SaaS市場が急成長を遂げる中、将来性が期待できるSaaS企業への転職に興味を持つ人が増えています。SaaS企業とはどのような企業なのでしょうか?ビジネスモデルの特徴を挙げながら、転職に必要なスキルや職種ごとの違いを解説します。
SaaS企業とはどんな会社?
SaaS(サース/サーズ)は「Software as a Service」の略称で、クラウド上で使用するソフトウェアを意味します。国内のSaaS業界は拡大傾向にありますが、業界自体の歴史が浅いがゆえに「SaaS企業がどんな企業のことかよく分からない」という方もいます。まずは業界の概要についてご紹介します。
ビジネスモデルの特徴
いわゆる「IT系」の業界に入りますが、その中でSaaSの主な特徴には以下のようなものがあります。
- ネット環境さえあれば、どこからでもアクセスが可能
- 複数ユーザーの同時使用が可能
- 料金形態はサブスクリプション型が多い
従来のソフトウェアは、購入した商品を所有して使用する「買い切り型」ですが、SaaSの大部分は、定額を支払うことで継続利用ができる「サブスクリプション型」です。
SaaSの具体例
クラウド型のソフトウェアといっても、なかなかイメージが湧かない人も多いでしょう。私たちの身近にあるSaaSを紹介します。
- ファイル共有やスケジュール管理など、グループウェアのSaaS
- チャットやビデオ会議など、コミュニケーションツールのSaaS
- 人事や経理など、バックオフィスをサポートするSaaS
- 営業・マーケティングをサポートするSaaS
グループウェアのSaaSには、ファイルの作成・共有・保存などができる「Google Workspace」や「Microsoft 365」などがあります。Web会議でおなじみのコミュニケーションツール「Zoom」や「Google Meet」も、SaaSの1種です。
国内では、働き方の多様化やコロナ禍により、クラウド活用に対する意欲が一気に高まりました。SaaSは、テレワークやチームでの同時作業に最適なサービスといえるでしょう。
今注目すべきSaaS企業を一覧で紹介
実際に、どのような企業がSaaSを提供しているのでしょうか?国内・外資系のSaaS企業の中でも、知名度の高い注目企業をピックアップして紹介します。
国内のSaaS企業
国内のSaaS業界をけん引しているのは以下のような企業です。この他にも多くのSaaS企業があるため、あくまで一例です。
- Sansan株式会社
- サイボウズ株式会社
- 株式会社マネーフォワード
- 株式会社ラクス
- freee株式会社
- 株式会社オービックビジネスコンサルタント
Sansan株式会社は、名刺をデータ化するクラウド型の名刺管理サービスやインボイス対応の請求書管理システムなどを開発・提供する会社です。
サイボウズ株式会社は、1997年に設立されたグループウェアの開発会社で、2011年に企業向けクラウドサービスの本格稼働を始めました。
株式会社マネーフォワードは、個人・法人向けの金融系Webサービスを提供しています。代表的なSaaSには、家計管理ツール「マネーフォワード ME」があります。
外資系のSaaS企業
外資系のSaaS企業には誰もが知る大企業が名を連ねます。AdobeやGoogle、Microsoftなどが提供するツールは、使ったことがある人が多いのではないでしょうか?
- Adobe
- Microsoft
- Salesforce
- Slack
- Zoom
Adobeは、アメリカに本社を構える世界有数のソフトウェア開発会社で、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などのDTPソフトが有名です。
Salesforceは、世界を代表するSaaSのパイオニアです。1999年にクラウド型の顧客管理システムを開発して以来、営業支援システムやMAツールなどのサービス型ソフトウェアを次々と世に送り出してきました。
Slackは、世界中に拠点を持つアメリカのグローバル企業で、ビジネス向けのコミュニケーションツール「Slack」を展開しています。なお、Slackの日本法人は2021年にSalesforceと合併しました。
SaaS業界の現状と未来
近年は、新たなSaaS製品が続々と登場しています。普段からSaaSをよく活用する人の多くは、SaaS市場の活気を肌で感じているのではないでしょうか?
「異業種からSaaS業界に参入したい」「SaaS企業で働いてみたい」という人にとって、業界の現状と動向のリサーチは欠かせません。
国内のSaaS市場は拡大傾向
国内SaaS市場は拡大傾向にあり、しばらくは成長が続くと見込まれます。
市場規模が拡大している理由の1つは、リモートワークの増加です。Saasは場所を問わずにアクセスできるためリモートワークと相性がよく、コロナ禍で利用する企業が増えました。
働き方改革で、フレックスタイム制をはじめとする多様な働き方が認められたことも要因でしょう。働き方の多様化が進めば進むほど、SaaSを導入する企業は増加します。
デジタル庁は、デジタル時代の官民のインフラを5年で構築する構想を打ち出しました。IT導入補助金を投入して中小企業のDX化を推進していることからも、SaaS業界は盛況が続くでしょう。
ベンチャー企業が続々と参入
国内においては、ベンチャー企業やスタートアップ企業の参入が目立っています。SaaSのビジネスモデルであるサブスクリプションは継続的な収益が期待できるため、多額の資金を調達して参戦する新興企業が多いのです。
近年は、SaaS起業家やベンチャー企業を支援するベンチャーキャピタルも登場しています。
ベンチャーから急成長を遂げたメガベンチャーには、クラウド会計ソフト「freee会計」でおなじみのfreee株式会社や株式会社マネーフォワードなどがあります。
ビジネスチャットツールを提供するChatwork株式会社や、クラウド人材管理システムを手掛ける株式会社カオナビも注目の企業です。
新卒・未経験者でも業界への就職は可能?
SaaS市場の拡大に伴い、SaaS企業の求人数も増加傾向にあります。SaaS業界自体が若いこともあり、経験者がそれほど多くないのが実情です。
他の業界に比べて、新卒・未経験者に対する採用ハードルは決して高くはないため、飛び込むなら今かもしれません。
SaaS企業で働くといっても、職種は多岐にわたります。中途採用でチャレンジしたい人は、自分の過去の経験が生かせる職種に応募しましょう。「SaaS企業で何を実現したいのか」「企業の成長にどのような貢献ができるのか」を考えることがポイントです。
SaaS企業の代表的な職種
SaaS企業が求める代表的な職種には、セールス(営業職)・エンジニア(技術職)・カスタマーサクセスなどがあります。それぞれの特徴と仕事内容を詳しく見ていきましょう。
セールス
SaaS企業のセールスは、「インサイドセールス」と「フィールドセールス」に大別されます。
インサイドセールスの役割は、自社製品に興味がある見込み客に対してアプローチをすることです。具体的には、電話・メール・ウェビナーなどを活用して顧客とコミュニケーションを図り、商談のきっかけを作ります。
フィールドセールスは、インサイドセールスから見込み客の情報を引き継ぎ、商談・提案・クロージングまでを行います。近年は、商談から成約までを非対面で完結するSaaS企業が増えているようです。
エンジニア
SaaS企業のエンジニアは、システムの開発や不具合の修正、保守などを担当します。フロントエンド開発とバックエンド開発がメインポジションとなるでしょう。
開発フェーズは分業で進めるのが一般的ですが、複数のスキルを駆使してマルチに活躍ができるフルスタックエンジニアを求める企業もあるようです。
SaaSは継続利用が前提なので、システムを開発したら終わりではありません。技術スキルだけでなく、「顧客は何を求めているのか」をしっかりと捉えられるビジネス感覚も必要です。
カスタマーサクセス
カスタマーサクセスとは、自社製品を導入した顧客に対してサポートを行う職種です。「顧客の成功」と直訳される通り、顧客の業績アップや業務の効率化といった「顧客の利益の最大化」のために尽力します。
SaaSは、顧客の成功なしに継続利用はあり得ません。顧客の成功=自社の利益という考えのもとで、以下のような業務を行います。
- オンボーディング:SaaSの導入支援
- アブダクション:実践的な活用支援
- エクスパンション:顧客視点に立った新たなサービスの提案
SaaS企業に就職・転職するメリット
SaaS業界は市場規模が右肩上がりで拡大しており、働き手にとっても将来性のある業界といえます。SaaS企業に就職・転職するとどのようなメリットがあるのでしょうか?
柔軟な働き方が可能
SaaS企業の多くは、IT系のベンチャー企業が大多数を占めています。ITの技術革新や新たなビジネスの創出に力を入れているだけあって、時代錯誤が著しい企業は少ないといってよいでしょう。
フレックスタイム制や裁量労働制などの勤務形態を取っているSaaS企業では、自分のライフスタイルに合った柔軟な働き方が可能です。「リモートワーク制度の導入あり」「服装は自由」という企業も少なくありません。
多彩なビジネススキルと経験が身に付く
SaaS企業の働き方の基本は、分業と連携です。組織は複数の職種に分かれており、入社後は、セールスやマーケティング、カスタマーサクセスなどの各部署を数年ごとに異動するのが一般的です。
SaaS企業で長く働けば、多彩なビジネススキルと経験が身に付くでしょう。
SaaS企業に限りませんが、成長途中にある業界は、企業の内部環境や外部環境が大きく変化します。変化の激しい環境では、より多くの実践的な経験が積め、キャリアの幅もグンと広がるでしょう。
キャリアパスが大きく広がる
SaaS企業で働くと、将来の選択肢が大きく広がるのがメリットです。
例えば、SaaS企業のITエンジニアとして経験を積んだ後は、ITコンサルタントやプロジェクトマネージャーとして活躍する道が開けます。よりよい待遇を求めて、他のSaaS企業や外資系SaaS企業に転職する手もあるでしょう。
転職市場において、SaaS業界経験者は希少価値があります。在籍中にできるだけ多くの経験を積んでおけば、年齢や景気に左右されない「引く手あまたの人材」になれるかもしれません。
SaaS企業で働くのに必要なスキル
SaaS企業への転職を成功させる鍵は、企業が求める人材に少しでも近づくことです。SaaS企業で働くには、どのような知識やスキルが必要なのでしょうか?転職活動で有利になる資格についても解説します。
ITの基礎知識は必須
ITエンジニアでなくても、ITの基礎知識は必須です。特にセールスには、顧客にサービスの仕組みを説明する任務があります。ITの基礎知識があれば、顧客の課題に適切な提案ができる上、自社製品をより魅力的にアピールできるでしょう。
ITの基礎知識を証明できる資格(試験)としては、以下のようなものがあります。
- ITパスポート試験:新技術・経営・IT・プロジェクトマネジメントなどに関する幅広い知識を問う国家試験
- 基本情報技術者試験:ITを活用したサービスや製品などに関する基本的知識・技能を問う国家資格
基本情報技術者試験はITエンジニアの登竜門であり、上位資格には「応用情報技術者試験」があります。
分析力と問題解決力
従来の買い切り型と違い、SaaSでは製品を顧客に購入してもらってからが本番です。既存顧客の継続率を上げるには、顧客側に「課題が解決された」「業務上の効率が上がった」などの成功体験をしてもらう必要があります。
SaaS企業のどの職種においても、顧客の抱える課題を洗い出す分析力と、課題を解決に導く問題解決力は欠かせません。
SaaS業界が未経験でも、過去に「課題解決型営業(ソリューション営業)」の経験がある人は、転職で有利になる可能性が高いでしょう。エンジニアであれば、技術力に加えて顧客理解の深さが問われます。
プレゼンスキル
顧客と接する職種では、プレゼンスキルが求められます。プレゼンスキルとは、相手のニーズを理解した上で、必要な情報を的確に伝達する能力です。
SaaSの製品は大部分が法人向け(BtoB)です。自社の製品を利用してもらうには、企業側の担当者に必要性を感じてもらわなければなりません。
自分が伝えたい情報を一方的に説明するのではなく、相手が知りたいと思っていることを適切に反映させる必要があります。過去に法人営業の経験がある人は、自分のプレゼンスキルに磨きをかけましょう。
急成長する業界で自分の力を試そう!
リモートワークや企業のDX化が進む中、SaaS業界は今後も一定の成長が見込めます。業界の歴史はまだ浅く、転職市場にもSaaS業界経験者はそれほど多くはありません。
新卒や業界未経験者にも就職の門戸は開かれているので、恐れずにチャレンジしてみましょう。
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