司法書士の将来性と働き方を解説。これから求められるスキルとは?

司法書士の将来性については、さまざまな意見があります。将来性がある・ないとされる理由には、何があるのでしょうか?10年後・20年後も活躍を続けるためのポイントや、これからの時代に求められるスキルを解説します。

司法書士に将来性はある?

司法書士

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司法書士は、法律上の手続きを専門に行う職業です。司法書士試験は、数ある士業の中でも難易度が高く、突破できるのはほんの一握りです。

近年では、AIやRPAなどのテクノロジーの導入により、将来を不安視する声も上がっています。司法書士に将来性はあるのでしょうか?

司法書士の仕事はなくならない

「司法書士はAIに仕事を奪われる」という声もありますが、司法書士の仕事自体はなくならないと考えられます。その理由は、AIでは代替できない業務があるためです。

司法書士の主な業務として、大きく分けて以下の3つが挙げられます。

  • 裁判所・法務局・検察庁などに提出する書類作成業務
  • 裁判所・法務局・検察庁などで行う手続きの代行業務
  • 相談・コンサルティング業務

事務作業の一部はAIに代替される可能性がありますが、相談・コンサルティング業務は人間にしかできない業務です。

今後は、相続登記の義務化や成年後見制度の利用者数の増加により、司法書士を頼る人はこれまで以上に増えると予想されます。「減る仕事もあれば、新しく増える仕事もある」というのが今後の見通しです。

士業の中でも希少性が高い

司法書士に将来性がある理由の1つに、資格の希少性が挙げられます。司法書士試験は、士業の中でも難易度が高く、合格率は5%前後です。

2022年の受験者数は1万2,727人で、合格したのはわずか660人でした。合格者の平均年齢が40歳以上である点からも、資格取得までに一定の期間を要する事実がうかがえます。

有資格者が年々増えれば、顧客の獲得競争が激しくなりますが、司法書士の登録者数が爆発的に増えることは考えにくいでしょう。

参考:令和4年度司法書士試験の最終結果について|法務省

司法書士のニーズが増える背景

契約書作成

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司法書士のニーズは、時代とともに変わります。超高齢化社会にある日本では、相続登記の義務化と成年後見制度の利用者数の増加により、司法書士の需要が拡大するでしょう。

相続登記の義務化

2024年4月1日から、相続登記が義務化されます。相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際、不動産の名義を故人から相続人に変更する作業です。

これまで相続登記は任意でしたが、登記簿に記録のない所有者不明土地が増加したことを受け、不動産の取得を知った日から3年以内に手続きを行う流れとなりました。

相続登記は、不動産を管轄する法務局で行います。司法書士以外(弁護士を除く)には手続き代行が認められていないため、2024年4月1日以降は司法書士への依頼が増えるでしょう。

参考:備えて安心!令和6年4月1日から相続登記が義務化されます!|法務省

成年後見制度の利用者数の増加

成年後見制度とは、知的障害・精神障害・認知症などによって、判断能力が低下した人を保護する制度です。成年後見人として選任された者は、本人に代わって契約を結んだり、財産を管理したりできます。

親族以外の第三者が成年後見人になる場合、司法書士が選任されるケースがほとんどです。このまま超高齢化社会が進展すれば、成年後見制度の利用者数の増加によって、司法書士の成年後見業務は右肩上がりに増えるでしょう。

2022年12月時点での成年後見制度の利用者数は24万5,087人で、前年と比べて5,154人増えています。

参考:成年後見制度の現状|厚生労働省
  :成年後見関係事件の概況|最高裁判所事務総局家庭局

将来性がないといわれるのはなぜ?

パソコンを操作する

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少子高齢化で司法書士のニーズが増えているにもかかわらず、一部には「将来性がない」という声も聞かれます。将来を案ずる背景には、何があるのでしょうか?司法書士の仕事に影響を及ぼす要素と、今後の動向を解説します。

ブロックチェーン導入の可能性

司法書士の仕事に影響を与えるとされているのが、ブロックチェーンの導入です。ブロックチェーンとは、情報データベース技術の一種で、ブロックと呼ばれる単位で管理された「データ(取引履歴)」を、連結した状態で保管するものです。

データの改ざん・破壊が困難な上に透明性が高く、不動産業界をはじめとするさまざまな業界で応用が検討されています。

不動産登記にブロックチェーンが導入された場合、手続きの効率化・省人化が進むでしょう。将来的には、司法書士を必要としない新たな相続登記制度が生まれる可能性があります。

ただ、導入には関連法律の改正が必要で、実用化はまだまだ先になる見通しです。

自分で登記手続きをする人の増加

インターネットが発達する以前は、手続きの情報を得るのも一苦労でした。しかし現代は、何でもネットで調べられる時代です。司法書士に依頼すると手数料がかかるため、必要書類や手順を調べ、自分で登記手続きをする人が増加傾向にあります。

とはいえ、手続きには時間と労力を要します。法的知識がなかったり、書類に不備があったりすれば、何度も手続きをやり直す事態になるでしょう。法的手続きの専門家である司法書士のニーズが、ゼロになることはないと考えられます。

登記件数の減少

司法書士のメイン業務は、不動産登記と商業登記ですが、近年は人口減少で不動産を購入する人が減少し、登記件数が以前よりも減ってきているのが実情です。

国のデータによると、2022年の不動産登記件数(土地・建物)は、以下の通りです。

  • 土地:729万8,394件
  • 建物:324万6,102件
  • 総数:1,054万4,496件

ピーク時の1996年(総数2,088万6,548件)と比べると、約半分にまで減少しています。登記件数が減少の一途をたどれば、司法書士の仕事が減る可能性があります。将来を見据え、登記業務以外に軸足を移す必要があるでしょう。

参考:登記統計 総括・不動産・その他 登記総括(年次表) 22-00-1 登記事件の件数及び個数(平成20年~令和4年) 年次 2022年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口
  :司法書士白書 2022年版

AI(人工知能)の普及

AIが現場に浸透すれば、司法書士の仕事が激減するという見方もあるようです。司法書士の登記業務は、「本人の意思確認→必要書類の収集→申請書の作成→手続き」の順番で進むのが一般的です。

書類作成など一部の定型業務はAIに代替される可能性が高いですが、法律が大きく改正されない限り、司法書士の仕事はなくならないでしょう。現行法では、裁判所や法務局でAIが代理手続きをすることは認められていません。

AIが定型業務を担えば、司法書士は空いたリソースを他の業務に充てられます。AIの普及によって、より付加価値の高い業務にシフトできる可能性が高いでしょう。

司法書士として長く活躍を続けるには?

司法書士

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司法書士を取り巻く環境は、刻々と変化しています。業界で長く活躍を続けるには、将来の動向を見据え、自分のスキルを磨き続けなければなりません。これからの時代を生きる司法書士が、意識すべきポイントを解説します。

提案業務に力を入れる

AIはマニュアル化された作業をこなすのは得意ですが、相手の気持ち・立場を理解したり、状況に応じて適切なコミュニケーションを取ったりすることはできません。

司法書士に限らず、多くの士業では人間とAIの分業がスタートします。事務作業や定型作業はAIがこなし、人間は提案業務に注力する流れとなるでしょう。

今後、司法書士にはアドバイザーとしての役目が求められるため、コンサルティングのスキルを磨く必要があります。

認定司法書士を目指す

認定司法書士とは、特別研修を経て認定を受けた司法書士です。通常の業務に加えて「簡裁訴訟代理等関係業務」が認められるため、これまでよりも仕事の幅が大きく広がります。

簡裁訴訟代理等関係業務とは、簡易裁判所における以下の代理を指します。

  • 民事訴訟手続き
  • 訴え提起前の和解(即決和解)手続き
  • 支払督促手続き
  • 証拠保全手続き
  • 民事保全手続き
  • 民事調停手続き
  • 少額訴訟債権執行手続き
  • 裁判外の和解の各手続き

「弁護士に相談するよりも、身近な司法書士に相談したい」という人は多いものです。認定司法書士になれば、担当できる業務の種類が多くなり、収入面が安定します。

参考:法務省:司法書士の簡裁訴訟代理等関係業務の認定

専門性に磨きをかける

数多くの司法書士の中から選んでもらうためには、「〇〇の実績が多い」「〇〇の手続きが得意」といったアピールが必要です。

「どの司法書士に依頼しても同じ」と思われないように、専門分野の確立とブランディングを行いましょう。知識・スキルをブラッシュアップすれば、他の司法書士との差別化が図れます。

今後は少子高齢化の影響で、成年後見業務や遺言書の作成業務、相続登記業務が増えると予想されます。需要が見込めそうな分野を極めるのもよいでしょう。

司法書士の働き方は3パターン

契約書を作成する

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司法書士は、働き方によって「独立司法書士」「勤務司法書士」「組織内司法書士」の3パターンに大別されます。収入や必要とされるスキル、労働環境などが異なるため、自分に合った働き方を選択しましょう。

独立司法書士

独立司法書士は、自分で個人事務所・会社を立ち上げる働き方です。2003年4月1日以降は、司法書士に法人の設立が認められています。

司法書士試験に合格した後、日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に登録をし、個人開業するのが最も一般的なパターンでしょう。

独立司法書士のメリットは、個人の能力次第で収入をいくらでも増やせる点です。一方で、顧客をまったく見つけられず、収入ゼロが続くケースも珍しくありません。営業スキルを身に付け、積極的に人脈を広げていく必要があります。

勤務司法書士

勤務司法書士とは、個人事務所や合同事務所、司法書士法人などに勤務して働く司法書士です。中には、勤務司法書士として数年間働いた後に開業する人もいます。

個人での業務には限界がありますが、事務所や法人に勤務すれば、仕事の幅が広がります。司法書士法人では社会保険の加入が義務付けられているため、福利厚生面・労働環境面でも安心して働けるでしょう。

司法書士のキャリアというと、これまでは独立開業が一般的でしたが、近年は事務所・会社に所属する人が増えているようです。

組織内司法書士

司法書士として働くには、日本司法書士会連合会に備える司法書士名簿に登録をするのが原則です。

しかし近年は、司法書士として登録せずに、一般企業・官庁の法務分野で活躍するケースが見受けられます。企業・官庁では、コーポレートガバナンスやコンプライアンスへの意識が高まっており、法務人材の需要が増しています。

ただし現行法において、組織内司法書士は正式な制度として認められてはいません。司法書士の登録者が企業・官庁で働くには、兼業を会社側に認めてもらう必要があります。

時代の要求に応えられる司法書士を目指そう

司法書士

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司法書士は、士業の中でも希少性の高い資格であり、今後も需要は途切れないでしょう。ただし、司法書士を取り巻く環境は常に変化しているため、時代の要求に応えられる人材を目指す必要があります。

「専門性を磨く」「認定司法書士を目指す」「コンサルティング力を身に付ける」といった努力を重ねることが生き残りの鍵です。

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