パワハラが原因の退職。辞める前にすべきことや注意点を解説

上司や先輩からのパワハラに耐え切れず、退職を考えている人もいるかもしれません。それでは、パワハラが原因で退職した場合、退職理由はどうなるのでしょうか?パワハラで退職する際の注意点や、辞める前にやっておくべきことについて詳しく解説します。

パワハラで退職は自己都合?会社都合?

パワハラする上司

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退職する理由には、自己都合と会社都合の2種類があります。パワハラによる退職は、どちらの理由として扱われるのでしょうか?

退職理由の違いは失業保険の受給に影響するため、しっかり確認しておくことが大切です。パワハラと退職理由の関係について、詳しく見ていきましょう。

パワハラが認められれば会社都合

退職の理由が明らかにパワハラだと認められた場合は、原則として会社都合による退職です。

厚生労働省の「パワーハラスメントの定義について」では、職場でのパワハラの定義として以下の3つが挙げられています。

  • 優越的な関係にもとづいて行われること
  • 業務の適正な範囲を超えて行われること
  • 身体的もしくは精神的な苦痛を与えること、または就業環境を害すること

パワハラは労働者側の責任ではなく、雇用主側の責任とみなされるので、パワハラによって退職を余儀なくされた場合は、会社都合での退職となるのです。

しかし、パワハラによる会社都合の退職となると、雇用主に責任があると認めることにもなるため、会社側にとっては都合が悪くなります。

そのため、退職を申し出たところ、自己都合退職を促されたというケースも少なくありません。

参考:パワーハラスメントの定義について|厚生労働省

自己都合と会社都合の失業保険給付の違い

自己都合と会社都合による退職では、失業保険の受給開始日が異なります。 会社都合で退職した場合、失業保険の受給手続きを行った日から7日間の待期期間の後、すぐに受給が始まるのが基本です。

しかし、自己都合退職の場合は7日間の待期期間に加えて、原則2〜3カ月間の給付制限期間の後の受給となります。

そのため、退職後に新たな就職先が決まらない場合、失業保険の受給は退職してから2カ月以上先まで待たなければなりません。

参考:「給付制限期間」が2か月に短縮されます ~ 令和2年10月1日から適用 ~|厚生労働省

自己都合になっても変更できる可能性も

会社側から自己都合退職として手続きされた場合でも、失業保険の受給開始日を変更してもらえる可能性があります。

自己都合による退職でも、退職が正当な理由によるものと認められた場合は「特定理由離職者」として扱われるため、2〜3カ月間の給付制限なしに失業保険の受給が可能です。

特定理由離職者とみなされる条件は、疾病・心身の障害・負傷など幅広い範囲にわたります。

パワハラによって、心身に障害をきたしたり暴行によって負傷したりした場合は、特定理由離職者の条件に当てはまる可能性があるので、ハローワークで申し立て手続きを行ってみるとよいでしょう。

参考:特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲と判断基準|厚生労働省

パワハラで退職するときに請求できるものは?

お金

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パワハラで退職する場合、慰謝料や未払いの賃金を請求できるケースもあります。どのような場合に請求可能となるのか、詳しく見ていきましょう。

会社や加害者からの慰謝料・損害賠償金

パワハラをした加害者には、慰謝料を請求することが可能です。さらに、会社側に損害賠償を求めることもできます。

会社には、従業員が安全に働ける環境を整える配慮をする義務があるため、パワハラを防止できなかったのは会社の責任であると追及できるからです。

慰謝料や損害賠償を請求する際は、パワハラを受けていた証拠が必要になります。証拠はパワハラの相談をする際にも必要になるので、音声データや写真などを集めておくことが大切です。

参考:労働契約法 第5条 | e-Gov法令検索
参考:民法 第415条 第709条 第710条 第715条 | e-Gov法令検索

未払いの給与・残業代

退職時に未払いになっている給与・残業代がある場合は、「未払賃金」として退職した後からでも請求できます。

【未払賃金の対象】

  • 定期賃金
  • 一時金(賞与・ボーナス)
  • 割増賃金
  • 有給休暇の賃金
  • 休業手当
  • 退職金
  • 労働の対価として支払われる全てのもの

退職日までに支払われなかった賃金に対しては、年14.6%の遅延利息をつけて請求できます(退職金は対象外)。

2020年4月以降に支払われる賃金の、請求権の時効は3年です。なお、退職金の請求権の時効は5年になります。

参考:未払賃金とは | 東京労働局
参考:労働基準法 第26条 第37条 第39条 | e-Gov法令検索
参考:未払賃金が請求できる期間などが延長されています|厚生労働省

パワハラが原因で病院を受診したら労災保険

上司のような、優位性のある相手からの身体的・精神的な攻撃によって、体調を崩し病院を受診した場合は、労災保険の受給が可能です。

加害行為が業務に関連している場合はもちろん、直接業務とは関連しない個人的な恨みのような場合でも、場所・時間の関係から業務に起因しているとみなされて、労災が適用されるケースもあります。

厚生労働省の通達でも、2020年6月から精神障害の労災認定基準に、パワーハラスメントが明示されるようになりました。

参考:精神障害の労災認定基準に「パワーハラスメント」を明示します|厚生労働省

パワハラの主な具体例は?

悩む女性

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「自分が受けているのはパワハラではないか?」と思っている人もいるかもしれません。パワハラには、さまざまなケースがあります。

どのような行為がパワハラになるのか、主な具体例を見ていきましょう。

精神的な攻撃

精神的な攻撃とは、業務の遂行に関する以上のことを責めたり、本人の人格を否定するようなことを言ったり、ほかの従業員の前で大声で威圧的に繰り返し叱責したりすることです。

本人の人格否定には、仕事に全く関係ない性的指向や、性の自認に対して侮辱的な発言をすることも含まれます。

ただし、遅刻を繰り返す社員に対して一定の強さで注意するなど、何度言っても改善が見られない従業員に対して繰り返し注意することは、パワハラには該当しません。

身体的な攻撃

身体的な攻撃とは、書類で頭を叩く・わざとぶつかるなど、相手に対して直接暴力をふるう行為です。しかし、このような目に見えて分かりやすい暴力だけが、身体的な攻撃ではありません。

立ったまま営業電話をかけさせたり、ゴミ箱を蹴飛ばして威嚇したりといった行為も、身体的な攻撃とみなされます。もしその暴力行為によってケガをした場合は、傷害罪を適用できる可能性もあります。

過大・過小な要求

明らかに本人の能力を超える量の業務を押し付けたり、反対にひたすら単純作業だけをやらせたりするのも、過大・過小な要求をするパワハラの可能性が高いでしょう。

ただし、本人を育成する目的や繁忙期の一時的な要求として、通常より多めの業務を任されることはパワハラには該当しません。

また、本人の能力に応じて業務内容を減らすことも、パワハラには当たらないとみなされます。

パワハラで退職する前にすべきことは?

面談の様子

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パワハラの被害に悩みながら勤務を続けることは、身体的にも精神的にも苦痛なため、退職を考えるのもやむを得ないことでしょう。

しかし、退職以外にパワハラを解決する方法はないのでしょうか?退職は最後の手段として、その前にやっておいた方がよいことを考えてみましょう。

社内や社外の窓口で相談する

パワハラを受けていると感じたら、まず社内のコンプライアンス窓口に相談してみましょう。会社には、労働者が安全に働く環境を整備する責任があります。そのため、社内でのパワハラは会社にとっても解決すべき問題です。

当事者に注意したり、人事異動で別の部署に移ったりなど、何らかの対応によって解決できる可能性があるかもしれません。もしそれでも解決しないときは、各都道府県の労働局の窓口で相談にのってもらうとよいでしょう。

全国労働基準監督署の所在案内 |厚生労働省

休職も考えてみる

パワハラで出社が困難になったときは、思い切って休職してみるのも1つの方法です。特に体やメンタルに不調をきたしている場合、無理に出社すると症状が重くなってしまう可能性もあります。

また、退職日までの有給休暇が残っていない場合でも、医師から就業困難と診断されれば退職日まで休職が可能です。休職中は、条件を満たせば傷病手当金や労災保険などをもらえるケースもあります。

パワハラで退職する際の注意点

メモとボイスレコーダー

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パワハラで退職する場合、通常の退職と違って注意すべき点もあります。トラブルなく退職するためのポイントを、3つ挙げて解説します。

パワハラの証拠を残しておく

パワハラで退職したことを証明するには、パワハラを受けていた証拠が必要です。 証拠を残すには、当事者同士の音声の録音や、身体的な攻撃を受けて負傷した箇所を撮影するなどの方法があります。

また、そのような客観的な証拠だけでなく、パワハラを受けた日時・場所・目撃者などを書いた日記も証拠として扱われるため、小まめにメモを取っておくことが大切です。

ケガやメンタルの不調で通院した場合は、診断書を取っておくことも忘れないようにしましょう。

転職先を探しておく

在職中に、転職先を探しておくことも重要です。退職する前に、新たな職場で仕事を開始できる状態になっている方が、心に余裕も生まれるでしょう。

失業保険は受給できませんが、退職理由にこだわる必要もなくなるため、退職手続きでのストレスや会社側との関係悪化も避けられます。

転職先を探すときは、豊富な求人情報が掲載されているスタンバイを利用するのがおすすめです。こだわりの条件で検索をかけることもできるので、自分にぴったりな会社を探してみましょう。

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退職を伝えるタイミングに注意

退職の意思を伝えるのは、ぎりぎりまで待ちましょう。退職日の2週間前までに退職届を出せば、労働者側から雇用契約を解除できることは民法でも認められています。

あまり早くに会社を辞める意思を伝えてしまうと、退職日までの間にパワハラがエスカレートしてしまう可能性もあるでしょう。転職する場合は、転職先の内定が出てから退職届を出すことが大切です。

参考:民法 第627条 | e-Gov法令検索

パワハラで退職するには証拠集めが重要

レコーダー

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パワハラを受けたまま仕事を続けていると、身体的にも精神的にも悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、パワハラを受けたことで休職・退職を考えるのは、自分の身を守るためにも必要な手段といえるでしょう。

パワハラによって退職する際は、パワハラの証拠を集めておくことが重要です。会社都合での退職となり失業保険の受給が早くなるだけでなく、加害者や会社に損害賠償を請求できるケースもあります。

音声データや写真などの客観的な証拠に加えて、状況が分かるように時間・場所などをしっかりメモに残しておきましょう。