職場の上司からハラスメントを受けていると感じているなら、種類や対処法を知りましょう。自分の現状と照らし合わせて考えれば、環境を変えられるかもしれません。職場で起きやすいハラスメントの種類や対策を紹介します。
この記事のポイント
- ハラスメントとは
- ハラスメントとは、不快感や不利益を与えて相手の尊厳を傷つける行為のことです。ハラスメントの種類は50以上あるとも言われます。
- 代表的なハラスメント
- パワハラ(権力や上下関係を用いた行為)・セクハラ(性的な嫌がらせ)・アルハラ(飲酒に関するもの)などが挙げられます。
- ハラスメントへの対処法
- 被害を受けている場合は、被害の内容を記録しておくのがおすすめです。状況のメモや動画撮影、医師の診断書も証拠として有効です。
ハラスメントとは?
ハラスメントとはどのような意味を持つ言葉なのでしょうか。まずは、ハラスメントの概要と現状について解説します。
相手の尊厳を傷つける行為
ハラスメントとは、不快感や不利益を与えて相手の尊厳を傷つける行為のことです。『嫌がらせ』や『いじめ』とも言い換えられます。
行為者の意図に関わらず、相手が不快な思いをしたり不利益を被ったりすれば、全ての行為がハラスメントになり得ます。ただし必要かつ相当な範囲で行われる行為なら、基本的にハラスメントではありません。
ハラスメントの種類は30以上あるとも、50以上あるとも言われます。職場で起きやすい代表的なハラスメントが、パワーハラスメント・セクシュアルハラスメント・マタニティハラスメントです。
増え続けるハラスメント
経団連が公表する2021年の調査結果によると、パワーハラスメントの相談件数は5年前に比べ4割超の企業で増加しています。「減った」と回答した企業の割合が16.3%であるのに対し、「増えた」と回答した企業の割合は44.0%です。
厚生労働省の資料でも、ハラスメント相談件数の推移が分かります。2020(令和2)年度における総合労働相談件数のうち、「民事上の個別労働紛争の相談」「助言・指導申出」「あっせん申請」の項目において、「いじめ・嫌がらせ」の件数が7~9年連続で最多です。
これらのデータから、職場で発生するハラスメント問題の件数は、近年増加傾向にあることが分かるでしょう。
参考:パワハラ相談件数 4割超の企業で増加 - 日本人材ニュースONLINE
参考:「令和2年度個別労働紛争解決制度の施行状況」を公表します P1 | 厚生労働省
代表的なハラスメント「パワーハラスメント」
職場で最も発生しやすいハラスメントが、権力や上下関係を用いた行為「パワーハラスメント」(パワハラ)です。厚生労働省がまとめた資料によると、主に以下の6類型に分けられます。
参考:みんなでなくそう!職場のパワーハラスメント | 厚生労働省
精神的な攻撃
パワーハラスメントに該当する行為類型の一つに、「精神的な攻撃」があります。脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言など、相手の人格を否定しかねない行為のことです。
具体的には社員がいる前で叱責したり、ほかの社員も目を通せるメールで罵倒したりする行為が該当します。長時間に渡って繰り返し叱る行為も、精神的な攻撃とみなされる行為です。
精神的な攻撃によるパワーハラスメントは、原則として業務の適正な範囲を超えた行為であると考えられます。
身体的な攻撃
殴ったり蹴ったりして相手の体に暴行を加える行為は、「身体的な攻撃」としてパワーハラスメントに該当します。物を使って危害を加える場合も同様です。
長時間正座をさせる行為や胸ぐらをつかむ行為も、身体的な攻撃とみなされます。投げた物が当たらなかったケースのような間接的な暴行も対象です。
身体的な攻撃による行為は、業務の遂行に関係する場合でも業務の適正な範囲には含まれません。パワーハラスメントとして認められやすくなります。
過大な要求
行為類型の「過大な要求」とは、明らかに不要な業務や遂行不可能な業務を強制することです。
過大な要求の例としては、未熟な新人社員に満足な教育を行わないまま、達成し得ない業績目標を課すケースが挙げられます。処理できないほどの仕事を任せたり、業務の邪魔をしたりすることも、過大な要求に該当する行為です。
過大な要求は、精神的な攻撃や身体的な攻撃を伴いやすい特徴があります。行為が業務の適正な範囲を超えるかどうかは、業種や企業文化に左右されるため、判断をしにくい点がポイントです。
過小な要求
本人の能力や経験から著しくかけ離れた、レベルの低い仕事をさせることが、行為類型の「過小な要求」です。仕事を全く与えない行為も該当します。
退職させるために生産性がない仕事への配置転換を命じたり、業務上の合理的な理由がないのに自宅待機を命じたりする行為は、過小な要求の代表例です。
過大な要求と同様に、業務の適正な範囲が業種や企業文化に影響されるため、パワーハラスメントかどうか簡単には判断できません。
人間関係からの切り離し
特定の人に対し隔離・仲間外し・無視といった行為を行うと、「人間関係からの切り離し」の行為類型としてみなされる可能性があります。
例えば、1人の従業員を同僚が集団で無視したり、特定の人を個室に隔離して仕事をさせたりするケースが考えられるでしょう。1人だけ宴席に呼ばないといった状況も、人間関係からの切り離しに該当します。
精神的な攻撃と人間関係からの切り離しは、パワーハラスメントかどうかの考え方が同じです。いずれの行為も、原則として業務の適正な範囲を超えていると考えられます。
個の侵害
「個の侵害」とは、個人のプライベートな領域に過度に立ち入る行為です。相手の私物を勝手に写真撮影したり、相手を職場以外で継続的に監視したりする行為が該当します。
交際相手の有無を聞くことや信仰している宗教の悪口を言うことも、個の侵害とみなされます。女性に対する個の侵害は、セクシュアルハラスメントにもなりかねません。
過大な要求や過小な要求と同じく個の侵害に関しても、何が業務の適正な範囲を超えるのかは業種や企業文化によります。行為が行われた状況や行為の継続性にも左右されます。
職場で起きやすいハラスメント例
ハラスメントにはパワーハラスメント以外にもさまざまな種類が存在します。職場で起きやすい代表的なハラスメントを覚えておきましょう。
セクシュアルハラスメント
「セクシュアルハラスメント」(セクハラ)とは性的な嫌がらせのことです。身体的な接触によるものだけでなく、言葉による嫌がらせも含まれます。
行為者が男性で被害者は女性であることが一般的と思われがちですが、男女が逆のケースや同性同士のケースもあります。
セクシュアルハラスメントは対価型と環境型に大きく分けられます。対価型は、性的な言動に対して拒否・抵抗した従業員が、減給・降格・解雇されることです。
一方の環境型は、労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、その労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
マタニティハラスメント
妊娠・出産・子育てを理由に嫌がらせや不当な扱いをする行為が「マタニティハラスメント」(マタハラ)です。
子どもができて働けなくなった女性従業員に対し、退職を迫ったり給料を減らしたりする行為が該当します。不妊治療を否定する言動もマタニティハラスメントです。
出産や子育てに関する制度利用を阻害する行為も含まれます。産休や育休は男性も取得できるため、マタニティハラスメントの被害は男性にも起こり得ます。
ジェンダーハラスメント
「ジェンダーハラスメント」(ジェンハラ)は、性についての固定観念や差別意識が引き起こす嫌がらせ・不当行為です。
女性にだけお茶くみ業務を行わせたり、男性にだけ力仕事を任せたりすることは、ジェンダーハラスメントになる可能性があります。採用に関するルールに男女差を設けるのも、ジェンダーハラスメントに該当する行為です。
「男ならお酒を飲めなければだめだ」「女性ならもう少し気を利かせなさい」など、男らしさや女らしさを強要する発言も含まれます。性別への偏見から、本来の価値や能力を正しく判断されないことが、ジェンダーハラスメントによる大きな弊害です。
アルコールハラスメント
飲酒に関するハラスメントは全て、「アルコールハラスメント」(アルハラ)として扱われる可能性があります。
例えば、飲酒や一気飲みを強要したり意図的に酔いつぶしたりするのは、アルコールハラスメントになる行為です。酒を飲めない人に無理やり酒を勧めることも該当します。
酒を飲ませる行為だけでなく、酒に酔って迷惑行為を行うのもアルコールハラスメントです。酒席で酔っぱらって、怒鳴り散らしたり暴力を振るったりするなどの行為が考えられます。
リストラハラスメント
「リストラハラスメント」(リスハラ)は、リストラ対象者に嫌がらせや不当行為を行うハラスメントです。リストラ対象者を自主退職に追い込む目的で行われます。
本人が望まない部署や経験を生かせない部署に異動を命じたり、到底終わらせられない量の業務を押し付けたりするのが、リストラハラスメントの主な行為です。自主退職をしつこく迫る発言も該当します。
リストラハラスメントは、場合によってはパワーハラスメントやモラルハラスメントとみなされるケースもあるでしょう。嫌がらせを受けている本人は、会社を敵に回していることになるため、社内で相談しにくい点がポイントです。
モラルハラスメント
「モラル=倫理・道徳」に反した嫌がらせのことを「モラルハラスメント」(モラハラ)といいます。陰湿な行為により精神的なダメージをじわじわと与えるハラスメントです。
無視・暴言・にらみつけ・不機嫌・軽蔑など、相手を不快にするさまざまな言動がモラルハラスメントに該当します。直接暴力を振るっているわけではないため、外から判断しにくいことが特徴です。
モラルハラスメントは、パワーハラスメントの精神的な攻撃と似ています。パワーハラスメントの背景には優越的な関係があるのに対し、モラルハラスメントは地位や権力といった優位性がなくても起こり得る行為です。職場だけでなく家庭でも発生します。
ケアハラスメント
介護に関するハラスメントが「ケアハラスメント」(ケアハラ)です。働きながら介護を行う従業員に対し、嫌がらせや不利益な言動を行う行為を指します。
介護休暇を頻繁に取得している人に嫌味を言ったり、介護のために休んだことで降格を命じたりすることが代表例です。介護従事者が介護サービス利用者やその家族から嫌がらせを受けることも、ケアハラスメントの一種です。
ハラスメントが起きる原因とは?
ハラスメントはどのようなことが原因で起こるのでしょうか。ハラスメントが発生しやすい職場の特徴や、多くの行為者に共通する意識について知っておきましょう。
職場環境や雰囲気の悪さ
ハラスメントが起きやすい職場は、環境や雰囲気が悪い傾向があります。行為者自身が原因でハラスメントが起こるのではなく、職場自体に問題があるのです。
現場責任者の権限が強過ぎたり、業務においてミスが許されない雰囲気であったりする場合は、ハラスメントが発生しやすくなります。組織の目標設定が従業員の能力に見合っていないケースも同様です。
企業側がハラスメント対策のための制度を整えていない場合も、ハラスメントの問題が解消しにくくなります。ハラスメントの増加が社会問題化している一方で、ハラスメントを減らす取り組みを全く行っていない企業も一定数存在するのです。
ハラスメントへの意識の違い
ハラスメントが起きる原因には、ハラスメントに対する意識が人によって違うことも挙げられます。ある人が嫌がらせだと感じていることを、全ての人が同様に感じているとは限りません。
ハラスメントの問題が発生したときにありがちなのが、「自分は嫌がらせをしたつもりはない」という行為者の発言です。この言葉には、自分の考え方や価値観が誰にでも通用するとは限らないという認識が欠如しています。
ハラスメントの行為者になりやすいマネジメント層の中には、そもそもハラスメントについて理解していない人がいるのも実情です。ハラスメントへの意識が違う人同士が当事者になれば、問題が発生しやすくなってしまいます。
ハラスメントへの対処法
ハラスメントで悩んでいる人が検討すべき対処法を紹介します。嫌がらせや不当な扱いを受けて困っているなら、解決に向けて行動に移しましょう。
受けた被害の内容を記録する
ハラスメントの被害を受けている場合は、被害の内容を記録しておくのがおすすめです。後から相談したり訴えたりする際の証拠になります。
被害の内容を記録する際は、日時・相手・状況をメモに残しておきましょう。被害の内容や背景、自分の気持ち、心身の状態を書いておくことも重要です。
被害を受けている最中に録音や動画撮影ができるなら、証拠としてかなり有力なものになります。体調を崩している場合は、医師の診断書をもらっておくのも効果的です。
周囲や外部に相談をする
ハラスメントで悩んでいるなら、1人で抱え込まず周囲や外部に相談するのも1つの方法です。まずは自分に近い場所から相談相手を探してみましょう。
最初に相談すべき相手は同僚や上司です。身近な人が親身になって動いてくれれば、問題が大ごとにならずに済みます。周囲の人に相談できる状況でない場合は、会社の相談窓口や人事部を頼ってみましょう。
会社で誰にも相談できないなら、労働基準監督署の総合労働相談コーナーに足を運ぶのがおすすめです。ハラスメントが悪質なケースや各相談窓口でも対応しきれないケースでは、ハラスメント問題に強い弁護士に相談しましょう。
問題視されるハラスメントへの法律も施行
ハラスメントが社会問題にまで発展していることを受け、国もハラスメント対策のために法律を整備しています。主な関連法について理解しておきましょう。
労働施策総合推進法
働き方改革の一環として雇用対策法を改正した法律が「労働施策総合推進法」です。パワーハラスメント対策が盛り込まれているため、「パワハラ防止法」とも呼ばれています。
労働施策総合推進法では、パワーハラスメントの防止措置を講じることを企業に義務付けています。セクシュアルハラスメントに関する対策が強化されている点もポイントです。
労働施策総合推進法に違反しても罰則はありません。ただし、必要な措置を行わなかった企業は公表される可能性もあるため、社会的な信頼性を失ってしまうリスクがあります。
育児・介護休業法
マタニティハラスメントとケアハラスメントへの防止措置を講じるよう企業に義務付けているのが『育児・介護休業法』です。2021年6月に改正されました。
妊娠・出産・育児や介護に関する休業を取得した従業員に対し、企業が不利益な取り扱いをしないように定められています。
上司や同僚にも、就業環境を害する行為を行わないように、企業が防止措置を講じなければなりません。「お互い様精神」の職場風土の醸成が、育児・介護休業法の主な目的です。
男女雇用機会均等法
「男女雇用機会均等法」は、セクシュアルハラスメントとマタニティハラスメントに関する法律です。2020年に改正が実施され、セクシュアルハラスメントの防止対策が強化されています。
「性的な言動」の範囲を取引先や顧客にまで拡大したことが、改正の大きなポイントです。職場だけでなく、取引先や顧客から被害を受ける「カスタマーハラスメント」に関しても、リスク対策の一助になることが期待されています。
改正後の男女雇用機会均等法では、ハラスメント対策の方針を明確化し従業員に周知・啓発することも、措置義務として企業に課しています。
ハラスメントは1人で悩まず相談を
企業ではさまざまなハラスメントが発生しており、近年は相談件数が増加傾向にあります。職場環境の悪さや意識の違いが、ハラスメントを発生させる主な原因です。
ハラスメント増加の社会問題化を受け、関連法の整備も進んでいます。ハラスメントの被害を受けていると感じたら、1人で悩まずに周囲や外部へ相談しましょう。
慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
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