有給買い取りは可能?認められるケースや拒否されたときの対策を紹介

有給は、給与を受け取りながら休暇を取得できる制度です。勤務年数が増えるごとに付与される日数も増えるものの、消化しきれず翌年に繰り越される経験をした人も多いのではないでしょうか。

また、残った有給を消化するために、退職日をずらすケースもよく見られます。有給が残っている場合、会社に買い取ってもらいたいと考える人もいるでしょう。

有給の買い取りが認められるケースや、交渉のポイントを解説します。買い取りを拒否されたときの対策も紹介するので、参考にしてください。

この記事のポイント

有給の買い取りは原則NGだが例外もある。
退職時・法定基準を超える休暇・使い切る前に失効した分については例外として買い取りが認められます。
買い取り金額に相場はない。
>買い取り金額は、一般的に通常賃金・平均賃金・標準報酬額をもとに計算して決まります。</dd
買い取ってもらった額には税金がかかる。
退職するタイミングで買い取ってもらったら退職所得申告をしましょう。忘れると20.42%の所得税が源泉徴収されます。

有給買い取りは違法になる?

有給休暇申請

(出典) pixta.jp

有給を使い切れず残ってしまうことも少なくありません。残った有給を買い取ってもらうことは違法になるのでしょうか。有給とはどのようなものなのか、基本的な内容を含めて解説します。

有給の買い取りは原則NG

有給の買い取りは、原則として法律で禁止されています。労働基準法第39条で、雇用者は労働者に対して有給を付与しなければならないと定められているためです。本来、有給はお金に換えてもらうものではなく「心身のリフレッシュ」に使われるべき制度です。

買い取りを安易に認めてしまうと、従業員が休む権利を失い、心身の健康に悪影響を及ぼす恐れがあるでしょう。このような背景から、基本的に有給は「取得するもの」として取り扱われ、企業側が自由に買い取ることはできないのが原則です。

出典:労働基準法 第三十九条(年次有給休暇)e-Gov 法令検索 

付与される有給の日数とは

有給は、以下の要件を満たした労働者に対して付与されます。

  • 雇用期間が継続して6カ月以上
  • 出勤日数が所定労働時間(就業規則などで定められた労働日数)の8割以上

フルタイムで働く正社員の場合、入社から6カ月間継続して勤務し、その間に全労働日の8割以上を出勤した人には年10日間の有給休暇が付与されます。以後も継続勤務していれば、年数に応じて付与日数が段階的に増えていく仕組みです。

パートやバイトなどの短時間労働者に対しては、週の所定労働日数に応じて付与されるのが一般的です。また、有給は基本的に1日単位での取得となりますが、企業によっては就業規則で時間単位の取得を認めている場合もあります。

時間単位での有給は年5日分までと上限が定められており、会社が制度を導入していれば取得可能です。

有給買い取りが可能なケース

一万円札と電卓

(出典) pixta.jp

原則として有給の買い取りは認められていませんが、一定の条件を満たせば例外的に可能とされる場合があります。法律上認められている代表的な3つのケースを見ていきましょう。

退職時に消化しきれず残っている場合

退職のタイミングで有給が残っている場合、例外的に違法とは見なされません。退職後は有給を取得できないため、「労働者に休養を与える」という本来の目的に反しないことが理由です。

ただし、有給の買い取りを選んだ場合は、社会保険の加入期間にも影響する点に注意が必要です。例えば、有給を20日間残して退職する場合は、その分だけ退職日が後ろにずれ、社会保険の資格も延長されます。一方で、買い取りにした場合は退職日で加入資格を失います。

法定基準を上回る日数がある場合

労働基準法で定められている日数を超えた分については、買い取りが認められています。慶弔休暇やリフレッシュ休暇など、企業が独自に付与している特別休暇が残っている場合です。

例えば、法定の有給が年間20日であるところに、特別休暇を5日追加して25日としている場合、上乗せ分の5日については買い取りの対象となることがあります。こうした法定外の有給は、企業と労働者で自由に取り扱い方を決められるため、両者の合意があれば買い取っても違法にはなりません。

使い切る前に失効してしまった場合

前年に使い切れなかった有給は、そのまま翌年に繰り越されて加算される仕組みです。しかし、有給には時効があり、原則として2年で権利が消滅します。

翌年に繰り越された有給が消化しきれず残ったとしても、その分をさらに翌々年に繰り越して使うことはできません。そのため、使い切る前に失効した有給については、例外として会社が任意で買い取ることが認められています。

有給の買い取り金額はどう決まる?

電卓を使う男性

(出典) pixta.jp

有給を買い取ってもらえる場合、金額がどのように決まるのか気になる人も多いはずです。買い取り金額の算出方法はいくつかあり、就業規則や会社の判断によって異なります。

【パターン1】通常賃金をもとに計算する

一般的な金額の出し方の1つが、通常賃金をもとに計算する方法です。通常賃金とは、所定労働時間に勤務した際に支給される賃金のことをいいます。通常賃金の算出方法は、賃金形態によって変わります。

  • 月給制:月給÷月の所定労働日数
  • 週給制:週給÷週の所定労働日数
  • 日給制:出勤したその日の賃金

例えば、月給24万円で月の所定労働日数が20日の場合、1日当たりの通常賃金は1万2,000円です。これを基準として、有給1日分の買い取り金額が決まります。買い取り可能な有給が10日だった場合、1万2,000円×10日で、12万円となります。

【パターン2】平均賃金をもとに計算する

平均賃金とは、直近3カ月に支払われた賃金の総額を、該当期間の総日数で割って算出されるものです。通勤手当や役職手当など、毎月決まって支払われる手当も含まれますが、賞与や臨時に支給した手当は対象外となります。

平均賃金の計算式は以下の通りです。

  • 平均賃金 = 直近3カ月の賃金総額 ÷3カ月の総日数

例えば、過去3カ月の賃金総額が72万円で、総日数が90日だった場合、1日当たりの平均賃金は8,000円です。この額を基準に買い取り金額を計算すると、10日分の有給は8万円になります。

なお、日給制・時給制・出来高制の場合は、最低補償額をもとに買い取り金額を計算します。

  • 最低補償額=賃金総額÷直近3カ月の労働日数×60%

【パターン3】標準報酬月額で計算する

標準報酬月額を使って、有給の買い取り金額を計算する企業もあります。標準報酬月額とは、健康保険や厚生年金の保険料を決めるための基準となるものです。社会保険に加入している人であれば、毎年4~6月の給与をもとに決定されるのが一般的です。

給与には、基本給のほかに毎月支払われる各種手当も含まれます。標準報酬月額をもとにする場合、1日当たりの金額を算出する計算式は以下の通りです。

  • 標準報酬月額÷その月の日数

例えば、標準報酬月額が36万円で月の日数が30日の場合は、36万円÷30日=1万2,000円となり、この額をもとに買い取り金額を計算します。

【パターン4】定額の場合もある

企業によっては、有給の買い取り金額をあらかじめ定額で設定している場合があります。給与にかかわらず一律で支払われるため、通常賃金や平均賃金をもとに計算した場合に比べて、金額が下がるケースもあるでしょう。

また、正社員とパート・バイトで買い取り金額が差別化されていることもあります。しかし、そもそも有給の買い取り金額に関する法律はないため、こうした差別化をしても違法ではありません。

定額の場合、計算が簡単で処理しやすい企業側のメリットがある一方で、従業員にとっては不利益となる可能性もあります。

有給買い取りを交渉するには?

話し合う男女

(出典) pixta.jp

買い取りが認められるケースに該当していても、実際に支払ってもらうには交渉が必要です。スムーズに買い取ってもらうためのポイントを紹介します。

退職時に交渉する

有給の買い取りが例外的に認められるケースの1つが、退職時です。そのため、買い取りの交渉は退職の意思を伝えたタイミングで行いましょう。スムーズに交渉を進めるためには、円満に退職することが大切です。

日頃から勤務態度に問題があったり、十分な引き継ぎ期間を設けずに突然退職したりすると、買い取りに応じてもらえない可能性もあるでしょう。

また、感情的にならずに落ち着いて交渉する姿勢も欠かせません。直属の上司ではなく、人事担当者や総務部に直接相談した方が、話が通りやすいケースもあります。

会社にとって合理性があると説明する

会社側にとってのメリットを示すことも有効です。有給を消化して退職日が後ろ倒しになると、その分だけ社会保険料の会社負担が発生します。一方で、買い取りによって退職日を早められれば、会社としてはコストの削減につながるでしょう。

また、有給を思うように取得できなかったことに労働者が不満を抱いた場合、買い取りによってトラブルを回避できます。このように、会社側にとっても合理的だと判断されれば、買い取ってもらえる可能性は高くなります。

有給買い取りのメリット・デメリット

考え事をする女性

(出典) pixta.jp

買い取りによって未消化分の有給を無駄に消滅させないメリットがある一方で、注意すべき点もあります。労働者側から見たメリット・デメリットを整理しておきましょう。

買い取ってもらった場合のメリット

有給を買い取ってもらう最大のメリットは、取得できずに残った日数が現金化されることです。退職時であれば、臨時収入として新生活の準備や転職活動の費用に充てられるのは、大きな利点といえるでしょう。

退職する際に買い取ってもらった場合は退職所得として扱われるため、一定の条件を満たせば所得税が軽減されることもあります。税務上の取り扱いについても確認しておくのがおすすめです。

また、転職先が決まっている場合は、有給を取得せずに退職すれば早期に次の職場に移れます。休みを取るより、新しい環境に早く慣れたい人にとってはメリットと感じられるでしょう。

買い取ってもらった場合のデメリット

有給を買い取ってもらうことで現金を得られる反面、本来得られるはずだった休養の機会がなくなってしまうデメリットがあります。休みを取らずに次の職場に移った場合、疲労やストレスが蓄積してしまう可能性もあるでしょう。

買い取りの条件や金額について会社との認識がずれていることにより、トラブルへ発展するケースもあります。買い取りは例外的な対応なので、企業もよく理解していないことが少なくありません。制度や条件を十分に理解しておくことが、不要な混乱を防ぐポイントです。

有給を買い取ってもらう際の注意点

TAXと書かれたブロックと電卓

(出典) pixta.jp

有給の買い取りに関する注意点についても知っておきましょう。主なポイントを4つ挙げて紹介します。

有給買い取りは会社の義務ではない

買い取りが認められるケースに該当していても、会社に支払い義務はありません。そもそも有給とは、労働者の心身のリフレッシュを目的として設定されている休暇です。買い取りはあくまでも例外的な対応だということを忘れないようにしましょう。

トラブルを避けるためにも、会社側には拒否する権利がある点を念頭に置くことが大切です。就業規則に買い取りに関する可否を記載している企業もあるので、あらかじめ確認した上で申し出るようにしましょう。

買い取りの予約は違法になる

あらかじめ有給の買い取りを約束する行為は、違法になります。例えば「年5日分は最初から買い取る」といったような予約をすることは、労働者に本来付与されるはずの休暇を実質的に奪う行為と見なされるためです。

有給は、労働者が休暇を取得する権利です。買い取りを予約すると、形式的に制度が存在していても実際には休暇が取れない状態となり、法的に問題視される可能性があります。有給の買い取りは、本来の取得ができなかった場合にのみ例外として認められる措置であることを覚えておきましょう。

買い取ってもらった額には税金がかかる

有給の買い取りによって得た収入は、課税対象となります。特に退職時の買い取り分は、退職所得として扱われるため、税務上の手続きが必要です。

退職所得として適切に扱ってもらうには、「退職所得申告書」を忘れずに提出しましょう。申告書を提出することで退職所得控除が適用され、税負担を軽減できます。

退職所得の所得税額は他の所得とは別に計算され、給与所得に比べて優遇されているのが特徴です。提出を忘れると、買い取り金額に対して20.42%の所得税が源泉徴収されてしまうので注意しましょう。

年5日の取得義務分は買い取りされない

2019年4月に施行された働き方改革関連法により、企業は、年間10日以上の有給が付与される労働者に対して、1年に最低5日取得させることが義務づけられました。

そのため、年5日の取得義務分については、たとえ未消化のまま残っていたとしても、買い取りの対象にはなりません。企業がこの部分を買い取ることは、違法と判断される可能性があります。

買い取りが可能なのは、義務として取得させるべき5日を超えて残った分に限られるため、自分の残日数が何日になるのか把握しておくことが必要です。

出典:年5日の年次有給休暇の確実な取得|わかりやすい解説|厚生労働省

有給買い取りに関するQ&A

胸の前で✕マークを作る男性

(出典) pixta.jp

有給の買い取りに関してよくある疑問をQ&A形式でまとめました。実際の手続きや交渉の場面で迷わないために、押さえておきたいポイントを確認しましょう。

買い取りを拒否されたときの対処法は?

会社に買い取りを断られた場合は、退職日を調整して有給を消化する方法があります。有給を全て使い切ってから退職するようスケジュールを立てれば、未消化のまま無駄にしてしまう事態を防げます。

スムーズに有給を取得するためには、早めに申請し、引き継ぎ計画を明確にしておくことが有効です。引き継ぎが終わった後も日数が残っている場合は、給与の支払いを受けながら休暇を取ることも可能です。

買い取り金額の相場は?

買い取り金額の相場は一律に決まっているわけではありません。通常は、本人の賃金を基準として個別に計算されます。

月給制の場合は、1カ月の給与を所定労働日数で割った金額がベースになるのが一般的です。ただし、企業によっては買い取り金額をあらかじめ定額設定している場合もあります。

中には1日当たり数千円といった安い金額が設定されている例もありますが、就業規則に定められている場合は必ずしも違法とはいえません。就業規則に明記されておらず、あまりにも金額が低い場合は、交渉してみる余地があるでしょう。

バイトや派遣にも適用される?

バイトや派遣社員でも、条件を満たしていれば有給は付与されます。そのため、退職時に日数が残っていたり、時効によって消滅したりした場合は、買い取りの提案に応じてもらえる可能性があるでしょう。

ただし、派遣社員は派遣元の会社の規定に沿った対応になります。契約内容や就業規則を確認し、不明点があれば派遣元に問い合わせておくと安心です。

有給買い取りの仕組みを知っておこう

規約の中の有給の欄

(出典) pixta.jp

有給の買い取りは、原則として認められていません。しかし、退職時や法定日数を超える部分など、条件を満たせば例外的に可能となるケースもあります。

また、金額の算出方法や税務処理など、手続きにも一定のルールがあります。特に退職を控えている人にとっては、最終的な収入や会社を辞めた後のスケジュールに影響が出る場合もあるため、制度について正しく理解しておくことが大切です。

まずは自分がどのケースに当てはまるかを確認し、必要に応じて会社に相談しながら最後まで有効的に活用しましょう。