採用時に「管理監督者」としての勤務を打診された場合、賃金・待遇を含めた条件の確認が大切です。管理監督者とはどのような従業員を指すのか、主な定義を解説します。任命された場合のトラブル事例や、裁判例も確認しましょう。
管理監督者とは
会社には、一定の責任や権限を持つ「管理監督者」が存在します。管理監督者は法律上どのように定められているのでしょうか?労働基準法の定義や、「管理職」との違いを解説します。
法律で定められている管理監督者の定義
「管理監督者」については、労働基準法で定められています。労働基準法第41条に記載されている「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」が管理監督の責任を負う者です。
労働基準法では、「第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」を適用しない者として定めています。
一般の労働者に対しては、法律で定められた労働時間や休憩・休日の取得の順守が規定されていますが、これらは管理監督者には適用されません。
例えば労働基準法第35条では「毎週少なくとも1回の休日を定めなければならない」とされていますが、管理監督者は休日に関する規定から外れているため、休日を設定しなくても労働基準法違反とはなりません。
管理職と管理監督者の主な違い
管理監督者と似た言葉に、「管理職」があります。管理職は、主に部下や部署を管理する役割です。管理職に含まれる範囲は企業によって異なり、課長・部長・支店長などが該当します。
管理職と管理監督者は異なる意味を持ち、管理職イコール管理監督者ではありません。役職がついていた全員が該当するとは限らず、管理職の一部が管理監督者に当てはまります。
係長や店長に出世したとしても、法律上で決まっている定義に該当しなければ、法律上は一般労働者と同じです。
管理監督者に認定される要件
管理職に任命されたとしても、管理監督者には別の要件があります。では、認定される要件とは何なのでしょうか?管理監督者の基本的な定義を確認しましょう。
参考:多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について|厚生労働省
職務内容や権限
管理監督者とは、強い権限と責任を持ち、相応の職務内容を担当する者です。経営者と同等、もしくはそれに準じる程度の権限や責任があります。
また、「一般労働者向けの規制を超えて働かなければならない」と、認められる程度の職務を担うのも特徴です。
権限や責任の重さから、何かあればすぐに対応しなければならない責務を負っています。経営者とほぼ同じ程度の大きな役割を果たし、労働時間や休日の規制に従うのが難しい職務を担っているかという点が、管理監督者の判断基準の1つです。
労働時間と勤務形態
厚生労働省は、都道府県労働局長に向けた「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(2008年)という文書において、監督又は管理の地位にある者の範囲」を「現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないような立場にある者」と定めています。
一般の労働者は、労働時間を管理されています。遅刻や早退があれば一般的に減給や査定の対象になりますが、管理監督者は労働時間が短いからといって、減給の対象とはなりません。ただし、欠勤については会社ごとのルールによって異なります。
このほか、労働時間の管理が裁量に任され、規制が難しい勤務形態であるという点も要件です。
管理監督者にふさわしい賃金と待遇
賃金と待遇がふさわしいかどうかも判断基準となります。一般労働者と比べて高い賃金や、高待遇が主な条件です。
一般の労働者と賃金が変わらず、役職だけを与えられている場合、管理監督者とは呼べません。どの程度の賃金差や待遇でなるのか明確には定められていませんが、役職や地位に見合った待遇であるかどうかが判断基準になると考えましょう。
なお、賃金が高かったとしても、それだけで管理監督者と認定されるわけではありません。職務内容・権限・責任・勤務形態などが総合的に判断されます。
管理監督者と一般労働者の主な違い
管理監督者は一般労働者とも違いがあるため、特徴を見ていきましょう。賃金や待遇によっては、一般労働者よりも制限が強い分、できないことも多くなります。
残業代や休日手当は基本的にない
管理監督者と認められると、ほとんどの残業代や休日手当が支払われなくなります。管理監督者には、「労働時間を超えて働いた分の時間外手当」や「法律上取得しなければならない休日」がありません。
労働時間は原則的に上限が定められておらず、休日を設定する義務がないためです。ただし、法律上深夜割増手当は対象となっています。
また、有給休暇も取得しなければなりません。有給休暇は年5日の取得が義務付けられており、管理監督者にも一般労働者と同様の義務があります。
労働者の代表になれない
労働者の代表は一般労働者から選出されます。管理監督者は経営層に近いため、労働者代表にはなれません。
管理監督者以外の管理職も、職務と労働者代表の兼任が難しい場合は、選出すべきではないとされています。基本的には、従業員側の立場に立って会社と話し合いができる人が、労働者代表として働くことになるでしょう。
何らかの活動を考えている人は、管理監督者になると代表としての活動はできなくなる可能性があります。
労働時間の把握は義務化されている
管理監督者の労働時間は、原則的に本人の裁量や業務量によって柔軟に設定できます。しかし、規制が難しい勤務形態も相まって、労働時間の長さが問題となる可能性が高いでしょう。
2019年4月に施行された労働安全衛生法により、管理監督者を含めた労働時間の把握が義務付けられ、会社側は勤怠管理を取り入れています。
出勤・退勤・休日など、基本的な勤怠管理を行うと、何か問題があった場合は実際の労働時間がどの程度であったかを把握が可能です。
管理監督者は、安全配慮義務の適用を受けています。労働時間が長すぎる場合には、適切な休憩や休暇を取るなど、会社側からの働きかけも求められるでしょう。
管理監督者の具体的な範囲とは
管理監督者の要件には、はっきりとした金額や役職、労働時間が示されていません。会社側の考えと法律上の意味合いがずれないよう、一部の職業について厚生労働省が主な定義を公開しています。
なお、自分が当てはまるか判断するヒントにはなりますが、記載がないものがすべて管理監督者として認定されるわけではありません。
金融機関における管理監督者の定義
金融機関のうち、都市銀行では主に管理監督者を以下のように定義しています。
- 取締役等役員を兼務する者
- 支店長、事務所長等事業場の長
- 本部の部長等で経営者に直属する組織の長
- 本部の課又はこれに準ずる組織の長
定義を見ると、都市銀行の中で経営者に近い役職者のみが任命されることが分かります。個々の名称が違ったとしても、同等の役割を担う役職者は管理監督者です。
都市銀行以外の金融機関でも、基本的には本部で経営者に直属する組織の長や支店長などが該当します。
「ただし、法の適用単位と認められないような小規模出先機関の長は除外される」とあり、都市銀行に比べると、すべての支店長が管理監督者と認められるかどうかは状況によって異なるようです。
参考:労働基準法の「管理監督者」とは?|日本労働組合総連合会
小売・飲食店における管理監督者の定義
小売・飲食店業界では小規模な店舗が多く、管理監督者であるかの判断が難しいのが現状です。本来は該当しない役職者が残業代なしで働くなど、多くの問題が起きたことを受け、厚生労働省が判断要素を公開しています。
例えば、「部下の採用や解雇の権限がなく関与しない」「遅刻や早退による減給処分の対象である」といった場合、店長であっても該当しません。
そのほか、アルバイト・パートの代わりに業務の穴埋めを求められ、実質労働時間の裁量がないケースも、該当しないとされています。
厚生労働省の通達は主なケースのみを紹介しているもので、公開されている判断要素だけで、管理監督者であるか否かが決まるわけではありません。職務内容・労働時間・賃金など、総合的な判断により決定されます。
参考:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
管理監督者が注意したいトラブルと判例
管理監督者として任命されると、トラブルにつながるケースもあります。注意したいトラブルの原因や、裁判が起きた例を確認しましょう。
「名ばかり管理職」はトラブルになりやすい
小規模店舗やチェーン店などで問題になっている「名ばかり管理職」は、要件を満たしていないのに管理監督者として扱われる従業員を指す言葉です。
会社側が要件を正しく理解せず、店舗の責任者であるという理由だけで、残業代を払わずに長時間労働を求めるケースは、名ばかり管理職と判断できます。
名ばかり管理職の特徴は、ふさわしい賃金や待遇を与えられていないのにもかかわらず、労働時間や業務量だけが多くなる点です。残業代未払いや労働時間の超過によるトラブルにつながります。
実際に起きた裁判と判例
会社と労働者の間で、「管理監督者であるかどうか」の判断が食い違う場合、民事裁判に発展します。主な訴えは残業代の支払いについてです。
管理監督者であるか否かを争い、残業代の支払いが必要か判断するのが、裁判の主な目的となっています。主な裁判の概要を見てみましょう。
【ファミリーレストラン店長のケース】
- 争点:時間外労働分の割増賃金支払い
- 結果:職務内容や出退勤の裁量権がなく、管理監督者とは認められない
【学習塾営業課長のケース】
- 争点:時間外労働分の割増賃金支払い
- 結果:賃金・裁量・勤怠の自由など総合的に判断し、管理監督者とは認められない
裁判では、多くのケースで「管理監督者とは認められない」という結論が出されています。店長・課長・部長などさまざまな役職が訴えを起こしており、強い権限や裁量権がなければ残業代の支払いが命じられる傾向です。
参考:労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために|厚生労働省
管理監督者がトラブルを防ぐ方法は?
名ばかり管理職のようなトラブルを防ぐには、どのように対処すればよいのでしょうか?労働契約を結ぶ前に確認しておきたいポイントを解説します。
契約前に待遇や就業規則を確認しておく
管理監督者としての勤務を求められた場合、契約前に待遇について確認するのが大切です。賃金や労働時間の裁量を確認し、見合う待遇なのか判断しましょう。
就業規則には、残業代の有無や休日の設定が記載されているケースがあります。管理監督者という名称であっても一般労働者と同程度の権利があるなら、トラブルも少なくなります。
待遇や賃金が業務に見合わないと感じるのであれば、契約前の話し合いが必要です。明らかに管理監督者ではないと考えられる場合は、労働基準監督署に確認してみてもよいでしょう。
会社の規模を確認する
会社や店舗の規模によっては、管理監督者と経営層が同等の権限を持ちます。小規模な会社や店舗では、本当に経営層と同等の権限があるのかという点を確認しましょう。
店長・部長・マネージャーという名称であっても、上司からの指示に従うよう求められ、実質的に権限がなければ名ばかり管理職の可能性があります。
中小企業では、ほとんどの役職が該当しません。従業員が少ない会社では、社長にすべての権限が集中しているケースもあります。
管理職と管理監督者を混同していないか、業務内容や権限の有無をよく聞いておきましょう。
管理監督者が担う役割とは
管理監督者は経営陣と一体化し、会社のために行動します。担う役割と、業務上求められる視点や行動について見ていきましょう。
経営陣の目的を理解し共有する
管理監督者は経営陣の目指すものを理解し、業務を遂行しなければなりません。経営側の視点に立ち、仕事の目的や部署の方向性を決定する役割を担います。
また、現場の状況や部下の思いに対しても考慮が必要です。経営陣は広い視野を持ち全体を見渡しますが、管理監督者は細かい部分にも気を配ります。
経営陣の意向を理解した上で、現場との橋渡しをする役割を求められるでしょう。
部下の育成やメンタルヘルスの管理
管理監督者は、部下の管理や育成を担当します。部下が持つ力を最大限引き出し、モチベーションを維持できれば、部署全体の底上げにつながるでしょう。
管理職として部下の相談に乗り、アドバイスを実施するのも主な役割です。定期的なストレスチェックや精神面でのサポートも行う必要があります。
万が一部下の様子が普段と違うようであれば、産業医に診てもらうよう部下本人とコミュニケーションを取り、窓口となることも求められるでしょう。
管理監督者を目指すなら定義を知っておこう
管理監督者として働くことになったのであれば、名ばかり管理職である可能性や、残業代の有無をしっかり確認しましょう。
多くの場合、地位の高い取締役や大規模な店舗の支店長などが該当します。会社のルールに不安があり、転職や別の仕事を探している場合には求人サイトを活用しましょう。
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