残業代が適切に支払われていないと考えているなら、正しい金額を計算してみましょう。未払い分を確認できれば、会社に請求することが可能です。残業代の正しい計算方法や割増賃金が発生する条件、未払い請求のポイントを解説します。
残業の定義とは?
残業代についてしっかりと理解するためには、2種類の労働時間を知っておかなければなりません。まずは、労働時間・残業・残業代の具体的な意味を解説します。
所定労働時間を超えて働くこと
労働時間には、「法定労働時間」と「所定労働時間」の2種類があります。労働基準法で定められている労働時間の上限が法定労働時間、就業規則で企業ごとに定められた労働時間が所定労働時間です。
法定労働時間は、1日8時間・週40時間と決められています。所定労働時間は、原則として法定労働時間内に収めなければなりません。
残業の定義は、所定労働時間を超えて働くことです。例えば、勤務時間が6時間と決められている企業で8時間働いた場合、法定労働時間を超えて働いてはいませんが、2時間残業したことになります。
残業代は「時間外労働に対し支払われる賃金」
所定労働時間や法定労働時間を超えて働くことを、時間外労働といいます。時間外労働に対して支払われる賃金が、残業代です。
就業規則で勤務時間が7時間と定められている場合、8時間働くと1時間分の残業代が発生します。法定労働時間を超過していなくても、所定労働時間を超えて働いているなら、残業代が発生することがポイントです。
そもそも、原則として法定労働時間を超えた労働は認められていません。法律で定められた労働時間を超えて企業が従業員に働いてもらいたい場合は、労働基準法第36条に基づく労使協定(通称:36協定)の締結と、所轄労働基準監督署長への届出が必要です。
参考: 時間外労働の上限規制わかりやすい解説|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
残業の種類を整理しよう
残業にはいくつかの種類があり、状況によっては残業代に割増賃金が加算されます。それぞれの具体的な決まりを覚えておきましょう。
法定内残業と法定外残業の違い
残業の種類は、「法定内残業」と「法定外残業」の2つに大別できます。法定労働時間内の残業が法定内残業、法定労働時間を超えた分の残業が法定外残業です。
勤務時間が7時間の企業で9時間働いたケースでは、最初の1時間の残業は法定内残業として扱われます。残りの1時間は上限8時間を超えているため、法定外残業です。
法定内残業で発生する残業代は、時給に残業時間を掛けた分だけの賃金で済みます。一方、法定外残業分の残業代は、原則として割増率「25%」の割増賃金を上乗せして支払わなければなりません。
なお、週の労働時間が40時間以内に収まっていたとしても、8時間を超えて働いた日があるなら法定外残業とみなされます。例えば、週1日のみ10時間働いた場合、その週の法定外残業は2時間です。
22~5時の労働は深夜労働
深夜に仕事をした場合は、通常の賃金に25%増しの深夜手当が加算されます。深夜とみなされる時間帯は「22~5時」です。
深夜労働と法定外残業が重なるケースでは、割増も重複して計算する必要があります。それぞれの割増率が25%ずつ加算されるため、割増率50%の割増賃金が上乗せされるのです。
大企業では、1カ月60時間を超える法定外残業の割増率が50%であることから、深夜労働が重なると割増率は75%になります。割増率50%のルールは、中小企業でも2023年4月1日から適用されます。
法定休日の労働は休日労働
法定休日に働く休日労働では、35%増しの休日手当が加算されます。法定休日とは、労働基準法により週1日以上設定しなければならない休日のことです。
休日労働は、時間外労働の延長にある労働形態と見なされます。休日労働が8時間を超えても、割増率は35%のままです。ただし、休日労働と深夜労働が重なった場合、割増率は35%+25%=60%となります。
また、法定休日に働いた後『代休』を取得するケースでも、休日労働を行ったことになります。法定休日に仕事をした事実は変わらないためです。
残業代の計算方法
残業代は、どのように計算すれば分かるのでしょうか?算出方法を詳しく理解し、自分の状況に当てはめて計算してみましょう。
残業代の計算式は「時給×割増率×労働時間」
残業代を計算する前に、賃金を月給でもらっている場合は、時給に換算しておく必要があります。時給の計算式は「月給÷1日の所定労働時間÷1カ月の所定労働日数」です。
月給30万円、所定労働時間6時間、所定労働日数25日のケースで考えてみましょう。計算式に当てはめると、時給は「30万円÷6時間÷25日=2000円」となります。
そして、残業代の計算式は「時給×割増率×残業時間」です。上記のケースで法定外残業が25時間あった場合、残業代は「2000円×1.25×25時間=6万2500円」と計算できます。
残業の種類により割増率が異なる
残業代の計算式で用いる割増率は、残業の種類により異なります。働き方に応じた割増率を、以下の表で確認しましょう。
働き方 | 割増率 | 備考 |
---|---|---|
法定内残業 | 0%(1倍) | 1日8時間、週40時間以内 |
法定外残業 | 25%(1.25倍) | 1日8時間、週40時間超 |
深夜労働 | 25%(1.25倍) | 22~5時の労働 |
休日労働 | 35%(1.35倍) | 法定休日の労働 |
法定外残業+深夜労働 | 50%(1.5倍) | |
法定外残業+休日労働 | 35%(1.35倍) | 35%(1.35倍) |
深夜労働+休日労働 | 60%(1.6倍) | |
1カ月60時間超の労働 | 50%(1.5倍) | 2023年3月31日までは大企業のみ |
残業代に含まれない手当もチェック
月給を時給に換算する際は、月給に含んではならない手当を除外しなければなりません。時給換算の計算時に含めない主な手当は以下の通りです。
- 通勤手当
- 住宅手当
- 家族手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 慶弔金
- 賞与
仕事との関連性が低く、個人的事情に基づいて支払われる手当は、時給の計算に含めません。一方、役職手当や資格手当など『仕事に関係する手当』は、残業代に含めることが可能です。
実際に時給を計算する際は、各種手当の実態に即して判断します。例えば、『一律の金額』で支給される場合の通勤手当においては、通勤距離に応じたものではないため時給計算に含まれます。
残業代計算に関する注意点
各種制度が適正に運用されているような場合は、残業代を請求できないケースがあることを知っておきましょう。みなし残業で超過分を請求できるケースについても解説します。
残業代を請求できないケースがある
外回りの営業で勤務時間を正確に把握できない場合は、労働時間を一定時間とみなす『みなし労働時間制』を適用できます。みなし労働時間制が適切に運用されているなら、残業代は請求できません。
労働時間が労働者の裁量に委ねられている「裁量労働制」が適用されるケースでも、契約に定められた労働時間を超えなければ、残業代の請求は不可です。
また、法定労働時間のルールになじまないとされている業務でも、個別の残業代計算は行われません。例えば、農作物の栽培や動物の飼育など、天候や自然条件に左右される業務が該当します。
みなし残業は超過分を請求可能
あらかじめ想定された残業を「みなし残業」といいます。求人情報で「30時間分の残業代を含む」のような記載を見たことがあるでしょう。みなし残業代は、手当として支給されるのが基本です。
実際の残業代がみなし残業手当を超えた場合は、超過分を請求できます。休日出勤や深夜労働で割増分が発生するなら、割増分を上乗せした残業代での計算が可能です。
なお、実際の残業代がみなし残業手当の金額に満たないケースでも、手当は満額支払われます。満たなかった残業時間が繰り越されることもありません。
残業代が正しく支払われない場合の対処法
支払いを受けていない残業代があると判断したら、未払い分を請求するための行動に移りましょう。適正な残業代を支払ってもらうための対処法を解説します。
証拠を集める
未払いの残業代を請求するためには、まず最初に証拠を集めましょう。残業代がきちんと支払われていないことを、立証する必要があるためです。有力な証拠として使える代表的なものは、以下の通りです。
- タイムカード
- 業務日報
- パソコンのログイン記録
- メールの送受信履歴
- タクシーの領収書
残業代の正確な計算を行うためには、雇用契約書や就業規則も準備しておきましょう。給与明細書や源泉徴収票など、収入が分かる書類も必要です。
証拠が集まらなければ、未払い分の請求はうまくいかないでしょう。未払い残業代を増やし続けないためにも、早めに証拠を集めることが重要です。
未払い残業代の相談先
証拠集めが終わったら、未払い残業代があることを外部に相談しましょう。厚生労働省の出先機関である「労働基準監督署」なら、労働問題に関するさまざまな相談に乗ってくれます。
労働局や労働基準監督署内に設置されている「総合労働相談コーナー」や、全労連により運営されている「労働相談ホットライン」に連絡してみるのもおすすめです。
また、社会保険労務士や弁護士といった、労働分野や法律のプロに相談する方法もあります。ほとんどの相談先は電話やメールでアプローチできるため、連絡しやすい相談先から話をしてみましょう。
残業代請求は3年
残業代を請求する際は、時効に注意しなければなりません。法律で定められた時効を迎えると、未払い賃金の請求権が消滅してしまいます。
労働基準法が改正されたことにより、2020年4月1日以降は未払い残業代の時効が2年から3年に変わりました。2022年4月1日からは、2年超さかのぼって未払い賃金を請求できるようになります。
なお、3年と決められた消滅時効は、当面の経過措置として適用されるルールです。民法における債権の消滅時効期間とともに、労働基準法の残業代請求の時効も5年に延長されています。
残業代が適切に支払われているか確認しよう
法定労働時間を超えた分の残業代や、深夜労働・休日労働で発生した残業代には、割増分が加算されます。残業代を計算するには、まず月給から時給に換算し、計算式に当てはめて割り出しましょう。
また、みなし残業手当をもらっている場合も、超過分を請求することが可能です。残業代が適正に支給されているかチェックし、正しく支払われていないなら証拠を集めて外部に相談しましょう。
労務トラブルを未然に防ぐ社会保険労務士・行政書士。行政書士法人グローアップ代表、社会保険労務士法人トップアンドコア役員。大学卒業後、日本マクドナルドに入社。幅広い年齢層と共に働くことで、法律や制度だけではない労務管理・組織運営に興味を持ち、弁護士事務所等で経験を積む。自身も喫茶店を経営した経験から、労務トラブル予防の労務相談を得意とする。
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