行政書士の将来性は?市場価値の高め方やAIとの付き合い方も紹介

行政書士は、許認可申請に関する手続きのプロです。業務範囲が広く、日常生活やビジネスのさまざまなシーンで活躍できるのが強みですが、将来性はあるのでしょうか?選ばれる行政書士になるためのポイントや、AIとの付き合い方も解説します。

行政書士の現状と将来性

ビジネスパーソン

(出典) pixta.jp

行政書士は、行政書士法に基づく国家資格です。業務範囲は多岐にわたりますが、主に許認可申請に関する書類の作成および手続きを担当します。行政書士を取り巻く現状と、将来性について理解を深めましょう。

有資格者の増加で競争が激化

行政書士になるには、国家試験に合格する必要があります。士業の中では比較的ハードルが低く、受験資格の要件に年齢・学歴の制限がありません。有資格者は年々増加するため、資格があるからといって将来は安泰とはいえないのが実情です。

このまま有資格者の増加が続けば、行政書士間での顧客の争奪戦が生じる可能性があるでしょう。また、業務内容の一部が他の士業と重複するため、競争はさらに激化すると見込まれます。

2023年4月1日時点における行政書士の登録者数は5万1,041人で、前年に比べて755人の増加となりました。

参考:単位会所在地・会員数等 | 日本行政書士会連合会
  :表2 行政書士の都道府県別登録者数(令和4年4月1日現在)

業務範囲は拡大傾向

行政書士の魅力は、業務範囲が多岐にわたる点です。全国の有資格者数は増加の一途をたどりますが、行政書士の業務範囲も拡大傾向にあるため、需要がなくなることは考えにくいでしょう。

行政書士のメイン業務は、書類の作成と手続き代理です。取り扱える書類は1万種類以上で、権利義務に関するもの・事実証明に関するもの・そのほかに大別されます。以下がその一例です。

  • 遺言書・遺産分割協議書
  • 貸借契約書・請負契約書などの各種契約書類
  • 位置図・案内図・現況測量図などの各種図面類
  • 自動車のナンバー変更・名義変更
  • 知的資産・知的財産の登録申請
  • 入国管理・難民認定法に規定される申請

AIに仕事を奪われるのは本当か?

打ち合わせ

(出典) pixta.jp

近い将来、AIの導入によって仕事の多くが代替されるといわれています。食いっぱぐれがないとされてきた士業でさえも、「AIに仕事を奪われる」と不安視されているのが現状です。AIが進化した場合、行政書士の仕事はなくなってしまうのでしょうか?

人間にしかできない業務が多い

結論からいうと、行政書士がAIに奪われることはないといえます。AIが得意とするのは、インプットしたデータに基づく単純作業・分析です。現段階では、顧客の要望を盛り込んだ書類を作成したり、コンサルティングを行う能力は持ち合わせていません。

近年は、アドバイス機能を搭載したAIも登場していますが、遺産や相続、会社設立に関する重要な判断を無機質な機械に任せたくないというのが、多くの人の本音でしょう。

書類の作成には、顧客へのヒアリングが欠かせません。作成書類の内容も百人百様で、人間が判断しなければならないプロセスもたくさんあります。

将来的には人間とAIの分業が進む

多くの業界では、人間とAIの分業が進みます。行政書士の場合、事務処理をはじめとする定型作業・反復作業はAIが行い、人間は専門的なアドバイス・コンサルティング業務に注力する流れとなるでしょう。

重要なことは、「AIに仕事を奪われる」と悲観的になるのではなく、AIを活用する術を身に付けることです。

AIやITを最大限に活用すれば、業務効率化で生産性が大きく向上します。データ分析や予測、計算は人間が行うよりも精度が高いため、ヒューマンエラーによる業務の遅延が大幅に低減するでしょう。

AI時代を生き残るためには、時代の変化を柔軟に受け入れ、最新テクノロジーを賢く活用する必要があります。

行政書士が強化すべき領域は?

コンサルタント

(出典) pixta.jp

行政書士は、「AIが代替できない領域」や「他の士業にはできない業務」を強化する必要があります。中でも、コンサルティング業務と予防法務は、行政書士の知見・経験を十分に生かせるでしょう。

コンサルティング業務

AIに代替されにくい業務に、コンサルティング業務があります。コンサルティングとは、顧客の要望・状況をヒアリングし、問題解決に向けた提案・助言を行うことです。

実情を踏まえた柔軟な判断は、人間にしかできません。書類作成や代行だけでなく、顧客にとっての最適解を提案できれば、行政書士の価値はこれまで以上に高まるでしょう。

コンサルティングには、業務の専門知識に加え、コミュニケーションスキルや問題解決能力、分析力などが必要です。将来を見据え、自分に足りないスキルを身に付けましょう。

予防法務

予防法務は、行政書士ならではの業務です。法律の知識を駆使して、事前に相応の法的措置を取る行為で、将来的な法的紛争の発生を防いだり、紛争の損害を最小限に食い止めたりする目的があります。

弁護士は紛争・裁判が起こってからが出番ですが、行政書士はトラブルが生じる前に手を打ちます。例えば、個人間でお金の貸し借りをする際に、口約束ではなく金銭消費貸借契約書を作成しておけば、金銭トラブルを未然に防げるでしょう。

他の士業と差別化を図るためにも、行政書士は予防法務に力を入れていく必要があります。

行政書士としての市場価値を高める方法は?

はたらく女性

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行政書士の有資格者は年々増加し、市場競争も激化しています。10年後・20年後も業界で長く生き残るには、行政書士としての市場価値を高めることが重要です。将来の需要を見越し、自分に必要なスキルを身に付けましょう。

ダブルライセンスを目指す

業務の幅を広げるために、ダブルライセンスを目指す行政書士が増えています。ここでいうダブルライセンスとは、行政書士と相性のよい資格を取得して業務に生かすことです。

例えば、宅建士の資格を取得すれば、不動産に詳しい行政書士というイメージを前面に打ち出せる上、不動産売買から必要書類の手続きまでを一気通貫で行えます。

行政書士と司法書士の両方の資格があれば、営業許可の取得と会社設立の手続きをワンストップで行えるでしょう。

行政書士と相性のよい資格として、以下のようなものが挙げられます。

  • 司法書士
  • 社会保険労務士
  • 宅地建物取引士
  • 土地家屋調査士
  • 税理士
  • ファイナンシャル・プランナー

特定行政書士の資格を取得する

特定行政書士は、2014年度の行政書士法改正によって設けられたポジションです。日本行政書士会連合会の研修を修了して、考査を通過した行政書士は、特定行政書士として「行政の許認可に関する不服申し立て手続き」が行えるようになります。

これまで、申請者に代わって不服申し立てができるのは弁護士のみでした。特定行政書士のポジションが新たに設けられたことで、申請者は許認可等の申請から不服申し立てまでを一貫して、特定行政書士に任せられるようになったのです。

特定行政書士の資格がなくても日常業務は行えますが、業務の幅を広げたい人・キャリアアップを目指したい人は、資格取得に挑戦することをおすすめします。

参考:特定行政書士研修 | 日本行政書士会連合会

専門性を磨く

行政書士は、他の士業と比べて業務範囲が広いため、何でも屋になりやすい傾向があります。自分の専門分野を確立すれば、「〇〇は△△さんにお願いしよう」と顧客に選ばれるでしょう。

特定分野で実績を作っておくと、「〇〇ならお任せください」と自分をアピールできます。特に新人の場合、広く浅くでは競争に勝ち抜けません。制度廃止が起こる可能性があるため、専門分野は1つだけでなく、3つ以上持つのが理想です。

外国人労働者関連や相続関連など、社会的需要が見込めそうな領域を重点的に攻めるのもよいでしょう。

将来的な需要が見込まれる分野は?

企画を検討する

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将来的な需要の予測と情報収集は、行政書士業界を生き抜くために欠かせません。行政書士が取り扱える業務の中で、今後の需要が大きく伸びそうなのはどの分野なのでしょうか?

外国人労働者関連

グローバル化に伴い、日本で働く外国人が増加傾向にあります。今後は、外国人労働者関連の手続きの需要が増えるでしょう。

外国人が日本で働くには、各地方の出入国在留管理国に出頭しなければなりません。ただし、出入国管理に関する研修を修了した「申請取次行政書士」に申請手続きを依頼すれば、申請者本人の出頭が免除されます。

外国人の雇用に必要な就労ビザの種類は、多岐にわたります。それぞれ取得条件や必要書類が異なるため、手続きのプロである行政書士に任せる企業は少なくありません。

参考:外国人雇用関係 | 日本行政書士会連合会

ドローン関連

2022年12月5日から、無人航空機(ドローン)の新制度がスタートしました。レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)が解禁となり、今後はドローンビジネスが加速する見通しです。

ドローンを飛ばすには、空港事務所や地方航空局などに飛行許可・承認の手続きを行う必要があります。ネットで情報を調べれば自分でも申請が可能ですが、ルール・手続きがやや煩雑です。

飛行場所によっては申請先が複数存在するため、手続きに詳しい行政書士への依頼が増えるでしょう。

参考:無人航空機レベル4飛行ポータルサイト - 国土交通省

相続・事業承継関連

超高齢化社会にある日本は、全人口に占める65歳以上の割合が年々高まっています。高齢化の進展に伴い、生前対策の遺言書作成や財産の相続手続き、事業承継のサポートなどを行政書士に依頼する人が増えるでしょう。

特に、相続関連はルール・手続きが複雑です。国が手続きに関するリーフレットを出しているとはいえ、プロの力をまったく借りずに進めるは難しいのが実情です。

経営・ビジネス面では、中小企業の事業承継(M&A)が増加傾向にあり、許認可の引き継ぎや資金調達、M&A仲介などのサポートを行う機会が増えています。

参考:統計局ホームページ/人口推計/人口推計(2022年(令和4年)10月1日現在)‐全国:年齢(各歳)、男女別人口 ・ 都道府県:年齢(5歳階級)、男女別人口‐

ADR(裁判外紛争解決)

ADR(裁判外紛争解決)とは、裁判を起こさずに法的なトラブルを解決する方法・手段を指します。代表的なものには、仲裁・調停・あっせんなどがあり、特定の研修を積んだ行政書士は「調停役」として関与が可能です。

近年は、ハラスメント・ペットの問題・知的財産に関する紛争・外国人とのトラブルなどが増えています。

裁判を起こすとそれなりの費用・時間がかかるため、「裁判を起こさずに話し合いで解決したい」という人は少なくありません。ADRは、行政書士の新たな業務として注目されています。

参考:かいけつサポート|法務省

先見性と行動力が行政書士の未来を拓く

ビジネスミーティング

(出典) pixta.jp

行政書士の業務範囲は広く、時代のニーズを反映した新たな業務も次々と誕生しています。書類の作成や手続き代行は、単純な事務手続きとは異なるため、AIが導入されても行政書士の仕事が奪われることはないでしょう。

一方で、行政書士の登録者数は年々増えており、他の士業との競争も激化しています。業界で長く生き残るには、専門性を高め、行政書士にしかできない仕事を目指す必要があるでしょう。先見性と行動力が成功の鍵といえます。

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