弁護士は高収入で華やかなイメージがありますが、実際は肉体的・精神的なプレッシャーが大きな職業です。責任が重い仕事だからこそ、職業への適性をしっかりと見極める必要があります。弁護士に向いている人の特徴や、業務内容を確認しましょう。
弁護士に向いている人の特徴
弁護士は、人々の基本的人権を擁護する法律の専門家です。刑事・民事訴訟や示談交渉、法律相談などを通じて、依頼人の利益を守ります。
弁護士の仕事に向いている人には、どのような性格的特徴があるのでしょうか?自分に資質があるかどうかチェックしてみましょう。
正義感・責任感がある人
弁護士の使命は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」です(弁護士法第1条)。人々の間の和解や交渉、訴訟の対応などが主な職務であるため、正義感と責任感を備えていなければなりません。
裁判では、被疑者・被告人の弁護を行います。「なぜ罪を犯した人の弁護をするのか」と疑問に思う人も多いですが、その人が本当に罪を犯したかは分かりません。
弁護士は無罪の可能性を追求し、無実の市民が犯罪者として扱われる「えん罪」を防がなければならないのです。報道や世論に流されず、依頼者の正当な利益のために最善を尽くせる人が向いているでしょう。
人のためを思って動ける人
弁護士は公人ではありませんが、依頼者を守るために身を粉にして働く職業です。「法律知識を生かして、困っている人を助けたい」という強い気持ちがある人は、弁護士に向いています。
弁護士の元を訪れる依頼者は、年齢も職業もさまざまです。それぞれ異なる事情を抱えているため、相手の置かれた立場や気持ちを理解し、人のためを思って動ける人でなければ、よい弁護士にはなれません。
裁判に勝つには、裁判官や検察官、傍聴人を味方に付けることが重要です。話術によって、他者の共感を引き出せる人は弁護士向きといえるでしょう。
冷静でトラブルに強い人
トラブルに介入した弁護士が、敵対する相手方から恨みを買うケースは珍しくありません。依頼者に無理難題を押し付けられたり、強い感情をストレートにぶつけられたりする場合も多く、精神的なプレッシャーは相当なものです。
弁護士はもめ事の仲裁役を担うため、どんなトラブルが起きても動じない精神力の強さと冷静さを、備えている必要があります。
弁護士が冷静さを欠くと、合理的な判断ができなくなります。不注意や過失によって、依頼者の一生が台無しになる可能性もあるでしょう。
公平な考え方ができる人
弁護士職務基本規程の第5条には、以下の記載があります。
弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。
依頼者の有利になるように交渉を導くことはあっても、「証拠をねつ造したから、有利な弁護をしてくれ」という依頼者の要望に応えたり、真実を否認する答弁書を出したりすることは許されません。
弁護士は依頼者の代理人という立場ですが、公平・公正を重視し、できないことはできない・駄目なことは駄目とはっきり表明できる人が向いています。
弁護士に求められる能力は?
弁護士は法律知識以外に、ある一定の能力・資質を備えている必要があります。依頼者を弁護する上では、コミュニケーション能力・交渉力が欠かせません。問題解決を図るためには、高い論理的思考力も要求されるでしょう。
忍耐力・辛抱強さ
弁護士に求められる資質の1つに、忍耐力が挙げられます。依頼者が不利な状況にならないように情報・証拠を集め、関係者へのヒアリングを徹底する必要があります。
こなすべき作業が多い上に、1つずつ丁寧に精査しなければならないため、忍耐力がない人では務まらないといってよいでしょう。
また、弁護士になるには、難関である司法試験を突破する必要があります。受験資格を得るまでの道のりは長く、「絶対に弁護士になる」という強い意思と粘り強さが求められます。
コミュニケーション能力・交渉力
弁護士の必須スキルともいえるのが、コミュニケーション能力・交渉力です。弁護士の元には日々さまざまな依頼者が訪れるため、人間性や立場、心理状況などを観察しながら、相手に適したコミュニケーションを図る必要があります。
コミュニケーションが不十分な場合、依頼者との信頼関係がうまく構築できず、交渉や裁判が有利に進まない可能性が高いでしょう。
弁護士に必要な交渉力とは、利害が一致しない相手に対して、こちら側の提案・要求を聞き入れてもらえるように働きかける能力です。依頼者の正当な利益を確保するためにも、駆け引きのスキルを磨く必要があります。
論理的思考力
論理的思考力とは、因果関係を明確にしながら、物事を筋道立てて考える力です。日常のちょっとした紛争・けんかは、感情論で決着するケースもありますが、裁判はそうはいきません。
推論の手法は、大前提(法規・法令)と小前提(事実)から結論を導き出す「三段論法」が基本です。事件の全容を的確に把握した上で、どの法律が適用されるのか、どう主張したら依頼者に有利になるのかを考える必要があり、論理的思考力は不可欠です。
また、相手方の弁護士・検察官と論争する上では、筋の通った話し方が求められます。感情に支配されれば、必然的に不利な状況に陥ってしまうでしょう。
依頼主の話・証拠品から真実を見極めるためには、物事を多面的に見る力・分析力も欠かせません。
やりがいから向き・不向きを確認
弁護士の仕事は、肉体的・精神的なプレッシャーが大きい分、やりがい・充実感も十分です。仕事で得られるやりがいから、職業の向き・不向きをチェックしてみましょう。
幅広い属性の人に出会える
弁護士の元には、日々さまざまな悩みを抱えた人が訪れます。相談事は百人百様で、1つとして同じ案件はありません。
犯罪の被疑者・反社会勢力の弁護を担当する場合もあり、一般的なビジネス職に就いていては、一生接点がないであろう人との出会いがあります。
ときには、相手に無理難題を要求されたり、クレームを受けたりする可能性もありますが、幅広い属性の人との関わりは、弁護士としての大きな成長をもたらすでしょう。
人との関わりの中で自分を成長させたい人や人間が好きな人、人を助けるのが好きな人なら、仕事に大きなやりがいを感じるはずです。
依頼を完遂したときの達成感を味わえる
弁護士が最も達成感を味わえるのは、依頼された任務を完遂できた瞬間でしょう。取り扱う内容は、離婚・相続などの家事事件から刑事事件まで幅広く、難易度もさまざまです。
ときには裁判・調停が長引く場合もありますが、依頼主の望んだ結果を勝ち取ったときの達成感はひとしおでしょう。
法的知識のない人が泣き寝入りをせずに済むのは、法律のプロフェッショナルがいるからです。依頼主の「ありがとうございました」という明るい声が聞けたとき、多くの弁護士は仕事に対する誇りを感じます。
どんな難題にもめげず、目標達成に向けてまい進できる人なら、弁護士としての実績を着実に積み重ねていけるでしょう。
弁護士の大変なところは?
弁護士は、一般的な会社員と比べて収入が高いですが、仕事は激務で精神的な負担も並大抵ではありません。これから弁護士を目指す人は、職業のよい面だけでなく、大変なところにもしっかりと目を向ける必要があります。
精神的な負担が大きい
弁護士は、肉体的・精神的な負担が大きい職業です。多くのトラブルを抱えた依頼人のために奔走しなければならない上、裁判ではミスが許されません。
案件の中には、依頼者の人生に関わるものも多々あります。弁護士の手腕によって、依頼者のその後の人生が左右されるため、責任の重さを感じざるを得ないでしょう。責任感が強い人ほど、望む結果に至らなかった際のダメージは大きいといえます。
依頼人の悩みを聞いているうちに、感情移入してしまったり、トラブルの相手方から文句を言われたりするケースも日常茶飯事です。精神的にタフな人でなければ、長く続けていくのは難しいかもしれません。
実は自由時間が少ない
弁護士は自由業なので、依頼があれば稼働し、依頼がなければ稼働しないというスタイルです。高収入で時間に縛られないイメージを持つ人もいますが、一般的なビジネス職と比べて自由時間は少なく、忙しいときは深夜まで仕事が続きます。
依頼人・相談者の都合に合わせるのが基本なので、まとまった休暇をほとんど取れない可能性があります。自由な時間が取れたとしても、弁護士同士の交流会・勉強会などに参加し、自己研鑽に励む人が多いようです。
自分の裁量で仕事を進められる点は魅力ですが、セルフマネジメントが苦手な人・ワークライフバランスを重視する人は、仕事がつらいと感じてしまう可能性があるでしょう。
弁護士の主な仕事内容は?
弁護士が関わる事件は、刑事事件と民事事件です。企業を相手にリーガルアドバイス・予防法務などを担当する弁護士も多く、活躍のフィールドは多方面にわたります。
被疑者・被告人の弁護をする「刑事事件」
刑事事件は、犯罪を起こした疑いのある人(被疑者・被告人)が有罪か無罪かを決定する手続きです。被疑者・被告人は、必ずしも罪を犯しているとは限りません。弁護士は、被疑者・被告人の弁護を通してえん罪を防止します。
具体的には、以下のような作業が一般的です。
- 被疑者・被告人の事情聴取や調査
- 証拠・承認の確保
- 検察側との話し合い
- 示談交渉
- 裁判資料の作成
- 公判での弁護
被害者と話し合える余地がある場合は、示談交渉を行います。示談交渉とは、双方が和解について協議し、被害金・慰謝料など金銭の支払いをもって解決する方法です。
警察が加害者に被害者の連絡先を伝えることはないため、示談交渉は弁護士を通じて行う流れとなります。
民間のトラブルを解決に導く「民事事件」
民事事件とは、私人の間(人と人・人と会社)での紛争です。代表的な紛争には、以下のようなものがあります。
- 離婚問題
- 相続問題
- 労働問題(不当解雇・給与未払いなど)
- 交通事故の損害賠償
- 貸金の返還
- 債権回収
- 消費者トラブル
弁護士は、法律相談・示談交渉・訴訟・行政庁に対する不服申立てなどを行い、依頼人をサポートします。民事訴訟に発展するケースもありますが、裁判に至る前に話し合いで解決できるケースも少なくありません。
M&Aの監修などにも携わる「企業法務」
弁護士の業務は、事件・紛争の解決だけではありません。近年は、企業のコンプライアンス意識の向上により、大手企業の法務部に勤務する「企業内弁護士(インハウスローヤー)」や、顧問契約を結んでアドバイスをする「企業法務弁護士」が増えています。
主に以下のような仕事に携わると考えましょう。
- 法務に関するアドバイス
- 契約書の作成やリーガルチェック
- 行政とのやりとり
- M&Aの法務対応
- 予防法務
M&A(Mergers and Acquisitions)とは、企業の合併と買収です。株式譲渡や事業譲渡、合併などを行う際に法的リスクがないかを調査したり、契約書に不備がないかをチェックしたりして、法律の専門家の立場から企業を支援します。
弁護士になる方法もチェック
弁護士になるには、司法試験に合格しなければなりません。司法試験の受験資格を得るには、法科大学院で学ぶルートと予備試験を受けるルートの2パターンがあります。
一般的なルート
弁護士になる人は、法科大学院で法知識を学び、司法試験を受験するのが一般的です。法科大学院の入学から弁護士になるまでの流れは、以下の通りです。
- 法科大学院に入学する
- 司法試験の受験資格を得る
- 司法試験を受験する
- 合格後、約1年間の司法修習を受ける
- 司法修習生考試(通称:二回試験)を受験する
- 法曹資格の取得後、日本弁護士連合会に弁護士登録を行う
法科大学院とは、法曹(弁護士・検察官・裁判官)を養成する専門職大学院です。以下の条件を満たす人は、司法試験の受験資格が得られます。
- 法科大学院を修了した者
- 法科大学院在学中に所定の科目単位を取得し、かつ司法試験の属する年の4月1日から1年以内に法科大学院の課程を修了する見込みがある者
参考:日本弁護士連合会:弁護士になるには
:日本弁護士連合会:弁護士の資格・登録
予備試験に合格する方法
法科大学院に入学しない「予備試験ルート」では、以下のような流れで弁護士を目指します。
- 予備試験に合格する
- 司法試験を受験する
- 合格後、約1年間の司法修習を受ける
- 司法修習生考試を受験する
- 法曹資格の取得後、日本弁護士連合会に弁護士登録を行う
予備試験には学歴の制限がなく、基本的に誰でも受験可能です。試験科目は、短答式試験・論文式試験・口述試験で、法科大学院修了者と同等の能力があるかどうかが試されます。
合格者は、合格発表日後の最初の4月1日から5年が経過するまでの間に、司法試験を受ける必要があります。
責任が重いからこそ向き・不向きは大切な要素
弁護士になるまでの道のりは険しく、いくつもの難関試験にパスする必要があります。弁護士になってからのプレッシャーはさらに大きく、交渉や弁護活動などに追われる日々になるでしょう。
責任が重く、誰にでもできる仕事ではないからこそ、向き・不向きをしっかりと見極める必要があります。自分に欠けている要素・スキルがあれば、どのようにカバーできるかを考えましょう。