仕事をしながら建築士1級を目指している人もいるでしょう。一級建築士の免許を取得するには、どのような勉強をしたらよいのでしょうか。免許の取得方法・試験内容や、合格するための効果的な学習について解説します。
一級建築士を取得するメリット
一級建築士は、建築士の中でも難易度が高い資格とされています。しかし、資格を取得すると、さまざまなメリットもあります。具体的に3つ挙げて紹介します。
※年収に関して、一般的に給料は基本給を指し、諸手当を含めませんが、本記事では諸手当を含めた給与を給料としています。
大規模な建築物を設計できる
一級建築士には、建築できる建造物の構造・高さ・面積などに制限がありません。個人向けの木造住宅から、延床面積が500平方m2以上ある鉄筋コンクリート造や、鉄骨造などの学校・病院・商業施設まで、さまざまな規模や構造の建物の設計・工事監理が担当できます。
都市整備や再開発などの大規模なプロジェクトや、公共工事なども手がけられるので、大きなやりがいを得られるでしょう。時にはオリンピック会場やスタジアムなど、国や都市を代表する建築物の設計にも携われます。
平均年収が高い傾向にある
平均的な建築士の年収は、民間の平均給与より高い傾向にあるといわれています。2021年の厚生労働省「賃金構造基本統計調査」から「きまって支給する現金給与額」と「年間賞与その他特別給与額」で算出した建築技術者の平均年収は586万1,500円でした。
国税庁の「民間給与実態統計調査」(2021年)を見ると、民間の平均給与は年間約443万円なので、かなり高額になることが分かります。
建築士の中でも、一級建築士は二級建築士や、木造建築士に比べて収入が高いといわれているので、この平均年収よりさらに高額になることが予想されます。
参考:賃金構造基本統計調査 令和3年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 1 職種(小分類)別きまって支給する現金給与額、所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額(産業計) | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
令和3年分 民間給与実態統計調査|国税庁
上位資格へステップアップできる
一級建築士になると、上位資格へのステップアップも可能です。ある一定の規模を超える建築物の設計では、一級建築士の上位資格でもある、構造設計一級建築士や、設備設計一級建築士による関連法規への適合性確認が義務付けられています。
一級建築士になり、構造設計や設備設計の業務に5年以上従事して、国土交通大臣の登録を受けた講習課程を修了すると、これらの資格取得が可能です。一級建築士としてだけでなく、上位資格も取得することで自分自身のキャリアアップにもつながります。
一級建築士の免許を取得する方法
一級建築士の免許を取得するには、まず資格試験に合格が必須です。試験を受ける方法や、合格後に免許を取得する手順などについて解説します。
建築系の大学や短大などを卒業する
建築学科がある大学や短期大学などで、受験に必要な指定科目を修了しておくことが一級建築士への近道です。中学校を卒業後、建築学科の高等専門学校に進んで専門知識や技術を学ぶ方法もあります。
どちらの場合も、試験に合格すると、免許登録の要件として、一定期間の実務経験が必要です。実務経験の長さは最終学歴によって異なります。
【一級建築士 免許登録に必要な実務経験】
- 4年制大学…2年以上
- 3年制短期大学…3年以上
- 2年制短期大学・高等専門学校…4年以上
二級建築士の資格を取得する
一級建築士の受験の条件の一つが、二級建築士の資格を持っていることです。建築系の大学や短大などの学歴がある人は、二級建築士の資格試験に合格すると実務経験なしで免許登録が可能です。
二級の試験を受ける場合、一級に比べて試験は範囲が狭く、難易度も低い傾向にあります。また、先に二級建築士として実務にあたっていれば、身に付けた知識やスキルを一級の試験でも生かせるでしょう。
なお、二級建築士の試験は、実務経験が7年以上あれば、建築系の学歴がなくても受験できます。
一級建築士の試験内容や難易度は?
一級建築士は、国家資格の中でも難易度が高い資格の1つといわれています。これから受験しようと考えている人に向けて、受験資格や試験内容を具体的に紹介します。
受験資格
一級建築士の試験の受験資格要件には大きく分けて3つの条件があります。
- 大学・短期大学・高等専門学校で指定科目を修了して卒業している
- 二級建築士の免許を保有している
- 国土交通大臣が上記の者と同等と認める者(建築整備士を含む)
2020年3月1日に改正建築士法が施行され、それまで受験資格要件だった建築の実務経験が、免許登録要件に変わりました。大学卒業後に受験する場合、改正前は2年以上の実務経験が必要でした。
しかし、現在は試験の前後にかかわらず、免許を登録する際までに実務経験を積んでおけばよいと変更されています。
二級建築士が受験する場合も、以前は実務経験が4年以上なければ受験できませんでしたが、こちらも現在は二級の免許を登録した直後でも受験できるようになりました。
試験内容
一級建築士の試験は、学科と設計製図に分かれています。例年7月に学科試験が実施され、学科試験に合格した人のみ、10月の設計製図試験を受験できます。資格を取得するには、学科・設計製図のどちらの試験にも合格しなければなりません。
学科試験に合格した人は、その年を含め5年以内の設計製図試験のうち、任意の3回を選択して学科免除で受験できます。学科試験は学科I~Vに分かれて出題されます。
【学科試験】
- 学科1(計画)20問
- 学科2(環境・設備)20問(学科I+IIで計2時間)
- 学科3(法規)30問 1時間45分
- 学科4(構造)30問
- 学科5(施工)25問(学科IV+Vで計2時間45分)
設計製図試験は、事前に公示された設計課題に対し、与えられた条件を満たす建築物の設計図書を6時間30分以内に作成します。
難易度
一級建築士は、国家資格の中でも難関とされています。直近5年間の建築士1級試験の総合合格率を見ると、10%前後でした。2022年の総合合格率は9.9%で、10%を割っています。
2020年度より、実務経験に関する受験要件が緩和されたため、大学や高等専門学校を卒業後すぐの受験が可能になりました。実務経験のない状態で受験している人が増えたことで、以前より合格率が下がったとも考えられます。
学科試験と設計製図試験の合格率を比較すると、2022年の学科試験は合格率21%だったのに対し、設計製図試験は33%でした。そのため、学科試験の難易度の方が高い傾向にあるといえます。
建築士1級試験の攻略法は?
一級建築士を受験する人の中には、独学でチャレンジする人もいるのではないでしょうか。1級の試験範囲は広いので、ポイントを押さえて学習を進めることが重要です。試験に向けたおすすめの学習方法を紹介します。
試験日から逆算して学習計画を立てる
一級建築士の資格試験を独学で受けるには、建築初学者でトータル約1,500時間、建築系の科目を修了している人でも、1,000時間程度の勉強時間が必要だと考えられています。
仮に試験までの日数を1年とすると、年間1,500時間の学習時間を確保するには、1日4時間強は勉強しなければなりません。もしも試験日まで1年なければ、1日当たりの勉強量はもっと必要になるでしょう。
また、試験範囲が広い学科試験の学習には、勉強時間全体の7割程度を割いた方がよいともいわれています。もしも、試験日までの日数が少なく、勉強時間が足りない場合は、学科だけを受験し、翌年改めて設計製図にチャレンジするという方法もあります。
過去問を何度も繰り返し解く
学科試験の学習には、参考書で知識をインプットするだけでなく、過去問を解いてアウトプットすることが重要です。何度も過去問を解くことで、学習した知識を定着させるだけでなく、自分の苦手分野も把握できます。
数年分の過去問を解いていると、出題傾向なども予想しやすくなります。難易度が高い問題も、繰り返し解くことで内容の理解度も上がるでしょう。
設計製図試験の勉強も、過去問を活用するのがおすすめです。時間を計りながら問題を解くことで、時間配分の感覚や製図のスキルを習得できます。
スキマ時間を有効利用する
仕事が忙しいなどの理由で、まとまった勉強時間を確保できないときは、スマホを使った学習で、通勤中や仕事の合間などのスキマ時間を有効活用するのがおすすめです。
学科試験の過去問を解けるアプリやサービスを利用すると、机に向かうよりも気軽に勉強できるでしょう。
また、動画配信サイトで問題を解説しているチャンネルもあるので、試験対策として利用するのもおすすめです。
一級建築士として年収を上げるには?
一級建築士になって年収を上げたいと考えている人も多いでしょう。資格を取得し、年収をアップさせる方法を3つ紹介します。
好条件の企業に転職する
一般的に建築士の年収は、民間の企業の平均より高い傾向にあります。さらに、同じ建築士1級でも、勤務先によって収入は異なるため、年収を上げるには給与などの待遇がよい企業に転職するのがおすすめです。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」(2021年)によると、規模の大きな企業ほど年収が高くなることが分かります。例えば、従業員が10~99人の企業の場合、建築技術者の平均年収は529万5,800円ですが、1,000人以上の企業になると平均年収は699万3,700円までアップしています。
中小企業に勤めている人で年収を上げたい場合は、大手企業への転職を考えてみるのも1つの方法です。特に大手のゼネコンは、年収だけでなく福利厚生などの待遇面なども手厚い傾向にあります。
資格を生かした副業で稼ぐ
一級建築士の資格を生かした副業を始めるのもおすすめです。昨今はクラウドソーシングなどを利用して、本業の傍ら得意分野で副業を始め、収入を得ている人も増えています。
施工図や、図面のトレース・作成などの募集も多いので、建築士のスキルを利用して副収入を得られる可能性もあります。将来的に独立を目指している人の中には、副業からスタートしている人も少なくありません。
ただし、副業を始める前に、勤務先が許可しているか確認しておくことが大切です。また、副業は就業時間外に作業するため、プライベートの時間が削られることは覚悟しておきましょう。
独立する
一級建築士としての実績を作った後、独立して個人の設計事務所を開業し、収入を増やせるケースもあります。独立に成功すると年収1,000万円も夢ではありません。
ただし、現在建築士として高い評価を得ていても、ネームバリューのある会社に所属しているからという影響も考えられます。独立後に同じレベルの評価をもらえるのか、自分への評価を冷静に判断してから行動するのがおすすめです。
企業に勤務している間に、設計の実務経験や人脈を作っておくことも大切です。なお、独立後は自分で営業もしなければならないため、設計技術だけでなく経営のスキルも求められます。
計画的に準備して一級建築士を目指そう
一級建築士は国家資格の中でも難関といわれています。しかし、計画的に準備すれば、社会人からでも資格取得は可能です。試験は年に1回なので、早めに学習計画を立てて資格取得にチャレンジしましょう。
いきなり一級の資格は難易度が高いという人は、二級から目指すという方法もあります。
また、建築士の資格で収入アップを図りたいときは、求人サイトのスタンバイを使った転職活動がおすすめです。こだわりの条件でさまざまな企業を検索できるので、自分の希望に合った職場が見つかるでしょう。