転職先を早めに探したいなら、失業保険の残り分の一部を就職後にもらえる再就職手当を知っておきましょう。具体的な要件や手続き方法を理解すれば、申請手続きをスムーズに進めることが可能です。受給要件や計算方法について詳しく解説します。
再就職手当とは
退職後に一定条件をクリアすれば、再就職手当を受け取れる可能性があります。まずは、制度の概要や就業促進定着手当について知っておきましょう。
再就職時に手当を受け取れる制度
再就職手当とは、再就職時に手当をもらえる制度です。失業手当の受給資格が決まった後、早期に安定した職業に就いた場合に支給されます。
失業手当をもらえることが決まったら、満額受け取らなければもったいないと考える人もいるでしょう。受け取れなかった失業手当の一部をカバーし、より早期の再就職を促す目的で、制度が設けられました。
再就職手当は、再就職の時期が早いほどもらえる金額も多くなる仕組みになっています。早期に転職できれば、早くから安定した給料がもらえる上に手当も受け取れるため、失業保険を満額受け取ってから転職するより得をする可能性が高くなるのです。
就業促進定着手当が支給されることも
再就職手当の支給を受けた場合に一定の条件を満たせば、就業促進定着手当が支給されるケースもあります。就業促進定着手当とは、転職先の賃金が離職前の賃金より低い場合にもらえる可能性がある手当です。
就業促進定着手当を受け取るためには、転職日から同じ職場で半年以上勤務し続けなければなりません。雇用保険に加入していることも条件です。
賃金を比較する際は、半年間の賃金の総額ではなく、日額を比較しなければならない点に注意しましょう。離職前と再就職後の賃金日額の差に、再就職後半年間の賃金支払基礎日数を掛けた金額が、就業促進定着手当でもらえる金額となります。
再就職手当の受給要件
再就職手当を支給してもらうには、8要件をクリアする必要があります。もらえるかどうか判断しにくいケースについても理解しましょう。
9要件全てを満たす必要がある
再就職手当には9個の受給要件があり、手当を受け取るためには全ての要件を満たさなければなりません。9要件の内容は以下の通りです。
- 失業手当の給付日数が就職日の前日までに1/3以上残っている
- 1年を超えて勤務することが決まっている
- 失業手当の受給手続きを行った日から7日間の待機期間満了後に就職している
- 前職とは関係のない会社に就職している
- 原則として雇用保険の被保険者になっている
- 過去3年以内に再就職手当または常用就職支度手当をもらっていない
- 失業手当の受給資格決定後に内定が決まっている
- 自己都合退職で待機期間満了後1カ月以内に就職している場合は、ハローワークまたは人材紹介会社経由で就職している
- 再就職手当の支給決定の日までに離職していないこと
条件の中に出てくる常用就職支度手当とは、身体障害者や知的障害者など就職が困難な人の常用就職を促進するための制度です。
参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~|厚生労働省
会社都合退職で給付制限がない場合
再就職手当を受給する際は、退職理由により就職の経路を制限されるケースがあることに注意しましょう。会社都合退職と自己都合退職では、就職の経路に関するルールが異なります。
倒産や解雇などにより離職を余儀なくされた会社都合退職で、失業手当の給付制限がない場合は、7日間の待期期間経過後であれば、受給にあたり経路は問われません。
受給要件を全て満たしていれば、ハローワークや職業紹介事業者の紹介以外に、知人の紹介や新聞広告を経由した就職でも受給の対象となります。職業紹介事業者とは、民間企業が運営する人材紹介会社や転職エージェントのことです。
自己都合退職で給付制限がある場合
自己都合による退職で失業手当の給付制限がある場合、求職の申し込みをしてから7日間の待機期間が終わって1カ月以内は、ハローワークまたは職業紹介事業者の紹介で就職しなければ再就職手当をもらえません。
待機期間満了後1カ月を過ぎて就職した場合は、就職の経路を問わずに受給対象となります。知人の紹介や新聞広告で就職しても、受給可能です。
自己都合で退職した後にもらう場合も、9要件の全てを満たさなければなりません。給付制限により失業手当をもらえない時期があることも、併せて注意が必要です。
派遣社員でも受給される?
派遣社員・パート・アルバイトとして再就職する場合は、再就職手当を受け取れない恐れがあります。受給条件の1つ『1年を超えて勤務することが決まっている』を証明しにくいためです。
ただし、長期で働ける可能性があることを契約書で証明できれば、有期雇用でも受給を認められるケースがあります。正社員以外の雇用形態で転職する場合は、勤務期間を確かめておきましょう。
非正規雇用で再就職手当を受け取れない場合も、『就業手当』をもらえるチャンスがあります。就業手当とは、失業手当を受給している人が契約期間1年未満の非正規雇用で就職する際、一定の条件を満たすことで受け取れる手当です。
再就職手当をもらえないケースとは?
再就職手当は全ての受給要件を満たさなければ受け取れません。受給を申し込む際は、要件を1つずつチェックする必要があります。
受け取れないケースでありがちなのが、失業手当の支給残日数をクリアしていないケースです。退職理由により失業手当の給付日数は異なるため、自分がもらえる失業手当の日数や給付開始日をきちんと確認しておくことが大切です。
なお、再就職手当の支給開始後すぐに離職して失業状態となった場合、受給期間を一定期間延長し、支給残日数分を離職後に失業手当として受け取れる場合があります。
再就職手当はいくらもらえる?
具体的な計算方法
再就職手当の計算式は、「基本手当日額×支給残日数×支給率」です。基本手当の所定給付日数の1/3以上を残して就職した場合は支給率が60%、2/3以上を残した場合は支給率が70%になります。
基本手当日額は、雇用保険受給資格者証の「基本手当日額」に記載されている金額です。基本手当日額には上限が設定されており、毎年8月1日に改定されます。
雇用保険受給資格者証とは、失業手当の受給資格を証明する書類です。ハローワークで失業手当の受給手続きを行った後、改めて実施される雇用保険説明会で渡されます。
再就職が早いほど金額もアップする
再就職手当は、早期に再就職したことによりもらえなかった分の失業手当を、60%または70%の割合で支給する仕組みの制度です。再就職のタイミングが早ければ、受給金額も多くなるような計算式となっています。
基本手当日額5000円で失業手当の所定給付日数が90日の場合を考えてみましょう。失業手当の支給残日数が59日なら支給率は60%となるため、支給額は「5000円×59日×60%=17万7000円」です。
一方、残日数が60日の場合は2/3以上を残すことになるため、「5000円×60日×70%=21万円」を受け取れます。2/3以上の日数を残せれば、より多めに手当をもらえることが分かるでしょう。
再就職手当の申請手続き方法
再就職手当をもらうための手続きの流れを解説します。必要書類と申請期限も押さえておきましょう。
必要書類
再就職手当をもらうために最初に準備すべき書類は、「採用証明書」「失業認定申告書」「雇用保険受給資格者証」の3種類です。
採用証明書は、失業手当の申請時にハローワークから渡される『雇用保険受給資格者のしおり』に同封されています。失業認定申告書は、雇用保険説明会で雇用保険受給資格者証と一緒に渡される書類です。
採用証明書と失業認定申告書を紛失してしまったら、ハローワークのホームページからダウンロードできます。雇用保険受給資格者証が見当たらない場合は、ハローワークに再発行してもらいましょう。
申請の流れ
転職先から内定をもらった場合、まずはハローワークにその旨を報告しなければなりません。転職先には採用証明書を記入してもらっておきましょう。
就職日の前日になったら、ハローワークで最終の失業認定を受け、同時に採用証明書・失業認定申告書・雇用保険受給資格者証を提出します。ハローワークに行けない場合は郵送での提出も可能です。
最終の失業認定を受けたときには、「再就職手当支給申請書」をもらいます。就職後、転職先に申請書を記入してもらい、ハローワークに提出して申請を行えば手続きは完了です。
申請期限
雇用保険施行規則では、再就職手当の支給申請期限を、転職日の翌日から1カ月以内と定めています。
ただし、期限に間に合わなかった場合でも時効が完成するまでの2年以内なら申請を受け付けてもらえます。就職直後で仕事が忙しい人も慌てる必要はありません。
就業手当や就業促進定着手当など、雇用保険におけるほかの給付も2年間は待ってもらえる可能性があります。
再就職手当の受け取り時期
再就職手当は数十万円もの大きな金額になることもあるため、もらえるタイミングが気になる人もいるでしょう。一般的な受け取り時期について解説します。
再就職から約1カ月後
再就職手当を受け取れるタイミングは、再就職してから約1カ月後です。支給前にハローワークから支給決定通知書が送られてきたら、届いた日から約7~10日後にもらえます。
ただし、人によってはハローワークから約1カ月後に在籍確認の電話を受けることがあります。確認の電話があった場合は、電話を受けてから約7~10日後に入金されるのが一般的です。
手続きが遅れると受け取れる時期も遅くなるため、申請手続きはできるだけスムーズに進めましょう。
就職が決まったら再就職手当の手続きを
再就職手当は、一定の条件を満たすことで再就職時に手当をもらえる制度です。職業に就く時期が早いほど、もらえる金額もアップします。
失業手当の支給開始時期・期間などをしっかりと確認し、確実に手当がもらえるように申請を行いましょう。
就業規則など社内諸規程作りのプロフェッショナル。人事労務コンサルタント・特定社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。企業人時代を含め通算24年の人事コンサルを経験。一部上場企業から新設企業までを支援。セミナー講師、雑誌・書籍の執筆実績も多数。
All Aboutプロフィールページ
公式サイト