労災の休業補償期間はいつからいつまで?適用や打ち切りの条件も解説

仕事中に骨折などのケガを負ってしまった場合、労災の休業補償期間がいつまで続くのか不安になりがちです。土日の扱いや打ち切りの条件を知っておけば、休業中も安心して過ごせるでしょう。労災の休業補償期間について詳しく解説します。

労災の休業補償期間はいつから始まる?

スケジュール帳に書き込む

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労災の休業補償の開始日は、いつになるのでしょうか?まずは、休業補償の適用条件や待機期間について解説します。

休業補償の適用条件

労災の休業補償期間を知るためには、休業補償の適用条件を把握しておく必要があります。適用条件には以下が定められており、いずれも労働者災害補償保険法第14条で定められています。

  • 仕事を原因とする病気・ケガの治療中である
  • 会社から賃金を受け取っていない
  • 病気・ケガが原因で働けない状態にある

労災の休業補償給付を受けるには、3つの条件を全て満たしていなければなりません。例えば、治療中であっても働いて賃金を受け取っている場合は、休業補償が適用されないのです。

参考:労働者災害補償保険法 第十四条 | e-Gov法令検索

休業4日目から給付が支給される

休業補償の適用条件を全て満たしているからといって、すぐに給付金が支給されるわけではありません。労災の休業補償給付は、3日間の待機期間を経て4日目から支給されます。

3日間の待機期間中は、会社が平均賃金の60%分を補償しなければならないことが、労働基準法第76条で規定されています。待機期間中に土日がある場合は、土日分も会社による補償の対象です。

労災の休業補償は、所定労働日のみ賃金を補償しているわけではなく、休日も含めた働けない期間の全日数が補償の対象になることを覚えておきましょう。

参考:労働基準法 第七十六条 | e-Gov法令検索

待機期間のカウント方法

休業補償の待機期間を考える際に悩みがちなのが、労災発生日を待機期間に含めるかどうかです。労災発生日に労働できない時間が生じた場合、労災発生日を休業1日目にカウントします。

例えば、勤務中に骨折などのケガを負ってそのまま病院に行ったケースでは、所定労働時間の一部について働けなくなっている状況です。その日を休業1日目とし、その日を含めて3日間が待機期間となります。

なお、勤務時間中にケガを負って所定労働時間後に病院へ行った場合や、残業時間中にケガを負った場合は、労災発生日の翌日から待機期間が始まります。

労災の休業補償の打ち切り要因

封筒に入ったお札

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労災の休業補償の開始について理解できたら、次にいつまで給付をもらえるのかを押さえておきましょう。休業補償の打ち切り要因を解説します。

適用条件を満たさなくなったとき

労災の休業補償には、明確な給付期間が定められていません。3つの適用条件を全て満たしている限り、給付金の支給を受けられます。

休業補償が打ち切りになる基本的なタイミングは、3つの条件のうち最低1つを満たさなくなったときです。例えば、まだ治療中の段階でも業務に復帰し賃金をもらい始めたら、休業補償は打ち切りになります。

休業補償の打ち切りについて考える際に、注意したいのが症状固定です。症状固定とは、治療を続けても症状の改善を期待できない状態になることを指します。症状固定になると治癒したとみなされ、補償を打ち切られる可能性があります。

治癒後に後遺障害がある場合

症状固定で治癒とみなされた後に後遺障害が残った場合、障害のレベルによっては打ち切りではなく、障害補償年金に切り替わるケースがあります。

障害補償年金に切り替わるのは、後遺障害の等級が第1~7級に該当する場合です。例えば、両眼を失明したら障害等級第1級の症状が残ったことになるため、休業補償給付から障害補償年金に切り替わります。

また、災害による傷病の治癒後に障害等級第8~14級の障害が残った場合は、障害補償年金ではなく、障害補償一時金の支給を受けることが可能です。年金と一時金のいずれも、支給される金額は障害等級により異なります。

傷病補償年金に切り替わるとき

勤務中に負った傷病が治癒しないまま1年6カ月が経過し、傷病による障害の程度が傷病等級に該当する場合は、休業補償が打ち切られて傷病補償年金に切り替わります。傷病等級は第1~3級まであり、該当する等級により保険給付の内容が異なります。

休業補償の開始から1年6カ月後に傷病補償年金の受給条件を満たしていない場合、傷病が治癒していないのなら休業補償は継続です。

また、傷病補償年金の受給期間中、傷病等級に該当しなくなった場合は、休業補償の適用条件を全て満たしていれば休業補償を再申請できます。

なお、傷病補償年金に切り替わっても、療養補償給付には影響を与えません。療養補償とは、労災による病気・ケガの治療費を補償する制度です。

一定の条件を満たしていれば、療養補償は休業補償・傷病補償年金のいずれとも併給されます。

労災の休業補償給付額

10万円

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労災の休業補償は、どのくらいの金額が支給されるのでしょうか?休業補償の給付額の計算方法について解説します。

給付基礎日額の80%

労災の休業補償給付額は、休業1日あたり給付基礎日額の80%です。厳密には、保険給付として給付基礎日額の60%、特別支給金として給付基礎日額の20%が支給されます。

給付基礎日額とは、労働基準法第12条で定められた平均賃金のことです。平均賃金は、休業補償開始日の直前3カ月間における賃金総額を、3カ月間の暦日数で割って算出します。

平均賃金の計算に用いる賃金には、臨時的な賃金・ボーナスは含みません。給付基礎日額に1円未満の端数が出た場合は1円に切り上げ、休業補償給付額の1円未満の端数は切り捨てます。

参考:労働基準法 第十二条 | e-Gov法令検索

補償期間中に働いた場合

労災の休業補償期間中に働いた場合、賃金が発生していなければ休業補償は適用されます。週4日働いて1日だけ通院するケースでは、通院日の分の給付を受けることが可能です。

通院する日に働く場合も、その日の賃金が給付基礎日額の60%に満たなければ、差額が支給されます。

例えば、給付基礎日額が8,000円で通院日に5,000円分働いた場合、この日の休業補償支給額は「(8,000円-5,000円)×60%=1,800円」です。

通院時間が短く給付額以上の賃金が発生する場合、休業補償給付の支給は受けられません。補償が適用されない日が続いた場合は、休業補償が打ち切られることもあります。

土日も支給対象

労災の休業補償期間中は、会社の所定休日に該当する土日・祝日も支給対象となります。3日間の待機期間における、土日の考え方と同じです。

土日も支給対象となる理由は、給付基礎日額の算出方法にあります。給付基礎日額は一定期間内の賃金総額を暦日数で割るため、土日も含めた平均値となっているのです。

例えば、もともと週2日勤務のアルバイトが休業補償を受けるケースでは、9月1日から9月30日まで療養目的で休んだ場合、土日を含めた30日分の休業補償給付を受け取れます。

休業補償期間中のボーナスは減る?

ボーナスが支給される会社で働いている場合、休業補償期間中のボーナスの扱いは会社により異なります。ボーナスについては法律によるルールがなく、会社がどのように扱うのかを決定できるためです。

自分の責任ではない災害が原因でボーナスがもらえなくなることに対し、納得いかない人も多いでしょう。そのため、休業補償期間中のボーナスを完全に支給しないのではなく、一定の金額を支払うことにしている企業も少なくありません。

自分の会社が休業補償期間中のボーナスをどのように扱っているのかは、就業規則で確認することが可能です。就業規則に記載がない場合は、過去の事例を会社に聞いてみましょう。

休業補償給付と有給休暇について

有給休暇申請書と電卓

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休業補償期間中に、有給休暇を使いたいと考える人もいるでしょう。ここでは、休業補償給付と有給休暇について解説します。

給付期間中でも有給休暇の取得は可能

休業補償期間中であっても、有給休暇を取得することは可能です。休業補償給付が賃金の80%しかもらえないのに対し、有給休暇なら賃金の100%が支給されます。

休業補償期間中に残りの有給休暇が消滅する場合は、消滅する前に有給休暇を消化してしまうのが得策です。有給休暇は、発生から「2年後」に消滅します。

ただし、有給休暇と休業補償の併用はできません。有給休暇を取得する日は休業補償が適用されなくなるため、有給休暇の取得は慎重に検討する必要があるでしょう。

有給休暇を使うかどうかは自由に決められる

労災の休業補償期間中は、有給休暇を使うかどうかを労働者が自由に決められます。「休業期間中は有給休暇を使ってほしくない」と会社に言われたとしても、従う必要はありません。

有給休暇の取得に関して会社が労働者に強制した場合、会社は労働基準法第39条や第76条に違反している可能性があります。

有給休暇を自由に利用できない状況なら、労働基準監督署に通報すれば改善に向けた対応を取ってくれるでしょう。

また、会社から有給休暇の取得を要請されたケースでも、同じく労働基準法違反になる可能性があります。「有給休暇取得の決定権は労働者にある」ことを覚えておきましょう。

参考:労働基準法 第三十九条  第七十六条 | e-Gov法令検索

労災の休業補償期間は退職後も続く?

退職届とカレンダー

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労災の休業補償期間中に退職した場合、引き続き補償は適用されるのでしょうか?休業補償と退職について見ていきましょう。

病気・ケガで働けない場合は支給される

休業補償期間中に退職した場合も、適用条件を満たしているのなら支給が継続されます。労働者災害補償保険法第12条では、「退職により保険給付を受ける権利を失わない」ことが定められています。

ただし、休業補償と失業保険の併給はできません。病気・ケガですぐに就職できない場合、失業保険はもらえないルールになっているためです。

傷病が治癒して働けるようになれば、失業中の休業補償は打ち切りになります。転職活動をしながら失業保険をもらうかどうかは、状況に応じて検討することになるでしょう。

参考:労働者災害補償保険法 第十二条の五 | e-Gov法令検索

会社は休業期間中に労働者を解雇できない

休業補償期間中または期間終了後30日間は、会社は労働者を解雇できません。労働基準法第19条で規定されているルールです。

ただし、通勤中の事故によるケガで休業している場合、会社は労働者を解雇できます。通勤中の事故は、会社に責任がないためです。

ほかにも、契約社員を雇止めするケースや打切補償を支払うケースでは、休業中の労働者を解雇できます。

打切補償とは、治療開始後3年経っても治療が終わらない場合に、平均賃金の1,200日分を支払って解雇できる制度です。労働基準法第81条により定められています。

参考:労働基準法 第十九条、第八十一条 | e-Gov法令検索

労災の休業補償の請求方法

申請書に書き込む

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労災の休業補償の手続きは、原則として労働者自身が行わなければなりません。手続きの大まかな流れや、会社に損害賠償を請求できるケースを紹介します。

手続きの大まかな流れ

勤務中の労災における休業補償給付を請求するときには、「休業補償給付支給請求書」(様式第8号)を所轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。

まずは労災発生の事実を会社に報告し、申請書を用意して会社に証明をもらいます。病院で診察・治療を受けたら、申請書に病院からの証明ももらいましょう。

申請書を労働基準監督署に提出した後は、所定の審査が行われ、給付を認められれば待機期間を経て休業補償給付が支給されます。

休業補償の申請手続きは、原則として被災した本人、または家族が行わなければなりません。ただし、労働者本人が手続きできない場合は、会社のサポートが法律で義務付けられています。

参考:労働者災害補償保険法施行規則 第二十三条 | e-Gov法令検索

会社に損害賠償を請求できるケースも

労災の発生原因が会社にもある場合は、会社に損害賠償を請求できる可能性があります。労災保険からの補償だけでは不十分だと感じるなら、損害賠償請求を視野に入れて弁護士に相談するのも1つの方法です。

会社に対して賠償請求できる損害には、入院雑費・物損・休業損害・慰謝料などがあります。治療費は療養補償として労災保険から支給されるため、請求は難しいでしょう。

会社との交渉を有利に進めるためには、会社の責任をしっかりと証明しなければなりません。万が一裁判にまで発展したときのことも考えて、証拠の収集・保全はしっかりと行っておきましょう。

休業補償給付以外に利用できる制度

健康保険証

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病気・ケガで働けなくなった場合は、休業補償給付以外にも利用可能な制度があります。代表的な制度と、それぞれの概要をチェックしておきましょう。

健康保険の傷病手当金

仕事以外のシーンで負った傷病により働けなくなった場合、休業補償は利用できません。しかしこのようなケースでは、健康保険の傷病手当金を受け取れます。

協会けんぽにおける、傷病手当金の主な支給要件は以下の通りです。

  • 業務外の理由により病気・ケガを負っている
  • 仕事ができない状態である
  • 休業中に賃金を受け取っていない
  • 連続する3日間を含む4日以上勤務していない

傷病手当金が支給される期間は、支給開始日から通算して1年6カ月です。休業期間中に出勤した日は、休業期間にカウントされません。

雇用保険の傷病手当

退職後にハローワークで求職の申し込みを行った後、病気・ケガにより15日間以上働けなくなると、失業手当を受け取れなくなります。

失業手当が支給されない間の生活をサポートするために、雇用保険から支給される手当が傷病手当です。失業保険と同額が支給されます。

傷病手当を受け取れるのは、病気・ケガで15日以上30日未満働けないケースです。15日未満の場合は失業保険が支給され、30日以上の場合は傷病手当の支給または失業手当の受給期間延長のいずれかを選択できます。

労災の休業補償給付や健康保険の傷病手当金を受給している期間は、雇用保険の傷病手当を受け取れません。

遺族補償給付

業務中の災害で労働者が亡くなった場合、遺族に支給されるのが遺族補償給付です。遺族補償給付には、年金と一時金の2種類があります。

遺族補償年金は、「亡くなった労働者の収入で生計を維持していた家族(共働きも含む)」に支払われるのが一般的です。受給権者の受給資格がある限り、受け取ることが可能です。

遺族補償年金の受給資格者がいない場合は、特定範囲の遺族に遺族補償一時金が支給されます。なお、労災により労働者が亡くなった場合は、労災保険から遺族に葬祭料も支給されるのもポイントです。

介護補償給付

労災により介護が必要になった場合は、労災保険から介護補償給付が支給されます。介護の状態には「常時介護」と「随時介護」の2種類があり、給付額が異なります。

介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金受給者のうち、一定の条件を満たした人のみ受けることが可能です。

40歳以上の人は介護保険に加入しているため、要介護状態になると介護保険も受給できます。介護補償給付と介護保険は併給が可能であり、重複して補償される部分については介護補償給付が優先適用されます。

労災の休業補償期間に上限はない

指を組んでいる男性

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労災の休業補償は、待機期間を経て休業4日目から給付金が支給されます。適用条件を満たしている限り給付が続き、支給期間に上限は設けられていません。

給付期間中でも有給休暇は取得できるほか、休業補償期間中に退職しても条件を満たしていれば補償は続きます。

休業中にお金のことをきちんと考えられるように、労災の休業補償期間について理解を深めておきましょう。

鬼沢健士
【監修者】All About 暮らしの法律ガイド鬼沢健士

慶應義塾大学卒業。平成24年、茨城県取手市「じょうばん法律事務所」を開設。主に労働者側の労働事件(不当解雇など)や、インターネット詐欺被害救済(サクラサイト、支援金詐欺など)を取り扱う。
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