務に則した理解を問う内容のため、大学での専攻内容が有利・不利に働くことはあまりないと考えられます。

求められるスキルや知識

データ処理

(出典) photo-ac.com

通関士になるには、どのようなスキルや知識が必要なのでしょうか?仕事をしていく上で、備えておきたい資質や能力について解説します。

事務処理能力

通関士の主な仕事は、書類作成や計算です。仕事をしていく上では、一定レベル以上の事務処理能力が求められます。パソコンを使って作業することも多く、タイピングの速度も重要です。ビジネスソフトの使用や、依頼人、税関とのビジネスメールのやりとりも考えられるでしょう。このように、パソコンスキルと計算能力は通関士に必要とされるスキルです。

性格面では、慎重にコツコツと作業ができる人に向いているでしょう。計算を間違えると、税金の金額が変わってしまいます。輸出入商品の検査業務もあり、重要な業務であることを認識し、プロ意識を持って対応することが求められるでしょう。

他者と円滑にやりとりする力

通関士は、輸出入をスムーズに行うために作業をします。依頼人だけでなく、税関とのコミュニケーションも必要です。申告内容の意図や状況を説明するには、相手が理解できるよう正確に伝えなければなりません。

もし、輸出入でトラブルが発生したときには、税関や依頼人と相談します。税関への不服申し立てや、確認作業も通関士の役割です。交渉がうまく進むかどうかは、通関士の能力にかかっています。

複数の人とコミュニケーションを取りながら作業を進める場面があるため、伝える力だけでなく、周囲の意見を聞きまとめる力も必要です。通関士には依頼人や税関が何を求めているのか把握し、素早く対応するために、高いコミュニケーション能力が求められます。

一定レベル以上の英語力

貿易業務は外国とのやりとりが多いため、英語力が必要といわれる職種です。しかし、通関士の場合は専門知識が重要で、高い語学スキルが求められるシーンはあまり多くありません。

とはいえ、書類には専門的な英単語が記載されていることもあり、最低限の語学スキルは必要です。義務教育で習う基本的な英語の知識と、専門用語の把握が求められるでしょう。

英単語を見ることにも抵抗がある・中学校レベルの文法が分からないなど、極端な問題がなければ通関士の仕事は可能です。多くの場合、業務を進めながら経験を積み、必要な英語スキルも伸ばせます。

求人の給与情報から集計した通関士の年収帯

通関士の求人の給与情報から、通関士の年収帯を独自に集計しました。以上のグラフの通り、年収400万円台がもっとも多く、約35%を占めています。

続いて300万円台が約29%、500万円台が約18%となっています。日本人の平均年収が男性532万円、女性が293万円で男女合わせると433万円(2020年分 民間給与実態統計調査より)なので、通関士という職種は、平均的な給与をもらえる職業であると類推できます。

通関士は原則的に独立開業できず会社員として勤務している場合がほとんどで、資格取得により手当が付加されるケースがあるようです。

通関士の求人は?

デスクワークする女性

(出典) photo-ac.com

通関士の有資格者の就職先としては、通関業者や輸入品を扱う商社、輸出品のあるメーカーなどが挙げられます。

通関業者に就職する場合は、海外を相手にする貿易に携わる性質上、交代勤務などの変則的な勤務体系のケースもあります。体力面を心配する人もいるようですが、通関士として活躍している女性も多く、性別に関係なく働くことのできる職種のようです。

なお、通関士の資格を取得して経験を積むと、通関業者以外の貿易関連の事業会社への転職も有利になるとされています。

通関業者以外の事業会社に就職する場合は、貿易のスペシャリストとして商社やメーカーの通関部門で働く場合が多いようです。また、貿易に関する税の専門家として、税務事務所や税に関するコンサルティング会社などが求人を出すケースも見られます。

通関士資格の取得者には実務経験者が多いことから、いずれの場合も貿易関連業務の経験者向けの求人が多い傾向にあります。

未経験の場合には、貿易事務職を手がかりに経験を積むことや、貿易に関する民間の検定試験「貿易実務検定」にて資格を取得してアピールすることも検討してみましょう。

貿易実務検定®|貿易実務のエキスパートの証明

出典: 
公益社団法人日本関税協会「通関士ポータル」
税関「通関士試験」
通関士試験受験者数及び合格率等の推移(第1回~第54回)|税関 Japan Customs
国税庁「令和2年分 民間給与実態統計調査」