教員不足の現状は?原因から解消に向けた取り組みまで詳しく解説

近年、全国的に教員が不足気味で、解消に向けてさまざまな取り組みがされています。教員が不足している主な原因と影響、教員不足の解消に向けた取り組みなどを解説します。これから教員への転職を考えている人は、現状をよく認識しておきましょう。

この記事のポイント

教員不足の現状と原因
地方財政の改善対策として公務員を削減する計画が打ち出されたことにより、教員の絶対数が削減され始めことが要因となっています。一方で特別支援学級の増加など、1校当たりの必要数は増加をしており、全国で2,000人以上の人手不足が起こっているのが実情です。
教員不足が生徒に及ぼす影響
授業の質の低下や、頻繁な担任変更により、生徒の学習環境と精神面に与える影響も大きくなります。また、教員の業務負担が増え、生徒と向き合う時間が減少することにより、いじめや不登校が起こった場合に満足な対応ができない恐れがあります。
教員不足解消に向けた取り組み
部活動の地域移行やデジタルツールの導入など、働き方改革や教科担任制の導入で教員の業務負担を減らす試みがなされています。また、特別免許状の交付条件の拡大など、多様な人材活用が進められ、教員免許更新制の廃止により、復職しやすくなりました。

教員不足の現状とは

教室と机

飲食業や福祉関連の業界など、慢性的な人手不足に悩む企業は多いですすが、公務員の不足も近年問題になりつつあります。特に全国的に教員が不足しており、さまざまな影響が出ているのが現状です。まずは教員不足の概要を理解しましょう。

全国で2,000人以上の教員不足

2022年1月に発表された文部科学省の調査では、2021年度の始業日時点で、全国で合計2,558人の教員が不足しています。教員不足の定義は、実際に学校に配属されている教員数が、各都道府県や指定都市の教育委員会において配置することとされている教員数に満たないことです。

全体の内訳としては、小・中学校で2,086人、高等学校で217人、特別支援学校では255人の教員が規定数に満たない状況とされています。

教員数が足りない各校では、学級担任がいない状況を避けるため、本来担任を持たない職務の教員が、学級担任を代替しているケースも少なくありません。

出典:各学校種における「教師不足」の概要(P3)|文部科学省「教師不足」に関する実態調査

教員不足の原因

データを見ているスーツの5人

(出典) photo-ac.com

文部科学省の調査からも分かるように、全国的に教員が不足しており、今後さらに深刻な状況に陥る可能性もあります。教員が不足している原因は何なのでしょうか?

見込み以上の必要教員数の増加

教員不足の大きな原因の1つは、各校に求められる人員が増加している点です。特別支援学級が増加して通う生徒が増えたことで、より多くの教員数が求められるようになったのが、その大きな要因とされます。

1校当たりの教員の必要数が増加している一方、正規雇用の教員は増えていないため、相対的な人手不足が起こっているのが実情です。

また、都市部では一部の地域で急激な人口増加が起こっており、当初の見込み以上に教員数が必要になりました。例年の状況から求められる教員数を予測しているだけでは、対応できない地域も出てきたのです。

参考:特別支援学級の児童生徒数・学校数の推移(P4)|文部科学省「特別支援教育の現状」

産休・育休を取る教員の増加

産休や育休を取る教員が増えたことも、現場で働く教員数が不足している原因の1つです。文部科学省が各教育委員会に取ったアンケートでは、産休・育休の取得者数の増加が、教員不足の大きな要因として挙げられています。

産休・育休の制度自体が問題なのではなく、それまで産休や育休に入った教員をカバーできる体制が準備されていなかった点が、明らかになったといえるでしょう。

出産や育児のための休職が可能になることで、教員の現場復帰の可能性が高くなる一方、それをサポートできる仕組みが整っていないことが課題です。

参考:「教師不足」の要因 ①見込み数以上の必要教師数の増加(P10)|文部科学省「教師不足」に関する実態調査

臨時的任用教員のなり手不足

産休・育休や病気などで休職する教員に代わる人員や、臨時的任用教員のなり手が減少しているのも、教員不足が起きる要因です。臨時的任用教員は休職した教員が復職するまでの期間、臨時教員として勤務する者で、各地域の講師名簿に登録されています。

正規採用される臨時教員や民間企業に就職する人が増えたこともあり、近年は名簿への登録者数が減少傾向で、休職する教員をカバーできない場合が珍しくありません。

また、名簿に登録されている退職教員の場合、教員免許状を更新しておらず、失効してしまっているケースも見られます。

教員免許の更新制度は廃止になったものの、本人が臨時教員としての着任を辞退することも多く、臨時教員のなり手をいかに増やすかも、教育界が向き合うべき課題です。

参考:「教師不足」の要因 ②臨時的任用教員のなり手不足(P11)|文部科学省「教師不足」に関する実態調査

地方公務員の定員削減も影響

地方財政の改善対策として、地方公務員を削減する計画が打ち出されたことを受け、教員の絶対数も削減され始めています。

少子高齢化により子どもの数が減少しているのに伴い、正規雇用の教職員の数を減らす施策が広まっている状況が教員不足の大きな要因となっています。

正規雇用の教職員を減らす代わりとして、非正規教員が増加傾向にあり、公立の小・中学校では2005年に3万5,966人だった非常勤講師の数が、2011年には5万234人まで増加しました。

この傾向は近年さらに強まっており、今後も全国各地で、非正規教員への依存度が高まる可能性が高いでしょう。

参考:非正規教員の現状(実数ベース)(P2)|文部科学省「非正規教員の任用状況について」

教員不足の一因である多忙な業務

生徒に勉強を教える先生

(出典) photo-ac.com

上記の原因に加え、そもそも教員を目指す人が減少している点も、結果的に教員不足の要因となっています。その背景には、業務が多忙で、長時間労働で疲弊している教員が多い点が挙げられます。教員の労働時間の実態も押さえておきましょう。

教員の労働時間

2022年の日本教職員組合による調査では、教職員の平均時間外勤務が、過労死ラインとして知られる「月80時間」を大きく上回ることが明らかになりました。

教員の週当たりの平均時間外労働時間は23時間53分で、月に換算すると実質95時間32分/月の時間外労働(中学では118時間20分)との調査結果です。過労死ラインを大きく上回っており、かなり危険な状態が続いているといえるでしょう。休憩時間を取れない教員も多く、休日勤務も常態化しています。

このように、他の職種に比べても非常に労働時間が長く、教員を目指す人が減少している要因とされています。メディアでも教員の実態が取り上げられる機会が増え、いわゆる「ブラック」な職種のイメージが広がっている点も無視できません。

出典:2022年 学校の働き方改革に関する意識調査|日本教職員組合JTU

教員不足が生徒に及ぼす影響

パソコンと資料を持って面談

(出典) photo-ac.com

教員不足は教員自身の労働時間にも関わりますが、生徒に及ぼす影響も大きく、早急に解決しなければならない問題といえるでしょう。教員の不足が生徒に与える影響として、以下の点が挙げられます。

授業の質の低下

教員数が不足すると、本来担当ではない教科の教員が、授業を受け持つ必要が出てきます。専門教科ではないため授業の質が低下する恐れがあり、生徒にとっては満足な学習環境が提供されない事態になりかねません。

頻繁に担任が替わるケースもあり、教頭や校長が担任を受け持つ学校があるのも実態です。

また、教員が突然替わることによる、生徒の精神面への影響も懸念されます。教員の年齢構成も40~50代前半の層が多めなので、今後若く優れた教員をいかに養成し、確保するかが重要な課題といえるでしょう。

生徒と向き合う時間の減少

教員不足により個々の教員の業務負担が大きくなると、生徒と向き合う時間が減ってしまう点も問題です。

生徒が授業で分からない点をフォローしたり、学習状況を確認したりする時間が取れなくなるのに加えて、いじめや不登校が起こった場合に満足な対応ができない恐れがあります。

授業だけではなく生徒との日々のコミュニケーションも、人格教育には欠かせない重要な要素です。教員としての本来の役割を十分に担うためにも、早急に教員不足の解消に向けた取り組みが求められます。

教員不足解消に向けた取り組み

バインダーを持っている女性

(出典) photo-ac.com

教員不足の解消は一朝一夕では難しいテーマですが、以下のように、教員の働き方改革や教科担任制の導入、多様な背景を持つ人材の活用など、さまざまな取り組みがされています。

教員の働き方改革

近年、多くの企業が働き方改革を進めていますが、教育現場でも教員の働き方改革が注目されています。

教員の長時間勤務の要因の1つである、部活動の指導を地域に移行したり、日々の業務そのものを減らしたりなど、各校で多くの取り組みが進められている状況です。

また、これまでアナログな手法がメインだった授業に関しても、電子黒板やパソコン、タブレット端末などの積極的な導入により、教員の業務負担を減らす試みもなされています。

教員でなくても対応できる業務に関しては、専門の人員を採用して対応してもらう学校も増えてきました。

教科担任制の導入

小学校の高学年から、教員ごとに担当の科目を受け持つ教科担任制に移行された点も、教員不足解消の取り組みの1つです。

従来、小学校では、担任の教員が専門科目以外の教科も含めすべて担当していました。教科担任制に移行することで、すべての教科を準備する必要がなくなり、担当する教科のみに集中できるようになります。

結果として授業の質も向上し、さらに生徒が卒業して中学校に上がっても、違和感なく授業を受けられるのがメリットです。

参考:義務教育9年間を見通した教科担任制の在り方について(報告)|文部科学省

教員免許更新制の廃止

2022年の7月に教育職員免許法が改正され、施行日時点で有効な教員免許状は、有効期限のない免許状と見なされることになりました。いわゆる免許更新制の廃止で、施行日前に有効期限を超過した教員免許状に関しては休眠扱いで、復活が可能です。

教員不足の解消に向けた取り組みの1つで、更新の際に受講しなければならなかった講習もなくなり、教員の負担が大幅に軽減されました。

参考:教員免許更新制廃止に伴う変更点について - 神奈川県ホームページ

多様な人材の活用

教員不足解消のため、小学校の教員資格認定試験の見直しや、教員免許を持っていても教職に就いていない人向けのセミナーの開催といった取り組みも盛んです。

都道府県ごとに取り組み内容は異なりますが、民間企業での経験を教職に生かせるように、特別免許状の交付条件を拡大し、多様な背景を持つ人材を広く募集している教育委員会が増えている状況です。

教員免許の保有者が学び直せるような、さまざまな支援プログラムを開発しているケースもあります。

教員志望者を増やすイベントも開催

教員志望者を増やすためのイベントも各地で開催中です。

例えば、地方への移住とともに教職に就くことを勧めるものや、中高生に向けて、現役の教員が仕事の内容や1日の過ごし方を紹介するセミナーなど、さまざまな観点から教員を増やすための試みが行われています。

さらに、大学と連携してインターンを実施している自治体もあり、教職に対する理解を広めるとともに、積極的に魅力を発信する取り組みが各地で実施中です。

教員不足の現状について知ろう

学校の校舎

(出典) photo-ac.com

教員不足の現状と代表的な原因を解説するとともに、教育現場の人手不足解消に向けた取り組みを紹介しました。全国で教員不足が非常に深刻で、授業の質の低下や生徒と向き合う時間が取れないなど、多くの弊害が起こっている状況です。

しかし一方で、教員不足の解消に向けた取り組みもなされています。働き方改革や教科担任制の導入、教員免許更新制の廃止など、教員の負担を減らすとともに、広く人材を募集して教員のなり手を増やす試みが盛んです。

これから教員を目指す人は、教職の大変さはだけでなく、やりがいや魅力も理解した上で、しっかり将来設計をしながら就職・転職に臨みましょう。