産業医とはどんな仕事?臨床医との違いや仕事内容を分かりやすく解説

会社には、事業場の規模に応じて「産業医」を選任する義務があります。労働者の健康を守る医師ですが、診察・治療は行いません。職場では、どのような役割を果たしているのでしょうか?臨床医との違いや仕事内容を詳しく解説します。

産業医とは何をする人?

産業医

(出典) pixta.jp

働き方改革や労働安全衛生法の改正、ストレスチェックの義務化などにより、産業医の重要性が注目されています。企業における位置付けと、職務内容について理解を深めましょう。

労働者の健康を守る医師

産業医とは、労働者の健康管理に関わる医師です。労働者が50人以上の事業場において、事業主は「労働衛生の専門知識を備えた医師」を選任しなければなりません。人数は事業場の規模に応じて、以下のように定められています。

  • 労働者数50人以上3,000人以下の事業場:1人以上
  • 労働者数3,001人以上の事業場 :2人以上

常時1,000人以上の労働者が働く事業場(有害業務は500人)では、専属産業医が常勤します。1,000人未満の事業場は、嘱託産業医(非常勤)となるため、訪問日が月1回〜となるでしょう。

労働者が安全かつ快適な職場環境で働けるように、面談や職場巡視、衛生教育などを実施します。

参考:中小企業事業者の為に産業医ができること|厚生労働省
  :産業医とは | 公益社団法人 東京都医師会

産業医と臨床医の違いは?

問診する医師

(出典) pixta.jp

病院やクリニックで患者の診察・治療にあたる医師は「臨床医」と呼ばれます。産業医と臨床医とでは、職務や業務内容が異なります。

対象者が異なる

臨床医の職務は、患者の診察・検査・治療などです。体調が優れない人・ケガをした人を診察し、症状に合わせて薬を処方したり、注射・点滴を打ったりします。

臨床医が看る対象者は病気・ケガを患った「患者」であるのに対し、産業医が対象とするのは「企業で働く労働者」です。労働者の中には、健康に不安を抱えている人もいれば、特に問題のない人もいます。

また産業医には勧告権があり、労働者の健康を確保するために必要と判断すれば、事業主への勧告が可能です。

治療・診断書を出せるのは臨床医

産業医の主な仕事は、職場環境の改善や健康管理に関する助言・指導です。就労制限や就労が可能かどうかのチェックは行いますが、労働者への診察・治療は行いません。

病状・病名を記した診断書を出してもらいたい場合は、産業医ではなく臨床医の診察が必要です。

診断書は出せませんが、産業医は就業上の適切な措置をまとめた意見書を作成できます。例えば、労働者が復職するにあたって、臨床医が「復職可」の診断書を出したとしましょう。

臨床医は、日常生活が円滑に行えるか否かで判断を下すケースが多く、業務遂行の安定性は考慮されていません。産業医は、診断書の結果や職場環境との適合性、労働者の意思などを加味した上で、復職が可能かどうかを判断します。

産業医の詳しい仕事内容

デスクワークをする意思

(出典) pixta.jp

産業医の職務は、労働安全衛生規則第14条で定められています。事業主や職場の管理職、産業保健師などと連携を取りながら、従業員の健康と安全の確保に努めます。詳しい仕事内容を見ていきましょう。

参考:労働安全衛生規則 第14条 | e-Gov法令検索
  :中小企業事業者の為に産業医ができること|厚生労働省

月1回以上の職場巡視

職場巡視とは、産業医が実際に職場環境を見て回り、作業方法や安全衛生上の問題点がないかをチェックすることです。よりよい労働環境を実現するため、良好事項や指摘事項は事業主に報告する必要があります。

労働安全衛生規則第15条第1項(産業医の定期巡視)には、以下の記載があります。

産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

事業場の規模にもよりますが、職場巡視は毎月1回以上が原則です(所定の条件を満たせば2カ月に1回も可能)。

出典:労働安全衛生規則 第15条 第1項 | e-Gov法令検索

健康相談・ストレスチェックの実施

産業医は、労働者の健康相談や面接指導、ストレスチェックの実施などを行います。

面接指導は、時間外・休日労働時間が1カ月で80時間を超える労働者で、疲労の蓄積が認められる者が対象です。本人から申し出があった場合、勤務状況・疲労の蓄積度合いなどを把握した上で必要な指導を行います。

また、50人以上の事業場は、毎年1回のストレスチェックを実施しなければなりません。ストレスに関する質問票を労働者に提出してもらい、集計・分析によってストレスの度合いを可視化します。

ストレスの度合いが高い労働者から面接指導の申し出があった場合、医師による面接を行います。面接指導を行う医師に指定はありませんが、職場の状況を把握している産業医が望ましいでしょう。

参考:長時間労働者への医師による面接指導制度について|厚生労働省

衛生委員会への参加

常時労働者が50人以上いる事業場には、衛生委員会の設置が義務付けられています。衛生委員会とは、労働災害・健康障害の防止を目的に、労使が協力して問題を調査審議する場です。

産業医は衛生委員会の構成メンバーとして出席し、医学的な立場から意見を述べたり、保健講話を行ったりします。

なお労働安全衛生法では、産業医を衛生委員会の構成メンバーに加えることを義務としていますが、衛生委員会への出席は義務ではありません。

参考:Q 安全委員会、衛生委員会について教えてください。|厚生労働省

労働衛生教育を実施

産業医が実施する労働衛生教育とは、健康に関する個別相談や保健指導、保健講話などを指します。従業員の健康の保持増進につながる適切な教育・指導を行うことは、企業の生産性向上・人材の流出防止につながるでしょう。

保健講話とは、労働者の健康管理・衛生管理を目的に実施される研修の一種です。義務ではありませんが、定期的な実施が望ましいとされています。保険講話のテーマの一例を紹介しましょう。

  • ストレスケア
  • 飲酒・喫煙について
  • リモートワークと健康
  • 花粉症対策
  • 病気治療と仕事との両立

健康診断結果の確認

産業医は労働者の健康診断結果を把握し、必要に応じて面談・指導を行います。

常時50人以上の労働者がいる事業場では、労働者の健康診断を実施した際に、「定期健康診断結果報告書」を所轄の労働基準監督署に提出する決まりです。報告書には、産業医名を記入する欄があり、提出前に産業医が内容を確認しなければなりません。

また労働安全衛生法では、異常の所見があると診断された労働者に対する、医師・歯科医師の意見聴取を義務付けています(労働安全衛生法第66条第4項)。

参考:労働安全衛生法 第66条 第4項 | e-Gov法令検索

産業医に求められる能力

問診のイメージ

(出典) pixta.jp

働く人たちが健康かつ快活に働けるように、きめ細やかなサポートをするのが産業医の任務です。信頼される医師であるためには、医療の専門知識のほかにどのような能力・資質が求められるのでしょうか?

コミュニケーション能力

事業場で働く人々のさまざまな悩みに対応しなければならないため、高いコミュニケーション能力が不可欠です。

産業医面談を希望する労働者の多くは、体調やメンタルヘルスに不安・問題を抱えています。状態や解決策をわかりやすく説明するスキルも必要ですが、相手の本音を深く理解しようとする傾聴力や、心に寄り添う共感力も欠かせません。

相手の話に耳を傾けず、自分の意見ばかりを優先させる姿勢では、信頼関係の構築は難しいでしょう。

人当たりのよさ

「的確な治療・アドバイスをすることが重要で、人当たりのよさは二の次」と思っている医師は少なくありません。

産業医は言葉遣いや話の内容だけでなく、表情・視線などの非言語コミュニケーションにも気を遣う必要があります。

面談中、相づちがなく不愛想だったり、高圧的な態度を取ったりすると、相手は緊張感・不安感を覚えます。「医師=怖い」というイメージを抱き、人によっては相談するのをためらってしまうかもしれません。

デリケートな悩みをカウンセリングする立場として、親しみやすさを意識することも大切です。

問題解決能力

産業医は、労働者から相談を受けて終わりではありません。職場の労働環境や働き方に問題があれば、事業主に対して意見・勧告を伝える必要があるため、問題解決能力が求められます。

ここでの問題解決能力とは、問題の根本原因を見極めて適切な解決方法を探し、事業主に伝えて実行に移させる能力です。問題の原因が洗い出せても、解決方法を導き出せなければ、状況は変わらないでしょう。

実行するのは事業主や労働者本人なので、合理的かつ実現可能な対策を考える必要があります。

産業医になる方法は?

勉強をする白衣を着た男女

(出典) pixta.jp

労働安全衛生法第13条第2項によると、産業医になるには医師であることに加え、「労働安全衛生規則第14条第2項」で定める要件を満たす必要があります。具体的にどのような要件をクリアしなければならないのでしょうか?

参考:労働安全衛生法 第13条 第2項 | e-Gov法令検索

日本医師会「産業医基礎研修」

労働安全衛生規則第14条第2項には、以下の記述があります。

労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者が行うものを修了した者

ここでいう研修とは、「日本医師会の産業医学基礎研修」または「産業医科大学の産業医学基本講座」を指します。

日本医師会の産業医学基礎研修で「日本医師会認定産業医」の称号を得るには、所定の単位を50単位以上取得するか、同等以上の研修を修了しなければなりません。資格の期限は5年間で、5年ごとに更新が必要です。

参考:日本医師会認定産業医制度 | 日本医師会 全国医師会産業医部会連絡協議会
出典:労働安全衛生規則 第14条 第2項 | e-Gov法令検索

産業医科大学「産業医学基本講座」

産業医になる2つ目の方法が、産業医科大学の産業医学基本講座を修了することです。受講対象者は産業医科大学の卒業生が原則ですが、他大学の医学部医学科を卒業した者や、修士以上の学力を有すると認められる者も受講が可能です。

講座の開催地は、産業医科大学(北九州市)と東京の2カ所で、それぞれ以下の期間がかかります。

  • 産業医科大学での受講:約2カ月間
  • 東京での受講:約5カ月間

講座を修了すると、産業医学基本講座修了認定書(産業医科大学産業医学ディプロマ)が交付されます。

参考:産業医科大学|産業医学基本講座

労働衛生コンサルタント試験「保健衛生区分」

労働衛生コンサルタントとは、労働衛生管理の能力を証明する国家資格です。労働衛生コンサルタント試験には、「保健衛生」と「労働衛生工学」の2区分があります。産業医の要件を満たすには、保健衛生区分に合格することが必要です。

試験はそれぞれ筆記試験と口述試験で、一定の要件を満たした場合は、一部または全科目の筆記試験が免除されます。産業医科大学の産業医学基本講座を修了している人は、全科目免除となる点に注目しましょう。

参考:受験資格(労働衛生コンサルタント)

会社で働く労働者の肉体・精神の健康を守る仕事

白衣を着た女性

(出典) pixta.jp

産業医は医師でありながら、病院やクリニックに勤務する臨床医とは異なる職務を担います。診察や検査、治療といった医療行為は行わず、医師の立場から事業主や労働者に助言・指導を行うのが仕事です。

産業医になるには、労働安全衛生規則が定めた要件を満たすことが前提であり、医師であれば誰でも従事できるわけではありません。

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