小説家に学歴・資格は不要ですが、誰もが簡単にデビューを果たせるわけではありません。社会人が小説家になるためには、何から始めればよいのでしょうか?身に付けておきたいスキルや心構え、目指すルートなどを解説します。
小説家になる主なルートは4つ
小説家は、物語を創作・執筆する職業です。小説が好きな人の中には、趣味で執筆している人もいるでしょう。趣味の範囲で終わらせず、職業としての小説家を目指すには、どのようなルートがあるのでしょうか?
新人賞を狙う
小説家デビューの登竜門とされるのが、各出版社が主催するコンテストです。中でも新人賞は文壇にいない新人を対象とするもので、小説家の卵の発掘・育成に主眼が置かれています。
受賞後は受賞作の出版が実現するため、小説家を志す多くの人々が新人賞に応募します。大手出版社の主催であればメディアに大きく取り上げられ、小説家として華々しいデビューを飾れるかもしれません。
応募できるのは、基本的に未発表作品のみで、Web上や同人誌で発表した作品は対象外となる場合があります。
新人賞は倍率が非常に高く、有名どころは1,000倍超えが当たり前です。狭き門であることを十分に理解した上で応募しましょう。
出版社に作品を持ち込む
出版社に原稿を持ち込んでアピールする方法もあります。ただし、持ち込みによる商業出版は難しく、門前払いされたり、返事をもらえなかったりするケースが多いのが現実です。
特に、飛び込み営業はスルーされる確率が高いため、きちんと手順を踏んでアプローチする必要があります。まずは、出版社のWebサイトにアクセスし、持ち込みが可能かどうか調べましょう。
飛び込み営業や一方的な郵送はせず、原稿を送付したい旨と出版企画書の内容をメールで先に伝えるのがマナーです。担当者が興味を持った場合、原稿の提出方法を案内されます。
Webや同人誌で作品を発表する
「新人賞を狙うのはハードルが高い」と感じる人は、Web上の小説投稿サイトやソーシャルメディア、同人誌に作品を発表し、出版社からのスカウトを待つのも有効です。
近年は、Web上や同人誌で公開された作品が人気を呼び、書籍化・電子書籍化される事例が多く見受けられます。例えば、KADOKAWAではWeb発小説を「新文芸」と名付け、新たなジャンルとして展開を始めました。
ただし、Web小説としてヒットするかどうかは、本人の努力と運次第です。スカウトは完全な受け身であるため、時間だけが刻々と過ぎていく可能性があるでしょう。
参考:WEB発小説の新ジャンル<新文芸>を追加! ライトノベルのレコメンドサイト「キミラノ」に4つの新文芸レーベルが参入!! | KADOKAWA
自費で出版する
小説家になる夢を確実にかなえたい人は、自費出版を検討しましょう。著者が出版費用を自分で負担する方法で、出版社を通じての一般販売も可能です。
作品のテーマ・ジャンルはもちろん、本の装丁・発行部数にも制限がないため、納得のいく形で小説家デビューができる可能性が高いでしょう。
自費出版は「印刷会社に印刷・製本を依頼する方法」と「出版社に依頼する方法」に大別されます。費用を少しでも安く抑えたい人は印刷会社を選ぶのが賢明ですが、出版社に依頼すれば編集者によるアドバイスが得られます。
小説家になるには何が必要?
小説家になるには、執筆への熱意が欠かせません。しかし小説が好きという気持ちだけでは、生計を立てていくのは難しく、趣味で終わる可能性があります。小説家として評価されるには、どのようなスキルが必要なのでしょうか?
知識・技術
「小説家は才能」とよくいわれますが、生まれながらの天才はごく一握りです。多くの小説家は、不断の努力によって自分の知識・技術を磨いていることを忘れてはいけません。必要な知識・技術としては、以下のようなものが挙げられます。
- 構成力
- 文章力
- 語彙力
- 表現力
- 発想力
小説は、構成の良し悪しで決まるといっても過言ではありません。読み進めたくなるようなストーリー展開を目指し、構成力を鍛える必要があります。
語彙力・文章力は、小説家になる上での基本中の基本です。語彙力が乏しいと文章全体が稚拙な印象になってしまい、文章力がなければ表現したいことを的確に表せません。発想力がある人は、読者を引き込む魅力的なストーリーを生み出せます。
書き上げる力
多くの新人賞は、400字詰め原稿用紙で100枚以上(4万字以上)を作品の応募要件としています。
これから小説家を目指す人は、書き上げる力をしっかりと養う必要があります。どれほど魅力的なアイデアがあっても、途中で書くのをやめてしまえば、世の中に作品は送り出せないでしょう。
プロの小説家になると、原稿の締め切り日が設定されます。何日でどのくらいの文字量を書き上げられるかを、今のうちから把握しておきましょう。毎日コツコツと書き続ければ、書き上げる体力は自ずと身に付いてきます。
コミュニケーション能力
小説家は黙々と机に向かって作業をしますが、出版にあたっては編集者をはじめとする多くの人と関わります。関係者と協力し合い、最高の作品に仕上げていく上では、コミュニケーション能力が必須です。
コミュニケーション能力が高い人とは、外向的な人・誰とでも打ち解けられる人だけを指すのではありません。
対人的なやりとりにおいては、自分の言いたいことをわかりやすく伝える力や、相手の本音を理解する力(傾聴力)などを備えていることが重要です。意思疎通をスムーズに行える人は、編集者と良好な信頼関係を構築できるでしょう。
スキルアップのために心掛けること
小説家になるためには、日々スキルを磨き続ける必要があります。文章力・語彙力を強化するだけでなく、多くの経験を積んで視野を広げましょう。スキルアップのための3つのポイントを紹介します。
さまざまな体験を積む
小説家には、学歴・資格はもちろん、特別な社会経験も必要ありません。しかし、表現力を広げるためには、さまざまな体験をして自分の引き出しを広げることが大切です。
旅行に行くのもよし、音楽を聴くのもよし、普段から周囲にアンテナを向け、気になったことはどんどんチャレンジしてみましょう。すべてが執筆活動の糧になります。
とはいえ、人が体験できることには限りがあるため、読書や映画、芝居などを通じて、他者の人生を疑似体験するのもよい方法です。
プロの技法を学ぶ
プロの作品から技法を学べば、小説家としてのスキルが一気にレベルアップします。
優れた作品はいわば、小説家を目指す人にとっての参考書のようなものです。キャラクター設定やストーリー構成、表現方法など、よいと思ったものは積極的に取り入れましょう。
ただし、あまりにも度が過ぎると、他人の文体を真似ただけの面白みに欠けた作品になってしまいます。プロの作品から得た技法・テクニックを、自分の中でいかに消化できるかが肝心です。
時間があれば、練習としてプロの作品をそのまま書き写してみましょう。優れた表現・文体が身に付く上、自分の文章の癖・無駄にも気付けます。
第三者の客観的評価を得る
小説家には、「自分が書きたいものを書く人」と「他者が読みたいものを書く人」の2つのタイプがあります。小説家として生計を立てていくのであれば、少なくとも他者が読んで面白いものを書く必要があります。
多くの人から読まれる小説に仕上げるために、第三者に評価を求めましょう。家族・友人に自分の書いた作品を読ませ、率直な感想を述べてもらいます。小説を投稿できるサイト・ブログに、作品を掲載するのもよいでしょう。
客観的な視点があると、話の矛盾点や不整合、自分の文章の癖にいち早く気付けます。「書く→フィードバックをもらう」を繰り返せば、文章の上達スピードもグンとアップするはずです。
社会人から小説家を目指すのは遅い?
若手の小説家がデビューするのを見るたびに、「社会人から小説家を目指すのは遅いのでは?」「仕事を続けながら小説は書けないのでは?」と思う人もいるはずです。
実際のところ、小説家を目指すのに早い・遅いはありません。経験を積んだ社会人だからこそ、作品に奥行きが生まれるともいえます。
多様な人生経験が小説に深みを与える
小説家には年齢制限がなく、書こうと思えば誰でも小説家になれます。ただ、他の職業と違って、早く目指せばよいというわけではないのが実情です。
社会人になってから小説家になる強みは、多様な人生経験を基に小説を書けることです。例えば、会社員を主人公とした小説は高校生でも書けますが、実際に会社員を経験した社会人と学校生活の経験しかない高校生では、表現の深さ・リアルさが違います。
リストラ・離婚・身近な人の死といった経験も、小説を書く上では無駄になりません。小説ではさまざまなバックグラウンドを持ったキャラクターを書き分けなければならないため、ある程度の人生経験・社会経験は必要といえます。
兼業小説家はいかに時間を作るかを考える
本業と執筆活動を並行する兼業小説家は、執筆時間をいかに確保するかが課題となるでしょう。数万字の文章を締め切りに遅れずに書き上げるには、執筆を日課として定めることが重要です。
仕事・家事が一段落した後に執筆する人もいれば、頭が最も冴える早朝に執筆する人もいます。帰宅後にすぐに取り掛かれるように、通勤時間・会社の休憩時間にストーリーを練る人もいるようです。
小説は最後まで書き上げることが大切なので、時間の確保と環境の整備は徹底する必要があります。
小説家にまつわるQ&A
専門学校に通う必要性や取得しておいた方がよい資格など、小説家にまつわる疑問点をQ&Aでまとめました。小説家を目指す上で疑問点・不明点があれば、現役小説家のブログや出版社のWebサイトなどもチェックしてみましょう。
専門学校や講座で学ぶべき?
小説家としてのスキルを身に付けるため、小説の書き方を学べる専門学校や講座を受講する人もいます。
学んだからといって、必ずしも小説家としてデビューできるわけではありませんが、第一線で活躍するプロの小説家や経験豊富な講師陣から、生きたノウハウを学べます。
さらに、学校によっては学生の作品の書籍化をバックアップする制度を設けているため、夢の実現に向けて着実に前進できるでしょう。同じ志を持つ仲間と切磋琢磨して成長できるのも、大きなメリットです。
小説家に役立つ資格はある?
基本的な文章力や正しい日本語の能力を身に付けたい人は、以下のような資格に挑戦してみるのもよいでしょう。学習の過程で、語彙力や文章力、読解力などが培われます。
- 文章読解・作成能力検定(日本漢字能力検定協会)
- 校正技能検定(日本エディタースクール)
- 日本語検定(日本語検定委員会)
「文章読解・作成能力検定」では、文章能力における基礎力・読解力・作成力を測ります。2級・準2級・3級・4級があり、最上級の2級では漢検2級程度の語句・慣用表現も出題されます。
「校正技能検定」は、校正の技能を認定する唯一の検定です。文字や組み方を見る目が養われると同時に、不備のない文章を書き上げられるようになるでしょう。
「日本語検定」は、日本語の総合的な能力を測る検定試験です。敬語・文法・語彙・言葉の意味・表記・漢字の全領域で50%以上を獲得する必要があり、1つでも満たない領域があれば認定されません(7級・準7級を除く)。一般的には3級が平均レベルで、1級が社会人上級レベルです。
夢をかなえるには努力と覚悟が必要
実際に小説家デビューを果たせるのは一握りです。新人賞を狙うにしても、出版社に作品を持ち込むにしても、不断の努力と「小説家になる!」という強い覚悟が必要です。
小説家を目指す方法は複数ありますが、出版業界・文芸業界に転職し、小説に関連するポジションで働きながら執筆活動を続ける手もあります。人脈が広がり、いつか出版のチャンスが巡ってくるかもしれません。
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