有給買い取りは可能なのか。買い取りできるケースから注意点まで解説

有給は労働者に与えられた権利ですが、忙しいなどの理由から消化できない人も多いようです。「どうせなら買い取ってほしい」と考えた場合、買い取りは認められるのでしょうか?買い取りが可能なケースや計算方法、注意点を紹介します。

有給の買い取りはできる?

スーツで考える男性

(出典) photo-ac.com

有給の買い取りとは、雇用者が労働者の有給を買い上げることです。このようなことは、認められるのでしょうか?

有給の買い取りは原則禁止

原則として、有給の買い取りは禁止されています。「消化できそうにない」と思っても、買い取りは一般的なことではありません。

そもそも有給とは、法律で定められた労働者の権利です。その目的は心身の疲れの回復やゆとりある生活を送るためのものであり、買い取りは本来の主旨に反します。労働者が「余ったから」と簡単に権利を放棄できるものではありません。

また、有給の買い取りを認めると、雇用側が悪用する恐れもあります。例えば有給の買い取りを想定し、あらかじめ基本給を低く設定しておくなどです。法律で認められていない以上、有給の安易なやり取りは望ましくありません。

例外的に有給の買い取りが可能なケース

電卓と現金

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「原則禁止」の有給買い取りですが、例外とされるケースもあります。どのようなケースが例外となるのかを詳しく見ていきましょう。

有給が失効してしまう場合

有給には、2年という時効があります。有給を使い切れず時効が来てしまった場合は、買い取りを依頼しても違法にはなりません。

失効した有給では「労働者の心身をリフレッシュし、ゆとりある生活を保障するためのもの」という本来の役割を果たせないためです。

注意したいのは、買い取りが法律に定められた義務ではない点です。「失効したから買い取ってほしい」と伝えても、企業から拒否されるケースは少なくありません。

日数が規定よりも多い場合

有給の日数が法定年次有給休暇を超えている場合、超えた部分については買い取りを求めることが可能です。

例えば、「勤続期間が6カ月以上1年6カ月未満で労働日の8割以上を出勤している人」は、法律で10日の有給が付与される決まりになっています。この人が11日以上有給を余らせている場合は、10日を引いて残った部分の買い取りを依頼することが可能です。

有給は勤続期間が1年延びるごとに1日ずつ増え、2年6カ月を超えると2日ずつ増えていきます。勤続年数に対する法定年次有給休暇は以下のとおりです。

  • 6カ月:10労働日
  • 1年6カ月:11労働日
  • 2年6カ月:12労働日
  • 3年6カ月:14労働日
  • 4年6カ月:16労働日
  • 5年6カ月:18労働日
  • 6年6カ月以上:20労働日

有給の付与は労働形態によって区別されないため、短時間労働者やパート労働者にも付与されます。これらの人も、最低ラインを超えた部分は買い取り依頼が可能です。

参考:労働基準法 第三十九条|eーGov法令検索 

退職時に有給が余った場合

退職の時点で有給が余っていた場合も、買い取りを依頼できます。

退職して労働者でなくなれば、有給を持っている意味がありません。「心身の回復やゆとりある生活を保証するため」という有給休暇の主旨に抵触しないため、企業が買い取っても問題はないというスタンスです。

ただし、企業によっては買い取りではなく「退職日を延ばす」という措置を取るケースもあります。余った有給を買い取ってもらえるかどうかは企業次第であり、就業規則の確認や企業側との交渉が必要となるでしょう。

有給買い取り金額の計算方法

キーボードと電卓とお札

(出典) photo-ac.com

有給の買い取り金額の計算方法は「通常賃金」「平均賃金」「標準報酬月額の日割額」の3つです。このほか、企業が独自に定めるケースもあるでしょう。それぞれについて詳しく紹介します。

通常賃金を使った計算方法

通常賃金は、労働基準法施行規則第25条の定めにしたがって算出されています。有給の買い取り金額を計算するときは、時給制・日給制・月給制に合わせた計算が必要です。

時給制の場合は、現在の時給額に所定労働時間をかけて計算しましょう。日給制は、1日の賃金をそのまま有給1日分とすればOKです。月給制なら、月給を月の所定労働日数で割れば、有給1日分の金額を算出できます。

参考:労働基準法施行規則(◆昭和22年08月30日厚生省令第23号)|第二十五条

平均賃金を使った計算方法

平均賃金とは、手当や補償額を算出するときの基準となる賃金です。例えば休業手当や解雇予告手当などを出すときは、平均賃金をベースとします。

有給休暇の買い取り金額で平均賃金を使う場合は、過去3カ月間の賃金総額をその期間の総日数で割って計算します。賃金とは、税金や社会保険料が引かれる前の、通勤手当・時間外手当などを含んだ額です。

例えば3カ月の合計金額が95万円で総日数が92日間あった場合は「95÷92=1.0326087…」です。銭未満は切り捨てのため、平均賃金は「1万326円8銭」になります。

参考:平均賃金について【賃金室】|神奈川労働局

標準報酬月額の日割額を使った計算方法

標準報酬月額とは、保険料の額や保険給付の額を算出する際に使われる金額です。

報酬月額は、基本給に通勤手当や残業手当などの各種手当を加えた総支給額を指します。この報酬月額を保険料額表の分類によって区分したとき、該当する等級の金額が「標準報酬月額」です。

標準報酬月額で有給休暇の買い取り金額を算出する場合は、標準報酬月額を日割りして1日分を算出します。

参考:標準報酬月額は、いつどのように決まるのですか。|日本年金機構

一定額の場合もあり

企業によっては、独自の計算方法・ルールで有給休暇の買い取り金額を決めているケースもあります。買い取り金額の計算方法を明示した法律はなく、企業が独自に計算方法や金額を設定することが可能なためです。

企業に有給休暇の買い取りを相談した場合、思わぬ金額を提示されることがあるかもしれません。しかし、就業規則などに規定があるのなら、提示された金額で応じるしかないでしょう。

就業規則に有給休暇買い取りについての記載がない場合は、計算方法を話し合わなければなりません。「通常賃金」「平均賃金」「標準報酬月額」のいずれかで、買い取り金額を計算することとなります。

有給の買い取りの注意点

就業規則と虫眼鏡

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有給休暇の買い取りは、企業の義務ではありません。応じてもらえないケースもあることを理解しておきましょう。

有給休暇の買い取りで、覚えておきたいポイントを紹介します。

就業規則を確認しよう

有給休暇の買い取りを希望する場合は、まず就業規則を確認しましょう。有給休暇の扱いについては法的な根拠がなく、企業のルールが優先されるためです。就業規則で定められている場合は、有給休暇を買い取ってもらえる可能性が高まります。

ただし、買い取りの条件が決まっている場合もあるので、詳細を確認しましょう。手続き方法も明記されているのであれば、指定された方法で申請することも必要です。

有給休暇の買い取りについて特に記載がない場合は、買い取りを拒否される可能性も十分にあります。この場合は、戦略的な交渉が必要です。

やみくもに「買い取ってほしい」と主張して心証を悪くしないよう、買い取りの必要性や希望について上手に伝えましょう。

トラブルに気を付けて

有給休暇の買い取りは、法的なバックアップがありません。企業が買い取りに応じてくれた場合でも、万が一に備えて証拠を残しておきましょう。

例えば「売却可能な有給休暇の日数」「有給休暇の買い取り金額」「代金の支払日」「支払方法」などの重要な情報は、書面で残しておくことが必須です。

また、企業によって、有給休暇の買い取りに際して求められる書類や、サインが必要な書類などは異なります。どのようなものを用意すべきで、何にサインしなければならないかをきちんと確認しましょう。

有給の買い取りのルールを知ろう

メモをとるスーツの男性

(出典) photo-ac.com

有給休暇が余っている場合は、「法定年次有給休暇の日数を超えている」「退職する」「失効する」などのケースに限り買い取りを求めることが可能です。

ただし、有給休暇の買い取りについては法律で定められておらず、必ずしも買い取ってもらえるとは限りません。就業規則で自社のルールを確認しましょう。

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